日本金属学会誌
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論文
種々の初期集合組織を有するAZ31BおよびAZ80マグネシウム合金の高温平面ひずみ圧縮変形下での組織と集合組織の形成機構
福富 洋志朴 亨均金 卷煦岡安 和人長谷川 誠梅澤 修
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2019 年 83 巻 8 号 p. 264-272

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Abstract

The effects of pre-existent textures on the evolution behaviors of microstructure and texture at high-temperature plane strain compression deformation of AZ31B magnesium alloy have been studied. Deformation is conducted at 723 K with a strain rate of 5.0 × 10−2 s−1, up to −1.3 in true strain. When non-basal slip systems are the primary slip systems, $\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$ texture develops. In this case, repeated change in microstructure and texture which was found in the previous work appeared with increasing strain. Namely, replacement of $\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$ texture with $\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$ texture and the reverse phenomenon occurs. While the $\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$ oriented grains are small and with wavy shaped grain boundaries, the $\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$ oriented grains are large and with rather straight grain boundaries. The mechanism of repeated change in microstructure and texture is discussed on the basis of preferential dynamic grain growth mechanism proposed by the authors.

1. 緒言

異方性の高い結晶構造の材料においては,集合組織の制御は材料が持つ性能を最大限まで活用するための重要な技術の1つである.しかし,対称性の低い結晶構造では一般に等価なすべり系の数が少ないために,任意の形状への変形に必要な5つの独立なすべり系1)を活動させることが困難であり,塑性加工により材料に集合組織を付与するのに必要な大変形は難しい.マグネシウム合金においても,室温付近で最も活動が容易な底面すべり系には独立なすべり系が2つしかなく,加えて非底面すべり系のCRSSが高いために,変形集合組織を発達させることは困難である.

高温での加工は,底面すべり系と非底面すべり系のCRSSの違いを小さくして2,3)活動すべり系の数を増加させることによる変形集合組織の付与方法として期待できる.この場合,底面すべり系と非底面すべり系の相対的な活動度が結晶方位に依存するので,変形集合組織は変形前の集合組織の影響を受けることになる.それゆえ,この影響を明らかにすることは集合組織制御のために重要である.しかしマグネシウムとその合金について変形前に集合組織が存在する材料を対象に,高温加工と集合組織の関係を調べた例は多くはない4,5).そこで著者等は${<}10 \bar 10{>}$繊維集合組織を有するAZ31Bマグネシウム合金を対象に,単軸圧縮変形により温度,ひずみ速度ならびにひずみ量を変えて変形を行い,集合組織の形成挙動を調べた6).しかし,先鋭な集合組織の形成は見出されなかった.そこで,${<}10 \bar 10{>}$繊維集合組織あるいは底面集合組織を有する母材から種々の優先方位を有する試料を作製して,平面ひずみ圧縮試験を行って調べたところ,AZ807)ならびにAZ31B8)マグネシウム合金に集合組織の発達が確認された.これらの研究により,集合組織は変形による結晶格子回転と変形中の粒界移動により形成されると考えられること,変形前の集合組織に依存して様々な方位成分が現れることなどが明らかになった.また,初期集合組織がほぼ同一であってもAZ80とAZ31Bとでは形成される集合組織が異なることも判明した.加えてAZ31Bに,これまで報告されたことのない,組織と集合組織が高温変形中に繰り返し変化する特異な挙動を見出した(以後本報告では「特異な挙動」と記す)8).しかし,どのような初期集合組織が存在する場合にAZ31Bマグネシウム合金に特異な挙動が現れるのか,類似の初期集合組織を有していてもAZ80合金では特異な挙動が発現しないのは両者にどのような差異があるからなのか,など,高温加工で集合組織を制御するために解決すべき課題が生まれた.

そこで,AZ80合金について調べた計6種の初期集合組織の中で,AZ31Bについては未調査であった3種について新たに調べた.そして初期集合組織と合金組成がどのように高温加工下での集合組織形成に影響を与えるのか,また特異な挙動がどのように理解できるかについてAZ80ならびにAZ31Bに関する既報7-10)の結果も含めて実験結果を整理して検討を行った.

2. 実験方法

供試母材は${<}10 \bar 10{>}$(押出方向)繊維集合組織を有する大阪富士工業社製の市販の直径15 mmのAZ31Bマグネシウム合金丸棒押出材である.この押出丸棒から,優先方位の異なる3種類の平面ひずみ圧縮試験片を機械加工によって作製した.試験片寸法は10 mm × 10 mm × 6.7 mmである.

Fig. 1は試料の幾何学的特徴を示したものである.図中のED(Elongation Direction)は平面ひずみ圧縮変形時の伸長方向,斜線面が圧縮面である.試料1では圧縮方向(ND),試料2では変形が抑制される方向(TD),そして試料3では伸長方向(ED)に,それぞれ${<}10 \bar 10{>}$が頻度高く配向している.いずれの試料も723 Kで1 hの焼鈍を施した後に試験に供した.焼鈍後の平均結晶粒径は54 μmであった.高温平面ひずみ圧縮試験を以前の報告10)と同じ方法で行った.変形温度,ひずみ速度は前報8)と同一の723 K, 5.0 × 10−2 s−1として真ひずみ−0.1~−1.3の範囲で試験を実施した.試験は723 Kに温度が到達した後15 min保持した後開始した.所定のひずみまで変形した後,赤外線加熱炉を開放すると同時に試料を油中に落下させて冷却し,変形後の組織変化を抑制した.初期試料は表面を,変形後の試料は機械加工により切り出した圧縮面に平行な板厚中心部を,いずれも#4000エメリー紙およびOP-S(Silica 0.04 μm)懸濁液による研磨を行って,組織観察ならびに集合組織測定に供した.集合組織はCu-Kα線を用いたSchulzの反射法による(0001),$\{10 \bar 10 \}$$\{10 \bar 11 \}$$\{10 \bar 12 \}$$\{11 \bar 20 \}$の5種類の正極点図の測定,ならびにこれらの正極点図に基づいてADC(Arbitrarily Defined Cells)法11)で定めた結晶方位分布関数(ODF: Orientation Distribution Function)により評価した.

Fig. 1

Crystallographic arrangement of specimens for plane strain compression deformation. ED and the hatched plane are the elongation direction and compression plane, respectively.

X線測定と同一の測定面を対象に5%過塩素酸溶液(過塩素酸5 vol%,エタノール95 vol%)で電解研磨を施した後EBSD(Electron Backscatter Diffraction)測定を行った.EBSD測定は指定した領域(1.8 mm × 5.3 mm)について8 μm間隔で方位測定点を移動させて行った.

3. 初期集合組織

AZ80合金では,製造時の押出により付与された${<} 10 \bar 10{>}$(押出方向)繊維集合組織を有する母材から${<}10 \bar 10{>}$が平面ひずみ圧縮変形の際に圧縮方向(ND),横方向(TD)ならびに伸長方向(ED)に平行になるよう作製した3種(文献7)中の試料名A,BおよびC)と,熱間圧延により<0001>(ND)繊維集合組織を付与した母材から,<0001>が平面ひずみ圧縮変形の際に圧縮方向(ND),横方向(TD)ならびに伸長方向(ED)に平行になるよう作製した3種(文献10)中の試料名D,EおよびF)の計6種について調べた.

AZ31Bについて報告した3種はAZ80に関する論文中でD,E,Fとした3種と同じ優先方位を有する集合組織材で,前報8)においてはそれぞれ試料名をA,B,Cとしていた.本研究で新たに調べたのはAZ80合金ではA,B,Cとした試料に対応する集合組織を有するものである.両合金間での試料名の混同を避けるため,本報告ではAZ80のA,B,Cに対応する試料を,Fig. 1に示したように,それぞれ試料1,試料2,試料3とした.AZ80およびAZ31Bについての以前の論文で用いた試料と本研究の試料の対応関係をTable 1-1ならびにTable 1-2に示した.

Table 1-1

Specimen names with ${<}10 \bar 10{>}$ fiber texture.

Table 1-2

Specimen names with <0001> fiber texture.

Fig. 2に試料1の(0001),$\{10 \bar 10 \}$および$\{11 \bar 20 \}$極点図を,Fig. 3に試料2および試料3の(0001)極点図を示した.いずれも圧縮面を投影面とし,平均極密度を1として極密度の等高線が描かれている.平面ひずみ圧縮変形の際に<0001>が試料1では圧縮方向に垂直,試料3では伸長方向に垂直になっているため,これら2種の試料では多くの結晶粒で底面すべり系が平面ひずみ圧縮変形に支配的に寄与するとは考えにくい.これに対して,試料2では多くの結晶粒で底面すべり系の活動が平面ひずみ圧縮変形を担うことができる.

Fig. 2

(a) (0001), (b) $\{10 \bar 10 \}$ and (c) $\{11 \bar 20 \}$ pole figures for specimen 1 before deformation. Pole densities are projected onto the compression plane. Mean pole density is used as a unit for drawing contours.

Fig. 3

(0001) pole figures for specimen (a) 2 and (b) 3 before deformation. Pole densities are projected onto the compression plane. Mean pole density is used as a unit for drawing contours.

4. 実験結果および考察

4.1 変形に伴う組織と集合組織の変化

Fig. 4は3種の試料について平面ひずみ圧縮試験を行った際の真応力-真ひずみ曲線を示したものである.真応力ならびに真ひずみは,クロスヘッドの変位量から圧縮面の面積ならびに試料高さを算出して定めた.真ひずみは絶対値で示されている.

Fig. 4

True stress-true strain curves of the three specimens for the plane strain compression deformation at 723 K with a strain rate of 5.0 × 10−2 s−1. Strains are given in absolute values.

いずれの試料においても変形初期に真応力にピークが現れる加工軟化型の真応力-真ひずみ曲線となっている.4.1.1項以降で詳細に記述するように,すべての試料において変形中に組織ならびに集合組織の変化が生じており,見出された加工軟化現象には,高温降伏現象,動的再結晶,幾何学的軟化など多様な因子が関係していると考えられるが,どの因子が支配的に寄与しているかについては詳細な検討が必要である.また,変形前とは異なる組織ならびに集合組織に変化した真ひずみ1.0においても,試料間には変形応力の差異が存在し,変形前の集合組織の影響が大きいことが示唆される.

4.1.1 試料1の挙動

Fig. 5(a)~(f)に,試料1について真ひずみ量を変えて平面ひずみ圧縮試験を行い,EBSD測定を行って組織を調べた結果を示す.Fig. 5では$(0001)$-$(2 \bar 1 \bar 10)$-$(10 \bar 10)$ステレオ三角形内に示した色彩に従って圧縮面の結晶方位を示すことにより組織を表している.

Fig. 5

Microstructures of specimen 1 (a) before deformation, after deformation up to strains of (b) −0.3, (c) −0.4, (d) −0.7, (e) −0.8 and (f) −1.0. The markers correspond to 700 μm.

Fig. 5(a)は試料1の変形前の組織である.$\{ 10\bar 10\} $ならびに$\{11 \bar 20 \}$近傍方位の結晶粒が均一に頻度高く存在している.真ひずみ−0.3のFig. 5(b)では$\{11 \bar 20 \}$近傍方位(以後$\{11 \bar 20 \}$方位と表示)の結晶粒が増えると同時に$\{10 \bar 10 \}$近傍方位(以後$\{10 \bar 10 \}$方位と表示)の粗大粒が生まれている.Fig. 5(c)ではさらに$\{10 \bar 10 \}$方位の粗大粒が増大している.しかし,粗大粒以外の結晶粒の圧縮面は$\{ 11 \bar 20 \} $が支配的である.試料1は変形前に${<}10 \bar 10{>}$(圧縮方向)繊維集合組織が存在する試料である.従って,結晶粒の中には$\{10 \bar 10 \}{<} 11 \bar 20{>}$のように柱面すべり系の活動のみで平面ひずみ圧縮変形が可能なものも存在するが,大多数の結晶粒の${<}11 \bar 20{>}$はED方向には向いていない.それゆえ,二次錐面すべり系の活動が平面ひずみ圧縮変形に必要である.すなわち,試料1の結果は,柱面すべり系と二次錐面すべり系の両者あるいは二次錐面すべり系の活動によって,$\{11 \bar 20 \}$に向けた結晶格子回転が生じていることを意味している.

Fig. 5で圧縮面が$\{11 \bar 20 \}$の結晶粒に注目すると,ひずみが−0.4のFig. 5(c)では$\{10 \bar 10 \}$方位の結晶粒に消費されてこの方位の結晶粒の占める面積率は低くなっているが,結晶粒は未変形時よりもわずかに大きく,そして粒界が細かく入り組んだ結晶粒になっている.

ひずみ量を−0.7まで増大したFig. 5(d)では,$\{10 \bar 10 \}$方位結晶粒の面積率がさらに増大している.新しく形成された結晶粒の結晶粒径にはFig. 5(c)と(d)の間で大きな違いは認められない.このことは,新しく形成された結晶粒同士が接触すると,蓄積エネルギー差が小さいために,成長が停止したこと,ならびにそれまでの粒界移動が,他の変形粒の蓄積エネルギーを駆動力としたものであることを意味している.さらに真ひずみ−0.8まで変形したFig. 5(e)を見ると,前報8)でTDが<0001>である初方位の試料(以後前報試料Bと記す)について報告したのと同様に$\{ 11\bar 20\} $が支配的になっている.結晶粒界に注目すると,Fig. 5(c)および(d)に見られる$\{10 \bar 10 \}$方位結晶粒は粗大なだけでなく,比較的直線的な結晶粒界で構成されている.

Fig. 6Fig. 5(d),(e)中の点線内の領域を拡大したものである.この図から,Fig. 5(e)で観察される$\{11 \bar 20\}$方位の結晶粒はFig. 5(b)やFig. 5(c)の$\{11 \bar 20 \}$方位結晶粒よりも大きいだけでなく,結晶粒界が互いに入り組んだ形状となっていることが分かる.これらの事実は$\{10 \bar 10 \}$方位結晶粒は新粒として生成されそして成長してできたものであること,$\{11 \bar 20 \}$方位結晶粒は変形による結晶格子回転を継続しながらひずみ誘起粒界移動によって成長したものであることを示唆している12)

Fig. 6

Magnified view of the area given by a white broken line in Fig. 5(d) and (e).

ひずみ量を−1.0まで増大させたFig. 5(f)では,前報試料Bと同じく粗大な$\{ 10\bar 10\} $結晶粒が再び現れる.Fig. 5(a)~(f)では圧縮面の方位しか分からないのでX線による測定を行ってODFを定め,結晶方位分布を調べた.結果がFig. 7である.図には真ひずみ−0.2および−1.3の結果も加えてある.真ひずみ−0.3のFig. 7(c)と−0.8のFig. 7(f)で高い方位密度の$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$が存在する一方,真ひずみ−0.7のFig. 7(e)と−1.3のFig. 7(h)で$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$方位が優勢に存在し,2種類の集合組織が交互に現れていることが確認できる.この挙動は前報試料Bと同じである.

Fig. 7

φ2 = 0º and 30º sections of ODFs showing the textures of specimen 1, (a) before deformation, after deformation up to strains of (b) −0.2, (c) −0.3, (d) −0.4, (e) −0.7, (f) −0.8, (g) −1.0 and (h) −1.3. Mean orientation density is used as a unit for drawing contours.

Fig. 7φ2 = 0˚断面およびφ2 = 30˚断面から,ε = −0.3まで,ひずみの増大と共に$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$への集積度が除々に上昇していること,すなわち$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$の出現に先行して$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$が形成されていることが分かる.また,方位密度分布が連続的に変わりながら$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$への集積が進んでいることも認められる.この事実は,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 1 0{>}$が,結晶粒が大きくなりながら変形による結晶格子回転により発達したことを意味している.Fig. 7では,ひずみ−0.4で$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$での方位密度の集積が急激に高くなっており,この方位成分は$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$とは発達機構が異なると考えられる.すなわちこれらの組織形成の特徴は,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$はひずみ誘起粒界移動により変形による結晶格子回転が継続して形成される成分12)$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$は変形中の新粒の核生成・成長により形成される方位成分13)であると理解できる.

4.1.2 試料2の集合組織変化

Fig. 8はひずみ量を変えて平面ひずみ圧縮変形を行った試料2についてX線回折法で求めた極点図である.変形前にND-ED線上に分布していた(0001)が,ひずみの増大と共に除々に(0001)極点図の中心部に向けて移動している.同時に除々にTDへの${<}11 \bar 20{>}$の集積度も増大している.ひずみが−0.7になると圧縮面法線方向から10°程度離れた位置に高い極密度で(0001)が存在する集合組織となる.さらにひずみを−1.0まで増大させても極密度の集積位置は変わらない.すなわち,試料2においては,TDを${<}11 \bar 20{>}$とする(0001)スプリット集合組織が形成される.また,すべてのひずみにおいてNDで${<}10 \bar 10{>}$もしくは${<}11 \bar 20{>}$が高い極密度を示すことはない.すなわち,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$および$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$は形成されない.

Fig. 8

(0001), $\{10 \bar 10 \}\}$, and $\{11 \bar 20 \}$ pole figures for specimen 2 (a) before deformation, after deformation up to strains of (b) −0.4, (c) −0.7 and (d) −1.0. Pole densities are projected onto the compression plane. Mean pole density is used as a unit for drawing contours.

Gottstein等14)は結晶方位がランダムに分布した初期組織を対象に,二次錐面すべりが平面ひずみ圧縮変形下での集合組織形成に与える影響をシミュレーションにより調べた.そして二次錐面すべり系が活動すると,(0001)がTDまわりにスプリットした集合組織が形成されることを示した.このことから,Fig. 8の結果は高温で底面すべり系の他に二次錐面すべり系の活動が可能になった結果であると考えると理解できる.また,組織観察では試料1に対するFig. 5,後に示す試料3に対するFig. 9で観察される,粗大な結晶粒の生成も認められなかった.このことは,結晶すべり変形による$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$の生成が$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$粗大結晶粒の生成に不可欠であることを意味している.

Fig. 9

Microstructures of specimen 3 (a) before deformation, after deformation up to strains of (b) −0.4, (c) −0.5, (d) −0.7, (e) −0.8 and (f) −1.0. The marker corresponds to 700 μm.

4.1.3 試料3の挙動

Fig. 9は,試料3についてひずみ量を変えて高温平面ひずみ圧縮変形を行い,結晶粒組織をEBSD測定で調べて圧縮面の方位で示したものである.試料3の初期集合組織はFig. 1Fig. 2そしてFig. 3からわかるように${<}10 \bar 10{>}$(ED)であり,加えてED方向の${<}11 \bar 20{>}$の極密度も比較的高いので,圧縮面は極点図上の$(0001)$-$\{10 \bar 10 \}$大円上および$(0001)$-$\{11 \bar 20 \}$大円上の方位になる.ひずみ−0.4まで変形した後のFig. 9(b)で一部にさまざまな方位の粗大粒が形成され,それ以外の領域で$\{11 \bar 20 \}$が増大していることがわかる.このことは試料3においても結晶格子回転が$\{11 \bar 20 \}$に向けて進行していることを意味している.試料3では繊維集合組織に含まれる多くの結晶方位で平面ひずみ圧縮変形には柱面すべり系だけでなく二次錐面すべり系の活動が必要である.

真ひずみ−0.5のFig. 9(c)では$\{11 \bar 20 \}$方位が優勢になっている.真ひずみ−0.7では$\{10 \bar 10 \}$方位の粗大粒と$\{11 \bar 20 \}$方位の結晶粒とが共存している.真ひずみ−0.8では$\{11 \bar 20 \}$が優勢である.それからのひずみの増大は前報試料B,そして前記の試料1と同様の結晶粒組織の変化と集合組織の変化をもたらす,特異な挙動が現れる結果となっている.

Fig. 10は集合組織の変化をX線回折法によりODFを定めて調べた結果である.試料3では真ひずみ−0.4で$\{11 \bar 20 \} {<}10 \bar 10{>}$成分が形成され,真ひずみ−0.7では$\{10 \bar 10 \} {<}11 \bar 20{>}$が発達した状態にある.そして真ひずみ−1.0で$\{10 \bar 10 \} {<}11 \bar 20{>}$が支配的である.真ひずみが−1.3になると再び$\{11 \bar 20 \} {<}10 \bar 10{>}$が発達する.これらの特徴は,Fig. 9に示したEBSDの結果と同じである.

Fig. 10

φ2 = 0º and 30º sections of ODFs showing the textures of specimen 3 (a)before deformation, after deformation up to strains of (b) −0.4, (c) -0.7, (d) −1.0 and (e) −1.3. Mean orientation density is used as a unit for drawing contours.

変形前の試料3では,(0001)が圧縮面法線と0˚から90˚まで,伸長(ED)方向を回転軸として概ね360°満遍なく分布している.この集合組織では柱面すべりのみで平面ひずみ圧縮変形が可能な結晶粒は例外的な存在であり,多くの結晶粒で二次錐面すべり系の活動が必要である.すなわち,試料3に見られる$\{11 \bar 20 \} {<}10 \bar 10{>}$の形成も柱面すべり系と二次錐面すべり系の両者,あるいは二次錐面すべり系の活動がもたらすことを示している.

4.2 合金組成が集合組織と組織に及ぼす影響

4.2.1 AZ31BとAZ80における集合組織形成の特徴と特異な挙動の発現条件

著者らはAZ80マグネシウム合金を対象に,6種類の集合組織を選定して本研究と同じ変形条件で平面ひずみ圧縮変形を行い高温変形下での集合組織の形成について報告した7,10).それらの研究結果とAZ31Bに関する前報の結果,そして本研究で得られた結果を変形前後での集合組織の成分とその成分の最大方位密度,特異な挙動の発現の有無に注目してTable 2に整理した.

Table 2

Effects of textures before deformation on the texture formation by high temperature plane strain compression of AZ80 and AZ31B. True strain is given in absolute values. Hatched column indicates the texture components when repeated change in microstructure and texture is generated.

Table 2では,ODFにおける方位密度の高さを,以前の報告10)と同一の区分で整理し,△,〇,◎,□で表示してある.ひずみは真ひずみの絶対値である.方位密度の値は,本研究の試料1,2,3および既報のAZ31Bの試料A,B,Cのひずみ0および1.0についてはX線測定から定めたODFの結果を用いた.また,AZ80についてはEBSD測定から定めたODFの結果を用いた9)Table 2中の空欄は方位密度が2未満であることを示している. 6種の方位成分には属さない(0001)スプリット集合組織はそのままTable 2中に記述して示した.

このTable 2中でAZ31Bの試料1と試料3,ならびにAZ31Bの試料Bについて網掛けをした領域が集合組織と組織の特異な挙動が現れた際の集合組織の構成である.

この表から以下の特徴が見出される.

AZ80について

(1) 初期集合組織によらず,真ひずみ−1.0(Table 2 では1.0と表記)の変形により高い方位密度の底面集合組織が形成される.

(2) 723 K,5.0 × 10−2 s−1の変形条件では初期集合組織によらず特異な挙動は現れない.

(3) 変形によって高い方位密度の$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 2 0{>}$が形成される場合も特異な挙動は現れない.

(4) 変形によって高い方位密度の$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 1 0{>}$が形成される場合も特異な挙動は現れない.

AZ31Bについて

(1) 6種の集合組織のうち3種類で組織と集合組織の特異な挙動が現れる.

(2) 特異な挙動が現れなかった3種にはいずれも変形後(0001)スプリット集合組織が形成されている.

さらに,特異な挙動に関して,以下の特徴が見出された.

(1) 特異な挙動は,まず$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 1 0{>}$が形成され,それを消費して粗大な$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 2 0{>}$方位結晶粒が形成される順で生ずる.

(2) 新たに生成される$\{10 \bar 1 0 \}{<}11 \bar 2 0{>}$方位結晶粒の結晶粒界は比較的直線的である.これに対し,$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$方位結晶粒を消費して成長する$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒の結晶粒界は互いに入り組んだ形状である.

(3) AZ31Bにおける$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位の形成は,平面ひずみ圧縮変形に対して底面すべり系の寄与が困難で,二次錐面すべり系の活動が必要な場合に生ずる.

(4) 底面すべり系の活動が容易な初期集合組織を有するAZ31Bに変形により形成される集合組織は(0001)スプリット集合組織であるのに対し,AZ80では底面集合組織である.

4.2.2 優先動的結晶粒成長機構からみたAZ31B合金で現れる組織と集合組織が高温加工中に繰り返し変化する特異な挙動の解釈

4.2.1項で示したように,本研究の変形条件ではAZ80合金で初方位によらず底面集合組織が形成された.他者による計算機シミュレーションの結果14)によれば,このことは底面すべり系の活動が初期方位によらず優先的に生じていることを意味している.

Guo等は15)は,AZ31,AZ61およびAZ91を対象に,本研究と同じ温度の723 Kで熱間圧延を行い集合組織を調べた.その結果,AZ31では(0001)スプリット集合組織が形成されるが,よりアルミニウム濃度の高いAZ61およびAZ91では底面集合組織が形成されること,そしてAZ91に形成される底面集合組織がAZ61の底面集合組織よりも先鋭であることを見出した.さらに,熱間圧延によって動的再結晶が生ずるが,未再結晶粒,再結晶粒いずれも底面集合組織を形成し,その原因はアルミニウム濃度の増大に伴って柱面すべりが抑制されたためであるとした.

著者らは,高温変形中に特定の結晶方位の結晶粒が成長して粗大粒になり,変形初期に形成される変形集合組織を新たな集合組織に置き換える特異な挙動をAl-Mg合金16),Fe-Si合金17)等に見出した.そして,集合組織,結晶粒組織の発達過程を詳細に解析して仕組みを検討し,優先動的結晶粒成長機構と名付けたメカニズムを提案した.このメカニズムは,変形による蓄積エネルギーを駆動力として,より蓄積エネルギーの低い結晶方位粒が変形中に成長し,その結晶方位が同時に変形に対して安定な結晶方位である場合に,先鋭な集合組織を有する粗大粒組織を形成すると考えるものである.

底面すべり系の活動が困難な方位のAZ31Bに現れた組織と集合組織の繰り返し変化は,変形初期に$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$が形成された後$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$の粗大粒が生成して成長し,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$を置換することで開始する.この時,$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$が変形に対して安定であれば,その後変形が進んでも残留し,集合組織はより先鋭化するはずである.しかし,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒が$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$を再度消費して発達する.この時,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒は$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 2 0{>}$方位結晶粒とは異なって入り組んだ形状の結晶粒界で構成されている.すなわち,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒は核生成・成長ではなく,変形による結晶格子回転が継続的に進行するひずみ誘起粒界移動によって,$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$方位結晶粒のひずみエネルギーを消費して成長していると考えられる.そして,変形の進行によって$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒の蓄積エネルギーが増大すると,$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$方位結晶粒の核生成・成長が再び生ずると考えられる.

このメカニズムで集合組織と結晶粒組織の繰り返し変化が生じているとすると,変形に対して安定で,かつひずみエネルギーの低い別方位の結晶粒が多く存在すると,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒が少数形成されても$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$方位結晶粒が一気に成長することはないはずである.Table 2を見ると,特異な挙動が現れない場合には,AZ31Bでは(0001)スプリット集合組織,AZ80では底面集合組織が支配的に形成されている.

このように考えると,AZ31BならびにAZ80合金で観察された高温平面ひずみ圧縮変形下での,集合組織と組織の変化は理解できる.

5. 結論

これまでの研究により,初期集合組織がほぼ同一であってもAZ80とAZ31Bとでは形成される集合組織が異なること,AZ31Bにおいて,初期集合組織に依存して組織と集合組織が高温加工中に繰り返し変化する特異な挙動が現れる場合があること等が見出された.これらの事実を理解するため,AZ80合金についてこれまで調査した計6種の初期集合組織の中で,AZ31Bについては未調査であった3種について新たに調べた.そして,初期集合組織と合金組成がどのように高温加工下での集合組織形成に影響を与えるのか,また特異な挙動がどのように理解されるかについてAZ80ならびにAZ31Bに関する既報7-10)の結果を含めて平面ひずみ圧縮試験の結果を整理して検討を行った.その結果,以下の結論を得た.

(1) AZ80合金では初期集合組織によらず変形後に底面集合組織が形成される.しかし,AZ31B合金では,いずれの方位でも底面集合組織は形成されない.

(2) 本研究の試験条件では,特異な挙動はAZ80では初期集合組織によらず現れない.またAZ31Bでは(0001)スプリット集合組織が形成される場合には現れない.

(3) AZ31B合金に特異な挙動が現れる場合,$\{10 \bar 10\}{<}11 \bar 20{>}$方位粗大結晶粒の結晶粒界が比較的直線的であるのに対し,$\{11 \bar 20 \}{<}10 \bar 10{>}$方位結晶粒の結晶粒界は入り組んだ形状である.前者は核生成・成長機構により,後者はひずみ誘起粒界移動により形成されると考えられる.

(4) 底面集合組織あるいは(0001)スプリット集合組織が存在すると$\{10 \bar 10 \}{<}11 \bar 20{>}$は発達しない.底面集合組織あるいは(0001)スプリット集合組織が変形に対して安定でかつ蓄積エネルギーの低い結晶方位であると考えると,この場合に特異な挙動が現れなかった事実は優先動的結晶粒成長機構により理解できる.

本研究の研究費の一部は公益財団法人軽金属奨学会の支援による.ここに記して御礼申し上げる.また,実験の遂行,実験結果の解析に協力いただいた横浜国立大学大学院生友岡諒介君(現在:本田技研工業株式会社)に感謝する.

文献
 
© 2019 (公社)日本金属学会
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