Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Special Issue on The Front Line of Superconducting Materials -Advances in Organizational Control Techniques toward Practical Use
Deposition-Temperature Dependence of Vortex Pinning Property in YBa2Cu3O7+BaHfO3 Film
Tomoya HorideKenta TorigoeRyusuke KitaRyota NakamuraManabu IshimaruSatoshi AwajiKaname Matsumoto
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2019 Volume 83 Issue 9 Pages 320-326

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Abstract

Improvement of critical current density (Jc) in magnetic fields is required in YBa2Cu3O7 films, and process parameters should be optimized for controlling pinning centers. In the present study, a deposition temperature was varied in pulsed laser deposition of YBa2Cu3O7+BaHfO3 films to control the nanorod structure, and its influence on Jc was analyzed. The YBa2Cu3O7+BaHfO3 film deposited at 850℃ exhibited pinning force maximum (Fp,max) as high as 413 GN/m3 at 40 K, while the Fp,max for the deposition temperature of 850℃ at 77 K was smaller than that in the YBa2Cu3O7+BaHfO3 film deposited at 900℃. A critical temperature decreased and matching field increased with decreasing the deposition temperature. Increase in deposition temperature is effective in improving the Fp,max in high temperatures, since the critical temperature and matching field dependences of Jc value dominate the Fp,max. On the other hand, low deposition temperature improves the Fp,max in low temperatures since the Fp shift in accordance with matching field is dominant to the Fp,max. Thus, the deposition temperature should be set in pulsed laser deposition of YBa2Cu3O7 films containing nanorods considering the Jc variation with critical temperature and matching field.

1. 背景

高性能REBa2Cu3O7(REBCO; RE = Y, Nd, Sm, Gd, etc.)超伝導テープ線材を開発するためには,臨界電流密度(Jc)の向上が必要である1)Jc向上には磁束ピンニングセンターの導入が有効であり,REBCO超伝導テープ線材ではナノロッドやナノ粒子を導入したナノコンポジット構造がピンニング特性向上に有効である.パルスレーザー蒸着(PLD)2)や有機金属気相成長法(MOCVD)3)を用いてREBCOテープ線材を作製する際には,BaMO3(BMO; M = Zr, Sn, Hf, etc.)ナノロッドが有効なピンニングセンターである4-7).ナノロッドを有するナノコンポジット構造の磁束ピンニング特性は,ナノロッド密度,長さ,界面構造,ひずみ等の複数の構造パラメータによって支配されている.磁場の増加とともに量子化磁束密度が大きくなることから,ナノロッド密度は磁場中のピンニング特性と強い相関がある8).ナノロッドの長さや傾斜はナノロッドと量子化磁束が重なる体積,すなわちピンポテンシャルを決定する.さらに界面の構造は要素ピン力に影響を及ぼす可能性がある9).またマトリックスのひずみは酸素空孔形成エネルギーを介して臨界温度(Tc)に影響することも明らかとなっている10).ナノロッドを導入したREBCOテープ線材および薄膜においてJcをさらに向上させていくには,ナノロッド構造を精密に制御していく必要があり,成膜プロセスの各条件がJc特性におよぼす影響を明らかにしたうえでプロセス最適化を進めていく必要がある.

PLDを用いた薄膜成長ではプルームからの原子の供給,表面拡散,核生成・成長が非平衡下で起こっており,単相薄膜をPLDにおいて作製する場合には成膜温度,レーザー条件,ターゲット組成等が重要である11-13).ナノコンポジット薄膜成長はより複雑である.マトリックスと第二相を構成する原子の拡散,核形成・成長だけでなく,マトリックスと第二相の島同士のコアレッセンス等複雑な過程を経てナノコンポジット構造が形成される.マトリックスやナノロッド材料の選択はもちろん,成膜温度や成膜レートなどの成膜条件が異なれば,ナノロッド構造形成過程が大きく変化すると考えられる14).REBCOにおいてナノロッドを制御するために,マトリックスのREとしてY,Nd,Sm,Eu,Gd等,またBMOのMとしてZr,Hf,Sn等が検討されてきた.さらに成膜温度や成長速度を変化させることにより構造およびJc特性が変化したことが報告されてきた.これらの中でも成膜温度は極めて重要なパラメータであると考えられる.実際,成膜温度によるナノロッドのサイズ,密度,長さの変化に関し多岐にわたる報告がある.成膜温度が低温になるとナノロッドが切断されたり傾斜したりして成長し15),ナノロッドの密度が増加することも報告された16).これらの構造変化を反映してJc特性が大きく変化してきた.これらは成膜温度を変化させることによりナノコンポジット構造を制御し,Jc特性を最大化する必要があることを示している.

本研究では,YBa2Cu3O7+BaHfO3(YBCO+BHO)薄膜に着目する.YBCO+BHO薄膜作製プロセス条件のうち成膜温度に着目し,PLDにおいて成膜温度を変化させることによりYBCO+BHO薄膜の磁束ピンニング特性を変化させた.超伝導特性を評価したところ,成膜温度によってJcの磁場依存性が大きく異なることが明らかになった.またJc値に関しては特に40 Kで高いものが得られた.Tcやマッチング磁場をもとにJc特性機構を解析し,成膜温度がYBCO+BHO薄膜の磁束ピンニング特性に及ぼす影響を議論する.

2. 実験方法

試料作製はPLDにより行った.ターゲットをYBCO+BHO混合ターゲットとし,BHO添加量を4.7 vol%と固定した.成膜時の酸素分圧は26 Paとし,膜厚はTable 1に示した通りである.成膜温度は830-900℃の間で変化させた.なお成膜温度はサンプルホルダ裏面直上に配置した熱電対によって計測した.また成膜後,55000 Paの酸素雰囲気で1 hかけて200℃まで冷却し,100℃以下になった後試料を取り出した.ここではYBCO+BHO(X)はX℃で成膜したYBCO+BHO薄膜を意味する.YBCO薄膜におけるナノロッド構造を明らかにするために透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った.フォトリソグラフィーとH3PO4によるウエットエッチングを行い幅90 μm,長さ1 mmのブリッジを形成した後,Physical Property Measurement System(PPMS)を用いて超伝導特性評価を行った.電気抵抗の温度依存性を測定することによりTcおよび不可逆温度(Tirr)を求めた.その後電流密度-電界(J-E)カーブを測定することによりJcを測定した.さらにYBCO+BHO(850)に関しては東北大学金属材料研究所の20 T超伝導マグネットを用いて65 Kおよび40 Kの温度,16 Tまでの磁場でJc測定を行った.磁場角度は−90˚で磁場がab面に平行に,0˚では磁場がc軸に平行になるように定義し,Jc磁場依存性の測定はB//c(0˚)のみで行った.なおJcおよびTirrの基準として1 μV/cmを用いた.さらにEJnと表現した際のn値を10-100 μV/cmの範囲で求めた.

Table 1

Parameters of the YBCO+BHO films prepared in the present study.

3. 結果

YBCO+BHO(850)の断面TEM観察結果をFig. 1に示す.膜厚方向に途切れることなく成長したナノロッドが高密度に存在していることがわかる.ナノロッドの間隔は15-20 nmであり,サイズは6 nm程度である.ナノロッドの間隔からマッチング磁場を計算するとBΦ~6.8 Tとなる.これまでに報告されているナノロッド構造の成膜温度依存性の結果から15),850℃より成膜温度の高い温度でも途切れることなくナノロッドが成長していると考えられる.

Fig. 1

TEM image of the YBCO+BHO(850) film.

Fig. 2に77 KにおけるJcの磁場依存性を示す.成膜温度が850-900℃のとき0 TでのJcは2 MA/cm2程度であったが,YBCO+BHO(830)ではJcが0.3 MA/cm2程度であった.YBCO+BHO(890)とYBCO+BHO(900)ではJc磁場依存性がほぼ同じであり,4 T以上でJcが急激に減少した.YBCO+BHO(850)ではJcの磁場依存性はYBCO+BHO(890)やYBCO+BHO(900)と異なり,6 T以上の磁場でJcが急激に減少した.さらに巨視的ピン力(Fp = JcB)の磁場依存性をFig. 2(b)に示す.890℃,900℃の成膜ではFpは4 Tで最大値を示し,YBCO+BHO(900)において本研究の中で最も大きな値である19.3 GN/m3が得られた.YBCO+BHO(850)では6 TでFpの最大値15.1 GN/m3を示した.一方,YBCO+BHO(830)では77 KでのJcおよびFpが他の膜と比較して1桁以上小さかった.このように77 KのJcは成膜温度に大きく依存し,成膜温度の減少とともにFp,maxは小さくなることがわかった.またTable 1に20 K,9 TのJcも示した.高温(77 K)低磁場ではYBCO+BHO(900)で高いJcを示す傾向にあったが,低温高磁場になるにつれてYBCO+BHO(850)においてJcが高くなることがわかる.YBCO+BHO(830)では他の薄膜と比較して77 KのJcが極めて小さかったが,20 K,9 Tでは同程度のJcとなった.しかしTcが低いことが原因の一つとなって,20 K,9 Tにおいてもその他の試料よりもJcが高くなるには至らなかった.

Fig. 2

Magnetic field dependences of (a) Jc and (b) Fp at 77 K for the YBCO+BHO films.

Fig. 2の結果から低温高磁場で高い特性が期待されるYBCO+BHO(850)の65 K,40 KにおけるJc特性をFig. 3に示す.YBCO+BHO(850)のFpは65 K,40 Kでは7-8 Tで最大値となった.これらは77 KでFpが最大となった磁場とほぼ同じであり,マッチング磁場がFp,maxを決定していることがわかる.Fp,maxの値は65 Kで103 GN/m3,40 Kで413 GN/m3となった.またFig. 3にはYBCO+BHO(850)における65 KのJc角度依存性も示した.YBCO+BHO(850)は大きなc軸ピークを示し,YBCO+BHO(850)ではナノロッドがまっすぐに伸びた強いc軸相関ピンとして機能していることを示している.

Fig. 3

Magnetic field dependences of (a) Jc and (b) Fp in temperatures of 40 K and 65 K for the YBCO+BHO(850) film.

Jc特性を議論するためにマッチング磁場(BΦ)とTcが重要なパラメータとなる.Fig. 4にそれぞれの試料における抵抗-温度(R-T)曲線を示す.90 K近傍で抵抗が低下し始め,88-83 Kで抵抗がゼロとなった.YBCO+BHO(900)とYBCO+BHO(890)では88 K近傍でシャープな超伝導転移が見られている.しかしYBCO+BHO(850)とYBCO+BHO(830)では超伝導転移が2段階になっているように見え,特にYBCO+BHO(830)ではその傾向が顕著である.これは低温で成膜したことによる組成ずれの影響が原因であると考えられる.Tc0の成膜温度依存性をFig. 4(b)に示す.R-T曲線からわかるとおり,Tc0は成膜温度の減少とともに小さくなっており,Tc0の減少は2段階超伝導転移の影響を強く受けていることがわかる.

Fig. 4

(a) R(T)/R(95 K)-T curves in the YBCO+BHO films. Inset shows the enlarged view. (b) Deposition-temperature dependence of Tc0.

BΦを議論するためにFig. 5に不可逆磁場曲線を示す.低磁場ではTirr-B曲線が急激に立ち上がり,折れ曲がりを見せた後Tirrは磁場に対して直線的に減少していく.横軸を1 − T/Tcとして不可逆磁場曲線を表示したものがFig. 5(b)である.高磁場側,低磁場側それぞれのTirr-B挙動は成膜温度によって変化しないが,振る舞いが変化する磁場が成膜温度に強く依存していることがFig. 5(b)からわかる.Tirr-Bにおいて折れ曲がりが見られた磁場がBΦに対応することが知られており8)Tirr-Bの折れ曲がりから求めたBΦの成膜温度依存性をFig. 5(c)示す.TEMで求めたBΦとの違いの一因は断面観察によるナノロッド間隔測定の精度の問題であると考えられる.また低温におけるFpのピーク位置との違いは低温におけるランダムピンの寄与の可能性が考えられる.Fig. 5(c)は成膜温度を小さくするにつれて,拡散距離が減少しナノロッド間隔が減少したことを示唆している.過去の報告でも,YBCO+BHOでも成膜温度が低下するにしたがってTcが減少し,BΦが増加することを報告した17).成膜温度依存性の強さや温度範囲の違いは基板加熱部の構造や成膜レート等の条件が異なっていることが原因であると考えられるが,成膜温度に対するTcおよびBΦの傾向は過去の報告と同じであることがわかる.

Fig. 5

(a) Tirr-B curves and (b) (1-Tirr/Tc)-B curves for the YBCO+BHO films. (c) Deposition-temperature dependence of BΦ in the YBCO+BHO films.

4. 考察

Table 2に今回の結果とこれまでに文献において報告されている高いJcに関する結果を比較する18-20).77 KのFp,max=15 GN/m3は過去に報告されているものと比較してそれほど大きなものではない.一方,40 Kでの413 GN/m3は,SmBCO+BHOにおいて報告された18,19)400-407 GN/m3よりもわずかに高い(ほぼ同等の)値であり,40 Kで報告されているものの中では高い特性といえる.このようにYBCO+BHO(850)において特に40 Kで高いFp,maxが得られており,この要因についてTcBΦをもとに議論する.

Table 2

High Jc and Fp values in the present study and literatures18-21). A peak field denotes the magnetic field where Fp,max is observed.

4.1 Jcの磁場依存性

77 KではYBCO+BHO(900)やYBCO+BHO(890)の方がYBCO+BHO(850)よりもFp,maxが大きくなった.ナノロッドサイズは成膜温度の減少とともに小さくなると考えられ,YBCO+BHO(850)ではナノロッドの直径が6 nm程度であった.ナノロッドサイズが磁束サイズよりも小さい場合はナノロッドと磁束が重なる体積がピンポテンシャルを決める可能性がある.しかしこのようにして決まるピンポテンシャルから求められるJc(0 T)は実験値よりも極めて大きく,直接ナノロッドからデピンニングされるわけではなくハーフループやダブルキンクなどの磁束励起機構が働いていることが示唆されている21).実際実験ではYBCO+BHO(900),YBCO+BHO(890),YBCO+BHO(850)の77 KでのJc(0 T)が同程度であり,ナノロッドサイズの違いがJc(0 T)に現れていない.これは直接デピンニングがJcを支配しているわけではないために,サイズが異なるナノロッドに対して同程度のJc(0 T)が得られたと考えられる.また過去の研究でナノロッドサイズの効果は温度とともに小さくなり,77 K以下ではナノロッドサイズの効果が見えなくなることも示しており22),本研究の結果は過去の結果とも矛盾しない.これらの結果からナノロッドサイズの影響は本研究のJcの違いに支配的でないと考えられる.そこでJcの違いを理解するためにJc(B)/Jc(0 T)のBΦ依存性を考える.Fig. 2ではBΦの小さいYBCO+BHO(900)でJc(B < BΦ)/Jc(0 T)が大きくなっている.またこれまでにn23)やクリープ解析14)等を用いて磁束運動が議論されている.Table 1に77 K,2 Tにおけるn値を示したが,本研究では低温成膜試料でn値が小さくなっている.YBCO+BMOにおいて広範囲にBΦを変化させてJc(B)/Jc(0 T)を評価した結果,BΦが大きくなるにつれてJc(B < BΦ)/Jc(0 T)が小さくなったことをすでに報告している8).これはダブルキンクやハーフループ機構によって磁束がナノロッド間を運動する際,BΦが大きい,つまりナノロッド間隔が狭い方が量子化磁束の飛び移りが大きくなるためであると考えられる.本研究でも同様の機構によりJc(B < BΦ)/Jc(0 T)のBΦ依存性が現れたと考えられる.

一方でBΦが増加すると高密度の量子化磁束をピンニングできるようになるため,高磁場でも高いJcを保つことができるようになる.十分なピンニングサイトがあるためYBCO+BHO(850)では1-7 TでJcがほぼ一定である.磁場が増加してすべてのピンニングセンターが量子化磁束により占有されてしまうと,弾性相互作用により量子化磁束がピンニングされるようになり,Jcが急激に低下していく.Jcが一定となる領域,つまり高磁場までナノロッドによる直接的なピンニング領域を高磁場まで広げることができたため,Fp,maxが高磁場側にシフトしYBCO+BHO(850)の低温でのFp,maxが大きくなった.

4.2 Tcの効果

Tcの違いもJcに大きく影響を及ぼすと考えられる.Fig. 6(a)においてYBCO+BMOにおけるJc(77 K, 0 T)のTc依存性を示す.本研究の結果に加え,Table 2に示した文献の結果18-20),過去の報告17)についても示した.0 TのJcはマッチング磁場の効果はないと考えられるため,異なるBΦを有する試料の結果がFig. 6(a)に示されている.2段階転移していることを考慮するためにTconset以下の温度において急激に抵抗が減少している部分をR = 0まで外挿してTcstrとした.Tc0は超伝導パスの中で最も超伝導状態が弱められている部分が検出されるのに対し,Tcstrは超伝導パスの中で超伝導状態が強い部分を表す.超伝導領域全体に電流が流れた際の電圧発生を評価することによって得られるJcTcstrによって決まっていると考えられ,実際Tc0よりもTcstrで議論したほうがJc値を説明できることをすでに明らかにしている17).一部傾向が外れるものもあるが,Tcの増加とともに試料によらずJc(77 K, 0 T)は増加していく傾向があることがわかる.なお一部試料において傾向が外れた原因は,試料の不均一性により超伝導電流パスの有効断面積が減少したこと,ナノロッドの形態変化(例えば低温成膜の影響で成長方向が傾斜したことなど)によると考えられる.さらに本研究の試料,過去に報告した試料17)Table 2の試料についてJc(40 K, 3 T)-Tc(Tcstr)をFig. 6(b)に示した.磁場中JcBΦに強く影響を受けるため,Fig. 6(b)はBΦ = 4-7 Tのものについて議論する.なお文献19)はBΦ = 10 TとややBΦが大きいことからFig. 6(b)から除外した.Jc(77 K, 0 T)同様にTcの減少とともにJc(40 K, 3 T)も減少した.

Fig. 6

(a) Tc(Tcstr) dependence of Jc(77 K, 0 T) in the present YBCO+BHO films, our previous report, and the samples in Table 2. (b) Tc(Tcstr) dependence of Jc(40 K, 3 T) for the samples with matching field of 4-7 T.

4.3 Fp,max向上のために求められるナノロッド構造

これらの解析結果はJc(B < BΦ)/Jc(0 T)のBΦ依存性,BΦによるFp,maxのピークシフト,TcJc絶対値への効果によってFp,maxが決まっていることを示している.本研究では77 KのFp,maxTable 2の文献の結果と比較して小さかった.77 K近傍の高温ではJc絶対値のTc依存性およびJc(B < BΦ)/Jc(0 T)のBΦ依存性の影響がともに強く,YBCO+BHO(850)ではBΦによるFp,maxのピークシフトの効果で補うことができなった.したがって高いFp,maxを得るにはBΦがある程度低く,Tcが高いことが求められる.この観点から77 K近傍の高温のFp,maxを向上させるには成膜温度を高くすることが有効である.

一方40 Kの低温ではTc(Tcstr)が3 K程度低いにもかかわらず本研究では高いFp,maxが得られた.本研究は文献3),18),20)と比較してFp,maxが得られた磁場がわずかに高くなっている.Fp,maxのピークシフトの効果が支配的となったためYBCO+BHO(850)で高いFp,maxが得られた.これはTcが多少低くなったとしてもBΦを向上させることでFp,maxを向上させることができることを示している.この観点から40 K以下の低温のFp,maxを向上させるには成膜温度を低くすることが有効である.

このように本研究ではBΦTcを変化させることによりJc特性を制御した.BΦTcを最適化したうえでさらなるJc特性向上を実現するためには,ハイブリッドピンニング21,24)や界面やひずみの原子スケール構造制御等に着目して9,10)さらなる薄膜構造制御を行っていく必要がある.

5. まとめ

PLDにおいて成膜温度を830-900℃に変化させてYBCO+BHO薄膜を作製し,ナノロッド構造を変化させた.77 Kでは900℃で作製した試料において最も高いFp,max = 19.3 GN/m3が得られたが,40 Kでは850℃で成膜した試料においてに高いFp,max = 413 GN/m3が得られた.成膜温度が低くなるにつれてTcは低下し,BΦは増加した.TcBΦをもとにFp,maxを解析したところ,Tcが高くBΦが小さくなる900℃成膜は77 KのFp,max向上に有効であるのに対し,Tcが多少低くなったとしてもBΦが高くなる850℃成膜が40 K以下の低温のFp,max向上に有効であることが分かった.

本研究の一部はJSPS科研費基盤B(18H01478)によって支援を受けた.また測定の一部は東北大学金属材料研究所(附属強磁場超伝導材料研究センター)における共同利用(17H0047)によって行われた.

文献
 
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