日本金属学会誌
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論文
水アトマイズ法により製造される銀粉末の粒度に及ぼす製造因子の影響
荻原 隆久保 敏彦原田 将弘原田 昭雄
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2019 年 83 巻 5 号 p. 143-147

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Abstract

Silver powder was prepared through water atomization at 1280℃ under the nitrogen atmosphere. As-prepared silver powder consisted of various particles with morphologies such as spherical, irregular and coarse and had high crystallinity. Relationship between the volume average particle size (D50) of silver powder and production factors was investigated. In this work, the production factors such as atomization pressure, angle, nozzle diameter, suction amount of air and water temperature were selected to verify the influence on D50. It was found that D50 decreased with decreasing atomization pressure, angle, nozzle diameter and water temperature. When the atomization pressure was 100 MPa, the uniform water stream was disturbed and then D50 became higher. On the other hand, it was confirmed that D50 decreased with increasing suction amount under reduced pressure. Crystallite size and crystallinity of silver powder increased with decreasing water temperature.

1. 緒言

銀粉末は,積層セラミックコンデンサ,太陽電池,LTCC基板等の電極材料として広く利用されている1-3).これらの用途のために,我々は,高圧・高水量下での水アトマイズ法により銀粉末を製造し,その粒子特性および電気的特性について検討してきた4,5).従来は,湿式還元法等の液相法から製造される銀粉末が上記用途の原料粉末として用いられてきた6).液相法から生成する銀粉末は凝集を防ぐために銀粒子表面に保護コロイドが吸着7)しており,これが不純物として存在するため,ペーストの焼成やその後の電気特性にも影響を与える.

一方,水アトマイズ法においては製造プロセスから保護コロイドを必要としないので液相法に比べて高純度の銀粉末が得られる利点がある.しかしながら,水アトマイズ法で製造される銀粉末は,粒度が数マイクロメーターと液相法から得られるものよりも粗いため,電子機器の小型化に伴う電極の微細配線等には適さないことから電子材料の用途としては制限されている.そこで,本研究は,水アトマイズ法において従来よりも微細な粒度を有する銀粉末の製造を目的として,粒度に影響を及ぼすと考えられる製造因子に着⽬しそれぞれの条件について検討した.

2. 実験方法

2.1 銀粉末の製造

銀粉末は,自作の水アトマイズ装置8)を用いて製造した.装置は溶解炉,タンディッシュ炉,溶湯ノズル,円環ノズル,水槽,吸引ポンプおよびフィルタープレスで構成される.本実験では,タンディッシュ炉内の黒鉛るつぼに銀の塊状物25 kgを充填し,高周波誘導加熱により窒素ガス雰囲気中1280℃で溶解した.1280℃で溶解した銀の溶湯は,溶湯ノズルから円環ノズルの中心へ向けて,0.024 kg/sの速度で排出した.

ここで,溶湯ノズルのノズル直径は1 mmϕから1.7 mmϕの範囲で変化させた.また,溶湯に水を衝突させる際の円環ノズルのアトマイズ角度(溶湯に対する水の衝突角度)は15ºから40ºの範囲とした.このときの圧力は80 MPaから100 MPaの範囲とした.全ての水アトマイズの実験において,水量は220 dm3/minとし,水温は水温計で監視した.水アトマイズ装置は減圧になっているため,吸引風量は水アトマイズを行う前に円環ノズル上部に風量計を設置して測定した.水アトマイズで生成した銀粉末は水槽で貯留した後,フィルタープレスへ送りながら濾過した.濾過後,銀粉末は大気中60℃で12 h以上乾燥した.

2.2 銀粉末の評価

水アトマイズ法で得られた銀粉末の粒子形態および凝集状態は,走査型電子顕微鏡(SEM,JSM-6510,日本電子(株))で観察した.銀粉末の結晶性および結晶相は粉末X線回折(XRD,XRD-6100,(株)島津製作所)により調べた.また,銀粉末の結晶子径は(111)面の半値幅からデバイ・シェーラーの式より求めた.銀粉末の粒度は,レーザー回折・散乱法による粒度分布計(MT3300EXII,日機装(株))により測定し,体積基準による平均粒度(D50)および粒度分布を求めた.銀粉末の比表面積は,流動式比表面積自動測定装置(FlowSorb III 2305,(株)島津製作所)を用い,窒素吸着によるBET法により測定して求めた.

3. 結果および考察

3.1 銀粉末の粒子特性

水アトマイズ法で製造した銀粉末の粒子形態および凝集状態について,SEM観察した結果およびレーザー回折・散乱法により測定した粒度分布をFig. 1にそれぞれ示す.ここで,アトマイズ圧力は95 MPa,アトマイズ角度は25°とした.SEM写真から生成した銀粉末は,水アトマイズ法の特徴である楕円状や不規則な形状の銀粒子が存在し,凝集していることがわかる.その他,球状粒子も含まれていた.球状粒子は,溶湯と水が接触した際に大量に発生する水蒸気で溶湯の一部の急冷速度が遅くなり球状化したものと考えられる.

Fig. 1

Typical SEM image and particle size distribution of silver powder derived from water atomization.

また,得られた銀粉末の粒度分布は正規分布をしており,粒度は1.2 µmから40 µmの範囲にある.このとき,D50は5.99 µmであった.BET法から求めた銀粉末の比表面積は0.4 m2/gであったことから,一次粒子径は1.42 µmとなり,水アトマイズで生成される銀粒子は二次粒子であると推察される.

3.2 アトマイズ圧力による粒度への影響

アトマイズ圧力は高い程,粉砕エネルギーが高くなるため,水やガスアトマイズで金属粉末の微粒化に効果のあることが報告されている9,10).そこで,本実験では圧力による銀粉末のD50への影響を調べた.アトマイズ圧力とD50との関係をFig. 2に示す.ここで,アトマイズ角度は25°とした.その結果,アトマイズ圧力が高いほど銀粉末のD50は小さくなる傾向を示した.これは,アトマイズ圧力が高いほど溶湯が分裂し易くなるために,銀粉末が微細に粉砕されたものと推察される.

Fig. 2

Relationship between atomization pressure and D50.

その原因を調べるために95 MPaおよび100 MPaで水アトマイズした時の水流の状態を観察した.その結果をFig. 3に示す.Fig. 3から95 MPaでは均一な水流を形成しているが,100 MPaでは水流の中心に穴が発生しており,不均一な状態になっていることがわかる.それ故,溶湯の粉砕も不均一になっているものと推察され,D50が大きくなったものと考えられる.

Fig. 3

Water stream formed under 95 MPa and 100 MPa.

3.3 アトマイズ角度による粒度への影響

アトマイズで生成する金属粉末の粒度は,円環ノズルのアトマイズ角度によって影響を受けることが報告されている11,12).また,我々は,これまでにアトマイズ角度によりD50が影響を受けることを報告しており,アトマイズ角度を40°から15°へ狭くすることで8.9 µmから6.9 µmまで微粒化することを明らかにした5).そこで,アトマイズ圧力を前報の80 MPaから95 MPaへ高めて,アトマイズ角度による銀粉末のD50への影響を調べた.

アトマイズ角度とD50との関係をFig. 4に示す.Fig. 4から,アトマイズ角度が小さいほどD50は減少する傾向を示し,5.8 µmまで微粒化したが,D50の偏差も大きくなることがわかった.特に,15°はD50の偏差が大きい.これは,95 MPaで生成する水流の穴の影響と溶湯に対する水流の接触が鋭角になり過ぎた結果,溶湯の粉砕が不均一となりD50の偏差が大きくなるのではないかと考えられる.

Fig. 4

Relationship between nozzle angle and D50.

3.4 溶湯ノズル径による粒度への影響

溶湯ノズル径による銀粉末のD50への影響を調べた.水アトマイズした時の溶湯ノズルの直径とD50との関係をFig. 5に示す.ここで,アトマイズ圧力は95 MPa,アトマイズ角度は25°とした.溶湯ノズル径はアトマイズされた金属粉末の微粒化に効果があり,黒鉛るつぼから排出される溶湯の直径が小さいほど,銀粉末の粒度は微細になることが報告されている13,14)

Fig. 5

Relationship between nozzle diameter and D50.

本実験では,溶湯ノズル径が1 mmϕ以下になると,徐々に溶湯が排出し難くなり,水アトマイズによる粉砕が安定しないことが確認された.また,2 mmϕ以上にすると溶湯の排出が速すぎてしまい,10 μm以上の粗大な銀粉末しか得られないことから,1 mmϕから1.7 mmϕまでの溶湯ノズルを用いて水アトマイズを行い,D50への影響を調べた.その結果,1.7 mmϕの時,D50は9 μmとなり,D50の偏差も大きい.D50は,溶湯ノズルの直径が小さくなると共に減少し,1 mmϕの時,6.3 μmとなり,D50の偏差も小さいことがわかった.この結果から,溶湯ノズルから排出される溶湯が細い程,均一に粉砕されて銀粉末は微粒化するものと考えられる.

3.5 吸引風量による粒度への影響

吸引風量による銀粉末のD50への影響を調べた.吸引風量とD50との関係をFig. 6に示す.ここで,アトマイズ圧力は95 MPa,アトマイズ角度は25°とした.吸引風量が1062 L/minの時,D50は10.6 μmとなり,D50の偏差はかなり大きい.D50は吸引風量の増加と共に減少し,1120 L/minの時,5.9 μmとなった.また,D50の偏差は小さくなることがわかった.3.4節で溶湯ノズル径が小さい程,銀粉末のD50は小さくなる傾向を示していることから,溶湯ノズルから排出される溶湯が引きずられて細くなり,より均一に粉砕される状態となり,微粒化したものと考えられる.

Fig. 6

Relationship between suction amount and D50.

3.6 水温による粒度への影響

水アトマイズの水温は溶湯を冷却する際に,金属粉末の粒度,結晶性等に影響を与えることが報告されている15).そこで,本研究においても水温による銀粉末のD50への影響を調べた.水温とD50との関係をFig. 7に示す.ここで,アトマイズ圧力は95 MPa,アトマイズ角度は25°とした.Fig. 7から,水温の減少と共にD50は減少していることがわかった.水温を20℃から2℃まで下げることで,D50は10.2 μmから5.5 μmまで減少した.水温が低い程,溶湯の冷却速度が速く固化する時間が短く,水蒸気発生量も少ないことが推測され微粒化するものと考えられる.しかしながら,冷却速度は,水温が10℃の差で1%未満であることが報告16)されており,本実験における冷却速度も20℃から2℃ではその差はほとんどないことが推察される.溶湯は水アトマイズで分裂した際に,溶滴が生成すると共に,その周辺で水蒸気が発生することから,水蒸気発生量による影響が大きいものと考えられる.また,水温による結晶成長への影響を銀粉末の結晶子径から検討した.水温と銀粉末の結晶性および結晶子径との関係をFig. 8およびFig. 9にそれぞれ示す.

Fig. 7

Relationship between atomization temperature and D50.

Fig. 8

XRD patterns of silver powder obtained by (a) 5℃, (b) 15℃ and (c) 25℃.

Fig. 9

Relationship between atomization temperature and crystallite size.

Fig. 8から各温度で製造された銀粉末の回折ピークは,銀の回折データ(JCPDS 04-0783)と一致していた.そして,銀粉末の結晶性は水温が低いほど,高いことがわかった.一方,Fig. 9から,銀粉末の結晶子径は水温が減少すると共に39.8 nmから52.8 nmまで増加した.このとき,銀粉末の比表面積は0.4 m2/gから0.3 m2/gへ減少していた.その結果,一次粒子径は1.42 µmから1.9 µmへ増加したことから,水温が低い程,水蒸気の影響が少なく,結晶成長したものと考えられる.

4. 結言

本研究は,水アトマイズで製造される銀粉末について,製造因子および条件とD50との関係について検討した.その結果,以下の結論が得られた.

(1) アトマイズ圧力が高くなるほどD50は減少する傾向を示すが,100 MPaでは水アトマイズの均一性が損なわれ,D50が増加した.

(2) アトマイズ角度が小さいほどD50は減少する傾向を示すが,偏差が大きくなる.

(3) 溶湯ノズル径が1 mmϕから1.7 mmϕの範囲では,溶湯ノズル径が小さいほどD50は減少する傾向を示す.

(4) 吸引風量が高くなるほどD50は減少する傾向を示す.

(5) 水アトマイズの水温が低いほどD50は減少する傾向を示す.また,銀粉末の結晶性は高くなり,結晶子径は大きくなる.

従って,水アトマイズにおける微粒化の指針として,吸引風量が大きい環境下で,高圧,且つ,低水温でアトマイズすることが重要であり,現在,これらの因子の制御により5 µmまでの微粒化を達成した.さらに,溶湯ノズル径を小さくし,アトマイズ角度を狭くすることでより効果的に微粒化できるものと考えられる.

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© 2019 (公社)日本金属学会
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