Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Special Issue on Advancing Local Mechanical Characterization Applicable to Analysis on Macroscopic Deformation Mechanisms
{111} Trace Analysis in ECC Images ―toward In-Situ Observation of Deformation Behavior in FCC Bulk Specimens
Motomichi KoyamaKeiichiro NakafujiKaneaki Tsuzaki
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2021 Volume 85 Issue 1 Pages 17-22

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Abstract

Toward establishing in-situ electron channeling contrast imaging (ECCI), we present three insights in ECC images, which are related to {111} surface traces in face-centered cubic alloys. For this purpose, ECCI was carried out under tensile loading in an austenitic steel. First, dislocation slip and stacking fault formation during deformation can be distinguished in ECCIs. Second, crystallographic orientation can be determined by three {111} traces in ECCIs. Third, shrinkage of stacking faults on {111} planes under unloading was observed by in-situ ECCI even in a smooth specimen, which implies a significant difference between in-situ and ex-situ observations.

1. 緒言

近年,金属組織解析における電子チャネリングコントラストイメージング(Electron Channeling Contrast Imaging:ECCI)法の発展が著しい1-3.ECCI法とは,走査型電子鏡法における反射電子強度の結晶方位依存性を利用した手法である.観察粒の結晶方位をBragg条件に近づけると反射電子線強度が著しく低下するため,粒全体が暗いコントラストとして現れる.ブロッホ波での回折理論に則るとチャネリング条件はBragg条件から少しずれた方位にあり,完全なブラッグ条件からチャネリング条件を満たすように試料を傾けるとより暗いコントラストが現れ,逆に傾けると相対的に明るいコントラストが現れる1.Bragg条件,より正確にはチャネリング条件を満たす結晶粒に格子欠陥が存在すると,その弾性ひずみ場や積層不整に由来して局所的にチャネリング条件から逸脱するため,転位線や積層欠陥が明るいコントラストとして現れる(注:逆に格子欠陥の弾性ひずみ場によりチャネリング条件に近づくような方位では,反射電子線強度が低下するため,ここで言及したものとは逆のコントラストが得られる.つまり転位などが黒く現れることもある.).空間分解能としては,1本々々の転位を分解して観察することが可能であり,特に面心立方構造(FCC:Face-Centered Cube)では,明瞭な転位の観察例が多く報告されている1.さらに,観察視野を数百µmからナノスケールまで広範に変化させることができ4,かつ簡便にバルク試料での観察を可能5としている.これらの利点が,微小き裂進展挙動観察や結晶粒間相互作用などのµmスケールで転位運動を理解することが要求されている近年の金属組織解析の需要に合致している6-8.より具体的には,上記特徴により高空間分解能かつ統計的な解析ができるため,転位密度の統計解析9,10,レンズおよびラスマルテンサイトなどの階層組織の観察11,12,き裂などの応力集中源の存在により組織・変形勾配が存在する場の組織観察13,14,などに対してECCI法が利用されている.例えば転位密度測定では,定量的な値が従来手法の結果と比較して差がある9など問題点もあげられているが,それら課題の解決とともに様々な対象へのECCI法の応用が期待される.

また,最近ではバルク試料で観察可能な点が注目され,ECCI法のその場観察への応用が展開されている15-17(注:ここで,その場観察とは光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの高い時間分解能を有するものを意味していない.走査電子顕微鏡では,1枚の高解像度画像撮影に1 min以上の時間を必要とするので,観察のために変位や荷重などの条件を保持する必要があることに留意が必要である.).その場観察では,詳細な解析ができる試験前および試験後に得られる像に比べ,試験途中の像については限られた情報から解釈をする必要がある.このため,得られたECC像の解釈および像情報の有効利用がますます重要視されている.例えば,従来のバルク試料における表面観察では,変形による表面起伏形成の原因が完全転位の表面射出か,積層欠陥などの面欠陥形成かの判別が困難である.この問題に関連する像解釈の一例として,本論文ではECC像のもつ情報から転位線と積層欠陥を判別する方法を示す.

さらに,ECCI法を有効活用するにあたって重要となるのが結晶方位情報である.Electron channeling patternを利用した方位解析18も検討されているが,一般的には後方散乱電子回折(EBSD:Electron backscatter diffraction)法が併用される1.しかし,その場観察において事前にEBSD測定をしていない領域で目的とする現象が起こったとき,その状態の粒の結晶方位を知るためには,EBSD測定のための試料傾斜のためにその場試験を中断する必要がある.EBSDを必要としない代替結晶方位解析法として,すべり線などを用いた表面トレース解析法が従来知られる.例えば,FCC構造では4種の{111}表面トレースを利用することで表面結晶方位を決定することができる19-21.しかし,一軸変形において4種の{111}表面トレースが現れることは希である.本論文では,ECC像において3種の{111}表面トレースで表面方位を決定する方法を示す.

最後に,塑性変形により誘起される金属組織発達を正しく観察するにあたって,その場観察法が重要となる理由の1つを示す.具体的には,除荷による組織変化の一例を示す.ECC観察は表面観察手法の1つであるが,バルク試料であるために,薄膜などに比べて大きな変形拘束の影響がある.変形拘束の影響が強いと,除荷時に負荷時とは逆のせん断応力が働き,負荷時と反対方向への転位運動や積層欠陥の収縮を誘起することがある.特に低積層欠陥エネルギーのFCC合金では,{111}面上で積層欠陥を構成する部分転位の可逆運動が起こり易く,金属疲労現象などを理解するためには除荷時の転位運動の観察が重要となる.これまで著者らは,ECCI法が疲労のその場観察にも重要であることを示しており16,本論文でも疲労を見据えて,除荷時に転位運動および積層欠陥の収縮が起こることをその場観察により示す.そして,疲労現象のその場観察などに対して,バルク材で試験できるECCI法が有効性であることを改めて示す.これにより,従来{111}面に沿った表面起伏の変化から議論されてきた現象が,より直接的に転位運動から議論できるようになることが期待される.以上,(1)表面起伏形成の原因の判別,(2){111}トレース解析による方位決定,(3)除荷過程における{111}面上格子欠陥運動,の3つの視点から,従来の{111}表面トレース解析と比較して,ECCI法ではどのような利点があるかを示す.

2. 実験方法

2.1 供試材

供試材にはFe15Mn10Cr8Ni合金(mass%)を用いた.誘導溶解炉で10 kgインゴットとして鋳造されたものを,1100℃にて熱間鍛造,溝ロール圧延を施して約12 mm角の棒材とした.その後1000℃のAr雰囲気中で1 h保持して溶体化処理した後,水冷した.熱処理後,本合金は室温でFCC単相である.本供試材は積層欠陥エネルギーが20 mJ/m2,22と低いため,転位が拡張して積層欠陥を形成しやすく,また変形により六方最密構造(HCP:Hexagonal closed packed)マルテンサイトが形成する22-24.上記熱処理後の試料において,マルテンサイト変態開始温度はMs = −29℃,逆変態開始温度はAs = 63℃であり25,変形によるマルテンサイト変態開始応力がすべり変形による降伏の応力より低い臨界温度はMsσ = 40℃程度である23.本実験では,Fig. 1に示す形状の引張試験片を放電加工により切り出した.同様の平行部形状を有する試験片をインストロン型引張試験機で試験することで得た応力ひずみ線図をFig. 2に示す.

Fig. 1

Specimen geometry of the specimen used for the in-situ experiment.

Fig. 2

Engineering stress-strain curve of the alloy used for the present study obtained by using a strain gauge.

2.2 ECCI観察

室温においてSEM内で引張試験を行い,一定荷重ごとに変位を保持して観察をした.SEMはCarl Zeiss社製SEM Merlinを用いた.引張試験は㈱TSLソリューションズ製試料引張ステージを用いて行った.試験片表面はコロイダルシリカによる鏡面機械研磨仕上げとした.ECCI法の観察条件は加速電圧30 kV,照射電流4 nA,作動距離3.2 mmとし,観察は変位保持中に行った.5 mm以下の作動距離を実現するために㈱TSLソリューションズ製ECCI用治具を用いた.Fig. 3にSEM内引張試験にて得られた応力-変位曲線を示す.観察時における応力低下は変位保持中における試験機または試料の応力緩和による.

Fig. 3

Engineering stress-displacement curve obtained during the in-situ experiment.

3. 結果および考察

3.1 転位線と積層欠陥の判別

Fig. 4(a)-Fig. 4(c)に100 MPaから120 MPaまで負荷したときのECC像を示す.ここで転位は白く線状または点状に現れている.負荷増大にともない,転位が運動している様子が観察される.丸で囲まれている2つの転位に注目すると,Fig. 4(d)に示す拡大像において,これらの転位は白い線状コントラストで結ばれている.この線状コントラストは2つの転位間距離が大きくなるとともに長くなっている.この転位運動にともなって長くなる線状コントラストは,転位の一部が転位ループの拡大とともに表面に射出,または酸化被膜などの存在により表面近傍に止まっているとき,表面起伏または転位の弾性ひずみ場に対応してECC像中に現れると考える.つまり,これら2つの転位は1つの転位ループを構成している異符号転位である.よって,本来は1つの転位ループを形成している,見かけ上2つに見える転位の異符号ペアをECC像中で特定できる.ここでさらに注目すべき点は,転位間のコントラストである.今回の場合には,2つの転位間のコントラストが表面近傍の線状コントラスト以外はマトリックスと同じであったので,ここで見えている転位ペアは,異符号の完全転位であると判定できる.しかし,他の転位ペアの可能性としてハイデンライク-ショックレイ部分転位も挙げられる.もし先行部分転位と後続部分転位が2つの転位コントラスト形成している場合は,その間に積層欠陥のコントラストが現れる1.つまり,格子欠陥が存在している{111}面がエッジオンの方位から傾いた状態で観察することで,転位ペアが異符号の完全転位か部分転位かを判別できる(注:{111}面の傾斜角について,観察条件にもよるが,積層欠陥をECC像中で面状コントラストとして観察するためには積層欠陥の存在する面がエッジオンの方位から40°を超えて傾いていることが必要とされる.傾斜角が小さいと,ECC像の空間分解能の問題からほぼ線状に観察されてしまう.1).このように①転位ペアの特定と②転位間コントラストの観察,の2つを通して,負荷中に転位すべりと積層欠陥形成のどちらが起こっているのかを明確に判別することができる.この判別は,バルク試料の表面起伏観察では困難であった点である.なぜなら転位は同一すべり面上で様々に増殖,運動して表面に射出されるため,ある変形にともなう1つのすべり面上の転位射出数を見積もることができない.このため,表面起伏解析から転位のすべり運動と積層欠陥形成のどちらが起こったかを判別することは,ある限られた条件でしか達成されない26,27.上記のECC像における判別方法は,表面起伏と内部組織を同時かつ鋭敏に観察できるECCI法ならではの利点に由来するといえる.

Fig. 4

ECC images taken at (a) 100 MPa, (b) 110 MPa, and (c) 120 MPa. (d) Magnification of the highlighted area in (a).

3.2 3つの{111}トレースによる結晶方位の決定

150 MPaに達すると,粒全体で多数の表面起伏が形成し(Fig. 5(a)),負荷とともに表面起伏の数が増大する(Fig. 5(b)).多くの結晶粒で複数の{111}面に沿った表面起伏が形成し,これら表面起伏に加えて焼鈍双晶界面を含めると,3種類の{111}面トレースが高頻度に観察される(例えばFig. 6(a)).緒言にて述べたように,本来は表面結晶方位決定のために4種類の{111}面トレースが必要とされるため19,一軸引張変形によって観察される表面起伏のみから方位決定する場合,それが可能となる引張方位は限られる.一方ECC像では,表面近傍の内部組織が観察できるとともに,格子欠陥と表面の交点または交線の位置がコントラストから特定できる.対象とする粒の結晶方位がBragg条件に近い場合,より明るく現れている部分が表面側(格子欠陥と表面の交点または交線)であり,暗く現れている部分が試料内部側に対応する.つまり,試料表面からの距離が大きくなるとともに,その位置からの反射電子線強度が小さくなるため,積層欠陥などの欠陥がコントラストに勾配をもって現れる(Fig. 7).このため,面欠陥が形成している場合には,対応する{111}面の試料表面に対する傾きの正負および鋭さが定性的にわかる.3種の{111}面の傾きが特定されれば,トンプソンの正四面体を用いてそれぞれのトレースが4種の{111}面の内いずれに対応するかを判定できる.例えば,Fig. 6(b)およびFig. 6(c)に観察される積層欠陥の傾きから判定すると,各{111}面はFig. 8(a)のようにトンプソンの正四面体で表現されることになる.ここで,紙面法線方向を試料表面法線方向に一致させている.トンプソンの正四面体より,任意のトレースを(111)として各{111}表面トレースに対応する指数(h k l)を決定できれば,トレース間角度から表面方位を決定することができる.上述の手法によると,表面および引張方位はそれぞれ[0.81 0.34 0.48]と[−0.59 0.58 −0.56]に決定され,ステレオ網にはFig. 8(b)のようにプロットされる.得られた結晶方位から4つの{111}表面トレースを描くとFig. 8(c)のようになり,観察された表面トレースとよく対応する.

Fig. 5

Overview ECC images taken at (a) 150 MPa and (b) 200 MPa. Three kinds of {111} traces are recognized.

Fig. 6

(a)-(c) Magnifications of Fig. 5(b). The arrows indicate the specimen surface side of the stacking faults. (b′), (c′) Schematics for the contrast gradient of the stacking faults.

Fig. 7

Schematic illustrations of contrast gradient from the specimen surface: (a) top and (b) side views. Here, the incident beam direction is assumed to be identical to the surface normal direction. The gradient of the color (purple) indicates contrast in the ECC image.

Fig. 8

(a) Alignment of Thompson tetrahedron that corresponds to the crystallographic orientation of the grain shown in Fig. 6. (b) Stereographic plot of the surface normal (+) and {111} planes. (c) The corresponding {111} surface traces.

3.3 除荷過程における格子欠陥運動

Fig. 9に240 MPaまで負荷したときのECC像を示す.240 MPaまで負荷するとすべり変形,積層欠陥形成,ならびにHCPマルテンサイト変態に起因する多量の表面起伏が形成している.加えて,周囲の粒拘束による粒内変形の不均一性が顕在化している(Fig. 9(a)).例えばFig. 9(b)の領域では,同一結晶粒内であるにも関わらず,像中左上の部分では多重すべりが起きており,右下の部分では主に単一すべりが起こっている.この変形不均一性に由来して粒内部で応力勾配が形成されているので,これに対応してECC像中のコントラストも不均一に現れている.この粒内で特に大きな局所応力場を有すると想定されるHCPマルテンサイト板先端近傍の拡大像をFig. 9(c)に示す(本画像では,明らかに厚い板を積層欠陥の集合体であるHCPマルテンサイトとして識別している.).ここでは,白色破線で囲まれている積層欠陥に注目する.周囲の粒拘束が存在している状態で不均一な塑性変形を与えた後に除荷すると,マクロには圧縮応力を与えていなくても,特定の粒には圧縮応力が与えられる.これに対応して,完全転位の運動や積層欠陥の収縮が誘起される.このため,Fig. 9(c)で観察された積層欠陥は除荷時に収縮または消失している(Fig. 9(d)).このような除荷時における積層欠陥の消失または収縮は複数個所観察されている.つまり,塑性変形後の試料内部では,負荷状態と除荷状態で存在する金属組織が異なっていることが示唆されている.除荷時に消失する組織の重要性は特に金属疲労現象を取り扱うときに重要である.特に,積層欠陥16,28,変形双晶29ならびにHCPマルテンサイト22,24,30,31を構成する部分転位は負荷-除荷(または逆方向の応力負荷)によって可逆的に運動することが知られる.この可逆的な部分転位運動は格子欠陥蓄積やバウジンガー効果に強く影響するため28,疲労寿命にとって重要因子の1つとして認識されている.つまり,疲労現象と転位運動ならびに金属組織形成を正しく結びつけるためには負荷だけでなく,除荷中の転位運動のその場観察も不可欠であると考える.

Fig. 9

(a) ECC image showing deformation heterogeneity within the grain, and (b) its magnification taken at 240 MPa. Further magnified ECC images around the HCP martensite plate tip (c) before and (d) after unloading. The insets in (c) and (d) indicate magnifications of the highlighted regions.

4. 結論

本論文では,低積層欠陥エネルギーを有するFCC合金を対象にその場ECCI法を行った.本観察結果の詳細解析を通して,ECCI法の以下の3つの利点・重要点を示した.

(1) ECCI法では内部組織と表面起伏が同時に高分解能で観察できるため,表面起伏(または表面に沿った組織)と内部組織の幾何学的関係から,観察中に起こった現象が転位すべりであるか部分転位運動による積層欠陥形成であるかを判別することができる.

(2) ECCI法で面欠陥を観察することで{111}面の試料表面に対する傾きが特定できるため,3種の{111}面トレースから結晶方位の決定をすることができる.この解析の際,面欠陥の傾きが特定できる都合の良い方位を持つ結晶粒で,かつECCI法が観察できる低次の結晶粒方位を満足していることが重要である.

(3) ECCI法の試料はバルクであるので,表面であっても粒拘束が存在する.このため,除荷時に圧縮に対応する完全転位運動または積層欠陥の収縮を観察できる可能性がある.

本研究は,JSPS科学研究費補助金(JP16H06365,JP20H02457)からの支援を頂き行われた.

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