日本金属学会誌
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論文
Tiスクリーンを用いてプラズマ窒化した低炭素鋼の窒化挙動と耐食性および耐摩耗性に及ぼすスクリーン開孔の影響
今村 晃大西本 明生
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2021 年 85 巻 3 号 p. 95-102

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Abstract

In order to investigate the effect of the screen hole state of the active screen plasma nitriding (ASPN) process using Ti screen, low carbon steel S15C was treated by ASPN treatment and DC plasma nitriding treatment (S-DCPN) using the Ti screen with the hole diameter of ϕ5 mm, 10 mm, and 20 mm and the open area ratio of 0%, 15%, 35%, and 55%. Plasma nitriding was performed at 873 K for 180 min at a gas pressure of 300 Pa under an atmosphere of 75% N2 + 25% H2. After the nitriding treatment, X-ray diffraction (XRD), surface microstructure observation, cross-section microstructure observation, wear test, Vickers hardness test, glow discharge optical emission spectrometry (GD-OES), and corrosion test were performed. As a result, the wear resistance of the ASPN-treated samples was improved under the condition that the deposit particles were small and the deposit layer was thick. In the cross-sectional microstructure of the S-DCPN-treated samples, a compound layer composed of iron nitrides and a diffusion layer in which γ’-Fe4N was precipitated by nitrogen diffusion were confirmed. The surface compound layer of iron nitrides was not formed when a screen with a hole size of 20 mm and open area ratio of 55% was used. The results of SEM-EDX also confirmed the diffusion of titanium by S-DCPN treatment using a Ti screen.

1. 緒言

鉄鋼材料の性質を向上させるために施される表面改質処理には,表面に窒化チタン(TiN),窒化クロム(CrN)などの硬質皮膜を被覆させる気相蒸着法や処理材に窒素を拡散させる窒化処理法などがある1-4.硬質皮膜を形成する表面改質では,皮膜の密着性が基材と皮膜の物性の整合性などに大きく影響されるため,基材の密着性を向上させるために窒化処理によりあらかじめ基材を硬化させた後に硬質皮膜を形成させる方法がある5-8

窒化処理の一種であるアクティブスクリーンプラズマ窒化(ASPN)処理は,処理材を陰極として電圧を印加させる従来の直流プラズマ窒化(DCPN)処理とは異なり,処理材を絶縁させ,周囲に設置した金属製スクリーンを陰極としてスクリーン表面でグロー放電を起こしてプラズマを発生させるためエッジ効果やアーキングといった処理材の欠陥に繋がる現象が生じない.ASPN処理では金属製スクリーンからスパッタリングされた構成物質とプラズマ中の窒素が結合し生じる窒化物が処理材表面に堆積し,分解されることで窒素が拡散される9-17.ASPN処理はDCPN処理と比較して窒化層形成速度が遅く,産業上の使用にはまだ多くの課題が残されている.そこで著者らのグループでは近年処理材とスクリーン両方に電圧を印加させるプラズマ窒化(S-DCPN)処理について報告した18.S-DCPN処理ではスクリーンがヒーターの役割を果たし,DCPN処理で発生するエッジ効果などを抑制しながら試料表面でもプラズマを発生させることによって窒化層の形成を増加させることが可能になる.

また,著者らのグループではASPN処理の窒素供給源となるスクリーンの材質にTiを用いて処理を行うことで,チタン窒化物を堆積させ,鋼材表面にTiN皮膜および窒素拡散層の同時形成が可能であることを報告している19-21.他の研究者らによるTiスクリーンを用いたプラズマ窒化に関する報告もいくつかされている22-24

一方,ASPN処理ではスクリーンを開孔させることで炉内のガス流を促進,プラズマ発生面積が増加し処理効率が向上するとされており25,26,Ti製スクリーンを用いたASPN処理におけるスクリーン開孔状態の影響は調査されていない.そこで本研究では開孔率および孔径を変化させた純Ti製スクリーンを用いて低炭素鋼S15CにASPN処理およびS-DCPN処理を施し,形成される表面堆積物層および窒化層の調査を行った.

2. 実験方法

2.1 実験試料

高温での窒化処理による硬さ,耐食性および耐摩耗性の向上を確認するために試料として機械的性質が低く,含有する合金元素量が少ない低炭素鋼S15Cを用いた.化学組成をTable 1に示す.ϕ25 mm × 5 mmの円板形状に加工し,上面を#220 - #2000で湿式研磨を行い,最後に1 µmのアルミナ粉末を用いて鏡面に仕上げし,アセトンを用いて超音波洗浄後,プラズマ窒化に供した.

Table 1 Chemical composition of S15C (mass%).

2.2 プラズマ窒化処理

プラズマ窒化には日本電子工業(株)製の直流プラズマ窒化装置(JIN-1S)を用いた.プラズマ窒化装置内のスクリーンには天板としてϕ100 mm × 1 mmの純Ti製円板を用い,ASPN処理は孔径をϕ5 mm, 10 mmおよび20 mm,開孔率を0%, 15%, 35%および55%と変化させ,S-DCPN処理では孔径-開孔率を0 mm - 0%, 20 mm - 15%, 5 mm - 55%および20 mm - 55%と変化させた.天板を支える土台としてϕ20 mm × 60 mmの純Ti製棒材を用いた.ASPN処理では試料の下にAl2O3るつぼを設置することで絶縁し,S-DCPN処理では同じ高さの純Ti製棒材を試料の下に設置した.試料およびスクリーンの設置の模式図をFig. 1に示す.プラズマ窒化は,炉内を10 Pa以下まで排気した後に75% N2 + 25% H2混合ガス雰囲気で圧力300 Pa一定になるように導入し,処理温度873 Kおよび処理時間180 minで行った.

Fig. 1

Schematic illustration of plasma nitriding setups: ASPN and S-DCPN.

2.3 評価方法

プラズマ窒化処理を施した試料について,試料表面改質層を同定する目的で(株)リカグ製の回折X線測定試験装置(型式:RINT-2200)を用いてX線回折を行った.X線源としてCu-Kα線(波長λ = 0.15405 nm)を用い,管電圧40 kV,管電流300 mAで測定した.また,処理後の断面組織の分析を目的に(株)キーエンス製の光学顕微鏡(型式:VHX-200)および日本電子(株)製の走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:JSM-6060LV)を用いて断面組織観察を行った.試料堆積物粒子の分析を目的に日本電子(株)製の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(型式:JSM-6330FII)を用いて表面組織観察を行った.さらに深さ方向の元素分析を目的に(株)堀場製作所製のマーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(型式:GD-Profiler2)を用いてグロー放電発光分光分析(GD-OES)を行った.ASPN処理で生じる堆積物層の密着性の調査を目的にロックウェル圧痕試験をCスケール(1471 N)で行った.窒化処理後の試料の硬さを調査する目的に,(株)マツザワ製のマイクロビッカース硬さ試験機(型式:PMT-X7A)を用いて硬さ測定を行った.処理後の耐食性評価を目的にTable 2に示す条件で北斗電工(株)製のポテンショスタット(型式:HA-501G)とグラフテック(株)製データロガー(型式:GL200A-UM801)を用いて腐食試験を行った.また処理後の耐摩耗性向上の調査を目的にトライボメーター(CSM社製トライボメーター)を用いて,Table 3に示す条件で摩擦摩耗試験を行った.

Table 2 Condition of corrosion test.
Table 3 Condition of wear test.

3. 実験結果

Fig. 2にASPN処理およびS-DCPN処理を施した試料のX線回折結果を示す.ASPN処理ではFig. 2では開孔状態20 mm - 15%の結果を例示したが,いずれの場合も母材であるα-Feの回折線とスクリーン由来の堆積物層であるTiNの回折線が検出された.また,S-DCPN処理後の試料のX線回折結果より,いずれの場合も処理後の試料ではTiNおよびγ’-Fe4Nの回折線が検出されたが,開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた場合の試料では母材であるα-Feの回折線が検出され,それ以外の試料ではε-Fe2-3Nの回折線が検出された.

Fig. 2

X-ray diffraction pattern of S15C sample treated by ASPN and S-DCPN using Ti screen.

光学顕微鏡による断面組織観察の結果をFig. 3に示す.ASPN処理の結果では窒素の拡散によって生じるγ’-Fe4N析出物は確認されなかった.これは堆積物として試料表面へと堆積したチタン窒化物が分解されずに残存したことで試料内部への窒素拡散が困難であったと考えられる18.S-DCPN処理の結果ではいずれの条件でもγ’-Fe4N析出物が確認され,開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた場合の試料ではε-Fe2-3Nおよびγ’-Fe4Nで形成される化合物層が確認されなかった.またS-DCPN処理を施した試料のSEM-EDXによる元素分析の結果をFig. 4に示す.Tiのプロファイルをみると開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた場合の試料では他の条件のものよりもTiが強く検出され,それに対応する形でFeのプロファイルが弱く検出されたことから,開孔状態20 mm -55%のTiスクリーンを用いたS-DCPN処理によって堆積物中のTiと基材のFeの相互拡散が生じ,Tiが試料へと拡散されたと考えられる.

Fig. 3

Cross-sectional microstructure of S15C sample treated by ASPN and S-DCPN using Ti screen.

Fig. 4

Elemental analysis of S15C sample treated by S-DCPN using Ti screen.

GD-OESによる深さ方向の元素分析の結果をFig. 5に示す.この際S-DCPN処理では窒素拡散量が多かったためS-DCPN処理におけるNの検出プロファイルでのみ異なったX軸スケールを用いた.Fig. 5に示したASPN処理後試料のGD-OESのTiおよびNの検出プロファイルでは,スクリーン開孔率の増加とともに深さ方向の検出量が増加していた.このことから開孔率増加によって堆積物層厚さが増加したことがわかる.また,同じ開孔率55%の条件で比較すると孔径が20 mmの条件で堆積物層が厚くなっていた.このことからスクリーン開孔の孔径が20 mmの場合に最も堆積物を形成する原料となるスクリーン表面でのスパッタリング量が増加したと考えられる.また,S-DCPN処理の結果で開孔のないスクリーンを用いた試料ではTiの検出量は少なかったが,スクリーン開孔によって検出量が増加し,開孔状態20 mm - 55%スクリーンを用いた試料では最表面に最も多く検出された.Nのプロファイルでは逆にスクリーン開孔のないスクリーンを用いた場合に多く検出され,開孔状態20 mm - 55%スクリーンを用いた試料で最も検出量が少なくなった.

Fig. 5

GD-OES profile of S15C sample treated by ASPN and S-DCPN using Ti screen.

FE-SEMによる表面組織観察の結果をFig. 6に示す.ASPN処理の結果では,試料表面の堆積物粒子の粒径はスクリーンの開孔率が高くなるにつれて大きくなっていた.またFig. 7に示すFE-SEMによるS-DCPN処理後の試料の表面組織観察の結果より,S-DCPN処理では試料表面で生じたスパッタリングによって堆積物が除去されるので,角が取れ丸みを帯びた堆積物粒子が不均一に残存していた18

Fig. 6

Surface microstructure of S15C sample treated by ASPN using Ti screen.

Fig. 7

Surface microstructure of S15C sample treated by S-DCPN using Ti screen.

Fig. 8にロックウェル圧痕試験のASPN処理の結果を示す.スクリーン孔径が大きく,開孔率が低くなるほど堆積物層の剥離量が少なくなっていた.これはFig. 5で示したGD-OESの結果およびFig. 6で示した表面組織観察の結果から,堆積物粒径が小さく堆積物層が厚い条件ほど堆積物層の密着性は高く剥離量が少なくなっており,その影響は堆積物粒径の方が大きいと考えられる.

Fig. 8

Appearance of the region around Rockwell indentation of S15C sample treated by ASPN using Ti screen.

Fig. 9に示した断面硬さ測定の結果を示す.ASPN処理による表面硬さの大きな向上は見られなかったが,S-DCPN処理においては開孔状態20 mm - 55%スクリーンを用いた試料表面では約1300 HV,他の試料では窒化された炭素鋼表面と同等である700-800 HVと,いずれの場合もASPN処理と比較すると大きく表面硬さが向上しており,深さ方向においてもS-DCPN処理では10 µm程度まで硬さが向上していた.

Fig. 9

Cross-sectional hardness of S15C sample treated by ASPN and S-DCPN using Ti screen.

Fig. 10に示した腐食試験の結果より,ASPN処理では未処理材と同様の分極曲線を示し,耐食性の大きな向上はなかった.またS-DCPN処理の結果,いずれの場合も未処理材,ASPN処理を施した試料と比べて耐食性は向上していたが,開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた試料では他の条件のものと比べて耐食性が低くなっていた.

Fig. 10

Polarization curve in the 3.5 mass% NaCl of S15C sample treated by ASPN and S-DCPN using Ti screen.

ASPN処理およびS-DCPN処理後の摩擦・摩耗試験の結果をFig. 11およびFig. 12にそれぞれ示す.ASPN処理の結果では孔径が大きく開孔率が低くなるほど摩耗量が少なくなっており,Fig. 8で示したロックウェル圧痕試験の結果でも同様の条件で堆積物層の剥離が少なくなっていたことから,摩耗が堆積物層の剥離によって進行していると考えられる.また,S-DCPN処理ではASPN処理を施した試料と比較するといずれの場合も耐摩耗性が大きく向上しており,スクリーン開孔状態による摩耗量の差はほとんどなかった.

Fig. 11

Wear track profile of S15C sample treated by ASPN using Ti screen.

Fig. 12

Wear track profile of S15C sample treated by S-DCPN using Ti screen.

4. 考察

4.1 ホローカソード放電と阻止グロー状態

Fig. 5に示したGD-OESの結果では,ASPN処理およびS-DCPN処理のいずれにおいてもスクリーン開孔の孔径が大きくなるにつれて試料表面に到達する堆積物の量が増加することがわかった.これはスクリーン孔径を20 mmに設定した場合にホローカソード放電が発生したことによると考えられる.ホローカソード放電とは陰極間でグロー放電が重なり合うことによって発生する放電形態のことであり,陰極間で電子が往復運動することでイオン化率は大幅に向上するとされている27.ホローカソード放電ではグロー領域の重なり具合が重要となり,本研究ではスクリーン孔径が5 mmの場合にグロー領域が過剰に重なり合うことで放電を弱め合う阻止グロー状態となり,孔径が20 mmの場合に最も放電を強め合うホローカソード放電が発生したと考えられる27

4.2 スクリーン開孔による処理電圧の変化

Fig. 6に示したFE-SEMによる表面組織観察の結果,堆積物粒子の粒径はスクリーンの開孔率が高くなるにつれて大きくなっていた.これはTable 4に示した各開孔状態におけるASPN処理の処理電圧より,高い開孔率で処理電圧が高くなっていたことから,高い開孔率によって炉内試料周辺のガスの流れが促進されたことにより導入ガスの冷却効果によって試料の温度上昇が阻害され,設定温度へと上昇させるためにより高い電圧が印加されたことが原因だと考えられる28.高電圧をスクリーンに印加するとスクリーン表面でのスパッタリング量が増加し,それに伴ってプラズマの密度が増加すると,堆積物粒子を形成する原子やイオンなどの励起種の衝突回数も増加し,結果的に試料表面に堆積する粒子の粒径も大きくなる29

Table 4 Processing voltage during ASPN.

4.3 スクリーン開孔による表面堆積物への影響

Fig. 5に示したGD-OESの結果,Fig. 6およびFig. 7に示したFE-SEMによる表面組織観察の結果から,S-DCPN処理では試料表面の堆積物は除去されるため,ASPN処理後試料でのみTiN堆積物によるコーティングが可能であった.しかし,Fig. 9に示した断面硬さ測定結果およびFig. 10に示した腐食試験結果では堆積物層による性質の向上はみられなかった.これは堆積物層の厚さがいずれの場合でも1 µm以下と薄いことや堆積物粒子間の隙間が存在することが原因であると考えられる.また,Fig. 8に示したロックウェル圧痕試験の結果では,堆積物粒径が小さく堆積物層が厚い条件ほど堆積物層の密着性が高くなっており,Fig. 11に示した摩擦・摩耗試験の結果では同様の条件で耐摩耗性が向上していた.これは粒径が小さい堆積物で構成された堆積物層は堆積物粒子間の隙間が小さくなり,粒子間が強く結合されたことが原因であると考えられる.粒子間の結合が強くなったことで摩擦・摩耗試験中に堆積物層が剥離しにくくなり,剥離した堆積物が起点となって摩耗が進行するアブレシブ摩耗の発生を抑制したと考えられる30

4.4 スクリーン開孔による試料内部への影響

Fig. 4に示したSEM-EDXによる元素分析の結果から,開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いたS-DCPN処理では試料表面にTiが拡散したことがわかった.また,Fig. 7に示したFE-SEMによる表面組織観察の結果からS-DCPN処理では試料表面の堆積物は随時除去されるため,堆積物層が元素の拡散を阻害することなく堆積物堆積量の多い開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた試料ではTiが多く拡散されたと考えられる.さらに,Fig. 2に示したX線回折,Fig. 3に示した断面組織観察およびFig. 5に示したGD-OESの結果より,Tiが多く拡散された20 mm - 55%の条件では窒素の拡散量が少なく鉄窒化物の化合物層を形成しなかった.これは拡散されたTiが優先的に安定したチタン窒化物を形成することで,窒素の拡散および鉄窒化物の形成を阻害したと考えられる31Fig. 9に示した断面硬さ測定の結果,S-DCPN処理では表面硬さが大きく向上しており,チタンが窒素と結合したTiNが析出することによる析出硬化が原因だと考えられる31.またFig. 10に示した腐食試験の結果では,開孔状態20 mm - 55%のスクリーンを用いた試料で他の条件に比べて耐食性が低下していた.これは試料表面に存在する窒素の量が少ないことによると考えられる.窒素の固溶量が多くなると腐食試験中に溶液に窒素が溶け出し,溶液中のH+と反応することでpHの低下を防ぎ腐食の進行を妨げる18

5. 結言

本研究ではTiスクリーンを用いたプラズマ窒化におけるスクリーン開孔状態の影響を調査するために低炭素鋼S15Cに種々の開孔状態のTiスクリーンを用いてASPN処理およびS-DCPN処理を施した結果,以下の結論が得られた.

(1) Tiスクリーンに開孔させることでスクリーン表面のスパッタリング量が増加し,なかでも孔径20 mmの場合はホローカソード放電によって最もスパッタリングが促進された.

(2) ASPN処理では孔径20 mm,開孔率15%のスクリーンを用いた試料では最表面のTiN堆積物層が厚く,構成する粒子の粒径が細かくなることで耐摩耗性が向上し,密着性も向上した.

(3) S-DCPN処理では孔径20 mm,開孔率55%のスクリーンを用いることでスクリーン表面のスパッタリング量が多くなり試料表面でのTiの拡散が生じた.また,拡散されたTiが窒素と結合することで他の条件と比較して化合物層の減少,耐食性の低下および表面硬さの向上が確認された.

以上よりTiスクリーンを用いたプラズマ窒化ではスクリーン開孔状態を変化させることで,スクリーン表面で生じるスパッタリング量を増加させることが可能であり,これを利用することでASPN処理,S-DCPN処理のいずれにおいても各種性質の向上が可能であることが明らかになった.ホローカソード放電が発生するスクリーン孔径はガス圧など他の要因によって左右されるが,異種材料スクリーンを用いたプラズマ窒化を行う際にはスクリーンの開孔状態を考慮する必要がある.

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