Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Special Issue on Hydrogen and Materials Characteristic in Solids V
Hydrogen and Materials Characteristic in Solids V
Takayuki IchikawaHiroki MiyaokaMakoto HinoKeitaro HorikawaTeruto Kanadani
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2023 Volume 87 Issue 4 Pages 95

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新型コロナウィルス感染症の猛威もおさまりを見せつつある中,ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界的エネルギー価格の高騰,それと同時にヨーロッパ投資家を中心としたESG投資に基づく二酸化炭素排出への厳しい締め付けなど,世界は非常に不安定な状況にあると言っても過言ではない.事実,日本において数年前では考えにくかった,原子力エネルギーへの回帰がうかがえる状況も見え隠れし,最近の新聞紙上では,高温ガス炉や小型モジュール炉あるいは核融合炉についても,目の前の現実的でかつ安定な電源として語られるようになっていることは注目に値する.こうした中,着実に普及と定着が進みつつある再生可能エネルギーの主力電源化も,カーボンニュートラルへの道において存在感を示していることは言うまでもない.しかし,再生可能エネルギーの最大の特徴は,カーボンフリーで,かつ,近年では低コストな発電技術であることはもちろんではあるが,一方で調整力を持たない,つまり供給側の出力制御ができない点が大きな問題となっている.したがって,調整力を付与するためには,適切なエネルギー貯蔵システムが付加される必要がある.短周期変動の平準化(主に日周期の変動)には,二次電池を用いられることに疑いの余地はないが,長周期変動の平準化(主に季節変動)には,経済的な観点から,水素エネルギーが用いられることが想定されている.常温常圧に近い条件において,気体状態をとる水素は,貯蔵および輸送に難があり,簡単には超高圧状態の圧縮ガスとすることで高密度化がなされているが,水素の軽く小さいという物性から,様々な金属材料に固溶し脆化を促す特性を持ち,多くの研究者が水素脆化の問題に取り組んでいる状況にある.環境問題の観点も含め,構造材料に対して軽量化や高強度化が求められる中,水素脆化のメカニズムに迫る研究は,構造材料の更なる高性能化に必要不可欠であると考えられている.

こうした中,2013年12号での特集「固体中の水素と材料特性」,2015年3号での特集「固体中の水素と材料特性II」,2016年12号での特集「固体中の水素と材料特性III」,更には,2020年3号では特集「固体中の水素と材料特性IV」を企画し,種々の水素貯蔵材料の特性や反応機構に着目した論文や,構造材中に固溶した水素の存在状態に着目した論文が数多く寄せられ,合計35報以上の論文投稿があり好評をいただいた.今回は,構造材料関連で5報の論文投稿をいただき,5回目の特集号として掲載できることとなった.2050年にカーボンニュートラルを実現することが既定路線となり,これらの研究開発が水素社会を支える重要な要素技術に繋がることを期待している.

最後に,本特集号の発刊に際し,本企画の趣旨に御賛同頂き,興味深い論文をご投稿頂いた著者の方々,また厳正な査読を賜りました査読者,さらには一連の校閲と編集作業に際しきめ細かく対応して下さいました編集スタッフの方々に,厚く御礼を申し上げます.

 
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