Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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ISSN-L : 0021-4876
Special Issue on The Front Line of Superconducting Materials -Advances in Organizational Control Techniques toward Practical Use
Developments of Ag-Sheath Bi-2223 Wire
Goro Osabe
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2019 Volume 83 Issue 9 Pages 294-304

Details
Abstract

After the over-pressure sintering method and the pre-tensioned lamination technique were introduced, critical current and mechanical properties of Ag-sheath Bi-2223 wire have been drastically improved, though further enhancement of their properties is necessary for promoting practical applications. This paper reviews the recent understanding of the critical current properties and improvement of the mechanical properties, and introduces achievements of Ag-sheath Bi-2223 wire which have been used for current lead, cable, magnet and motor applications.

1. はじめに

(Bi-Pb)2Sr2Ca2Cu3Oy(Bi-2223)超伝導体1)は線材に加工されケーブルやコイルに使用されるため,線材加工技術が重要となる.線材長尺化のための製造工程の確立,特性向上のための技術開発が進められ,長尺性や性能均一性に優れた線材を製造することが可能となっている2).これまで,電流リード3),電力ケーブル4-7),高磁場マグネット8-12),船舶用モータ13)など実用規模の開発,実証デモが行われBi-2223超伝導線材は成果をあげている.近年,超伝導線材同士の超伝導接続といった線材接続技術も報告され14,15),Bi-2223超伝導線同士の接続部分において4.2 K自己磁場中で臨界電流400 A以上を達成しており15),今後NMRマグネット用途における永久電流モード運転が期待されている.また,MRI,NMRや核融合炉,加速器などの超伝導応用機器用途では,より強磁場なマグネットが要求されている.高磁場マグネット応用16)では,電磁力によりフープストレスが巻き線に加わるため,引張特性が優れた線材が必要となる.住友電気工業(株)ではNi合金材料を用いて線材を補強した補強型Bi-2223線材を開発し17),77 Kにおける許容引張強度は400 MPa(558N)まで向上することに成功している.今後,さらに引張特性が優れたBi-2223線材が必要とされており,高強度化のための開発が進められている.

実際の電力機器は磁場下で使用されることになるため自己磁場中における臨界電流特性だけでなく,磁場環境下における臨界電流特性を理解することが重要となる.低温磁場中と77 K磁場中でキャリア濃度に対する臨界電流の挙動が異なる現象が観測されており,線材使用環境によっては,オーバードープ側が適していることが報告されている2).また,キャリア濃度を変化させて粒内特性を改善する方法の他に,粒界特性の改善によっても,臨界電流が大きく向上する.

本稿では,Bi-2223超伝導線材の製法,臨界電流特性と線材高強度化,熱的特性,超伝導応用機器における線材実績に関して報告する.

2. Bi-2223超伝導線材の製造方法

ビスマス系超伝導線(Bi-2223)の製造は,Fig. 1に示すように粉末工程,加工工程,焼成工程に分けられる18,19).充填粉末を銀パイプに充填し伸線する縮径加工を実施する.伸線した線材を銀合金パイプに嵌合して多芯化し,再度伸線し線材が長尺化される.これらの工程はPowder In Tube法(PIT法)と呼ばれている.熱処理においては前駆体であるBi-2212がAg界面において生成される液相との包晶反応によりAg界面と平行に結晶軸のab面に沿って配向する.c軸方向よりもab軸方向の成長速度が早く,ab面が揃った配向組織を持ちやすい.銅酸化物超伝導体は超伝導電流を担うCuO2面を含む層状の結晶構造を取るが,Bi-2223の場合,ブロック層と呼ばれるBiO2層が互いに隣接した層における結合エネルギーが小さく結晶が劈開する性質を有しており,圧延時にはc軸に配向しやすいためPIT法が上手く適応できているという結晶構造上の利点もある.

Fig. 1

Schematic of powder-in-tube (PIT) method for fabricating Bi-2223 wires.

また,圧延工程の影響で,超伝導フィラメントにはクラックが発生する.空隙やクラックを抑制し焼結密度を上げる目的から,加圧焼成して2次焼結する技術が開発された20,21).加圧焼結法とは,焼結時に外圧30 MPa程度に昇圧,900℃程度に昇温して線材を焼成する方法で線材内のフィラメントに空隙がない状態を作る製法である.Fig. 2に大気焼成と加圧焼成で作製したBi-2223線材のフィラメントのSEM観察像を示す.従来の大気圧下で焼結した場合と比較して,加圧焼成で作製したフィラメントは空隙やクラックが抑制された組織になっている.反応前駆体であるBi-2212との包晶反応によりBi-2223は生成されるため,大気焼成ではランダムにBi-2223同士が干渉し隙間の多い組織になる.加圧焼成では外圧により,結晶成長方位がテープ面に対してある程度拘束され,Bi-2223フィラメントは緻密な結晶組織を得ることができる21).また,圧延により導入されたクラックは加圧焼成で修復され,Bi-2223結晶粒同士が密に結合し粒間特性が改善される.高密度化させ配向板状結晶間の結晶粒接合を強めることで超伝導電流が流れやすくなる22).加圧焼結後の組織は,Bi-2212やSr-Ca-Cu-Oを含む非超伝導相である異相がまだ残存しており,これら異相の低減により臨界電流はさらに改善されることが期待できる.

Fig. 2

SEM secondary electron micrograph cross-sections of (a) the normal pressure sintered wire and (b) the over-pressure sintered wire.

3. 臨界電流特性

Bi-2223線材の臨界電流特性向上には,有効電流パスの増加,粒内特性の向上,粒間特性の向上などが重要となる.有効な電流パスを増やすことに関して,線材内のBi-2223体積分率と臨界電流との間には強い相関があることが報告されている23).臨界電流はある閾値以上に体積分率が増えると増加する.この閾値は超伝導電流が連続して流れるための結晶粒のつながり,パーコレーションの振る舞いに関係する.パーコレーションが発生する閾値に関しては,微細組織が影響し,ひとつの粒子のまわりの最近接接触点の数によって変化する24).よって,フィラメント中に残存する不純物相の低減,Bi-2223の単相化が理想である.しかし,Bi-2223の複雑な状態図25)と溶融反応プロセス26)を考慮すると,完全に無くすことは難しいのが現状である.PIT法で作製するBi-2223においては,Ag界面において液相が生成され,界面から包晶反応によりBi-2223の粒成長が始まり27),Ag界面と平行にab面が配向する.1次焼結後の急冷実験の結果から28),Sr-Ca-Cu-Oなどのアルカリ希土類(AEC)や液相などの非超伝導相はフィラメント中央に押し出された組織となるため,大部分の電流はフィラメントと銀の界面で流れていると考えられる.Bi-2223線材のフィラメントの芯数を増やすことで,銀とフィラメントの接触部分の面積(有効界面密度)が増加するため,芯数を変えた線を試作し,臨界電流増加効果を確認した.結果,芯数が増加すると臨界電流は向上していくが,芯数が多くなりすぎると逆に特性が低下するという結果になる.低下する原因としては,フィラメントのブリッジングやソーセージングが発生し,有効界面密度が計算通り増加していないことが原因として考えられる.このようにPIT法で作製されるBi-2223線材の臨界電流特性を向上させるためには,加工技術にも律速するところがあり,機械特性や線材仕上がり形状などを考慮した線材設計とする必要がある.

粒内特性の向上に関しては,Bi-2223の均一性アップ,Pb組成などの金属組成比,酸素量などの最適化が挙げられる.低温磁場中と77 K磁場中でキャリア濃度に対する臨界電流の挙動が異なる現象が観測されており,線材使用環境によっては,オーバードープ側が適していることが示唆されている2).また,粒界特性の改善により,臨界電流が大きく向上する.粒界傾角の増加により臨界電流密度Jcが指数関数的に低下する実験結果が報告されていることからも29,30),Bi-2223結晶の配向度が向上することで線材がより高い臨界電流を持つと考えられる.

3.1 キャリアドープ

銅酸化物高温超伝導体の結晶構造は層状ペロブスカイト構造と呼ばれており,銅と酸素からなる2次元的なCuO2面を有している.Fig. 3にBi-2223の結晶構造を示す.

Fig. 3

Crystal structure of Bi-2223 superconductor.

Cuの価数が+2である母物質では,強い電子相関のため絶縁体となるが,CuO2面にホールがドープされると,反強磁性相互作用が弱まって,超伝導が出現する31).ホールドープ系では,超伝導転移温度Tcはホール濃度が上昇すると徐々に上昇しTcは最適なホール濃度で最大となり,さらにドープを進めるとTcは低下していく.最適ドープ状態より低いキャリア濃度領域をアンダードープ,最適ドープ状態より高いキャリア濃度領域をオーバードープとよぶ.Bi-2223超伝導体は,CuO2面と絶縁ブロック層が交互に積層した構造をとっている.ブロック層では,元素置換が起こりやすく,金属組成の不定比性を持つ24).3価イオンであるBiが2価イオンであるSrやCaサイトを置換することで,Cuの価数が小さくなりホール濃度は減少する.Pbは仕込み金属組成でBiに対して10-20%程度の割合で添加される.2価のPbが3価のBiサイトを置換することで,Cuの価数が大きくなりホールがドープされる.また,酸素に関しても不定比性があり32),BiO層間に余剰な酸素を取り込むことができる.酸素が増加すると,Cuの価数が大きくなりホール濃度が増加する.このように,金属組成の変化や酸素量を調整することによってCuO2面のキャリア濃度が変化し,臨界電流や不可逆磁場などの特性が大きく変化することが知られており,超伝導特性向上のための重要なパラメータとなっている.金属組成の不定比性に関して,初期仕込み組成においてPbを過剰に添加することでPb-3221相がBi-2223の粒界に形成され,微細組織の形成に影響を及ぼし特性を低下させることになる.一方,過剰酸素導入によるキャリアドープは追加熱処理(ポストアニール)による制御が可能であり,Bi-2223の金属組成を変化させることなく調整可能である.そこで,Bi-2223線材のポストアニールを実施してキャリア濃度を変化させ,超伝導特性を調査した33).加圧焼成後の線材(as-sintered)を400℃酸素中,N2雰囲気中(350-700℃)で追加熱処理を実施しTcを測定した(Fig. 4).Tcの変化が酸素量の変化によるものか確認するために,X線回折パターンからc軸長を計算した.N2雰囲気中で熱処理することで酸素量が減少しc軸が伸びTcは低下する(アンダードープ).一方,酸素雰囲気中で熱処理を施すと酸素が結晶中に入ることで層間の結合が強くなりc軸が縮まり,Bi-2223はTcの値が低下する(オーバードープ).

Fig. 4

Relationships between Tc's c-axis lengths of Bi-2223 and oxygen doping.

Bi-2223では,CuO2面の枚数が3枚あるのに対して,Bi-2212では2枚となる.CuO2面の枚数が大きくなるほどTcは増加するが,CuO2面のCuあたりのキャリア濃度は減少する.そのためBi-2212超伝導体などCuO2面の少ない超伝導体と比較して,オーバードープ側の領域は狭くなる.また,Bi-2223超伝電導体は,超伝導層とブロック層が交互に積層している構造をもつため,電気的磁気的に異方性が生じる.電磁的磁気的異方性パラメータは,γ2 = λc/λab = ξab/ξcで定義される(ab軸,c軸の磁場侵入長λabλcおよびコヒーレンス長ξabξc).高温超伝導体の磁場下特性はc軸方向の短いコヒーレンス長と関連しており,c軸方向の相関結合を強めることが大切になる.Bi-2223超伝導体もオーバードープにすることで,c軸が減少しているため,CuO2面間隔の距離が縮みγ2は減少している.γ2が小さいほど,磁場中における不可逆磁場が向上する傾向があるため34),過剰酸素の導入が磁場中臨界電流特性の改善に有効であることが期待できる.

キャリア調整したBi-2223線材の77 Kにおける磁場依存性を調べた33)Fig. 5に77 KにおけるBi-2223線材の臨界電流-c軸長さ-磁場特性を示す.磁場は線材表面に対して垂直方向に印加されている.

Fig. 5

c-axis dependences of critical current Ic at 77 K in various magnetic fields for the mass production Bi-2223 wire. The magnetic fields were applied normal to the wire surfaces.

77 K自己磁場中の臨界電流はTcで決まり,最適ドープ状態で臨界電流が最大になる.磁場が0.15 Tまで印加されるとc軸長に対して上に凸の依存性を示すが,0.15 Tを超える磁場が印加されると,c軸が縮むオーバードープ側において,臨界電流値が増加していることがわかる.超伝導体の臨界電流特性は粒界Jcと粒内Jcで議論されている35-39).低磁場側では粒間特性(粒界Jc)が臨界電流の支配因子であり,磁場が高くなると粒内特性(粒内Jc)が支配的になる.RE-Ba-Cu-O系の電圧-電流特性の形状は磁場の上昇に伴い,曲率が正から負に変化し,変化する磁場をクロスオーバー磁場と呼ぶ.これら電圧-電流特性における変化は,粒間Jcから粒内Jcのクロスオーバーによる量子化磁束の挙動を反映した現象で,Abrikosov-Josephsonボルテックスの粒界における磁束フロー特性として説明される.低磁場中では磁束フロー損失は粒界で局在しているのに対し,外部磁界の増大に伴って,粒界近傍ならびに粒内の磁束フローが誘起され,粒間Jcと粒内Jcのクロスオーバーが起こる.Fig. 5の右軸に,20 K,1 TにおけるBi-2223線材の臨界電流のc軸長さ依存性を示す.20 Kにおいてもオーバードープ側で臨界電流特性が向上している.また,クロスオーバーが起こる磁場に関しても温度環境の違いにより変化することが報告されている33)Fig. 6にオーバードープBi-2223系超伝導体の77 K磁場中における電圧-電流特性を示す33).磁場は線材表面に対して垂直に印加している.RE-Ba-Cu-O系と同様に,磁場の上昇に伴い,上に凸から下に凸に変化し,粒間Jcから粒内Jcへの変化が0.10-0.14 Tで起こっている.この磁場は,Fig. 5のオーバードープ側の磁場特性が変化する印加磁場0.15 Tと近い値を示している.キャリアドープによりピンポテンシャルが増加して,粒内Jc特性が増加する.オーバードープでTcが低下しているにもかかわらず,クロスオーバー磁場を超えた磁場領域において臨界電流特性が向上しているのは,粒内特性がキャリアドープによって向上していることを示唆している.

Fig. 6

I-V curves measured at 77 K in various magnetic fields. The magnetic fields were applied normal to the wire surfaces.

3.2 配向性

粒界傾角が増加するとJcが指数関数的に低下するため28,29),粒界の傾角分布が小さいBi-2223粒であることが臨界電流特性を向上させるために重要となる.最近,加工方法の最適化により,高臨界電流線材(214 A@77 K,sf)を作製することに成功した.通常の製造方法で作製された線材(189 A@77 K,sf)と微細組織の配向性を比較するため,後方散乱電子回折法(EBSD)を用いて微細組織構造の解析を実施した.線材のフィラメント結晶方位と逆極点図マップ(IPFマップ)による結晶方位を示した結果をFig. 7に示す.通常の臨界電流を有する線材では,c軸に対するab面は15°以内に分布しているのに対し,臨界電流が高い線材は10°以内に分布しており,高い臨界電流を持つ線材は,より小さい傾角の範囲に分布していることがわかる.粒界の傾角が臨界傾角を超えると,粒界は弱結合的振る舞いを示す37).Bi-2223ではab面の傾角が小さくなることで,各結晶粒間の弱結合の成分が減少し,超伝導電流パスが増加するため,臨界電流値が高くなる.粒界傾角分布の解析結果から,配向面の異なる粒間において,粒界傾角が高くなっている.輸送電流は,粒界傾角の大きな接合部分は回避され,小さな粒間を通して,パーコレーション・ネットワークによって臨界電流が決まると考えられることなどからも24),傾角分布が小さいことで臨界電流は上昇することが理解できる.また,Fig. 7に示すように,Bi-2212と異なり,Bi-2223の場合いずれもab面内では結晶がランダムに配向しており,Bi-2212との違いは面内配向の有無であるという報告がある40).Bi-2223線材に関しても,ab面内にも配向を持たせることで臨界電流が向上する可能性があると考えているが,ab面内の配向には成功していない.

Fig. 7

EBSD and IPF results of the mass production Bi-2223 wire and developed high Jc Bi-2223 wire.

以上の結果から,配向度をさらに高めることで粒界における特性が改善され粒界Jcを改善することが期待できる.圧延加工や熱処理などのプロセス改良により結晶配向性を高める試みを続けている.

4. 機械特性

マグネット応用では,マグネットの高磁場化もしくは室温ボアの大型化を実現するためには,電磁力によりフープストレスが線材引張方向に加わるため,高い強度(許容引張応力)を持つ線材が重要となってくる.Bi-2223線材の高強度化として,加圧焼成によるフィラメントの高密度化,Agシース材料の合金化,銀とフィラメント比(線材銀比),フィラメントの芯数を増やすことによる強度改善が実施されてきた41).さらに,銅合金,ステンレス(SUS),Ni合金などの金属テープを補強材としてBi-2223線材に半田集合し臨界電流を維持したまま高強度化した補強型線材がマグネットやケーブル応用に使用されてきた.半田集合とは,Fig. 8に示すようにBi-2223線材と2枚の補強材の計3枚を半田溶解槽の中で集合して一体化させて製造する補強加工である42)Fig. 9にBi-2223線材,SUS補強型Bi-2223,銅合金補強型Bi-2223線材の横断面図を示す.

Fig. 8

Sketch of the reinforcement. Bi-2223 wire is laminated with reinforcement tapes. They are firmly bonded with Bi-2223 wire.

Fig. 9

Cross section images of Bi-2223 bare wire, reinforced Bi-2223 wire with stainless steel and reinforced Bi-2223 wire with Cu alloy.

77 Kにおける,Bi-2223超伝導線材と補強型Bi-2223線材の応力-歪み特性をFig. 10に示す.応力-歪み曲線における変曲点は,フィラメント破断による劣化が始まる指標として,それぞれ可逆限界応力Ryと可逆限界歪みAyと定義される43).Ni合金テープを補強して作製された線材の可逆限界応力Ryと可逆限界歪みAyは,それぞれ460 MPa,0.55%に達しており,20 μm厚みのSUSテープ補強線と50 μm厚みの銅合金補強線でそれぞれ半田集合した線材と比較して,特性が大きく向上していることが確認できる.またNi合金補強線材は,線材の破断応力と破断歪みは700 MPa,1.5%程度まで達しているのも特徴といえる.

Fig. 10

The stress-strain curve at 77 K for various Bi-2223 tapes.

77 Kにおける,Bi-2223超伝導線材と補強型Bi-2223線材の臨界電流の応力依存性をFig. 11に示す.引張試験後の臨界電流値が引張試験前と比べて95%を維持する引張応力を許容引張応力として定義するが,Ni合金テープで補強加工された補強型Bi-2223線材では444 MPa(引張歪み0.52%)に達している.この値は,応力-歪み曲線における可逆限界応力と可逆限界歪みはほぼ一致しており,可逆領域を超えると巨視的にフィラメントの破断が進行し,臨界電流の不可逆な低下が起こることを示している.Ni合金を使用したBi-2223補強型線材は機械特性が大きく向上しており,高磁場マグネット応用などに適している.補強型Bi-2223線材の機械特性は,Bi-2223フィラメントへの圧縮歪みの印加,補強材の材質,補強材の厚みを最適化することが重要となる.

Fig. 11

Stress dependence of the normalized critical current for various Bi-2223 tapes at 77 K.

4.1 Bi-2223フィラメントへの圧縮歪みの印加

Bi-2223線材の高強度化のためには,補強加工後にBi-2223フィラメントへ残留圧縮応力を印加させることが非常に有効である44-46).圧縮応力は,線材に予歪みを印加して生じる圧縮応力と,補強材とBi-2223線材の熱膨張差により生じる圧縮応力の和としてBi-2223フィラメントに印加され,補強材のサプライ張力を上げて半田集合し,半田集合後,荷重が除荷される際にBi-2223線材に印加される.残留圧縮応力による補強型Bi-2223線材の機械特性に及ぼす効果は非常に高いことが計算結果からも実験結果からも明らかとなっているが,どの程度まで残留圧縮応力を印加できるのか,Bi-2223線材に圧縮歪みを印加した場合の臨界電流特性に関する知見が重要となる.線材に一軸性の圧縮歪みを加える測定方法としてFig. 12に示すスプリングボードを用いた測定方法が報告されている47).スプリングボード下部を引張り或いは圧縮することで線材に一軸性の引張あるいは圧縮の歪みを加えることができる.Fig. 13にスプリングボードを用いてBi-2223線材の一軸歪み依存性を測定した結果を示す47).横軸は一軸歪みの値,縦軸は各歪み印加後測定した臨界電流Icを歪み印加前の臨界電流Ic(≡ Ic0)で除した値Ic/Ic0で示している.Bi-2223線材の臨界電流が圧縮側で極大値を示すことが観測されている.スプリングボードを用いた中性子回折の研究により47),この圧縮側における臨界電流の極大値は局所歪みの緩和が起こる歪みに対応しており,超伝導のフィラメントが破断して,弾性歪みが緩和したことに起因していることが明らかとなっている.また,引張歪みによる臨界電流値の低下だけでなく,圧縮側の歪みが0.15-0.20%程度から臨界電流値が低下することが報告されている.これにより,補強材に印可できる残留圧縮応力は線材中のフィラメントが圧縮歪みに耐えられる範囲内であることを考慮する必要がある.

Fig. 12

Springboard-shaped sample holder. Springboard generating uniaxial compressive/tensile strain.

Fig. 13

Uniaxial strain dependence of critical current in Bi-2223 tapes.

4.2 補強材の材質

Bi-2223線材の高強度化に関しては,Bi-2223フィラメントに圧縮応力を印加することが重要であり,補強材としては,高耐力,高ヤング率,高熱膨張係数であることが求められる.金属の特性として,ヤング率と熱膨張係数は相反する関係があり,バランス良く両者の特性が高いことが補強材料として要求される.また補強後の線材特性を考えたとき,非磁性であること,比抵抗が高くないこと,当然ながら毒性がないことも重要である.低温で使用する際,磁性があると問題があり,線材をオーバーラップ法で半田接続(スプライス)して使用する際は,比抵抗が高いと接続抵抗が高くなり,通電時,接続部における発熱量が大きくなってしまう.また,工業的観点からすると,kmレベルの長尺性が必要であり,市販されていて安価であり短納期で入手できるものでなければならない.合金材料に関しては,複合則でヤング率と熱膨張係数が計算できるため,どの合金組成において高強度化できるか計算により算出することが可能であり,現在も補強材の探索・選定は進められている.

4.3 補強材の厚み

補強材の厚みをあげることで機械強度が上がる.ただし,線材の単位面積あたりに流せる電流(Je)は低下してしまう.SUS合金の場合,補強材の厚みを上げて,予歪みを印加した場合の77 Kにおける許容引張応力の計算値と実験値をFig. 14に示す46).SUSテープの補強材厚み20 μm(SS20),50 μm(SS50),100 μm(SS100)を使って試作している.補強材の厚みが大きいほど,予歪みが大きいほど,線材の機械特性は向上する.しかし,実際には線材に印加できる圧縮応力には限界値が存在するため,圧縮応力で特性が律速されることになる.

Fig. 14

Pre-tension dependence of the Critical tensile strength for SUS reinforced Bi-2223 wire (Type HT-SS). The different thickness of SUS tape were prepared as 20 μm (SS20), 50 μm (SS50) and 100 μm (SS100). The circle show the measurement results. The line and dashed line shows the calculated results.

4.4 許容圧縮歪み

Bi-2223線材に圧縮歪みが加わると,ある値で臨界電流が低下する(許容圧縮歪み).圧縮歪み,補強材の種類,補強材の厚みの3つのパラメータが線材の機械特性にどのように影響するのか理解する必要がある.そこで,50 μmと100 μmのSUSテープと,30 μmのNi合金テープを用いて,半田集合時,これらの補強材に所定の応力(予応力)を印加して補強型Bi-2223線材を作製した.線材の77 Kにおける許容引張応力を測定し,計算値と比較した(Fig. 15(a)).Fig. 15(a)のx軸は補強材1枚に印加される応力の値をプロットしている.実験結果と計算値は良く一致しており,計算により77 Kの許容引張応力は推測することが可能であることがわかる.また,補強材に予応力を印加して半田集合するとBi-2223フィラメントには圧縮応力が印加される.補強加工後のBi-2223フィラメントの残留圧縮応力は,補強材に印加する応力による圧縮応力と,補強材とBi-2223線材の熱膨張率の差により生じる圧縮応力との和で計算される.Fig. 15(a)のx軸に相当する応力を半田集合時に補強材に印加した時,Bi-2223フィラメントに印加される残留圧縮応力の計算値を歪みに換算してx軸にプロットした図をFig. 15(b)に示す.各線材Bi-2223への残留圧縮歪みが0.15-0.20%程度の間で計算式からずれてきており,線材の圧縮側における臨界電流特性の低下が影響していると考えられる.Fig. 13に示すように,引張側と圧縮側においてBi-2223線材の臨界電流は低下していくが劣化モードはそれぞれ異なる.引張側においては,巨視的にフィラメントの破断が進行し,臨界電流の不可逆な低下が起こるが,圧縮側でのBi-2223フィラメント劣化モードに関してはまだ明確に理解されていない.一軸引張試験においては,圧縮されたものが伸びる方向に力が印加される.一方,両曲げ試験は線材を曲げ治具に沿わせて曲げた後,線材を裏返して再度曲げ治具時に沿わせて曲げる方法で実施する.中立軸の内側で圧縮が加わり,外側で引張が加わるため,両面曲げることで線材の両サイドに圧縮が印加される.フィラメントに圧縮を加えることで,臨界電流が低下し始める許容圧縮歪みが観測される.Fig. 16(a)に室温における両曲げ試験の結果を示す.ここで縦軸は,許容両曲げ直径の値を示している.許容両曲げ直径は,両曲げ試験後の臨界電流値が線材を曲げる前の臨界電流Icと比べて95%を維持する両曲げ直径として定義される.SS50,SS100,NX30の各種補強型Bi-2223線材は,補強材一枚に印加される応力が,それぞれ325 MPa,160 MPa,910 MPaを超えると許容両曲げ直径の値が増加する.先程と同様にx軸をBi-2223フィラメントに印加される残留圧縮歪みに換算してプロットした図をFig. 16(b)に示す.各種線材の残留圧縮歪みが0.15-0.20%の間で臨界電流特性が低下しており,Bi-2223線材の許容圧縮歪みに対応していると考えられる.

Fig. 15

(a) Pre-stress dependence of the critical tensile strength at 77 K for the reinforced tape with different material and thickness. (b) Compressive strain dependence of the critical tensile strength at 77 K for the reinforced tape with different material and thickness.

Fig. 16

(a) Pre-stress dependence of the critical double bend diameter for the reinforced tape with different material and thickness. (b) Residual compressive strain dependence of the critical double bend diameter for the reinforced tape with different material and thickness.

4.5 機械特性向上のために

線材の機械特性向上のためには,補強材の選定が重要であり,線材の降伏応力,ヤング率と熱膨張係数が高くなければならない.また,補強材の厚み増加は機械特性向上のために効果があるが,線材の許容圧縮歪みの値で律速してしまう.Fig. 17にそれぞれの補強材の厚みにおいてBi-2223に印加される圧縮歪みが0.15%として計算される77 K許容引張応力の値を点線でプロットしている.また実線は補強材料自身の降伏応力で律速する想定ラインを示している.SUSの場合,補強材の厚みが30 μm程度までは補強材の特性で決まり,30 μm以上ではBi-2223線材の圧縮応力で線材の特性が決まることがわかる.また,Ni合金の場合も,30 μmの厚みまでは同様に補強材の降伏応力で決まり,30-80 μm程度までは線材の圧縮応力で特性が決定される.また,設備にも印加できる荷重に限界があり,80 μmより厚い補強材を使用するとなると装置の改造が必要になってくる.これらの結果から明らかなように,補強材の特性がわかれば,線材の機械特性は予測できる.現在,77 Kにおける許容引張応力が500 MPaとなるような線材の開発を進めているが,Fig. 17からNi合金でも厚めの補強材を用いて500 MPaが達成できることが示唆される.

Fig. 17

Thickness of lamina dependence of the critical tensile strength at 77 K for the stainless steel and Ni alloy reinforced tapes.

5. 熱的特性

Bi-2223線材を用いた電流リードはBi-2223線材のAgシースにAuを添加して,低熱伝導度を実現した線材で,電流リード用途に使用される3)Fig 18に,Agシース材線材とAg-5.4 mass%Au合金をシース材として用いた線材の熱伝導率の温度依存性を示す48).Ag-5.4 mass%Au合金シース線材の熱伝導率は,温度が低下すると共にほぼ単調に減少し,極低温においても低い熱伝導率を示す.AgシースBi-2223線材において,Bi-2223フィラメント部分における熱伝導率の寄与は,金属シース部分に比べて無視できるほど小さい.Ag-5.4 mass%Au合金シース線材ではAgシース部分に不純物であるAuを添加することで,比抵抗の温度依存性がAuを添加していないAgシースBi-2223線材と比較して高くなる.金属の場合,熱伝導の大部分を電子が担うので,ウィーデマン・フランツの法則から熱伝導率は比抵抗に反比例することになり,高抵抗のAu添加Bi-2223線材の熱伝導率は低くなる.

Fig. 18

Temperature dependence of the thermal conductivity for the Ag sheathed Bi-2223 wire and Ag-5.4 mass% Au alloy sheathed Bi-2223 wire.

6. 超伝導応用機器における線材実績

6.1 電流リード

熱核融合実験炉などにおいて,10 kAを超える大容量電流リードが要求されている.中国科学院プラズマ物理研究所(ASIPP)では,10 kA,55 kA,68 kAと3タイプの高温超伝導電流リードをITER用に設計し,実証試験が実施され,電流リード用Bi-2223線材が使用されている3).また,SCOTT社より高温超伝導線材を使用した電流リードHTS-110 CryoSaver™が販売されており電流リード用,Bi-2223線材が使用されている.また,最近,ITERでの実績を踏まえ,電流リード用Bi-2223線材が世界各地で使用され始めたこともあり,需要が高まっている.

6.2 超伝導ケーブル

超伝導ケーブルは大電流を低損失でコンパクトに送電できることから送電損失を低減することができ省エネルギーであること,磁場がシールドされることで磁場漏洩がなくEMIフリーであることなど経済面,環境面からもメリットがある.実用化のための検証試験として実系統での運転が世界各国で実施されてきた.米国では2006年に,Albany,Ohio,LIPAの各プロジェクトが実施された.住友電気工業(株)はAlbanyプロジェクト4,5)で三心一括型超伝導ケーブルを製造し,実系統における長期試験に成功,銅補強型Bi-2223線材が使用された.中国では国家ハイテク研究開発プログラムとして,変電所からアルミニウム電解工場のブスバーに連系される直流ケーブルが開発され6),銅補強型Bi-2223線材が使用されている.この時出荷された銅補強線材は,初めてBi-2223線材同士を接続(スプライス)して出荷し,線材のスプライス部分の信頼性が証明されたプロジェクトでもあった.ドイツ・エッセン市では都市部の高圧架空線を低圧超伝導ケーブルに代替するAmpaCityプロジェクト7)が実施され,銅補強型Bi-2223線材(スプライスあり)が使用され3相同軸型のケーブルが変電所に敷設され,2014年から長期実系統試験が実施され,信頼性が証明されている.日本においても,旭変電所において1年間の実証試験が日本で初めて実系統での電流送電に成功している.実系統での長期運転を通して信頼性,運転技術,保守・メンテナンスなどが検証され,地絡試験/短絡試験などの事故があった場合の安全性や信頼性など,検証と対策が進められている.今後も世界各地で実系統での実証試験が計画され実績を積みつつあり,その実用化が期待される.

6.3 マグネット

2015年4月よりNi補強材料を用いて補強した線材の販売を開始した.Ni合金を使用したNi合金補強型Bi-2223線材は,高磁場マグネットに実際に使用され成果を上げている.近年,無冷媒超伝導マグネットで24.6 Tの強磁場を発生することに成功した成果が,東北大学の金属材料研究所から報告されている8).無冷媒超伝導マグネットは,LTSとHTSマグネットで構成されており,HTSにNi合金補強型Bi-2223線材が使われている.同マグネットは,直径52 mmで室温ボア中心に24.6 Tを1 h磁場発生させることに成功しており,コイルの単独性能試験ではNb3Sn-LTSコイルで14.0 T,Bi-2223 HTSインサートコイルで11.5 Tが得られ9),実用の超伝導マグネットの中では世界最強の無冷媒24.6 T超伝導マグネットとして全国共同利用が開始されている.また,NMR用途における超伝導マグネットに関しては,磁場が強い程,高分解能となるため各国で開発競争がなされてきた.コイル外層部分にNbTi,コイル内層部分をBi-2223線材を用いてコイルが作製され,24.0 T(1020 Hz)の発生に成功し,NMR磁石世界最高磁場を更新し,6ヶ月に渡る電源駆動モード運転に成功した.また,24.2 T(1030 MHz)発生にも成功(超伝導磁石世界最高磁場)したことが報告されている10-12)

今後,Ni合金補強型Bi-2223線材の高磁場マグネット応用への利用が期待される.

6.4 モータ

超伝導モータは,小型化,軽量化可能であり,超伝導コイルを用いることによる高トルク特性を利用する.(株)IHI,福井大学など産学グループによる船舶用モータの実機への適用を目指した開発が実施された13).世界で初めて交流部分を超伝導コイル化に成功し,コイル1つ1つに流れる電流を均一に流す電流調整器が開発された.また冷却方法の改良によりモータの大容量化にも成功している.

7. まとめ

Bi-2223超伝導線材の製法,臨界電流特性と線材高強度化,熱的特性,超伝導応用機器における線材実績に関して紹介した.超伝導のような新技術を商用化するためには,複合的な開発要素を促進していく必要があり,さらなる材料自身の高性能化が望まれる.

本稿で紹介した,機械特性測定に関しては,応用科学研究所の長村光造理事に,EBSD測定に関してはフロリダ州立大学の亀谷文健先生にご協力を頂き,貴重なご意見を頂きました.記して感謝を表します.

文献
 
© 2019 The Japan Institute of Metals and Materials
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