日本金属学会誌
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論文
Mg-Al-Zn-Gd 4元系合金鋳造まま材におけるLPSO相の生成挙動
正岡 和貴山田 忠幸堀内 寿晃糸井 貴臣三浦 誠司
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2019 年 83 巻 8 号 p. 257-263

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Abstract

Mg alloys with long period stacking ordered (LPSO) phases are categorized into two types. Mg alloys where the LPSO phase forms in as-cast state are categorized as Type I, while those where the LPSO phase does not appear in as-cast state but forms during heat treatment are categorized as Type II. However, the origin of the formation type of Mg alloys with LPSO phases still remains poorly understood. In the present study, three different Mg85(Al, Zn)6Gd9 quaternary alloys were prepared to elucidate the dominant factors that determine the formation type of Mg alloys with LPSO phases. The α-Mg, Al2Gd, Mg3Gd and LPSO phases were characterized in the as-cast quaternary alloys by microstructural observation, composition analysis and crystal structure analysis by using electron probe microanalysis and X-ray diffraction. It indicates that all the quaternary alloys are categorized as Type I even though the original two ternary Mg85Al6Gd9 and Mg85Zn6Gd9 alloys are categorized as Type II. The crystal structure of the LPSO phases observed in the as-cast alloys is considered to be 18R with dilute solute elements. The amount of the LPSO phases in the as-cast state increases with increasing the Zn content in the alloys. It is considered to be the cause of destabilization of the primary crystallized Al2Gd phase by the addition of Zn and hence relative stabilization of the LPSO phases. It is thus concluded that the relative phase stability in the vicinity of the LPSO phase is considered to be crucial for determination of the formation type of Mg alloys with LPSO phases.

1. 緒言

マグネシウム(Mg)は実用金属中最も軽量で,比重は鉄(Fe)の約1/4,アルミニウム(Al)の約2/3であり,自動車や航空機などへの適用が期待されている.2001年に,高圧ガスアトマイズ法で作製した急速凝固粉末を押出し固化成形することで610 MPaの引張降伏強さ及び5%の伸びを示すMg97Zn1Y2(at%)合金が開発され1),この合金は長周期積層(LPSO: Long-Period Stacking Ordered)構造相を強化相とすることが明らかにされた2).LPSO構造は遷移金属(TM)と希土類金属(RE)がTM:RE=3:4となるL12構造のクラスターを形成し,それらがhcp構造のMgの周期的な積層欠陥に濃化するという特徴があり3),LPSO相強化型Mg合金は国内外において精力的に研究開発が行われている4-9)

LPSO相強化型Mg合金はLPSO相の生成の仕方によってTypeIとTypeIIに分類される10).TypeIは鋳造まま材にLPSO相が存在しているものであり,Mg-Zn-Y系やMg-Zn-Dy系等がその代表例である.一方,TypeIIは鋳造まま材にはLPSO相が存在しないが,熱処理によってLPSO相を析出するものでありMg-Zn-Tb系等がその代表例である10).TypeII合金ではLPSO相以外の周辺相の存在が鋳造まま材におけるLPSO相の生成を妨げていることが予想されるが,TypeIとTypeIIを決定付ける要因は詳細には明らかにされていない.LPSO相の生成を的確に制御することができればLPSO相強化型Mg合金の組織制御が容易になり,合金開発を加速させることが期待されるため,TypeIとTypeIIを決定付ける要因の解明は重要な課題である.

本研究では,LPSO相強化型Mg合金のTypeIとTypeIIを決定付ける要因を明らかにすることを目的として,Mg-Al-Zn-Gd 4元系合金を作製し,鋳造まま材におけるLPSO相の生成挙動を実験的に評価した.Mg-Al-Gd 3元系はTypeIIであり,初晶にAl2Gdを形成し,熱処理後に18R型LPSO相を形成する11).Mg-Zn-Gd系については,これまでにTypeIとTypeIIの両方の報告が存在している.最初に本合金系は山崎らからTypeIIであると報告されたが12),WuらはMg96.5Zn1Gd2.5合金の鋳造まま材に14H型LPSO相が確認されたことを報告しており13),Mg96.5Zn1Gd2.5合金はTypeIであると考えられる.一方,宮川らはMg83Zn5Gd12合金の鋳造まま材からはLPSO相が確認されないことを報告しており7),Mg83Zn5Gd12合金はTypeIIであると考えられる.また,Mg85Zn6Gd9合金の鋳造まま材にはLPSO相が存在しないことを確認しており,Mg85Zn6Gd9合金はTypeIIであると考えられる14).Mg85Zn6Gd9合金の初晶はα-Mgであり,熱処理後に14H型LPSO相を形成することが報告されている14)

Al-Zn 2元系に着目すると,300℃~400℃の温度範囲においてfcc構造のAl固溶体にZnは最大で67%も固溶することが報告されており15),AlとZnは互いに親和性が高いことが期待される.三浦らは,Mg-Zn-RE(RE = Y, Dy, Gd, Ho, Ce)合金におけるRE元素種とLPSO構造の安定性の関係を明らかにすることを目的として,450℃,1000 h熱処理後のMg85Zn6(RE1, RE2)9(at%)4元系合金において,RE1/RE2比を0.5,1,2と系統的に変化させた場合のLPSO相におけるREの置換挙動及びLPSO相の構造多形を調査し,LPSO相を形成するREの相互作用がゼロに近い場合は,形成されたLPSO相のRE1/RE2比が合金組成のRE1/RE2比と連動すると考えられることを示した.また,RE1-RE2 2元系状態図が連続固溶体型であり,中間相が存在しないときに4元系LPSO相が形成されることを明らかにした8).Mg85Al6Gd9合金とMg85Zn6Gd9合金では初晶やLPSO相の構造が異なるが,AlとZnが互いに置換されることが予想されるMg-Al-Zn-Gd 4元系のLPSO相と周辺相との相安定性を系統的に調査することにより,LPSO相強化型Mg合金のTypeIとTypeIIを決定付ける要因の解明に資することが期待される.

2. 実験方法

本研究では目標組成がMg85(Al, Zn)6Gd9となる4元系合金を供試材とし,Al:Zn比が4:2,3:3,2:4となるようにAlとZnの組成を系統的に変化させたMg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金及びMg85Al2Zn4Gd9合金を溶製した.溶解原料には純度99.95%のMg,純度99.99%のAl,純度99.5%のZn及び純度99.9%のGdを用い,総質量30 gとなるように秤量し,アルゴン雰囲気中で高周波溶解炉にて溶解した合金を鋼製鋳型に鋳込んで50 mm × 20 mm × 10 mm程度の鋳塊を得た.得られた鋳塊から5 mm × 6 mm × 7 mm程度の試験片を切り出して鋳造まま材とした.また,各合金に対してLPSO相が高温域で平衡相として存在するかを確認するために,450℃等温熱時効材を作製した.450℃時効材は鋳造まま材から切り出した5 mm × 6 mm × 7 mm程度の試験片を蓋付の黒鉛坩堝に入れて,真空排気後にアルゴン置換した耐熱ガラス管に封入し,横型電気炉を用いて450℃で1000 hの等温熱時効に供した.時効後に水中急冷した試験片を4 mm × 5 mm × 7 mm程度に切り出して450℃時効材とした.

鋳造まま材及び450℃時効材は耐水研磨紙及び多結晶ダイヤモンド研磨剤を用いて鏡面研磨を施した.研磨後の各試料に対して日本電子(株)製の電子プローブ微小部分析装置(EPMA: Electron Probe Micro Analyzer)JXA-8230を用いて,加速電圧15 kV,照射電流5 × 10−10 Aにて組織観察を行うとともに,加速電圧15 kV,照射電流3 × 10−8 Aにて波長分散型X線分光器(WDS)による組成分析を行ってLPSO相の存在を調査した.また,(株)リガク製のX線回折装置(XRD:X-Ray Diffractometer)SmartLabを用いて,Cu線源を使用して4°~10°の範囲を計測スピード0.1 deg/min,管電圧40 kV,管電流35 mAの条件でX線回折試験を行い,LPSO相の同定を試みた.

3. 実験結果及び考察

3.1 鋳造まま材の組織観察及び組成分析結果

Fig. 1にMg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金及びMg85Al2Zn4Gd9合金の鋳造まま材の反射電子像を示す.組織観察の結果,各合金の鋳造まま材の組織に大きな差異はなく,いずれも黒色部,白色部,黒色部と灰色部から成るラメラー部及び板状組織が確認された.また,Zn添加量の増加に伴い板状組織が多く確認された.各試料に対して無作為に300点を抽出してWDSにより点分析を行い,Mg-(Al+Zn)-Gdの擬3元系状態図上にプロットした結果をFig. 2に白丸のシンボルで示す.Fig. 2の灰色丸のシンボルはFig. 1に示した黒色部,ラメラー部及び板状組織に対して個別に点分析を行なった結果である.また,LPSO相はTM:RE=3:4で構成されることから,TM:RE = 3:4となる組成を破線で示している.各部の組成分析の結果,いずれの合金においても黒色部は純Mgに近い組成を有し,ラメラー部はMg濃度87 at%付近の組成を有していた.板状組織についてはTM:RE = 3:4となる破線付近の組成を有していた.各合金の黒色部,白色部,ラメラー部及び板状組織に対してWDSによる点分析を5点程度行ない,各部の組成の平均値を求めた結果をTable 1に示す.ラメラー部はWDSの空間分解能(2~3 μm)に対して組織が微細なため,ラメラー組織の平均組成を分析していると考えられる.Table 1より,各部の組成分析結果は合金によらず近い値を示した.黒色部はほぼMgから成るためα-Mg,白色部はAlとGdの組成比がAl:Gd = 2:1に近いことからAl2Gdであると考えられる.板状組織はTMとREの組成比がTM:RE = 3:4に近いことからLPSO相であると推察される.

Fig. 1

Backscattered electron images of the as-cast (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys. Each microstructure consists of the black, white, lamellar and plate-like regions.

Fig. 2

Analyzed chemical compositions of the as-cast (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys. Chemical compositions for plate-like regions are located in the vicinity of the line with a ratio of (Al+Zn) to Gd of 3 to 4.

Table 1

Average chemical compositions (at%) of the black, white, lamellar and plate-like regions in the as-cast (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys. The results of the lamellar region represent average chemical compositions of the lamellar microstructure.

Fig. 3に各合金の鋳造まま材の10°~90°におけるX線回折結果を示す.各合金においてMg,Al2Gd及びMg3Gdに対応すると考えられるピークが観察された.したがって,Fig. 1で観察された黒色部はα-Mg,白色部はAl2Gd,ラメラー部については黒色部がα-Mg,灰色部がMg3Gdであると考えられる.

Fig. 3

Results of X-ray diffraction (10~90 deg) for the as-cast (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys.

Fig. 4に各合金の鋳造まま材の4°~10°におけるX線回折結果を示す.また,純Mgの格子定数を基に概算した各種のLPSO構造の底面に起因するピーク角度をTable 2にまとめる.Mg85Al2Zn4Gd9合金においては,18R構造に対応する5.6°付近にピークが確認され,Fig. 1(c)にて観察された板状組織は18R型LPSO相であると考えられる.一方,Mg85Al4Zn2Gd9合金及びMg85Al3Zn3Gd9合金においては,LPSO構造に対応する低角度のピークは確認されなかった.しかしながら,Fig. 1及びTable 1に示したように,Mg85Al4Zn2Gd9合金及びMg85Al3Zn3Gd9合金の鋳造まま材にもMg85Al2Zn4Gd9合金と形態及び組成が酷似した板状組織が確認されており,これらもMg85Al2Zn4Gd9合金の板状組織と同様に18R型LPSO相であると推察される.Mg85Al4Zn2Gd9合金及びMg85Al3Zn3Gd9合金においてX線回折による低角度のピークが確認されなかったのは,板状組織の生成量がMg85Al2Zn4Gd9合金と比べて少ないためだと考えられる.したがって,本研究で用いたMg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金,Mg85Al2Zn4Gd9合金はいずれも鋳造まま材においてLPSO相が確認されており,いずれもTypeIであると考えられる.江草らは18R型LPSO相の化学量論組成はMg80.6TM8.3RE11.1であると報告しているが3)Table 1に示すように,本研究において各合金の鋳造まま材に観察された18R型LPSO相の組成は概ねMg90TM4RE6であった.LPSO相が板状の明確な相として確認されているにもかかわらず,その組成が化学量論組成に対して溶質元素濃度がかなり希薄であることは,LPSO相の形成過程を考える上でも興味深い結果である.

Fig. 4

Results of X-ray diffraction (4~10 deg) for the as-cast (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys.

Table 2

Peak angles of each LPSO structure calculated from the lattice constant of pure Mg.

3.2 450℃,1000 h時効材の組織観察及び組成分析結果

Mg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金及びMg85Al2Zn4Gd9合金の450℃,1000 h時効材の反射電子像をFig. 5に示す.組織観察の結果,各合金の450℃,1000 h時効材の組織に大きな差異はなく,いずれも黒色部,白色部,淡い灰色部及び濃い灰色部が確認された.淡い灰色部と濃い灰色部のコントラストの差はわずかであり,両部の境界も不明瞭であった.また,淡い灰色部の割合は濃い灰色部に対して小さく,Zn添加量の増加に伴い淡い灰色部の割合はより小さくなる傾向が確認された.各試料に対して無作為に300点を抽出してWDSにより点分析を行い,Mg-(Al+Zn)-Gdの擬3元系等温断面図上にプロットした結果をFig. 6に白丸のシンボルで示す.Fig. 6の灰色丸のシンボルはFig. 5に示した黒色部,淡い灰色部及び濃い灰色部に対して個別に点分析を行なった結果である.各合金に対して得られた全組成分析結果を平均することにより各合金の実組成を求めた結果,各合金の実組成はMg85Al4Zn2Gd9合金がMg86.4Al3.6Zn2.1Gd7.9,Mg85Al3Zn3Gd9合金がMg85.5Al3.0Zn3.0Gd8.5,Mg85Al2Zn4Gd9合金がMg85.7Al2.0Zn4.0Gd8.3(いずれもat%)となった.各合金の目標組成及び実組成はFig. 2及びFig. 6に併せて示してある.各合金の黒色部,白色部,淡い灰色部及び濃い灰色部に対してWDSによる点分析を5点程度行ない,各部の組成の平均値を求めた結果をTable 3に示す.黒色部はほぼMgから成るためα-Mg,白色部はAlとGdの組成比がAl:Gd = 2:1に近いことからAl2Gd,淡い灰色部及び濃い灰色部はTMとREの組成比がTM:RE = 3:4に近いことからLPSO相であると推察される.なお,各合金には純Gdに近い組成を有する粒が散見されたが,これらは未固溶のGdまたはGdの酸化物であると考えられるため,相平衡には関与しないと推察した.以後,濃い灰色部をLPSO相①,淡い灰色部をLPSO相②と呼称する.

Fig. 5

Backscattered electron images of the (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h. Each microstructure consists of the black, white, light gray, and dark gray regions.

Fig. 6

Analyzed chemical compositions of the (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h. Chemical compositions for LPSO① and LPSO② phases are located in the vicinity of the line with a ratio of (Al+Zn) to Gd of 3 to 4.

Table 3

Average chemical compositions (at%) of the black, white, light gray, gray and dark gray regions in the (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h.

Fig. 7に各合金の450℃,1000 h時効材の4°~10°におけるX線回折結果を示す.いずれの合金においても,Table 2に示した14H構造に対応する4.8°付近及び18R構造に対応する5.6°付近にピークが確認されたため,本研究で用いたMg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金及びMg85Al2Zn4Gd9合金はいずれも450℃においてLPSO相が平衡相として存在すると考えられる.Fig. 4に示した各合金の鋳造まま材に対するX線回折結果(4°~10°)では14H構造に対応するピークは確認されなかったが,450℃においては主として14H構造に対応するピークが確認されており,450℃では14H構造のLPSO相が安定であると推察される.各合金に対する結果を比較すると,Zn添加量の増加に伴い14H構造の割合が増加し,一方で18R構造の割合は減少する傾向がみられた.また,Zn添加量の増加に伴い,LPSO相の析出量も増加する傾向がみられた.これはFig. 1及びFig. 4に示した鋳造まま材に対する結果と同様である.Fig. 5に示した各合金の組織観察結果と比較すると,14H構造に対応するピークはFig. 5の濃い灰色部のLPSO相①,18R構造に対応するピークはFig. 5の淡い灰色部のLPSO相②に起因するものと考えられる.したがって,LPSO相①は14H構造,LPSO相②は18R構造と考えられる.また,いずれの合金にも確認される9.2°付近のピークはLPSO構造の溶質原子濃化層に存在するL12クラスターの面内規則度に対応するピークと考えられる16)Table 4に本研究で用いた各合金のLPSO相①のMg-TM-RE比を,14H型及び18R型LPSO構造のMg-TM-RE比の理論値3)と併せて示す.いずれの合金においてもMg-TM-RE比の値は14H型LPSO構造の理論組成に非常に近いため,本研究で用いた各合金のLPSO相①は14H整合型LPSO構造を有すると考えられる.

Fig. 7

Results of X-ray diffraction for the (a) Mg85Al4Zn2Gd9, (b) Mg85Al3Zn3Gd9 and (c) Mg85Al2Zn4Gd9 alloys after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h.

Table 4

Mg-TM-RE ratio (at%) of each alloy compositions after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h with the ideal stoichiometric composition of the 14H and 18R LPSO phases3).

3.3 TypeIとTypeIIを決定付ける因子

Mg85Al6Gd9合金とMg85Zn6Gd9合金は共にTypeIIであるが11,14),本研究において作製した,TM元素としてAlとZnを複合添加したMg85(Al, Zn)6Gd9合金はいずれも鋳造まま材においてLPSO相が存在するTypeIであることが確認された.これはAlとZnの複合添加によりLPSO相の相対的な安定性が向上したことを示唆している.Table 5に本研究で用いた各合金の実組成及び450℃,1000 h時効材において確認された各相のAl/Zn比をまとめて示す.また,各合金の実組成のAl/Zn比に対する450℃,1000 h時効材中の各相のAl/Zn比をFig. 8に示す.いずれの合金においても,14H型及び18R型LPSO相のAl/Zn比は各合金の実組成のAl/Zn比に近い値を有するのに対し,α-Mg及びAl2GdのAl/Zn比は各合金の実組成のAl/Zn比とは大きく異なっていた.これは,LPSO相においては遷移金属であるAlとZnが互いに容易に置換するのに対し,α-Mg及びAl2GdにおいてはAlとZnの置換が容易ではないことを示唆している.Fig. 145及び7に示したように,鋳造まま材及び450℃時効材において,Zn添加量の増加に伴いLPSO相の析出量が増加したのは,AlとZnの置換が容易ではないAl2Gdに対する,AlとZnの置換が容易なLPSO相の相対的な安定性が向上した結果であると考えられる.Znの添加によって,Mg85Al6Gd9合金の初晶であるAl2GdがLPSO相に対して相対的に不安定となることにより,本研究において作製したMg85(Al, Zn)6Gd9合金はTypeIを呈するようになったと考えられる.したがって,LPSO型Mg合金のTypeIとTypeIIを決定付ける因子としては,LPSO相単独の安定性ばかりでなく,LPSO相とその周辺相の相対的な安定性が重要であると考えられる.本研究で得られた知見を活用することにより,LPSO型Mg合金において,TypeIとTypeIIを制御することや,LPSO相の平衡析出量を制御した合金設計を行なうことが容易になると考えられる.今後は他のLPSO型Mg合金系に対しても同様な検討を行ない,TypeIとTypeIIの制御の可能性を模索していく予定である.

Table 5

Comparison of Al/Zn ratio between alloy compositions and each phase after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h.

Fig. 8

Relationship between Al/Zn ratio of actual alloy compositions and that of each phase in the alloys after isothermal heat treatment at 450℃ for 1000 h. (b) is the magnified figure of (a).

4. 結言

LPSO型Mg合金のTypeIとTypeIIを決定付ける因子の解明に資することを目的として,Mg-Al-Zn-Gd 4元系合金を作製し,鋳造まま材及び450℃時効材の組織観察,各相の組成分析及び相同定を行ない,主として以下の結論を得た.

(1) Mg85Al6Gd9合金とMg85Zn6Gd9合金は共にTypeIIであるが11,14),Mg85Al4Zn2Gd9合金,Mg85Al3Zn3Gd9合金及びMg85Al2Zn4Gd9合金はいずれもTypeIとなる.

(2) 各合金の鋳造まま材に観察された18R型LPSO相の組成は概ねMg90TM4RE6であり,化学量論組成に対して溶質元素濃度がかなり希薄である.

(3) 本研究において作製したMg85(Al, Zn)6Gd9合金はいずれも450℃において14H整合型LPSO相を平衡相として有すると考えられる.

(4) 本研究で作製した各合金のLPSO相においてはAlとZnが互いに容易に置換するのに対し,α-Mg及びAl2GdにおいてはAlとZnの置換が容易ではないことが示唆され,このことがZn添加量の増加に伴うLPSO相の安定性に影響を及ぼしていると考えられる.

(5) LPSO型Mg合金のTypeIとTypeIIを決定づける因子としては,LPSO相単独の安定性ばかりでなく,LPSO相とその周辺相の相対的な安定性が重要であると考えられる.

本研究の遂行に際して,北海道科学大学 小野圭一氏より鋳造まま材及び450℃時効材に関する組織観察結果及び組成分析結果の一部を供与いただきました.ここに感謝申し上げます.本研究の一部はJSPS科研費新学術領域研究「新規金属・高分子系ミルフィーユ構造の構造制御と物質創製」JP18H05482の助成を受けて実施されました.

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