2018 年 82 巻 10 号 p. 390-395
Oxygen solid solution has been well known to have a high hardening effect on Ti and its alloys, while it also imposes a serious embrittlement behavior. This study investigated the effect of a rapid cooling process by water quenching (WQ) after heat treatment on the microstructures and mechanical properties of powder metallurgy (PM) α-titanium (Ti) materials with dissolved 0.94 mass% oxygen (O) to clarify their ductility improvement mechanism. The water quenching was applied to PM Ti extruded rod after isothermal annealing at 1173~1373 K. Tensile test results at the ambient temperature indicated that the elongation to failure of the quenched ones at 1223 K and 1273 K was 12.5% and 19.1%, respectively. They are significantly higher than that of as-extruded Ti specimen (6.0%). The Ti-0.94 mass% O materials via the above WQ treatment mainly consisted of equiaxed α-Ti grains, and some martensite phases were also detected at the grain boundaries. They were formed from β phases during phase transformation during WQ due to a lower oxygen content in pre-β phases compared to pre-α phases. The pre-β phase also had a high concentration of dislocation after tensile test. The significantly increased elongation was due to a lower oxygen content phase formation assuming an important role to improve the plastic deformation ability.
チタン(Ti)は,高比強度と緻密酸化皮膜に起因する高耐腐食性能,オッセオインテグレーション(チタンと骨の結合)に起因する高い生体親和性といった優れた特性を有しており1,2),アルミニウムやマグネシウムなどの軽金属,ステンレス鋼のような高耐食性金属では適用に課題があった医療デバイス3,4,5,6)や輸送機器7)を始めとした幅広い産業分野にて利用が進んでいる.これらの部材へのチタンの適用に際しては,機械特性の観点から純チタンではなくチタン合金が使用されることが多い.しかしながら,現行のチタン合金においては,汎用Ti-6Al-4V合金(JIS60種,ASTM B348 Gr5,64チタン合金)に代表されるα+β型合金が主流となっているが,β相の安定化には,VやCr,Moといったレアメタルの添加が必須となる8).また,これらの一部は毒性を有しているため,合金元素の種類やその添加量によっては,純チタン材に対して延性や生体親和性の低下,また素材価格の上昇や供給不安などの課題を伴う.
これらの理由から,資源的に普遍に存在し,安定供給が可能で安価なユビキタス元素を活用した新たなチタン合金の材料設計指針が,近年,注目を集めている.その例として,炭素とチタンの反応による炭化チタンのチタン素地中への分散強化9,10),シリコン添加による結晶粒微細化強化11,12),チタン母相への酸素や窒素の侵入固溶強化13,14,15,16,17,18,19,20,21)などが挙げられる.なかでも,酸素による侵入固溶強化は優れた強化能を有している.しかしながら,一般に,チタンへの酸素の添加は延性の著しい低下を招くとされており,チタン材においては,JIS1種チタンでは 0.15 mass%,JIS4種チタンでは 0.40 mass%と厳しく制限されている.ここで,Jaffeeらにより報告された,0.00~0.80 mass%の酸素を添加し,α相領域にて熱処理を施すことにより,酸素を均一化したチタン材における強度と伸びの関係を確認する13,14).0.0%酸素添加チタン材では,その破断伸びは40%程度であったのに対して,0.2%の酸素の添加により25%程度まで急激に低下する.その後,酸素の添加に伴って,破断伸びは徐々に低下するが,0.60 mass%酸素添加チタン材では15%を超える優れた破断伸びを示している.これを超えると破断伸びは再び急激に低下し,0.75 mass%酸素添加チタン材では,その破断伸びは0%となる.一方で,0.75 mass%を大きく超える 0.94 mass%の酸素を添加したチタン材において,UTS 1094 MPaを達成しながら,5%を超える破断伸びを維持できることを報告した15).しかしながら,酸素添加に伴うチタン材の脆化挙動,および酸素過剰添加チタン材における延性回復機構については未だ明らかにされていない.
そこで,本研究では,酸素過剰添加チタン材を対象に,固溶酸素原子の分布状態に着目し,熱処理過程での相変態挙動と粒界近傍での酸素濃度の関係を詳細に解析することで延性向上機構の解明を目指す.
出発原料として,純度99.9%,メジアン径 27.8 μmの純Ti粉末(TC-450:トーホーテック㈱製)および純度99.9%,メジアン径 3.6 μmのルチル型TiO2粒子(㈱高純度化学研究所製)を準備した.先ず,混合粉末全体における酸素含有量が 0.94 mass%となるように両粉末原料を配合した後,ロッキングミル混合機(RM-01,㈱セイワ技研製)を用いて大気中にて 3.6 ksの混合処理を施し,TiO2粒子が均一に分散するTi-TiO2混合粉末を作製した.各混合粉末はFig. 1 に示すフローチャートに基づき,放電プラズマ焼結装置(Spark Plasma Sintering,SPS,SPS-1030S,SPSシンテックス㈱製)を用いて,真空雰囲気(6 Pa)のもとで焼結温度1100°Cとし,保持時間 3.6 ksにて固相焼結を行った.その際,混合粉末は直径 42 mmのカーボン製コンテナに充填し,上記の温度で加熱した状態で上下方向からカーボン製パンチを介して 30 MPaの加圧力を混合粉末に対して付与した.続いて,真空電気炉(FT-1200R-120,フルテック㈱製)を用いて組成の均質化のための真空熱処理を施した.チャンバー内を 20 Pa程度まで真空排気し,20°C/minの昇温速度で室温から1000°Cまで加熱して 86.4 ks保持した.その後,得られた各焼結体の完全緻密化を図るべく,アルゴンガス雰囲気中で,1100°Cにて 300 sの予備加熱を行い,直ちに熱間押出加工を施して棒状チタン素材を作製した.その際,押出比は36(Φ43 mm→Φ7 mm),押出ラム速度は 3.0 mm/sとした.得られた押出材に対してアルゴンガス雰囲気中で900°Cから1100°Cの各温度にて 1.8 ksの予備加熱を行い,直ちに水焼入れを施して急冷した.この予備加熱温度を急冷処理温度とし,各急冷処理温度(T=XXX°C)から急冷した試料をTi(O)-XXXQとした.

Flowchart of specimen preparation of quenched Ti-0.94 mass% O materials (Ti(O)-XXXQ) by powder metallurgy route.
押出材の力学特性の評価に関しては,各素材から機械加工により引張試験片(平行部の直径 4 mm,長さ 15 mm)を2本採取し,万能引張試験機(Autograph AG-X 50 kN, ㈱島津製作所製)を用いて常温にて歪み速度 5×10-4/sのもとで引張試験を行い,引張強さ,0.2%耐力,破断伸びを測定した.また,組織観察については,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM,JSM-6500F,日本電子㈱製)とそれに併設する電子線後方散乱回析装置(Electron Backscatter Diffraction, EBSD/Orientation Imaging Microscopy, OIM, DigiView IV Detector:㈱TSLソリューションズ製)システムを用いた組織構造・結晶方位解析,および電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer, EPMA, JXA-8530F, 日本電子㈱製)による元素分析を行った.
まず,酸素固溶チタン材において,急冷処理温度と力学特性の関係を調査すべく,本研究で作製したTi-0.94 mass%O押出材に対して900~1100°Cの各温度から急冷熱処理を施し,それぞれに対して常温にて引張試験を行った.その結果をFig. 2 に示す.急冷処理前の押出まま材(As extruded)の力学特性として,UTSは 1079 MPa,YSは 1032 MPa,破断伸びは6.0%であった.次に,急冷熱処理を施したチタン材の特性について,Ti(O)-900Qの破断伸びは1.2%まで低下したのに対して,Ti(O)-950Q, 1000Qの破断伸びは押出まま材に比べて高い値を有しており,それぞれ12.5,19.1%まで増加した.そして,急冷処理温度を1050°Cおよび1100°CとしたTi(O)-1050Q,1100Qでは再び破断伸びは,それぞれ0.1,0.5%に低下し,引張試験において弾性域で破断した.一方で,その強度については,900°Cから1100°Cの急冷処理温度を採用した各試料Ti(O)-900~1100Qにて,UTSはそれぞれ1006,993,988,814,919 MPa,YSはそれぞれ966,799,791,789,892 MPaであった.著しい延性向上を示したTi(O)-950Q, 1000Qでは,その引張曲線はラウンドハウス型に移行してYSは低下したものの,UTSはTi(O)-900Qと同程度の値となった.また,Ti(O)-900Q, 950Q, 1000Qの引張強さは,押出まま材に比べて約 170 MPa低下していたが,これは主として熱処理によるα-Ti結晶粒の粗大化によるものと考えられる11,12).

Dependence of tensile properties of Ti(O)-XXXQ materials on quenching temperature.
次に,急冷熱処理温度と破断伸びの関係を明らかにすべく,各温度におけるTi-0.94 mass% Oの相構成を示したTi-O系平衡状態図22)をFig. 3(a)に示す.上記の引張試験結果と対比すると,延性が顕著に低下した急冷処理温度900°Cではα単相,同じく1050°C,1100°Cではβ単相であり,一方,延性が増加した950°C,1000°Cではα相とβ相の2相混合状態であることがわかる.そこで,それぞれの相状態から急冷処理を施した試料の組織構造をIPF mapにより調査した.その結果をFig. 3(b)~(e)に示す.α単相温度域から急冷処理したTi(O)-900Qは等軸粒のα相から構成されており,β単相域からの急冷熱処理材Ti(O)-1050Qでは,その過程において形成されたマルテンサイト相(α’相)を含む異形状な結晶粒により構成されていることを確認した.他方,α相とβ相の2相混合状態から急冷処理した試料(c) Ti(O)-950Qと(d) Ti(O)-1000Qでは,主としてα-Ti等軸粒により構成されているものの,一部の結晶粒界に 10 μm程度のα’相が生成する他,粒内においては方位の不整合が筋状に形成されていることを確認した.また,Ti(O)-900Q,950Q,1000Qの平均結晶粒径はそれぞれ31.9,36.2,30.1 μmであり,顕著な差異が見られなかった.ここで,粒界に形成されたα’相および粒内に形成された方位の不整合に着目して,本急冷熱処理材における組織形成機構を考える.前出の平衡状態図によると,酸素固溶チタン材のα相とβ相の2相混合状態においては,α相における酸素の固溶量はβ相の酸素固溶料と比較して2倍以上高くなることから,これを急冷処理した試料においても,α相由来とβ相由来のそれぞれのα-Ti結晶粒では酸素固溶量に差が生じると考えられる.そこで,酸素の分布状態をSEM-EPMAにより調査した.その結果をFig. 4 に示す.酸素はチタン母相に濃化しており,粒界に形成されたα’相および粒内に形成された筋状の方位の不整合領域では酸素含有量の低下が確認された.先述のように,Ti中の酸素原子はα相とβ相の2相混合状態においてα相に濃化し,β相中ではその濃度は低下する.したがって,これらの酸素含有量の低下した2領域は高温域において形成されるβ相に由来した組織であり,またTiのα相母相はα相由来の組織といえる.

Ti-O binary phase diagram (a) and IPF maps of Ti(O)-900Q (b), Ti(O)-950Q (c), Ti(O)-1000Q (d) and Ti(O)-1050Q(e).

Backscattered electron image (a) and EPMA O-mapping analysis results (b) of Ti(O)-1000Q.
そこで,急冷過程を経てこのような組織が形成されるメカニズムについて,Fig. 5 に示す模式図に基づいて考察する.まず,α-Ti結晶粒内に筋状に形成された方位の不整合について,α相とβ相の2相混合状態では,Burgersの方位関係23)に従って扁平状のβ相がα相内に形成されており24,25),状態図によるとβ相の体積率は約90%となっていると考えられる.この状態で急冷熱処理すると,β相への相変態時と同様にBurgersの方位関係と周囲のα相の影響によりα相粒内に形成されたβ相は,α相とβ相の粒界を起点として,接しているα相と同じ方向に相変態が進行すると考えられる.その際,β相はbcc構造を有するためにhcp構造のα相に相変態する際に体積は減少する.その結果,β相からα相への相変態における最終段階では,この体積減少に基づいて生じる歪みが蓄積して同一方向への変態が制限され,粒内において方位の不整合が形成されたと考えられる.次に,結晶粒界に形成されたα’相について,チタンにおけるα’相は,β相からの急冷過程において形成されることが報告されており26,27,28),本研究で取り扱うTi-0.94 mass%OにおいてもFig. 3 に示したようにβ単相から急冷熱処理を施したTi(O)-1050, 1100Qでは,試料全体にα’相の形成が確認されている.またTi(O)-950Q, 1000Qにおいて,粒界に形成されたβ相がα相に相変態する際,粒内に形成されたβ相とは異なり,周囲に接する複数の結晶粒の方位の影響を受けるため,異なる方位を有する複数の核を生成し,α’相を形成したと考えられる.

Schematic illustrations of formation of α’ phase on grain boundary and orientation misfit area in α grain.
ここで,1000°Cからの急冷熱処理によって形成した上記の組織構造に起因する高延性発現機構について考察する.まず,急冷処理材Ti(O)-1000Qにおける塑性変形機構を明らかにすべく,引張試験の前後での試料の破断部近傍におけるKAM解析結果をIPF mapとともにFig. 6 に示す.KAM mapでは,隣接する2点間の結晶方位差を表しており,これは素地に導入された歪みとの間に強い相関を有することから,ここではKAM値を用いて結晶粒レベルでの局所的な塑性変形挙動を解析する.(a)に示すように引張試験前は粒界がわずかに緑色で表される程度であり,残留歪みも限定的であるが,(b)の引張試験後では結晶粒界の他,一部の粒内においても明瞭に赤色や緑色で示されているように多くの筋状の歪みが導入されていることがわかる.ここで確認された粒界における歪みは粒界すべり,粒内の筋状領域における歪は転位運動によるもの29,30,31)と考えられる.前出のFig. 4 に示したSEM-EPMA分析結果で述べたように急冷処理材においては,結晶粒界および一部の結晶粒内では筋状に形成された方位の不整合領域において酸素濃度が低下していた.ゆえに,α相とβ相の2相混合状態から急冷熱処理を施した酸素固溶チタン材では,酸素濃度が低下した結晶粒界で活性化したすべりと,結晶粒内での方位の不整合領域における転位運動が塑性変形を担う結果,本材料の破断伸び値が増大したと考えられる.

IPF maps and KAM maps of Ti(O)-1000Q before (a) and after (b) tensile test.
次に,微細組織構造が伸び値に及ぼす影響を調査すべく,Ti(O)-1000Qに対して真空中にて400°Cおよび600°Cにて24時間の熱処理を施し,得られた組織構造と引張特性の関係を調査した.Ti(O)-1000Q(As quenched)とこれに対して上記の温度で熱処理を施した各試料のIPF mapをFig. 7(a)~(c)に,またTi(O)-1000Qとこれに600°Cで熱処理を施した試料について酸素の分布状態をEPMA分析により調査した結果を反射電子像とともにFig. 8 に示す.なお,(a)~(c)においては各試料の破断伸び値を併記した.まず,組織解析結果に関して,いずれの組織の概観に大きな差はなく,主として等軸粒のα相粒により構成されており,各温度で焼鈍処理を施した試料の粒径は急冷まま材で 30.1 μmであったのに対し,焼鈍温度400°Cでは 25.2 μm,焼鈍温度600°Cでは 25.0 μmであった.また,結晶粒界に形成されたα’相はいずれの熱処理においても残存しているものの,粒内に形成された方位の不整合領域については,400°C以上での熱処理により完全に消失していることを確認した.また,各試料の破断伸び値はTi(O)-1000Qにて19.1%,400°C,600°Cで熱処理を施した試料にて15.5%,0.1%であり,400°Cでの熱処理を施しても高い延性を維持できているものの,600°Cでの熱処理材の伸び値は著しく低下した.このことから熱処理後の組織構造と破断伸び値の間には明瞭な相関はないと考えられる.そこで,熱処理により伸び値が低下した要因について,Fig.5での考察結果に基づき,上記の熱処理がα-Ti素地中の固溶酸素の分布状態への影響の点から考察を行う.Fig. 8(a)に示す急冷熱処理材において,結晶粒内および粒界部での固溶酸素原子の濃淡は明確に区別されているが,(b)の600°C熱処理材ではその境界は不明瞭となり,熱処理前に粒内に濃化していた固溶酸素は熱処理過程において拡散したと考えられる.ここで,各熱処理温度におけるチタン中での酸素の拡散速度32)を比較すると,600°Cでは6.7×10-5 μm2/s,400°Cでは,2.1×10-8 μm2/sであり,熱処理温度が200°C増加することで拡散速度は著しく増大しており,このことから600°Cで熱処理を施した試料では,結晶粒内に濃化した固溶酸素が熱処理過程で酸素濃度が相対的に小さい粒界や粒内の筋状領域に拡散したと考えられる.その結果,酸素濃度が低下したことで塑性変形を担っていた2領域に酸素が流入し,塑性変形能が低下したことで脆化したものと考えられる.一方で,室温(27°C)では,その拡散係数は2.1×10-27 μm2/sと極めて小さいことから室温での固溶酸素原子の拡散は無視できると考えられ,結晶粒界への拡散現象を伴わない結果,高い破断伸び値を維持できたといえる.

IPF maps of Ti(O)-1000Q annealed at each temperature; (a) as quenched and annealed at (b) 400°C and (c) 600°C.

Backscattered electron image and EPMA O-mapping analyze results of as quenched Ti(O)-1000Q (a) and that annealed at 600°C (b).
以上の結果より,酸素過剰添加チタン材では,α相とβ相の混合温度域において,酸素はα相に濃化しており,α相粒界および粒内に形成された微細な扁平β相粒における酸素濃度は低下した.この状態から急冷処理を施すことにより,粒内および粒界に形成されたβ相粒は筋状の方位の不整合域を形成するとともに,α’相を生成した.また,急冷処理時には拡散速度の大きい高温領域における酸素の拡散は制限され,β相由来の2領域において酸素が微細に偏析した状態を維持した組織が形成されることを示した.このような2相混合状態からの急冷処理により作製したチタン材において,酸素濃度の低下した上記の2領域が転位運動および粒界すべりにより塑性変形を担うため,優れた延性を発現することが明らかになった.
本研究では,酸素の過剰添加(0.94 mass%)によって伸び値が低下したチタン材を対象に,固溶酸素の粒界および粒内での分布状態に着目し,熱処理過程での相変態挙動と粒界近傍での酸素濃度の関係を詳細に解析することで延性向上機構の解明を試みた.その中で,α相とβ相の混合温度域から急冷処理を施すことにより最大応力 988 MPaを維持しながら,その破断伸びは最大で19.1%まで回復することを確認した.本急冷材は,等軸α-Ti結晶粒と粒界におけるα’相,粒内における筋状の方位の不整合相から構成されており,酸素は等軸粒のα相に濃化し,α’相,方位の不整合領域においては,その酸素濃度は低下していることを確認した.α相とβ相が混在する高温域では,酸素はα相に濃化し,β相の酸素濃度は低下することから酸素濃度の低下が確認された2領域はβ相に由来する領域であり,急冷処理により酸素分布状態が保持されることで酸素濃度が低下した.EBSD解析の結果,このような酸素濃度の低下領域には強い歪みが導入されており,これらの領域が塑性変形を担うことにより高い破断伸び値を示したものと考えられる.
本研究の一部は,科学技術振興機構(JST)産学共創基礎基盤研究プログラム・革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築,および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金事業・基盤A(16H02408)によるものである.