日本金属学会誌
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論文
固体王水を用いた使用済み触媒からの白金回収に関する基礎的研究
吉村 彰大松野 泰也
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2019 年 83 巻 1 号 p. 23-29

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Abstract

In this paper, a novel method for recovering platinum using molten FeCl3-KCl system as “dry aqua regia” is presented. The method consists of the dissolution of platinum by molten FeCl3-KCl system and the recovery of dissolved platinum by the solvent leaching of frozen FeCl3-KCl, using the different solubility between platinum compounds and iron compounds for the solvents. Platinum dissolution was conducted in the molten FeCl3-KCl system at 585-655 K. The maximum dissolution rate of platinum was 0.45 mol・m−2・h−1, which is fast enough compared with the hydrometallurgy process using aqua regia or electrochemical dissolution process in ionic liquid. And dissolved platinum recovered as K2(PtCl6) by the solvent leaching of frozen FeCl3-KCl using water or ethanol. This “dry aqua regia” process have a number of advantages, including low energy consumption, easy operation and low toxicity of chemicals compared with pyrometallurgy process and hydrometallurgy process, as recycling process of platinum.

1. 緒言

白金(Pt)やパラジウム(Pd)に代表される白金族金属(Platinum Group Metals, PGMs)は,宝飾品や貨幣などの他,工業用途としても重要な金属とされる.特に,高い触媒能を有していること,また化学的に安定であることから,自動車用触媒としての利用が多い1).2016年の統計では,白金では総需要244 tに対して41.8%に当たる102 tが,パラジウムでは総需要304 tに対して75.4%に当たる229 tが,ロジウムでは総需要27.7 tに対して76.5%に当たる21.2 tが,それぞれ自動車用触媒向けに消費されている2)

白金族金属は資源的に極めて希少であること,また価格が高く,かつ不安定であることから,使用済み触媒含めたスクラップからのリサイクルが積極的に行われている3-8).プロセスは大きく「評価」「回収」「精製」に分けられ,この内「回収」「精製」のプロセスでは,薬品を用いて溶解する湿式法と高温で処理する乾式法が利用される.白金族金属を処理する場合,湿式法では王水や塩酸-塩素系により溶解されることが多い3-6).乾式法では,銅(Cu)や鉛(Pb)などの製錬プロセスにスクラップを投入し,貴金属を副産物として回収する手法の他に,リードタイム短縮のために鉄(Fe)や銅などの溶融金属をコレクターメタルとして利用するリサイクル専用の手法がある6-8).貴金属とコレクターメタルの合金は,主として湿式法により処理される.

以上のプロセスは既に手法が確立しており,商業的に広く操業されている.白金の場合,鉱山からの供給が188 tなのに対し,触媒からのリサイクル材は32.4 tに達しており2),リサイクル材は白金族金属の供給において重要な役割を果たしている.しかし,王水や塩素を含有する塩酸は,使用や廃液の処理に際して環境負荷が大きいことが指摘されている.また,乾式法でコレクターメタルを利用するプロセスであっても,最終的には湿式法で処理,精製することから,廃液の発生という問題は解決されていない6,8)

白金族の処理の難しさは,化学的に極めて安定であることに起因することから,予め酸化,あるいは塩化することで容易に溶解できるようにする研究も存在する.岡部らは,マグネシウム蒸気を白金と反応させて合金化することで,白金が従来溶解しない塩酸に溶解することを見出した9).また,堀家らは,白金,または白金-マグネシウム合金を塩化銅(II)と気相反応させ白金を塩化し,反応性を高めることで,塩酸の他に塩水に溶解することを見出した10).これらの手法は,従来の手法に比べて容易に白金を塩化できるという利点はあるものの,蒸気を利用する気相反応であることから反応効率は低く,また酸による溶解を必要とするという問題は解決できていない.

以上のような問題を踏まえ,近年では,白金族金属のリサイクルに溶融塩を利用する研究が進められている.溶融塩とは,高温で溶融状態にある金属塩のことであり,陽イオンと陰イオンが遊離している状態にある.そのため導電性が大きく,また水を含有しないために電位窓や高温での利用範囲をより広くできるという特徴も有する.化学的に安定なものも多く,電解時の溶媒などとして工業的に広く利用されている11)

溶融塩を利用して白金族金属のリサイクルを行っている事例の多くでは,鉱石,あるいはスクラップを溶融塩中に投入し,含有される白金族金属を,塩素ガス(Cl2(g))の吹き込みによる塩化12-15),電解処理16,17),あるいはそれらの併用18)によって溶解している.同様の手法に関する研究事例としては,塩素ガスによる塩化は藤間ら19)の,電解処理は野瀬ら20)の事例が挙げられる.また,溶融塩よりも低い温度で溶融状態となるイオン液体を利用した電解処理の事例もある21)

これらの手法は,従来の乾式法による前処理や湿式法を代替する環境調和型プロセスとして提案されているが,実際には工業用途として利用されてはいない.また,塩素ガスの利用による危険性や,高温の保持や電解操作などに伴うエネルギー消費など,従来の処理プロセスの問題を解決できていない.

上記のような手法に対し,米国特許22)において溶融塩による直接塩化の手法が示されている.この特許では,塩化アンモニウム(NH4Cl)と硝酸アンモニウム(NH4NO3)の混合溶融塩に白金を投入して塩化し,塩化物を揮発させ回収できることが示されている.特許中では,この溶融塩を「固体王水」(Dry Aqua Regia)と呼称しており,鉱石から白金族金属を製錬する際の利用可能性を検討している.先に挙げた手法と比較すると,塩素ガスの吹き込みや電解プロセスが不要であるため,環境負荷やエネルギー消費を小さくできることから,環境調和型の処理プロセスとしての利用が期待できる.しかし,塩化アンモニウム,硝酸アンモニウムは共に火薬の原料であり取扱いが難しいことから,安全な利用は難しい.

そこで本研究では,先述の直接塩化の手法を参考に,電解や塩素ガスの吹込みが不要という,容易かつ安全なプロセスの検討を行った.具体的には,塩化鉄(III)(FeCl3)と塩化カリウム(KCl)の複合溶融塩を「固体王水」として利用する.この固体王水を用いて,白金の直接塩化処理による溶解と,溶解した白金を回収することを目的とし,基礎的な実験を行った.

2. 手法

2.1 実験条件の検討

実験に先立ち,熱力学計算を用いて溶解実験の,文献情報を元に析出実験の,それぞれ実験条件を検討した.

溶解実験の条件検討に際しては,塩化鉄(II)(FeCl2),塩化鉄(III),塩化白金(II)(PtCl2),および塩化白金(IV)(PtCl4)のそれぞれの生成時,および塩化鉄(II)が塩化鉄(III)へ塩化される際のギブス自由エネルギー変化を,熱力学計算ソフトであるFactSage23)のデータベースを利用して比較することで,塩化鉄(III)の白金の塩化剤としての利用可能性を検討した.

なお,塩化鉄(III)については,MSDSにおいて融点と沸点がそれぞれ573 K(300℃),590 K(317℃)と非常に近いことが示されている24).そのため融点付近の蒸気圧が高く,溶融塩として利用するのは難しいと考えられる.そこで本研究では,塩化カリウムとの複合溶融塩として利用することとした.これらの系について,FactSage23)を利用して,組成,温度による状態を検討し,実験条件を決定した.

Fig. 1に,本検討を通じて得られた鉄,および白金の塩化物に関するエリンガム図を示す.白金の塩化に伴うギブス自由エネルギー変化を塩化鉄(II)→塩化鉄(III)の反応と比較すると,350-600 Kの範囲で前者が後者に対して大きいことがわかる.よって,式(1),(2)に示すような塩化白金(II),および塩化白金(IV)が生成すると仮定した場合の自由エネルギー変化を1 molの白金について計算すると,600 Kではそれぞれ−65.7 kJ,−70.4 kJとなり,本研究で設定した温度域では自発的に白金の塩化が進行すると考えられ,特に塩化鉄(III)が十分に供給される場合,全ての白金が塩化白金(IV)まで塩化されると考えられる.   

\[{\rm Pt} + 2{\rm FeCl}_3 \to {\rm PtCl}_2 + 2{\rm FeCl}_2\](1)
  
\[{\rm Pt} + 4{\rm FeCl}_3 \to {\rm PtCl}_4 + 4{\rm FeCl}_2\](2)
Fig. 1

Ellingham diagram of iron and platinum chlorides.

また,600 Kにおける化学ポテンシャル図25)Fig. 2に示す.この図からは,600 Kにおいて塩化鉄(III)と白金が共存できず,上記式(1),(2)に示す反応が進行することで,白金が塩化すること,また十分な塩化鉄(III)の供給によって,最終的に塩化白金(IV)が生成することが予想される.

Fig. 2

Chemical potential diagram of Pt-Fe-Cl system.

以上の検討から,白金を溶融塩中に投入することで,塩化鉄(III)は白金の塩化剤として作用し,投入した白金は溶解すると考えられる.

塩化鉄(III)-塩化カリウムの系について,状態図をFig. 3に示す.いずれの場合も,等モル付近で混合した場合に融点が最も低くなるという結果が得られた.等モルで混合した場合,530 K程度で溶融塩になると考えられる.従来の溶融塩を用いる手法では,処理温度が800-1600 K程度と高い12-20)ことから,この複合溶融塩を利用することで処理時のエネルギー消費を軽減できる可能性がある.また,塩化鉄(III)の沸点である590 K(317℃)を大幅に下回ることから,処理時の揮発の抑制も期待できる.なお,この系の固体王水を用いる場合,カリウムが共存することから,以下に示す反応によって錯体である塩化白金酸カリウムが生成すると考えられる.   

\[{\rm Pt} + 2{\rm FeCl}_3 + 2{\rm KCl} \to {\rm K}_2 \left[ {\rm PtCl}_4 \right] + 2{\rm FeCl}_2\](3)
  
\[{\rm Pt} + 4{\rm FeCl}_3 + 2{\rm KCl} \to {\rm K}_2 \left[ {\rm PtCl}_6 \right] + 4{\rm FeCl}_2\](4)
Fig. 3

Phase diagram of FeCl3-KCl system.

また,析出実験の条件検討に際しては,本研究で用いる試薬,および反応によって生成が予想される物質について,各溶媒に対する溶解度をMSDSや文献24, 26-34)を元に調査し,溶解した白金の回収手法を検討した.調査対象は,水,エタノールの他,著者らの過去の研究35)において,貴金属の回収に用いたジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide, DMSO)とした.

本研究で使用する試薬,および生成すると考えられる化学種について,水,エタノール,およびDMSOへの溶解度をまとめたものをTable 1に示す24,26-34).○は可溶とされているもの,×は不溶と表記されているもの,△は「わずかに溶解する」などの表記があるものを示す.白金の錯体は水系溶媒,およびDMSOには溶解するが,エタノールには溶解しないか,あるいは溶解しづらい.一方,鉄系化合物のうち,塩化鉄は価数によらず検討したすべての溶媒によく溶解するが,酸化鉄は溶解しない.よって,溶媒を適切に選択し,溶解度の差を利用することで,白金の溶解処理後に回収した固体王水から白金化合物を分離・回収できる可能性が考えられる.

Table 1

Solubility of chemicals for the solvents used in this research.

以上を踏まえ,本研究におけるフローについては,Fig. 4に示すような残渣から回収する手法を設定した.溶媒には,白金化合物と他の化合物間で溶解度の差を期待できる水,エタノールを選択した他,DMSOについても同様の検討を行い,鉄化合物の共存下における白金化合物の溶解の可否を検討した.

Fig. 4

Total flows of this research recover Pt from residue.

2.2 白金の溶解

2.1での検討に基づき,塩化鉄(III)-塩化カリウム系固体王水を利用した白金の溶解実験を行った.本研究で利用した実験装置の模式図,および反応管の写真をFig. 5に示す.試料にはϕ = 0.2 mmの白金線を用い,長さを50 mm程度とすることで重量を35 mg程度に揃えた.るつぼには磁製るつぼ(SiO2/58%以上,Al2O3/33%以上)を利用し,ガラス製の反応管内にセットし,マントルヒーター(大科電器株式会社,GBR-5)を利用して加熱した.るつぼ近傍にセットした熱電対が573 K(300℃)に達した時点から開始するとし,処理時間は2 h,3 h,6 hとした.また,8 hまでの処理も必要に応じて行った.

Fig. 5

Experimental system of this research, (a) Schematic diagram and (b) photograph.

本実験で利用した固体王水の組成は,塩化鉄(III)-塩化カリウム系,塩化鉄(III)-塩化ナトリウム系のいずれも等モルで混合するとし,3 gをるつぼ中に投入した.

処理後,反応管をヒーターから取り出して室温にて空冷して反応容器中の固体王水を凝固させ,回収した固体王水を溶媒に投入,リーチングした.固体王水が完全に溶解した段階で白金サンプルの溶解残渣を回収し,重量変化を測定することで溶解量を求めた.なお,投入した白金サンプル重量には34-37 mg程度の幅があったことから,溶解量については以下の式(5)に示すような換算を行い,得られた結果を比較した.   

\[w = w_{\rm dissolution} \times (35/w_{\rm sample})\](5)

ここで,wdissolutionは実際の溶解量を,wsampleは実際に投入したサンプル重量を示す.

また,溶解時間を2 hとした溶解実験では,投入時のサンプルの表面積から初期溶解速度を評価した.

溶媒中に残存した残渣については2.3で述べる回収率評価に使用した.

2.3 溶解度差を利用した溶解白金の回収

本研究で利用した塩化鉄(III)-塩化カリウム系固体王水による溶解では,塩素,カリウムからなる白金錯体の生成が予想される.そこで,2.1における検討を元に,生成物や固体王水の成分など,各物質の溶媒への溶解度差を利用した回収を行うことした.

2.2で述べた通り,白金の溶解処理後,室温で凝固した固体王水を溶媒でリーチングし,サンプル残渣を除去した.その後,溶媒中に残った残渣をろ過,回収し,乾燥させ重量を測定した.

回収した残渣は,XRD(リガク,Ultima IV)によって構成する化合物を分析した.またSEM-EDS(日本電子,JSM-6010-LA)で組成分析を行い,残渣重量から含有される白金重量を推計し,溶解量に対する回収率を評価した.

3. 結果および考察

3.1 白金の溶解

塩化鉄(III)-塩化カリウム系固体王水について,固体王水の重量を3 gに揃えた上で,温度を変化させた際の溶解速度の変化をFig. 6に示す.処理時間が6 hまでの場合では,処理温度の上昇にしたがって溶解速度の上昇が確認されたため,この領域では,反応温度が律速要因であると考えられる.一方,615 Kと655 Kでは,反応開始後6 hまでは溶解速度は同等となった.しかし,8 hの処理を行った場合,655 Kでは溶解が継続したが,615 Kでは6 hの結果と溶解量にほとんど変化がなかったことから,この時点で反応がほぼ終了していたと考えられる.以上のことから,615 K以上では反応温度以外が律速要因となったこと,また615 Kでは6 hの時点で溶解を停止させた何らかの要因があることが示唆された.

Fig. 6

Dissolution rate and amount of Pt sorted by dissolution temperature.

塩化剤や生成物の不十分な拡散や,表面に不動態膜が形成されることによる塩化剤の供給停止が要因として考えられるが,この内不動態膜の形成については,655 Kにおける実験では速度が低下しないまま溶解が継続したことから,本研究では要因から除外できる.よって,溶解が停止した要因としては,生成した白金化合物がサンプル周辺に滞留することによる飽和,あるいは塩化剤である塩化鉄(III)の供給停止などが考えられる.

生成物,あるいは塩化剤の滞留を引き起こす要因の一つとしては,溶融塩内部の対流の強度が考えられる.容器底部と,ほぼ液面に相当する底部から9 mmでの温度差は,615 Kで処理する場合は5.0 K,655 Kの場合は8.5 Kとなった.対流強度は温度差に依存する36)こと,温度が低い場合は,アレニウスの式から溶融塩の粘度が増大すると考えられる37)ことから,615 Kと655 Kでの処理における対流強度を比較すると,後者がより強かったと考えられる.

また,塩化カリウム-塩化鉄(III)系溶融塩の密度が573 Kで1.8程度38)なのに対し,反応の進行で生成が予想される塩化カリウムと塩化鉄(II)系溶融塩の密度は1000 Kで2.8程度39)とされている.本研究では,サンプルである白金線をるつぼ底部に設置して実験を行っていることから,底部での塩化鉄(II)の生成が予想されるが,対流強度が弱い場合,サンプル付近に塩化鉄(II)が滞留することが予想される.その結果,酸化剤である塩化鉄(III)が十分に供給されず,また生成物である塩化鉄(II)の濃度が高くなったために,615 Kでの処理では6 hで反応が終了したと考えられる.

ただし,本研究における容器の容量が10 mLと小さく,小さな振動などによる影響も大きく出ると考えられることから,今後はより適切な条件での実験による評価が必要である.また,撹拌や振動などを与えることで,生成物の拡散や塩化鉄(III)の供給に関する問題を解決でき,溶解速度の向上を期待できることが示唆された.

なお,655 Kにおける初期の溶解速度は,0.45 mol・m−2・h−1となった.代表的な湿式法である王水による溶解速度は,30℃での溶解速度が0.05 mol・m−2・h−1程度,120℃まで加熱すると5.0 mol・m−2・h−1程度に達するとされている40).本研究における溶解速度を高温の王水による溶解速度と比較すると,高速とは言い難いが,当該温度は王水の沸点である109℃を上回っている41)ことから,この条件での白金の溶解は王水の激しい沸騰を伴い,取り扱いが難しい.また先述の通り,白金の溶解は酸化剤である塩化鉄(III),および固体王水中での生成物である塩化白金酸カリウムの拡散に大きく依存すると考えられるため,撹拌などで酸化剤の供給,および生成物を十分拡散させることで,溶解速度の向上が期待できる.

また,電解溶出を利用する既存研究では,溶解速度が0.985 mol・m−2・h−1程度とされている21).電解時の溶解速度は,加える電流などで大きく変わるため単純な比較はできないが,本研究における白金の溶解速度は,電解操作を伴わない処理としては十分に高速であると考えられる.

3.2 溶解度差を利用した溶解白金の回収

溶媒でのリーチング後の残渣について,XRDで分析した結果をFig. 7に,またSEM画像,およびEDSによる分析結果をFig. 8に示す.

Fig. 7

XRD patterns of residue from FeCl3-KCl system, (a) leached by water and (b) leached by EtOH.

Fig. 8

SEM images of residue from FeCl3-KCl system, (a) leached by water and (b) leached by EtOH.

固体王水を水,およびエタノールでリーチングさせた後に回収された残渣からは,いずれにも白金化合物として塩化白金酸カリウム(IV)が確認されたことから,2.1の式(4)に示す白金の4価までの塩化反応が進行したことが示唆された.この塩は水,エタノールへの溶解度が小さいことから,生成した塩が残渣に含有されたと考えられる.また,水によるリーチング後に回収された残渣には酸化鉄(III)が,エタノールから回収された残渣には塩化カリウムと酸化鉄(III)がそれぞれ確認された.塩化カリウムについては,水には比較的よく溶解する一方,エタノールには難溶であることから,両者の間で残渣の組成が大きく変わったと考えられる.

この残渣について,組成と白金の回収率を,固体王水の組成,および溶媒で分類した結果をTable 2に示す.回収率は水による処理の場合で3.2-114%,エタノールによる処理の場合で56.6-110%となった.回収率が100%を上回ったサンプルについては,SEM-EDSによる多点分析の際に,局所的に白金が濃縮した部分を測定したことに起因すると考えられる.

Table 2

Recovery ratio of platinum from FeCl3-KCl “dry aqua regia”.

この結果からは,添加した溶媒の量によって回収率に差があり,また化合物の形ではあるものの,固体王水を溶媒でリーチング処理するだけで,溶解した白金を比較的容易に回収できることが示された.

一方,DMSOでリーチングした場合の残渣は,大半が塩化カリウムと分析され,白金化合物は確認されなかった.固体王水の主成分である塩化カリウム,塩化鉄(III)のDMSOに対する溶解度は,25℃においてそれぞれ0.2 g,30 gである30)ことから,塩化鉄(III)は全量溶解し,塩化カリウムは大半が残存する.また,塩化白金酸カリウムは,白金の価数によらずDMSOによく溶解するとされ27),生成量が微量であったことから,今回の条件では溶媒に溶解すると予想される.以上の要因により,残渣の主成分は塩化カリウムとなったと考えられる.

以上の結果から,2.1,および2.3で述べた通り,凝固後の固体王水を溶媒で処理した場合,溶解した白金が処理後の残渣と溶媒のどちらに含有されるかは,塩化白金酸カリウムの溶解度によって決定されることが確認された.共存する鉄の化合物や塩化カリウムの溶解度も含めて検討することで,Fig. 4に示すフローを最適化でき,より効果的に白金化合物を分離,回収できる可能性が示された.

なお,今回は白金の回収に溶媒への溶解度差を利用したが,一般的な回収手法としては,亜鉛(Zn)3,40)や塩化アンモニウム6)などを用いたセメンテーションが広く用いられている.今後は,塩化白金酸カリウムを溶解するDMSOや塩酸(HCl)42)などに固体王水を溶解させ,亜鉛や塩化アンモニウムなどを利用した還元処理によって白金を回収する,Fig. 9に示すような手法についても検討を行う.

Fig. 9

Total flows of Pt recovery from solvent.

4. 結言

本研究では,塩化鉄(III)-塩化カリウム系固体王水を利用した白金のリサイクル手法について,基礎的な検討を行った.その結果,溶解速度は最速で0.45 mol・m−2・h−1に達した.この溶解速度は,王水を用いる従来の湿式法や,既存研究における電解処理に近い値であり,電解やガス吹き込みを伴わない手法としては十分高速であると言え,実用性を伴う手法であると考えられる.

また,冷却させ回収した固体王水を水,またはエタノールでリーチングするだけで,溶解度の小さい塩化白金酸カリウムが析出し,回収できることが確認された.一方で,塩化白金酸カリウムのDMSOに対する溶解度が大きいことから,DMSOで処理を行った場合の析出は確認されなかった.

今回は白金線を対象としたが,実際のリサイクルでは使用済み触媒などをリサイクル対象とするため,溶解処理に先立ってコレクターメタルを利用した濃縮が行われる6-8).本手法はこの濃縮,および溶解処理を一括して代替できる手法たりうる.このことは,プロセス全体の環境負荷の軽減に加え,リードタイムの短縮による処理量の増大も意味し,固体王水を利用したプロセスが持つ新規リサイクル手法としての適性が示唆された.

本研究の遂行に際し,東京大学生産技術研究所 岡部徹教授,八木俊介准教授より多大な支援を受けた.また,千葉大学 特任研究員 加藤秀和氏からは,研究に際して貴重な助言を頂いた.ここに記して謝意を表する.

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