日本金属学会誌
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論文
電解銅粉の析出挙動および銅粉の形態に及ぼすハロゲン化物イオンの影響
越智 健太郎関口 誠大上 悟中野 博昭
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2021 年 85 巻 6 号 p. 207-212

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Abstract

To investigate the effect of halide ions on the electrodeposition behavior and morphology of copper powder, the polarization curves were measured and constant current electrolysis of 300 A·m−2 and 500 A·m−2 was conducted in an electrolytic solution of 0.079 mol·dm−3 of Cu2+ and 0.5 mol·dm−3 of free H2SO4 at 293 K and 303 K without stirring. In the deposition of copper powder, Cl had a promoting effect on the deposition of copper powder, while Br and I had a suppressing effect. The current efficiency for Cu deposition increased with the addition of Cl and decreased with Br. The addition of Cl reduced the average particle size of the copper powder and grown dendrite-shaped branches and trunks, resulting in a lower tap density. On the other hand, when Br was added, the average particle size and crystallite size of the copper powder became smaller, and the tap density also became smaller. With increasing Cl concentration in solution, the current efficiency for Cu deposition increased, that is, copper deposition was promoted even in the diffusion rate-determining region of Cu2+ ions, showing that the deposition of copper powder was affected by the charge transfer process for Cu deposition. The change in morphology of Cu powder with halide ions is attributed to change of the charge transfer process. The deposition of Cu powder seems to proceed under a mixed rate-determining process of the diffusion of Cu2+ ions and charge transfer.

1. 緒言

銅粉は,その優れた電気伝導性と熱伝導性により,粉末冶金およびエレクトロニクス用途で広く使用されている.銅粉の商業的な製造法は,化学還元法,噴霧法,液中滴下法,電解法の4つに分けられる1-4.他の合成プロセスと比較した電解法の長所は,製造コストが低い,低エネルギー消費,および高純度であることである.

電解法で製造される電解銅粉は一般的に“デンドライト”と呼ばれる木の枝のような形状をしている.この形状のため,電解銅粉は“枝”の箇所における電析が互いに干渉し,詰まりにくく,密度が小さい.エレクトロニクス用途ではこの密度の小さい点が重視される.例えば,樹脂と銅粉を混合し,導電性ペーストを作製する場合,電解銅粉は球形の銅粉と比べて密度が小さいため,少ない添加量で樹脂に導電性を付与でき,かつ樹脂の持つ“柔軟性”や“屈曲性”などの特性を強く残すことができる.現在,電子機器の小型化に伴い,銅粉が使用される電子材料の小型化,薄層化が進行している.そのため,エレクトロニクス用途の電解銅粉にも“微粒化”が求められている.電解銅粉の形状を制御する方法については,これまでに多くの研究が報告されてきた5-8

著者らは電解銅粉の粒径と結晶子サイズに相関があることに着目した.粒径とは電解銅粉の平均的な粒子の大きさのことであり,結晶子サイズとは電解銅粉を構成する複数の結晶粒の中で単結晶とみなせる最小単位のことである.結晶子のサイズには電解中の過電圧が大きく影響を及ぼす.銅の還元反応がより抑制され,過電圧が大きくなると,核発生の速度が核成長速度に対して相対的に速くなり,結晶子サイズは小さくなる.銅の電解精製においては,電解液中にハロゲン化物イオンが存在すると,銅の還元反応が抑制され,電析する結晶粒が小さくなることが報告されている9.電解銅粉においても電解液中にハロゲン化物イオンが存在すると,結晶子サイズが小さくなり,銅粉が微粒化する可能性がある.しかし,銅イオンを板状に還元析出する電解精製と,銅を粉状に還元析出する電解銅粉では,電析のメカニズムが大きく異なる.一般的に,銅の電解精製は電極表面での電子授受過程が律速となる電荷移動律速条件下で電解が行われるが,電解銅粉は銅イオンの供給が律速となる拡散律速条件下で電解が行われる.

本報告では,銅粉が電析される拡散律速条件下においても,ハロゲン化物イオンが銅粉の電析挙動に影響を及ぼす効果があるのかを電気化学測定法により調査した.また,実際に銅粉を電析し,銅粉の形態に及ぼすハロゲン化物イオンの影響および粒径の小さな銅粉が電析可能かを調査した.

2. 実験方法

電気化学測定では電解セルとして四つ口フラスコ(0.3 dm3)を使用した.電解液は,三井金属鉱業㈱製硫酸銅,および市販の特級試薬を用い,Cu2+ 0.079 mol·dm−3,遊離H2SO4 0.5 mol·dm−3となるようにこれらの所定量を純水に溶解して作製した.ハロゲン化物イオンとして,Cl,Br,Iをそれぞれ塩化水素,臭化水素,ヨウ化水素の形で10-1000 mg·dm−3となるように添加した.動電位分極曲線の測定,および定電流電解は三電極法で行い,作用極に片面を絶縁テープでマスキングした銅板(0.2 cm2),対極に白金線,参照電極としてAg/AgCl(飽和KCl, 0.199 V vs. NHE, 298 K)電極を用いた.浴温は293 K,無攪拌の条件下で電解を行った.動電位分極曲線の測定は,浸漬電位から−1.0 Vの電位範囲において,電位の走査速度60 mV·min−1にて行った.定電流電解では動電位分極曲線の測定結果を参考に,銅の電析反応がCu2+の拡散律速となる300 A·m−2で5 minの通電を行った.

銅粉電解試験では,容量80 dm3の電解槽,および100 dm3のバッファータンクを使用した.電解液は,三井金属鉱業㈱製硫酸銅,工業用硫酸を用い,Cu2+ 0.079 mol·dm−3,遊離H2SO4 0.5 mol·dm−3となるようにこれらの所定量を純水に溶解して作製した.ハロゲン化物イオンとして,Cl,Brをそれぞれ塩化水素,臭化水素の形で10-200 mg·dm−3となるように添加した.Iは電解中に強い特異臭のある有毒ガスを発生するため,銅粉電解試験への使用を見送った.浴温は303 Kとした.電解槽,バッファータンク間の液の循環量は3 dm3 min−1とした.陽極にチタン基体に酸化イリジウムを被覆した酸素発生電極,陰極にチタン板(5 × 7 cm2)を用いた.電流密度500 A·m−2,通電時間を120 minとした.電析した銅粉は洗浄,乾燥した後,次の粉体特性を測定した.平均粒子径はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて体積累積算出法にて測定した.結晶子径のサイズはX線回折図形の200ピークの半値幅から,シェラーの式を用いて算出した10.タップ密度については,タッピング装置を使用し,JIS Z 2512:2006にて測定した.粒子形状については走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した.

3. 実験結果

3.1 銅粉の電析挙動

Fig. 1にClを添加した電解液からのCu電析のカソード分極曲線を示す.Clの添加にかかわらず,0 V近傍から銅電析が開始し,−0.15 V付近で電流密度が一定となり,更に電位が−0.6 Vより卑になると,電流密度の再度の立ち上がりがみられた.0~−0.15 Vにおける銅電析の電荷移動律速領域では,Clの添加量が増えるに従って,電流密度の増大がみられた.−0.2~−0.6 Vの領域では,電流密度が一定となり,Cu2+の拡散限界電流密度を示したが,その値に及ぼすCl添加の影響はみられなかった.−0.6 Vより卑な領域における電流密度の増加は,水素発生によるものである.水素発生領域において,Clの添加量が1000 mg·dm−3において電流値の立ち上がりが貴側にシフトし,また電流値が大きくなっているのは,銅粉の電析により有効反応面積が増えている可能性が考えられる.

Fig. 1

Polarization Curves for Cu deposition in the electrolyte containing various amounts of Cl ions. (Cl concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

Fig. 2にBrを添加した電解液からのCu電析のカソード分極曲線を示す.Brを添加すると,0~−0.2 Vにおける銅電析の電荷移動律速領域では,電流値が減少した.その電流値の減少はBrの添加量が100 mg·dm−3で最も大きくなった.Cu2+の拡散限界電流値および−0.8 Vより卑な領域における電流密度に及ぼすBr添加の影響は特にみられなかった.

Fig. 2

Polarization Curves for Cu deposition in the electrolyte containing various amounts of Br ions. (Br concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

Fig. 3にIを添加した電解液からのCu電析のカソード分極曲線を示す.Iを添加すると,0~−0.3 Vの電荷移動律速領域および−0.7 Vより卑な水素発生領域の両方で電流値が減少した.どちらも,Iの添加量が10 mg·dm−3で電流値の減少が大きくなった.Iの添加量1000 mg·dm−3で電解液に濁りがみられた.溶解度の非常に小さいCuIが生成した可能性がある.

Fig. 3

Polarization Curves for Cu deposition in the electrolyte containing various amounts of I ions. (I concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

動電位分極曲線の結果より,ハロゲン化物イオンは銅の電析反応において,電荷移動過程には影響を及ぼすが,Cu2+の拡散限界電流密度が変化していないことからCu2+イオンの拡散過程には影響を及ぼさない可能性が高いことが判明した.

Fig. 4にClを添加した電解液において300 A·m−2で定電流電解を行った際の陰極電位の経時変化を示す.Fig. 1に示す分極曲線より,300 A·m−2の電解ではCu2+イオンの拡散律速となっていることがわかる.Fig. 4に示すように電解開始後に一時電荷移動律速となるため,貴な電位となるが,その後大きく分極し,電解時間の経過に伴い,徐々に復極した.電解時間の経過に従って,緩やかに電位が貴側にシフトするのは銅粉の電析に伴い有効反応面積が増えるためである.電位は,Cl濃度が高くなるほど貴側にシフトしており,銅電析に対するClの復極作用が認められた.

Fig. 4

Changes in the cathode potential with time during Cu deposition at 300 A·m−2 in the electrolyte containing various amounts of Cl ions. (Cl concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

Fig. 5にBrを添加した電解液において300 A·m−2の定電流電解を行った際の陰極電位の経時変化を示す.陰極電位は,Clを添加した場合と同様に,電解時間の経過に伴い,徐々に復極した.電位は,Br濃度が高くなるほど卑側にシフトしており,銅電析に対するBrの分極作用がみられた.

Fig. 5

Changes in the cathode potential with time during Cu deposition at 300 A·m−2 in the electrolyte containing various amounts of Br ions. (Br concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

Fig. 6にIを添加した電解液において300 A·m−2の定電流電解を行った際の陰極電位の経時変化を示す.陰極電位は,Cl, Brを添加した場合と同様に,電解時間の経過に伴い,徐々に復極した.電位は,Iの濃度が高くなるほど卑側にシフトしており,銅電析に対するIの分極作用がみられた.銅電析に対する分極効果は,Iの方がBrよりも大きかった.

Fig. 6

Changes in the cathode potential with time during Cu deposition at 300 A·m−2 in the electrolyte containing various amounts of I ions. (I concentration, ◇ 0 mg·dm−3, ● 10 mg·dm−3, △ 100 mg·dm−3, □ 200 mg·dm−3, ○ 1000 mg·dm−3)

3.2 電解銅粉の特性

Table 1にClを添加した電解液から電析した銅粉の電流効率および粉体特性を示す.銅電析の電流効率は,Clの添加量が増えるに従い,高くなった.銅粉の平均粒子径およびタップ密度は,Clの添加量が増えるに従い,小さくなった.タップ密度が小さくなるということは,デンドライトの枝が発達した可能性が考えられる.Clを添加しても結晶子のサイズに変化はみられなかった.Fig. 1, Fig. 4に示す電気化学測定試験においても,Cl添加による銅電析の分極効果は確認できなかったため,結晶子に及ぼすCl添加の影響は特にないものと考えられる.

Table 1 Properties of copper powders electrodeposited in the electrolyte containing various amounts of Cl ions.

Fig. 7にClを添加した電解液から電析した銅粉の表面SEM像を示す.SEM像より,Clの添加量が増えると,銅粉の粒形が小さくなり,またデンドライトの枝や幹が細く長く成長することが確認された.これまで,銅粉が微粒化するためには,結晶子の微細化が必要だと考えられていたが,Clを添加すると,結晶子のサイズに大きな変化がなくても微粒化することが判明した.

Fig. 7

SEM images of copper powders deposited in the electrolyte containing various amounts of Cl ions.

(a) Cl 0 mg·dm−3, (b) Cl 10 mg·dm−3, (c) Cl 100 mg·dm−3, (d) Cl 200 mg·dm−3

Table 2にBrを添加した電解液から電析した銅粉の電流効率,および粉体特性を示す.Brの添加量が増えるに従い,銅電析の電流効率が小さくなった.銅粉の平均粒子径は,Brの添加量が増えるに従い,小さくなった.銅粉のタップ密度はBrの添加により小さくなった.Brの添加により,銅粉の結晶子サイズが小さくなった.Fig. 2, Fig. 5に示す電気化学測定試験において,Brには銅電析に対する分極効果が確認された.分極効果の影響により銅粉の結晶子サイズが微細化したと考えられる.銅粉中に取り込まれたCl, Br濃度を測定した結果,BrはClの10倍近い濃度で粉体に取り込まれていることが判明した.

Table 2 Properties of copper powders electrodeposited in the electrolyte containing various amounts of Br ions.

Fig. 8にBrを添加した電解液から電析した銅粉の表面SEM像を示す.SEM画像より,Brの添加量が増えると,銅粉の粒形が小さくなることがわかった.

Fig. 8

SEM images of copper powders deposited in the electrolyte containing various amounts of Br ions.

(a) Br 0 mg·dm−3, (b) Br 10 mg·dm−3, (c) Br 100 mg·dm−3, (d) Br 200 mg·dm−3

4. 考察

ClとBrの添加では,銅粉の電析挙動に及ぼす影響が異なり,その結果,銅粉の電流効率,および銅粉の結晶子サイズもClとBrの添加では異なる傾向を示した.銅粉の電流効率はClの添加では添加量に従って増加したが,Brの添加では減少した.また,銅粉の結晶子サイズは,Clの添加では変化が確認できなかったが,Brの添加では微細化した.

Cu-Cl-H2O系溶液の電位-pCl9より,溶液中にClが一定濃度以上共存すると,Cu2+はCu+の中間体であるCuCl(s)またはCuCl2を経由してCuまで還元されることがわかる.実際,Cu2+ 0.7 mol·dm−3の溶液からのCu電析において,浴中にClが350 mg·dm−3存在すると,反応中間体としてCuCl2が存在することが,回転リング・ディスク電極を用いた実験により報告されている9.本研究ではCu2+濃度は,0.079 mol·dm−3と低いため,Cl/Cu2+比が高くなり,反応中間体としてCuCl2がより形成されやすいと予想される.そこで,Clを添加した溶液からの銅粉の電析は,下記の式(1),式(2)により進行すると推察される.   

\begin{equation} \text{Cu}^{2+} + 2\text{Cl}^{-} + \text{e}^{-} \to \text{CuCl}_{2}{}^{-} \end{equation} (1)
  
\begin{equation} \text{CuCl}_{2}{}^{-} + \text{e}^{-} \to \text{Cu} + 2\text{Cl}^{-} \end{equation} (2)
Clを添加すると銅電析の電流効率が改善されたが(Table 1),これは銅電析に対するClの復極作用が生じている(Fig. 1, Fig. 4)ためと考えられる.鉄族金属の電析において,Clの存在下では,反応中間体MCl+およびMClad(M: Fe, Ni, Co)を経由することによりMの電析反応が促進されることが知られている11.銅の電析においても,同様の効果が生じて反応が促進されたと考えられる.一般に電析の過電圧(平衡電位と電析電位の差)が小さくなると,電析物の核形成速度がその成長速度より相対的に遅くなるため電析物の結晶粒径は大きくなる.しかし,本研究では,Clの共存により銅の電析過電圧が減少しているにもかかわらず,銅の粒径が低下しており,電析の過電圧理論では説明できない傾向を示した.Cl添加による銅粉の微粒化メカニズムは,上記式(2)の電析反応が反応性の高いデンドライトの先端で優先的に起こるためと考えられる.CuCl2がデンドライトの先端に優先的に吸着することで,デンドライトが細く長く成長し(Fig. 7),その結果,銅粉の粒径が微粒化したと考えられる.

一方,溶液中にBrが共存すると,Cu2+はCu+の吸着中間体であるCuBradを経由してCuまで還元されると考えられる.CuCl(s),CuBr(s)の溶解度積はそれぞれ,1.9 × 10−7,5.3 × 10−9であり,CuBrの方がより安定である.実際,Cu2+ 0.7 mol·dm−3の溶液からのCu電析において,浴中にBrが8-800 mg·dm−3存在すると,反応中間体としてCuBrが存在することが,回転リング・ディスク電極を用いた実験により報告されている9.そこで,Brを添加した溶液からの銅粉の電析は,下記の式(3),式(4)により進行すると推察される.   

\begin{equation} \text{Cu}^{2+} + \text{Br}^{-} + \text{e}^{-} \to \text{CuBr}_{\text{ad}} \end{equation} (3)
  
\begin{equation} \text{CuBr}_{\text{ad}} + \text{e}^{-} \to \text{Cu} + \text{Br}^{-} \end{equation} (4)
Brを添加すると銅電析の電流効率が低下したが(Table 2),これは銅電析に対するBrの分極作用が生じている(Fig. 2, Fig. 5)ためと考えられる.CuBrはその溶解度積が小さく,より安定であることから,上記式(4)に示すCuBradから金属Cuへの還元反応が遅いことが予想される.このため,Brを添加すると銅電析は分極したと考えられる.Br添加によって,Cl添加よりも銅粉の粒形が微粒化した(Table 2, Fig. 8)のは,電析の過電圧が増加したためと考えられる.BrがClの10倍近い濃度で粉体に取り込まれた(Table 1, Table 2)のは式(4)に示すCuBradから金属Cuへの還元反応が遅いため,未還元のCuBradが取り込まれる,もしくは陰極面に特異吸着したBrがそのまま銅粉に取り込まれていることが考えられる.特異吸着能はBrの方がClより大きいことが報告されている12

また,溶液中にIを添加すると,Br添加の場合より銅電析に対する分極作用が更に大きくなった.(Fig. 3, Fig. 6)CuI (s)の溶解度積は1.4 × 10−12であり,CuBrの溶解度積より更に小さいため,CuIはより安定であることからCuIadから金属Cuへの還元反応がより抑制されることが推察される.

Fig. 1, Fig. 2, Fig. 3に示す動電位分極曲線の測定より,銅の電析反応において,ハロゲン化物イオンは電荷移動過程には影響を及ぼすが,Cu2+イオンの拡散過程には影響を及ぼさないことがわかった.Fig. 1において,−0.8 Vより卑な電位域ではClの濃度が高くなるほど電流密度が高くなっている.通常の平滑めっきであれば,Cu2+イオンの拡散律速領域であるため,この電流密度の増加は水素発生が増加しているためと考えられ,銅電析の電流効率は低下すると予想される.しかし,銅粉電析試験の結果,Clの添加量が増えるほど,電流効率が増加しているため(Table 1),−0.8 Vより卑な電位域でもClイオンにより銅電析が促進されていることを示しており,この電位域でも銅電析は電荷移動過程の影響を受けていることを示唆している.ハロゲン化物イオンを添加することで銅粉の形態が変化したのも,電荷移動過程に及ぼす影響を受けたものと考えられる.これまでの研究では,銅粉の電析は,Cu2+イオンの供給が律速となる拡散律速下で進行すると考えられてきたが,本研究の結果より,Cu2+イオンの拡散過程と電荷移動過程の混合律速下で進行している可能性が高いことが判明した.

電解液にハロゲン化物イオンを添加することで,粒径の小さな銅粉が電析可能であることが判明した.中でも,Clイオンは微粒化効果に加えて,電流効率の改善効果もあるため,銅粉の製造面からも非常に優れていると考えられる.

5. 結言

銅粉の電析挙動,形態に及ぼすハロゲン化物イオンの影響について調査した結果,以下のことがわかった.銅粉の電析において,Clには復極効果,Br,Iには分極効果があり,電流効率はClを添加すると高くなり,Brを添加すると低くなった.Clを添加すると,銅粉の平均粒子径は小さくなり,またデンドライトの枝や幹が細く長く成長し,その結果タップ密度は小さくなった.一方,Br−を添加すると,分極効果により銅粉の結晶子サイズ,平均粒子径は小さくなり,タップ密度も小さくなった.銅粉の電析において,Clの添加量が増えるほど,電流効率が増加しており,Cu2+イオンの拡散律速領域においても銅電析が促進されていることから,銅粉の電析は電荷移動過程の影響を受けていることが示唆された.ハロゲン化物イオンを添加することで銅粉の形態が変化したのも,電荷移動過程に及ぼす影響を受けたものと考えられる.即ち,銅粉の電析は,Cu2+イオンの拡散過程と電荷移動過程の混合律速下で進行していると推察される.

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