Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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ISSN-L : 0021-4876
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Relationship between Calculated Segregation, Texture and Room Temperature Formability of Binary Magnesium Alloys
Hideyuki TachiKazutaka SuzukiXinsheng HuangYuhki TsukadaToshiyuki KoyamaYasumasa Chino
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2021 Volume 85 Issue 10 Pages 382-390

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Abstract

Amounts of segregation at grain boundaries of Mg-0.05at%X (X = Al, Bi, Ca, Ce, Gd, Nd, Y, Zn, Zr) alloys were calculated by using the Hillert’s grain boundary phase model. As a result, relatively high grain boundary segregation was obtained in each case of Ca, Ce, Nd, Y and Zn. In addition, the basal plane texture and Erichsen value of the alloys were experimentally investigated, which exhibits a similar tendency to the previous experiments, i.e., the Erichsen value decreases with decreasing basal texture intensity. High-angle annular dark-field STEM (HAADF-STEM) analysis of the Mg-0.4Nd (mass%) and Mg-0.2Y (mass%) sheets elucidated that the uniform grain boundary segregation was detected in Mg-0.4Nd, while the localized and scattered segregation region was observed at grain boundary in Mg-0.2Y. These segregation behaviors were explained by the concept of critical element concentration proposed by Griffiths. An un-recrystallized grain microstructure with high lattice distortion was observed in Mg-0.4Nd in Scanning Electron Microscope - Electron Back-Scatter Diffraction (SEM-EBSD) analysis, which leads to a possibility that the grain boundary segregation of Nd contributes to the suppression of recrystallization during rolling. As the strong correlation was observed between the calculated grain boundary segregation and the experimental basal texture intensity, the amount of grain boundary segregation is a useful parameter for describing basal texture intensity of binary Mg alloys.

1. 緒言

マグネシウム(Mg)合金は実用金属材料の中で最も軽量であり,資源も豊富に存在することから,次世代の輸送機器への構造材料としての適用が期待されている1.しかし,Mg合金はその結晶構造に起因して,室温では非底面すべり系が活動しないことや,圧延と同時に強い底面集合組織が形成されることに起因して,アルミニウム合金板や冷延鋼板と比べて室温成形性が低いことが問題となっている.

Mg合金の室温成形性(加工性)を改善する手段として,希土類元素を微量添加する手法が注目されている.例えば,純MgにCeやLaを微量添加すると冷間加工性(冷間圧延性)が改善すること2,3は古くから知られている.また,Ceを微量添加することにより室温近傍における延性が改善することが報告されており,非底面すべりの活動や局所変形帯の形成に起因することが指摘されている4,5.さらに,圧延加工中の局所変形帯の形成を抑制するとアルミニウム合金並の優れた室温張出し成形性が発現することも報告されている6

近年,希土類元素添加によりMg合金の室温成形性が改善する原因の1つとして,添加元素が粒界に偏析することが指摘されている.Stanfordら7,8は,Mg-Gd合金においてGdが転位と粒界に偏析する傾向があり,粒界に偏析したGdが再結晶を阻害することにより,加工中の集合組織の形成を抑制する可能性を指摘している.また,Hadornら9およびRobsonら10,11はYやLa等の他の希土類元素もMgの粒界に偏析することを報告し,粒界に偏析した元素がSolute drag効果により粒界移動に対する抵抗を高め,その結果,加工時の再結晶が抑制されるモデルを提示している.他方で,Tsuruら12は溶質元素の粒界偏析度とへき開破壊に与える影響を第一原理計算により解析し,添加する元素種によって合金の破壊靭性が変化することを示している.

さらに近年,希土類元素以外の元素を微量添加した合金に関しても粒界に元素が偏析することが報告されている.例えば,Zengら13は,Mg-Ca系合金においてもCaが粒界に偏析し,それが圧延加工中の集合組織形成に影響を与えることを報告している.また,野口ら14はMg-Ca2元系合金において,微量のCaを添加することにより室温成形性が著しく向上することを示している.同様の結果はMg-Mn2元系合金でも指摘されている15.これらの結果は,希土類元素以外の元素が粒界に偏析した場合も,底面集合組織の形成が弱化され,室温成形性が改善することを示唆している.

上述の通り,高い室温成形性が発現するMg合金に添加される元素はしばしば粒界に偏析する傾向があり,それが集合組織の形成を抑制することが指摘されている.一方,粒界偏析と室温成形性の関係を詳細に調査した研究はほとんどないのが現状である.本研究では,粒界への偏析度を計算する手法である粒界相モデル16,17に着目する.本モデルは,粒界を1つの相であるとみなし自由エネルギーを設定して,粒界偏析を計算する手法である.ここでは,2元系Mg合金を対象として,本モデルを用いて,計算状態図の熱力学パラメータを利用してMg中の各種元素の粒界偏析量を計算するとともに,実験により各種2元系Mg合金を作製し,その集合組織や室温成形性を測定して,粒界偏析量との相関を調査したので報告する.

2. 計算方法および実験方法

2.1 粒界相モデルを用いた粒界偏析の計算方法

粒界相モデルは,粒界を薄い相(粒界相)とみなし自由エネルギーを設定して計算を行う手法である.粒界での原子構造は粒内と比べてよりランダムな構造を持つと考えられる.したがって,粒界近傍をアモルファス状の第2相であるとみなし,この粒界相の自由エネルギーには液相の自由エネルギーが適用できると仮定する.いま,粒界相の体積分率f0は一定であるとすると,エネルギー最小化の条件から,Hillertの平行接線則18:式(1)が導かれる.また式(2)は溶質の保存則である.   

\begin{equation} \frac{\partial G^{\text{GBP}}}{\partial x_{\text{GBP}}} = \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial x_{\alpha}} \end{equation} (1)
  
\begin{equation} x_{0} = (1 - f_{0})x_{\alpha} + f_{0}x_{\text{GBP}} \end{equation} (2)
ここでGGBPGαはそれぞれ粒界相と母相の自由エネルギーであり,xGBPxαはそれぞれ粒界相と母相の濃度(モル分率),x0は平均組成である.いま,粒界相の体積分率f0が無限小であると近似すると,式(2)はx0 = xαとなる.また,関数$F(x_{\text{GBP}})$を式(3)のように定義すると,粒界相の相濃度xGBP$F(x_{\text{GBP}}) = 0$を解くことで求められる.   
\begin{equation} F(x_{\text{GBP}}) = \frac{\partial G^{\text{GBP}}}{\partial x_{\text{GBP}}} - \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial x_{\alpha}} = 0 \end{equation} (3)

ここでは,粒界相濃度xGBPについて0-100 at%まで105分割で全範囲探索を行い,数値的に式(3)の解を200-500℃の範囲において求め,偏析量の温度依存性を調査した.Table 1は本研究で用いた,α相(hcp相)と液相(粒界相)の相互作用パラメータの一覧である19-27.純物質のギブス自由エネルギーについてはSGTE data for pure elements28から入手した.計算に際しては,汎用的な添加元素(Al, Zn)に加え,2元系Mg合金で室温成形性や加工性の改善が報告されている添加元素も考慮し,9元素(Al, Bi, Ca, Ce, Gd, Nd, Y, Zn, Zr)を選定した2-6,12,14,29.α相の組成は実験における目標組成と同じとした(Mg-0.05at%X).本研究で取り扱う組成域,温度域では,添加元素濃度が希薄であり,金属間化合物の生成は無視し得るものとして,hcp母相と粒界相のみを考慮し計算を行った.

Table 1 Interaction parameters used for the grain boundary phase model19-27).

2.2 実験方法

本研究では,前記の通りMg-0.05 at% Xを目標組成として,9種類の2元系合金(Mg-0.1 Al, Mg-0.5 Bi, Mg-0.1 Ca, Mg-0.2 Ce, Mg-0.1 Gd, Mg-0.4 Nd, Mg-0.2 Y, Mg-0.1 Zn, Mg-0.7 Zr, mass%)を高周波誘導溶解炉により溶製し,供試材とした.板材の作製に際しては,供試材を押出比6,押出温度400℃の押出加工により厚み5 mm,幅50 mmの板材とし,420℃で48 hの均質化処理を施した試料を出発材とした.始めに,予備圧延として,長さ70 mm(断面 50 × 5 mm2)に切断した供試材をマッフル炉に投入し,試料温度が500℃に加熱された状態で圧延(パス圧下率21%)する操作を2回行い,厚さ3.1 mmとした.続いて,Mg-Ce6,Mg-Ca14,Mg-Mn15合金において集合組織の形成を抑制するのに有効であった,高温での焼鈍と温間での圧延を繰り返す手法を実施した.本法は,特に再結晶温度が相対的に高い希土類添加型合金(Mg-Ce合金)4において,圧延加工中の歪みを除去するのに有効な圧延方法である6.本実験では,すべての合金で圧延加工履歴を統一するために本手法を採用した.圧延加工に当たっては,試料を500℃で2 min焼鈍(前焼鈍)後,試料温度200℃で圧延(パス圧下率24%)する操作(前焼鈍と圧延パスの組み合わせ)を4回行い,最終厚み1 mmの板材を作製した.圧延後,200℃(2 h)の最終焼鈍を行った.

圧延材の室温張出し成形性を評価するために,室温エリクセン試験を実施した.試験条件は,プランク直径を50 mm,パンチ直径を20 mm,ストローク速度を5 mm/min,しわ押さえ力を10 kNにそれぞれ設定した.また,潤滑剤としてグラファイトグリスを塗布した.

圧延材の集合組織を観察するために,圧延板(RD-TD面)の中央部の(0002)面集合組織をShultzの反射法によって測定した.また,一部の合金については,粒界に偏析した溶質元素を観察するためにHigh-angle annular dark-field STEM(HAADF-STEM)による透過型電子顕微鏡観察を行った.さらに,一部の合金については,圧延材の再結晶挙動を調査するためにScanning Electron Microscope- Electron Back-Scatter Diffraction(SEM-EBSD)により断面組織を評価した.

3. 計算結果および実験結果

3.1 計算結果

粒界相モデルにより計算したMg-X(X = Al, Bi, Ca, Ce, Gd, Nd, Y, Zn, Zr)2元系合金の偏析量をFig. 1に示す.図の縦軸は,粒界に偏析する添加元素の濃度であり,横軸は温度である.ここで母相側の溶質濃度xαは添加した量と同等とした.これは,固溶限が小さい合金では,溶質元素が過飽和に固溶している状態での偏析を計算していることを示す.なお,合金によって偏析量に大きな差があったため,Fig. 1(a)には偏析量の大きい合金を,Fig. 1(b)には偏析量の小さい合金をそれぞれ示した.また,比較の基準としてMg-Zn合金の偏析量を両方のグラフに示した.

Fig. 1

Calculation results of atomic fraction of (a) Ca, Ce, Nd, Y and Zn and (b) Al, Bi, Gd, Zr and Zn in grain boundary of Mg as a function of temperature.

すべての温度領域において,最も偏析量が大きいのはCaであり,2番目と3番目はそれぞれCeとNdであった.また,Zn, Yにおいても相対的に高い偏析が確認された.一方,Al, Gd, Bi, Zrでは相対的に低い偏析が確認された.なお,すべての元素において,高温側に比べて低温側で高い偏析量を示した.しかし,温度変化に伴う偏析量の変化には添加元素によって差があった.高温(500℃)においては,Ca, Ce, Ndと他の元素の偏析量には大きな差があった.一方で,低温(200℃)においてはY, Zn, Zrも比較的高い偏析量を示した.特に,ZnとZrは300℃より低温で偏析量の増加が顕著であった.

Robson10は0.22 at%の希土類元素(Y, La, Ce, Nd, Gd, Dy, Er)をMgに添加した際の400℃における偏析挙動を,Langmuir and McLeanにより提案された粒界偏析モデル(LM equation)により計算し,La, Ce, Ndにおいて,特に高い粒界偏析が得られることを報告している.また,Griffiths30は希土類元素を微量に添加した2元系合金の底面集合組織の強度が,希土類元素の濃度に連動した挙動を示すことを報告しており,底面集合組織が弱化する臨界の添加濃度として,Ceが0.03 at%(0.17 mass%),Ndが0.04 at%(0.24 mass%),Yが0.1 at%(0.37 mass%),およびGdが0.1 at%(0.64 mass%)であることを報告している.今回の計算結果は,Robson10による計算結果と定性的に同様の傾向が得られたということができる.また,Griffiths30が報告した集合組織を弱化させるための臨界濃度と照合すると,今回の実験条件(0.05 at%)では,Ce, Ndのみが臨界濃度に到達している.仮に,Griffithsの底面集合組織が弱化する臨界濃度が,粒界に特性元素が偏析する臨界濃度に対応するのであれば,今回の報告と傾向が一致したと言うことができる.

なお,今回計算を行った温度範囲の中で最も大きい偏析量が得られたのは200℃でCaが偏析した場合(xGBP = 9.45 at%)であった.一方,最終焼鈍(200℃・2 h)におけるMg中のCaの不純物拡散距離は約10 nmであり,拡散による粒界偏析は考えにくい.そこで,次節以降においては,実験結果から得られる値(底面集合組織強度,エリクセン値)と計算結果(粒界偏析量)を比較する際には,十分な拡散が期待される温度(圧延前の焼鈍温度:500℃)における計算結果と実験値を比較することとした.

3.2 実験結果

3.2.1 圧延材の集合組織と室温成形性の関係

本研究で用いた9種類のMg合金の底面集合組織とエリクセン試験の結果をFig. 2に示す.供試材中で最も高い室温成形性を示すのはMg-0.2Yであり,エリクセン値は7.9 mmであった.一方,最も弱い集合組織強度を示したのはMg-0.1Caであり,その強度は4.7であった.底面集合組織の強度および分布に注目すると,シングルピーク型の底面集合組織を形成するMg-0.1AlとMg-0.5Biは,いずれも低いエリクセン値(4 mm以下)を示した.それ以外の試料の底面集合組織は,RD方向に極が傾斜するダブルピーク型の集合組織を示し,その中でも,相対的に低い底面集合組織強度(5.4以下)を示す合金(Mg-0.1Ca, Mg-0.2Ce, Mg-0.1Gd, Mg-0.4Nd, Mg-0.2Y)に関しては,相対的に高いエリクセン値(5 mm以上)を示した.一方,Mg-0.1Znはダブルピーク型の集合組織を示すものの,底面集合組織強度は高く,低いエリクセン値を示した.

Fig. 2

Results of Erichsen test and (0002) plane pole figures of (a) Mg-0.1Al, (b) Mg-0.5Bi, (c) Mg-0.1Ca, (d) Mg-0.2Ce, (e) Mg-0.1Gd, (f) Mg-0.4Nd, (g) Mg-0.2Y, (h) Mg-0.1Zn and (i) Mg-0.7Zr.

Somekawaら31は,Mg-Al, Mg-Ca, Mg-Y, Mg-Zn合金を含む2元系合金を対象として室温成形性を評価し,本実験結果と同様に,Mg-CaとMg-Y合金において相対的に低い底面集合組織強度が得られるが,必ずしも優れた室温張り出し成形性が得られていないことを報告している.本実験結果とSomekawaら31の実験結果において室温成形性の傾向に差が現れた理由としては,成形速度に100倍以上の差が存在し,変形メカニズムに相違があったことが挙げられる.

Fig. 3は今回の実験で得られた底面集合組織強度とエリクセン値の関係をプロットした図に,文献値を重ねて示した結果である32-57.今回の実験で得られた底面集合組織強度とエリクセン値の関係(すなわち,集合組織強度の弱化に伴うエリクセン値の増加の割合)は,文献値と同じ傾向を示した.なお3.3節にて,計算で得られた粒界偏析量と実験値(集合組織強度およびエリクセン値)の関係についてさらに考察を行う.

Fig. 3

Relationships between index Erichsen value and basal texture intensity reported in previous researches and this study, where AM alloys32), AZ alloys33-50) and Mg-Zn-X alloys51-57) means Mg-Al-Mn alloys, Mg-Al-Zn alloys and Mg-Zn-(RE or Ca) alloys, respectively.

3.2.2 HAADF-STEMによる粒界偏析挙動調査

計算結果より比較的高濃度の粒界偏析が確認されたMg-0.4Ndと,中程度の偏析が確認されたMg-0.2Yを対象として,その粒界偏析挙動をHAADF-STEMにより観察した結果をFig. 4Fig. 5にそれぞれ示す.Fig. 4(a)はMg-0.4NdのHAADF-STEMでの観察結果で,粒界近傍に明度の高い領域が線状に観察され,粒界に原子番号の大きい元素が連続的に偏析していることが確認された.Fig. 4(b)はHAADF-STEM像にNdのEnergy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDS)による分析結果を重ねたものである.矢印で示す位置に,線状に連続的なNdの粒界偏析が確認された.一方,Mg-0.2YのHAADF-STEMによる観察結果(Fig. 5(a))およびEDSによるYの分析結果(Fig. 5(b))に注目すると,Mg-0.4Ndで検出された粒界に沿った連続的な線状の偏析は確認されず,粒界付近に球状の局所的なYの偏析が断続的に確認された.

Fig. 4

(a) HAADF-STEM image of Mg-0.4Nd, and (b) relevant Nd elemental maps obtained by EDS analysis.

Fig. 5

(a) HAADF-STEM image of Mg-0.2Y, and (b) relevant Y elemental maps obtained by EDS analysis.

以上のようにMg-0.4NdとMg-0.2Yでは粒界における添加元素濃化の形態に差が観察された.Robsonら10は400℃の熱間圧延と400℃の焼鈍に供したMg-0.024 at%Nd(Mg-0.01 mass%Nd)合金およびMg-0.15 at%Y(Mg-0.5 mass%Y)合金の粒界偏析をHAADF-STEMにより測定し,今回の結果とは逆の傾向を指摘している.具体的には,Mg-Nd合金では粒界に酸化物系の析出物が断続して分布するが,Mg-Yには連続的な線状のYによる粒界偏析が分布することを指摘している.今回の測定とRobsonら10の測定で傾向が逆となった主な原因としては,NdとYの濃度の相違が挙げられる.すなわち,添加元素濃度が比較的大きい場合には,NdおよびYの双方において,粒界に連続的な線状の粒界偏析が生成するが,添加元素濃度が比較的小さい場合には,断続的な析出物が生成すると推測することができる.上記の結果は,希土類元素等の特定の元素が粒界に連続的に偏析せず,断続的に偏析したとしても,Mg合金の再結晶挙動が抑制され,集合組織形成が弱化することを示唆している.

なお,粒界偏析量の計算結果からは,YよりもNdがより多く粒界偏析することが示唆され,Fig. 4およびFig. 5の結果を見る限り,計算結果に対応した結果が得られていると思われる.前述の通り,Griffiths30は底面集合組織が弱化するための希土類元素の臨界添加濃度として,Ndは0.04 at%(0.24 mass%),Yは0.1 at%(0.37 mass%)を提唱しており,本実験で用いたMg-0.2Yに関しては臨界濃度には到達していないことがわかる.なお,Griffithsの実験結果では,0.03 at%(0.1 mass%)以上のYを添加すると底面集合組織強度の弱化は始まっており,今回の実験系(Mg-0.2Y)は,集合組織強度が弱化する遷移領域であったと考えることができる.

3.2.3 SEM-EBSDによる圧延材の組織評価

次に,今回の計算結果からは高い粒界偏析量が得られず,Somekawaら29の実験からも粒界偏析が確認されなかったMg-Bi合金(Mg-0.5Bi)と,本研究で高い粒界偏析が確認されたMg-Nd合金(Mg-0.4Nd)を対象として,圧延後の組織をSEM-EBSDにより測定した結果をFig. 6Fig. 7にそれぞれ示す.

Fig. 6

(a) Inverse pole figure map, (b) KAM map and (c) (0002) plane pole figure of Mg-0.5Bi, obtained by EBSD analysis.

Fig. 7

(a) Inverse pole figure map, (b) KAM map and (c) (0002) plane pole figure of Mg-0.4Nd, obtained by EBSD analysis.

Mg-0.5Biの結果に注目すると,局所変形帯の内部に微細な粒が分布していることがわかる.また,Kernel Average Misorientation(KAM)値マップに注目すると,微細な結晶粒が分布する部分のKAM値が相対的に低いことが確認できる.これは,Mg-0.5Biにおいては圧延加工中もしくは最終焼鈍中に動的もしくは静的に再結晶粒が生じたことを示している.一方,Mg-0.4Ndの結果に注目すると,Mg-0.5Bi合金で見られたような微細粒は確認できず,変形組織のみで,再結晶組織は確認できない.また,KAM値マップに注目すると,Mg-0.5Biと比較して全体的に高い値を示し,歪みの蓄積が顕著であることが確認できる.なお,Mg-Nd合金の底面集合組織強度はMg-Bi合金にくらべ弱く,Fig. 2と同様の傾向を示した.

著者らは先行研究において,Mg-0.2Ceに関して,Ceの添加に伴い再結晶温度が100℃程度上がることを報告しており4,その原因として,Ceの添加に伴い柱面<a>転位等の非底面すべりの活動が活発化することを指摘している4,5.またStanfordら8は,Mg中に希土類元素を添加すると,Mgよりも原子サイズが大きい希土類元素が粒界に偏析し,偏析した元素がドラッグ効果により粒界易動度を減少させ,再結晶成長を阻害することを指摘している.これらの先行研究から,Mg-0.4Ndが加工組織を呈し相対的に低い底面集合組織強度を示した原因として,Ndが粒界に偏析することにより,特に粒界近傍で非底面すべりの活動が活発化し,再結晶挙動が抑制されたことを示唆している.一方,Mg-0.5Biに関しては,Mg-Al系合金において指摘されているメカニズムと同様に58,動的再結晶により再結晶粒が生成し,また,底面転位を主体とするすべり変形に伴い結晶が回転した結果,強い底面集合組織が発達したと推察される.

3.3 計算結果(粒界偏析量)と実験結果(集合組織強度,エリクセン値)の比較

最後に,計算で得られた粒界偏析量と実験値(底面集合組織強度およびエリクセン値)の関係について比較を行う.粒界相モデルにより計算された粒界偏析量と,実験より測定された底面集合組織最大強度の逆数との相関をプロットした図をFig. 8に示す.粒界相モデルの計算に用いた温度Tは前述の通り500℃(圧延前の焼鈍温度)である.Fig. 8より,計算された偏析量が0.5 at%前後の合金では集合組織強度と偏析量の間の関係はほとんどないことがわかる.一方で,計算において高い粒界偏析量を示したNd,Ca,Ceを添加した合金に関しては,偏析量の増加に伴い,集合組織強度が低下する(底面集合組織最大強度の逆数が増加する)傾向が確認された.このように,計算された粒界偏析量と底面集合組織強度の逆数には明確に正の相関があり,圧延加工時の粒界偏析量が(少なくとも2元系Mg合金の)集合組織を議論するための新しいパラメータになり得ることが示唆された.なお,本計算では添加する元素はすべて固溶する仮定を設けており,析出相の存在が無視できない合金系に関しては,析出相を考慮した解析が別途必要であり,今後の研究課題である.また,今回の調査ではNd,Ca,Ceにおいて高い粒界偏析量が計算されたが,その本質的な理由は明らかになっていない.MgへのNd,Ca,Ceの添加が粒界偏析量に及ぼす特異性を明らかにすることも今後の研究課題である.

Fig. 8

Relationship between inverse basal texture intensity and calculated atomic fraction of various elements in grain boundary of Mg.

最後に,粒界偏析量の計算結果とエリクセン値の結果を比較した結果をFig. 9に示す.粒界偏析量と底面集合組織強度については明確な相関が確認されたものの,粒界偏析量とエリクセン値には明確な相関が確認できない.Fig. 3に示す通り,底面集合組織強度とエリクセン値には明確な相関が確認できるものの,計算により得られた粒界偏析量と底面集合組織およびエリクセン値を個別に比較すると異なる傾向となった.例えば,Fig. 8において,粒界偏析量(計算結果)と集合組織強度(実験値)に高い相関が認められたMg-0.2Ce,Mg-0.1Ca,Mg-0.4Ndの内,Mg-0.2Ceに関しては高いエリクセン値が得られたが,Mg-0.1Ca,Mg-0.4Ndに関しては,必ずしも高い室温エリクセン値は得られていない.

Fig. 9

Relationship between index Erichsen value and calculated atomic fraction of various elements in grain boundary of Mg.

この理由としては,エリクセン値に関しては,結晶粒径の大小44や,局所変形帯の形成6等,底面集合組織強度とは異なる組織因子が,エリクセン値に影響を及ぼし得る点を挙げることができる.例えば,今回のMg-0.1Caの結果(エリクセン値5.2 mm)は,前報14の結果(エリクセン値7.1 mm)よりも低い値を示した.前報と比較して高いエリクセン値が得られなかった一因としては,圧延時の最終焼鈍温度が前報よりも低く設定されたことが挙げられる.今回の圧延条件にはMg-0.2Ceで高いエリクセン値が得られた条件(最終焼鈍温度150℃)6に近い条件を設定している.そのため,Mg-0.1CaおよびMg-0.4Ndに関しては,最終焼鈍において十分な再結晶が進展せず破壊の起点となる局所変形帯が残存し,高い成形性が得られなかったと考えることができる.

4. 結言

Hillertの粒界相モデルを用いて,Mg-0.05at%X(X = Al, Bi, Ca, Ce, Gd, Nd, Y, Zn, Zr)2元系合金の粒界偏析量を計算するとともに,上記合金の底面集合組織および室温成形性を調査し,計算された粒界偏析量との関係について調査を行った.得られた結果を以下に示す.

(1) 9種類のMg合金の粒界偏析量を計算した結果,Ca, Ce, Nd, Y, Znに関しては相対的に高い偏析量が得られた.一方,Al, Gd, Bi, Zrでは低い値が確認された.上記の計算結果は,LM equationを用いた粒界偏析モデルによる粒界偏析量とほぼ同じ傾向を示した.

(2) 上記合金の室温エリクセン値と底面集合組織を測定した結果,Mg-0.2Y(mass%)において最も高いエリクセン値が得られ,Mg-0.1Ca(mass%)において最も低い底面集合組織強度が得られた.上記合金の室温エリクセン値は底面集合組織強度の低下に伴い増加する傾向があり,これまでの文献値と同じ傾向を示した.

(3) Mg-0.4Nd(mass%)とMg-0.2Y(mass%)の粒界偏析をHAADF-STEMで測定した結果,Mg-0.4Ndには線状の連続的なNdの粒界偏析が,またMg-0.2Yには局所的な球状のYの偏析が確認された.上記の偏析挙動は,Griffithsが提唱する底面集合組織が弱化するための臨界添加濃度と関係している可能性がある.

(4) Mg-0.4Nd(mass%)とMg-0.5Bi(mass%)の断面組織をSEM-EBSDにより測定した結果,Mg-0.4Ndには加工組織が残存し,相対的に低い底面集合組織強度が確認された.その理由は,粒界に偏析したNdが再結晶粒の生成を抑制したことにあると推察された.

(5) 計算により得られた粒界偏析量と底面集合組織強度を比較したところ,粒界偏析量と底面集合組織強度の間に,高い相関が確認された.これより,添加元素の粒界偏析量が,2元系Mg合金の集合組織強度を記述するための新しいパラメータになり得ることが示唆された.

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