日本金属学会誌
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特集「超温度場材料創成学」
選択的レーザ溶融付加製造における複数トラック・複数層走査時のエピタキシャル成長組織予測のためのmulti-phase-fieldフレームワーク
高木 知弘高橋 侑希坂根 慎治
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2024 年 88 巻 9 号 p. 171-180

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Abstract

In this study, a multi-phase-field (MPF) framework for predicting epitaxial grain growth in selective laser melting (SLM) additive manufacturing (AM) with multi-track and multi-layer scanning was developed. The spatiotemporal change in temperature was approximated using the Rosenthal equation, which provides a theoretical solution for the temperature distribution due to a moving point heat source. The powder bed was modeled as a polycrystalline layer. Large-scale MPF simulations for SLM-AM were performed using parallel computing with multiple graphics processing units. Using the MPF framework developed herein, we simulated SLM-AM with four tracks and four layers for 316L stainless steel. By observing the epitaxial grain growth process on two-dimensional cross-sections and in three dimensions, we clarified a typical growth procedure of grains with characteristic 3D shapes. The MPF framework will potentially enable a systematic estimation of the material microstructures formed during SLM-AM.

 

Mater. Trans. 64 (2023) 1150-1159に掲載.式(1)を修正.

1. 緒言

付加製造(additive manufacturing: AM)は,複雑な形状の部品を製造できる最も将来性の高いプロセス技術であり,AMに関する多くの研究がさまざまな観点から行われている[1-3].金属AMでは,粉末床溶融結合法(powder bed fusion: PBF)に基づく選択的レーザ溶融法(selective laser melting: SLM)が最も広く使用されている.製造された部品の機械的特性,疲労特性,および腐食特性は,SLM-AM中に形成される材料微視組織に大きく影響される[4-11].最近では,複雑形状を有する部品の製造だけでなく,材料組織の最適化も研究されている[12-15].しかしながら,材料組織に対しては,レーザ出力,走査速度,層厚,ハッチ距離,スキャンストラテジーなど,多くの走査パラメータが影響するため,さまざまな走査条件下での3次元材料組織の体系的な評価は極めて困難である[16-19].さらに,SLM-AMにおける材料組織の成長過程を直接観察することは不可能である.したがって,材料組織発展を予測する数値シミュレーション技術が不可欠である.

SLM-AMにおける材料組織予測を目的とした数値シミュレーション研究は,対象とするスケールから大きく2つにわけられる[20-22].1つは,デンドライトのスケールから材料組織を評価するもので,phase-field(PF)[23, 24]が最も強力な手法である[25-29].しかしながら,PF法は拡散界面モデルであるため計算コストが高く,計算対象は2次元問題や溶融池の一部領域の計算に限定されている[25-33].デンドライト/セル間の競合的成長は,2次元問題と3次元問題ではかなり異なる[34-39].さらに,溶融池内の液相流動は競合成長を劇的に変化させる[40, 41].SLMの溶融池での凝固条件は,高い冷却速度と大きな温度勾配を伴う非常に厳しいものであるため,溶融地での液相流動を伴うデンドライト/セル成長の3次元PFシミュレーションを実現することは,スーパーコンピュータを用いてもほとんど不可能である[42].もう1つは,デンドライト/セル構造を考慮しない粗視化した粒成長スケールにおける組織予測である.このスケールでは,cellular automation(CA)[43, 44]モデルが広く使われており[45-48],液相流動下での組織予測も行われている[49-51].PF法も粗視化モデルとして用いられている[52-57].ChadwickとVoorhees[55]は,Rosenthalの式と結合したmulti-phase-field(MPF)法を用いて,エピタキシャル成長した結晶粒の時間発達を再現した[58].本手法はMPF方程式を解くだけで,湾曲して成長する結晶粒の再現に成功し,核生成なしに表面付近に小さな等軸結晶粒が形成されることを示した[59-61].しかしながら,単一トラックの評価にとどまっており,実用的な組織予測のためには複数トラック・複数層の走査への展開が必須である.

本研究では,ChadwickとVoorheesが開発した手法を拡張することにより,複数トラック・複数層のレーザ走査における組織予測を可能とするMPFフレームワークを開発する[55].MPFシミュレーションは粗視化モデルを用いても大規模になる.そこで,複数のgraphics processing unit(GPU)を用いた並列GPU実装した[62, 63].本MPFフレームワークを用いて,4トラック・4層のレーザ走査シミュレーションを行い,特徴的な形状を有する材料組織の成長過程を調べた.

2. モデル

数値モデルとしては,Steinbachによって開発されたdouble-obstacleポテンシャルを用いるMPFモデルを使用した[64, 65].複数のPF変数を扱うMPFモデルの中で[66],このモデルは,粒界方位に依存する粒界異方性を高精度に導入することができ[66],active parameter tracking [67-70]を導入することで膨大な数の結晶粒の成長を効率的に計算することができる[71, 72].

SLMシミュレーションでは,基板と粉末層の多結晶,溶融池の液相,および材料上部の気相を考慮した.各結晶粒,液相,気相には,PF変数ϕiを割り当て,それらの内部でϕi = 1,他ではϕi = 0とし,粒界,固液界面,固相と液相の表面で滑らかかつ急峻に変化させた.ϕiの時間発展は以下の通りである.

  
\begin{align} \frac{\partial \phi_{i}}{\partial t}& = - \frac{2}{n}\sum_{j = 1}^{n}M_{ij}^{\phi }\Bigg[ \sum_{k = 1}^{n}\left\{ \frac{1}{2}( a_{ik}^{2} - a_{jk}^{2} )\nabla^{2}\phi + ( W_{ik} - W_{jk} )\phi_{k} \right\}\\ & \quad - 30\phi_{i}^{2}\phi_{j}^{2}\Delta f_{ij} \Bigg] \end{align} (1)

ここで,nは格子点における非ゼロ値を持つPF変数の数であり,aijWij,およびMϕijは,それぞれ勾配係数,double-obstacleポテンシャルの高さ,PFモビリティである.これらは,界面/表面/粒界のエネルギーγij,厚さδ,移動度Mijに次のように関係付けることができる[70].

  
\begin{equation} a_{ij} = \frac{2}{\pi }\sqrt{2\delta \gamma_{ij}} ,\ W_{ij} = \frac{4\gamma_{ij}}{\delta },\ M_{ij}^{\phi } = \frac{\pi^{2}}{8\delta }M_{ij} \end{equation} (2)

ただし,後で示すシミュレーションにおいては,γijMijの異方性は考慮しなかった.式(1)の右辺の最後の項は熱力学的駆動力項であり,Δfijは次式で表される.

  
\begin{equation} \Delta f_{ij} = \omega_{ij}\Delta f_{\textit{SL}} \end{equation} (3)

ここで,ΔfSLは固液界面移動の駆動力であり,

  
\begin{equation} \Delta f_{\textit{SL}} = \frac{L( T_{m} - T )}{T_{m}} \end{equation} (4)

で表される.ここで,Lは潜熱,Tmは融点である.式(3)のωijは,ΔfSLを固液界面のみに適用するための行列である.また,安定して式(1)を解くために,駆動力項にϕi2ϕj2を導入した[73].

温度Tは,半無限プレートの表面を一定速度で移動する点熱源による時空間温度分布の理論解を与えるRosenthalの式で近似した[58].

  
\begin{equation} T( x,y,z,t ) = T_{0} + \frac{Q}{2\pi \kappa_{T}R}\exp \left[ - \frac{V_{\textit{scan}}}{2D_{T}}( R + Y ) \right] \end{equation} (5)

ここで,

  
\begin{equation} \left. \begin{array}{l} & X = x - x_{0} \\ & Y = \pm ( y - y_{0} - V_{\textit{scan}}( t - t_{0} ) ) \\ & Z = z - z_{0}\\ & R = \sqrt{X^{2} + Y^{2} + Z^{2}} \end{array} \right \} \end{equation} (6)

である.点熱源がzx平面上をy軸に沿って移動すると仮定し,z軸を造形方向(building direction: BD),y軸を走査方向(scanning direction: SD),x軸を横方向(transverse direction: TD)として座標を設定した.式(5)において,T0は初期温度,Qは点熱源の出力,κTは熱伝導率,Vscanは点熱源の走査速度,DTは熱拡散係数,(x0, y0, z0)は各トラックの走査を開始する時間ttrack = 0における熱源の初期座標,Rは点熱源からの距離,(X, Y, Z)は各トラックにおける初期時間t0に対する時間t-t0における点熱源の座標である.式(6)のY座標の符号は熱源の方向によって決まる.

式(1)の離散化には有限差分法を用い,時間は1次の前進差分,ラプラシアンは2次の中心差分によって離散化した.コードは,複数のGPUを用いた並列計算のために,message passing interfaceとCUDA Cを用いて実装した[62, 63].

3. 計算条件

シミュレーションは,Table 1に示す材料パラメータを持つ316Lステンレス鋼を使用した.熱伝導率κTおよび熱拡散係数DTは,融点Tm = 1700 Kにおける液体と固体の平均値と仮定した[55, 74].固液界面エネルギーγSL,粒界エネルギーγGB,液体と固体の表面エネルギーγsurfは等しく一定であると仮定し,γSL = γGB = γsurf = 0.2 J/m2とした.粒界移動度MGBMGB = M0 exp(−QGB/RT)を用いて表した.ここで,定数M0,活性化エネルギーQGB,気体定数Rである[75].

Table 1 Material parameters for 316L.


計算条件をTable 2に示す.レーザ出力Qと走査速度Vscanは,それぞれQ = 30 W,Vscan = 500 mm/sとした.これらの走査条件下では,溶融池サイズは,式(5)のRosenthalの式を用いて,Tm = 1700 Kの等温面としてFig. 1に示すように幅w = 80.0 µm,高さh = 40.0 µm,長さl = 145.6 µmとおおまかに見積もることができる.実際にシミュレーションを行ったところ,溶融池のサイズはw = 80.2 µm,高さh = 40.2 µm,長さl = 152.2 µmとなり,whはほぼ同じであったが,長さlは約4.5%長くなった.これは過加熱と過冷却によるものであり,溶融池前方のl1は約4%短く,後方のl2は5.9%長かった.

Table 2 Computational conditions.


Fig. 1

Shape and size of the melt pool, numerically computed by eq. (1) with the Rosenthal equation, eq. (5). The blue line indicates the isotherm with the melting temperature Tm = 1700 K.

Fig. 2Fig. 3は,それぞれTD-BD面とTD-SD面における計算領域サイズとスキャンストラテジーを示している.層厚はtlayer = 30 µmとした[76].tlayer = 30 µm,w = 80 µm,h = 40 µmの条件下で,2つの隣接するトラック間の距離であるハッチ幅をdhatch = 50 µmに設定し,非重複領域を避けた[77].スキャンストラテジーにはbi-directional scanning [78]を採用した.BDの領域サイズLBDは,tlayer = 30 µmを4層分,初期基板厚さ22.8 µm,第4層上部の気相厚さ17.2 µmを考慮し,LBD = 160 µmとした.SDの領域サイズLSDは,溶融池全体が収まるように,LSD = 240 µmと設定した.各層の4トラックとTDの周期境界条件のため,TDの領域サイズLTDLTD = 200 µmとした.以上のように決定した計算領域サイズLTD × LSD × LBD = 200 × 240 × 160 µm3を,nTD × nSD × nBD = 640 × 768 × 512の差分格子に分割した.この結果,格子サイズはΔx = 0.3125 µmとなった.1トラックの走査時間は,ttrack = 40000 steps × Δt = 0.0008 sとし,時間増分Δt = 2 × 10−8 sとした.時間ttrack = 0.0008 sの間に,点熱源はVscan = 500 mm/sで400 µm移動する.ttrack = 0において,点熱源位置をy0 = −65Δx(またはy0 = LSD + 65Δx)に設置し,y = LSD + 417Δx(またはy = −417Δx)まで移動させ,溶融池の最前方が基板に入り,最後尾が基板を通過するように条件設定した.各層の4トラック走査の後,tlayer = 30 µmの粉末層を上部に配置した.この粉末層は,基板材と同じ平均直径dave = 6.5 µmを持つ多結晶層であると仮定した[55].多結晶層を形成するために,粉末層を配置した後に300Δtの粒成長過程を計算した.したがって,シミュレーションの総時間ステップ数は,40000 steps × 16トラック + 300 steps × 3層 = 640900 steps,総時間ttotal = 0.012818秒となった.なお,計算開始前に4層の多結晶層と基板を一体とし,粒成長計算によって多結晶体を準備したが,その時間は含まれていない.SDとBDでは,PF変数にゼロNeumann境界条件を設定した.シミュレーションは8台のNVIDIA Tesla A100 GPUを並列して実行し,実行時間は約51 hだった.

Fig. 2

Computational domain size in the TD-BD plane and bi-directional scanning strategy. The semicircle indicates the shape of melt pool in normal section to the SD. Because of periodic boundary condition in the TD, the 1st track locates on both sides of the TD. The figures from 1 to 16 are the consecutive track numbers in the simulation. Size is shown in microns.

Fig. 3

Computational domain sizes in the TD-SD plane and bi-directional scanning strategy in a layer. Size is shown in microns.

4. 結果

4.1 計算領域外表面の結晶粒構造

Fig. 4は,全16トラックの終了時(第4層,第4トラック終了時)における計算領域外表面の結晶粒構造を示している.色は53411個の結晶粒(PF変数)の数を示す.すべての面で特徴的な曲線を有する結晶粒構造が観察された.上面(TD-SD面)は計算領域の表面ではなく,気相層を取り除いた固体の表面に相当する.上面には,溶融池の中心線に沿った小さな細長い結晶粒と,溶融池の2つの中心線を結ぶ正接曲線状の結晶粒の2種類の形状が見られた.各トラックの始点に位置する結晶粒は,境界と接し,背後に結晶粒がないため,他の結晶粒よりも長く大きかった.実際のSLM-AMではこのようなシャープな境界はありえないので,境界に現れる粗大な粒は実際のSLMプロセスでは現れないと考えられる.また,気相を考慮することで,結晶粒の成長により上面が凹凸になった.本研究で用いたMPFモデルではPF変数は保存量ではないため,表面に位置する結晶粒は体積がわずかに減少するが,計算の対象とした時間が短いため体積の減少は無視できる程度であった.側面のSD-BD面においては長い階段状の結晶粒が特徴的であり,この結晶粒は初期の基板結晶粒から4層にわたってエピタキシャル成長している.このようないくつかの層にわたる長い結晶粒は,実験でも報告されている[16, 79].TD-BD面にはいくつかのタイプの結晶粒が見られる.トラック1とトラック3の中心線に沿って下から上に伸びる,非常に長い結晶粒が観察される.トラック2とトラック4の中心線では,小さな細長い粒が観察された.各トラック中心間には大きなU字型の結晶粒が観察され,トラック2とトラック3の間にのみ角状の結晶粒が観察された.表面では,トラック間にTD方向に延びる細長い粒,トラック2とトラック4の中心部に小さな等軸粒が観察された.

Fig. 4

Grain structures on the outer surfaces of the computational domain at the completion of all tracks. Color indicates the number of grains and the grain boundary is indicated by the grey line.

4.2 各断面における結晶粒の形成

本節では,断面観察による結晶粒形態の形成過程について議論する.

Fig. 5は,多結晶層作成終了時(一番左の図)と各トラック終了時のy = LSD/2 = 120 µmにおけるTD-BD断面の結晶粒構造を示している.色は結晶粒番号を示し,結晶粒界はFig. 4と同様に灰色の線で示す.白の実線と破線は,それぞれ走査終了直後のトラックと以前のトラックの溶融池形状を示す.横長い白破線は,多結晶層と凝固層の境界である.第1層では,粉末層と基板を区別することなく1つの多結晶基板として準備した.それ以降の層では,各層の上に多結晶層を配置した.溶融池通過直後の白実線内では,典型的な扇状構造が観察され,外側から溶融池の中心に向かって細い結晶粒が伸びており,溶融池の表面中心付近には小さな等軸結晶粒が形成されている[59].全層の第1トラックと第4トラックでは,溶融池内の粒構造は溶融池の中心線に対して左右対称であるが,第2トラックと第3トラックでは,左右で大きさが異なっている.第1トラックの両側は,走査前は小さな粉末粒であるため,凝固粒サイズも小さく,中心線に関して対称であった.第4トラックは既に走査が完了したトラックの間に位置しており,第1トラックと同様に左右はおおむね対称で第1トラックよりも凝固粒が大きくなった.第2トラックと第3トラックでは,左側に粉末粒,右側に凝固粒が位置するため,右側の粒は左側の粒よりも粗くなっている.今回のシミュレーションでは,等軸粒の核生成は考慮していないため,すべての凝固粒は溶融池周囲の溶け残った粒からエピタキシャル成長したものである.このため,各トラック走査で形成された新しい凝固粒は,粉末粒から成長したものである.各層の違いを観察すると,第1層の走査で最も微細な結晶粒が形成され,凝固粒からエピタキシャル成長する結晶粒の大きさは層が進むにつれて徐々に大きくなった.また,溶融池の中心付近の小さな等軸粒の領域は,層数が増えるにつれて減少した.第4層の第4トラック終了時における結晶粒構造は,Fig. 4の手前側のTD-BD面上とは異なっている.これは,Fig. 4のTD-BD面が境界に位置するためである.

Fig. 5

Grain structures on the TD-BD cross-section at y = LSD/2 = 120 µm at the end of polycrystalline layer preparation and each track.

Fig. 6は,第4層の各トラックの22500ステップ時における結晶粒構造の上面図である.溶融池の形状は白い破線で示されている.破線内の結晶粒は,深さ方向の情報を有していることに注意いただきたい.上面の結晶粒は,まず溶融池の中心線,すなわちTDに向かって成長し,その後徐々に成長方向をSDに変化させた.このため,粒の形状は鎌状になり,これは単一トラックによるシミュレーションで観察されている[45].この鎌状の粒は,第1トラックでは溶融池の両側で,第2トラックと第3トラックでは溶融池の左側で観察された.第2トラックと第3トラックの溶融池右側と,第4トラックの溶融池両側で,鎌状の粒が正接曲線状の粒に変化した.溶融池の後方では,走査方向に伸びる細長い粒が形成された.溶融池内部では,Fig. 5に示したように,第1トラックと第4トラックではいずれも左右対称で大きさの異なる凝固粒が観察され,第2トラックと第3トラックでは左右で粒形態が非対称だった.溶融池内におけるこのような粒形態の違いは,Fig. 5の第4層と同様に,溶融池が粉末粒領域と凝固粒領域のどちらに接しているかによって異なる.

Fig. 6

Top views (TD-SD plane) of grain structures at the 22500th step in each track at the 4th layer scan.

Fig. 7は,第4層の第3トラック終了時における,x = (a)240Δx(第3トラックと第4トラックの中間),(b)320Δx(第3トラックの中心),(c)400Δx(第3トラックと第2トラックの中間)のSD-BD断面の結晶粒構造を示している.Fig. 7(b)では長い階段状の粒が観察され,これはFig. 4のSD-BD表面の粒と似ている.層は白い破線で区別され,第4層走査時の溶融池の底と溶融池の形状は黒い破線で示されている.Fig. 7(b)から,下から上に成長する長い結晶粒は,溶融池の底で突然成長方向を変え,第4層走査によって形成された粒は鎌のような形をしている.Rosenthalの式により,熱源中心からBDとTDへの温度分布は同じであるため,Fig. 6の表面に形成された結晶粒とFig. 7(b)の溶融池中心断面の第4層の粒形態は類似している.Fig. 7(a)Fig. 7(c)では,溶融池の底の位置は第4層の下端部に近い.このため,Fig. 7(a)では,第3層の表面に位置する結晶粒は上方向にわずかに伸びているが,上部領域は小さな等軸粒で満たされている.このことは,Fig. 5から,粉末粒から小さな等軸粒が成長していることで説明できる.また,Fig. 7(c)から,溶融池底から表面に向けて柱状粒が成長し,その上の表面近傍に小さな等軸粒が形成されている.興味深いことに,Fig. 7(c)の柱状粒は,Fig. 7(b)のものとは逆方向にわずかに曲がっている.表面の小さい結晶粒は,第2トラックの中心に位置する小さな粒から成長し,柱状粒は,第2トラック走査時に形成された柱状粒から成長した.

Fig. 7

Grain structures on the SD-BD cross-sections with x = (a) 240Δx (the middle of the 3rd and 4th tracks), (b) 320Δx (centerline of the 3rd track), and (c) 400Δx (the middle of the 3rd and 2nd tracks) at the end of the 3rd track of the 4th layer.

Fig. 5-Fig. 7に示すように,特徴的な形態を有する凝固結晶粒が成長する様子がはっきりと観察できた.一方で,断面形状から3次元構造をイメージすることが容易ではないことも理解できる.

4.3 特徴的な3次元結晶粒構造

Fig. 8は,Fig. 7中に示す1-24の結晶粒の3次元構造を,異なる2つの方向から見た図である.粒の色はFig. 4-Fig. 7と同じである.鎌のような形をした13-20番の粒は,粉末粒から成長した.第2トラックの走査中に表面に形成された鎌状の粒から,正接曲線状の形状を持つ粒1-4が成長した.水鳥のような形状の粒21-24は,第3層の上面にある正接曲線状の粒から成長した.粒5-8は板状で,第2トラックの走査中に形成された水鳥型の粒から成長した.最後に,粒9-12は数層にわたって成長した.

Fig. 8

Two different views of grains 3D structures, numbered 1 to 24 (as shown in Fig. 7). The color indicates the grain number, which is same as in Fig. 7.

Fig. 4に示すように,最後の第16トラック(第4層の第4トラック)の後に残った粒は4776個であった.残った粒のうち,体積が初期の100倍を超える大きな粒の数は48個であった.ここで,12粒がTD-BD境界と接触しており,残りの36個の結晶粒をFig. 9(d)に示す.このうち35個の粒はねじれたU字形をしており,隣り合う2つのトラックを橋渡ししていた.Fig. 4にも見られる粒Aだけが,溶融池の中心線に沿ってまっすぐ上向きに成長したものである.これらの大きな結晶粒の成長をFig. 9(a)-Fig. 9(c)に示す.第1層走査後(Fig. 9(a))では,ほぼすべての結晶粒がFig. 8 の1-4粒子と同様の正接曲線状の形状を有し,B粒およびC粒はFig. 8の5-8粒子と同様の板状の形状を有していた.第2層走査終了時(Fig. 9(b))では,ほぼすべての粒がFig. 8の粒5-8と同様の板状の形状を有していたが,正接曲線状の形状のものもあった.粒Bと粒CはねじれたU字型をしていた.第3層と第4層では,板状の結晶粒上部の2つの突起が上方に伸びた(Fig. 9(c)Fig. 9(d)).Fig. 10は,最も大きな結晶粒Dの成長過程である.第1層と第2層では,第2トラック走査終了時の形態も示している.鎌状,正接曲線状,水鳥状,板状,ねじれたU字状の順における形態変化がはっきりと見られる.U字型までの結晶粒の形態は,Fig. 8でも観察されている.

Fig. 9

3D structure of the 35 largest grains without contact with the TD-BD boundary at end of each layer.

Fig. 10

Growth process of the largest grain D (as shown in Fig. 9). In the 1st and 2nd layers, the morphologies at the end of the 2nd track are also shown in addition to those at the end of each layer. The sickle-like shape at the end of the 2nd track and tangent-like shape in (a) the 1st layer, waterfowl-like shape at the end of the 2nd track and plate-like shape in (b) the 2nd layer, and twisted U-shape in (c) the 3rd and (d) 4th layers.

結晶粒構造の3次元形態変化を実験的に観察することは困難である.また,2次元断面の組織観察から,Fig. 8Fig. 9のような3次元構造をイメージすることも困難である.以上のように,本論文で開発したMPFフレームワークは,複数トラック・複数層のSLM-AM中の詳細な3次元形態変化を表現することができる.

5. 議論

本研究で開発したMPFフレームワークは,SLM-AMにおける複数トラック・複数層のレーザ走査時の複雑結晶粒の成長過程を表現できることを示した.ここでは,本研究で提案したモデルの課題について議論する.

今回のモデリングにおいて,粉末層の取り扱い方が課題となった.MPF法では粉末粒子を表現することはできるが,今回の計算では固相の溶融凝固時に気相はそのまま残ってしまうため,粉末粒子を直接モデル化することはできなかった.しかしながら,未溶融粒子からのエピタキシャル成長[60]を表現する必要があったため,粉末層を多結晶層としてモデル化した.このモデル化は妥当であろうと考えているが,未溶融粉末粒子からのエピタキシャル成長粒のサイズや方位をより高精度に表現するためには,多結晶層の粒径と厚さを検討する必要がある[80].また,レーザ走査後に表面が盛り上がる現象を再現するモデル化も必要ではないかと考えている[59, 61, 81, 82].

溶融池形状は,凝固組織形態を決定する上で重要である[77, 83].本モデルでは,移動する点熱源に対する温度の時空間分布を与えるRosenthalの式を採用した.しかしながら,実際の溶融池の形状は,Rosenthalの式で表されるものとは異なる[76].特にキーホールが発生すると,溶融池形状は大きく変化する[84].したがって,レーザ出力,走査速度,材料,および溶融池形状の関係をまとめておくことが重要であると考える[85].

本モデルでは,新しい結晶粒の核生成は考慮せず,エピタキシャル成長のみをモデル化した.核生成速度は,過冷却の関数としてモデル化されている[49, 86, 87].さらに,界面/表面/結晶粒のエネルギーと移動度の異方性をどのように導入するかについても今後検討する必要がある[72, 88].

6. 結論

付加製造(additive manufacturing: AM)における複数トラック・複数層の選択的レーザ溶融(selective laser melting: SLM)中の材料組織変化を予測するために,multi-phase-field(MPF)フレームワークを開発した.温度の時空間分布はRosenthalの式で近似し,粉末層は多結晶層として表現した.複数トラック・複数層SLM-AMの大規模MPFシミュレーションを可能にするため,複数のgraphics processing unit(GPU)を用いた並列GPU計算を採用した.316Lの4トラック・4層,bi-directional scanningによるSLM-AMシミュレーションにより,材料組織変化を観察し,特徴的な3次元形状を持つ結晶粒の成長過程を明らかにした.最後に,開発したMPFフレームワークの課題について議論した.本研究で開発したMPFフレームワークは,SLM-AMにおけるさまざまな造形条件やスキャンストラテジーの下での材料組織発展を予測できると考えている[89].

本研究は,科研費22H05282の助成を受けた.また,学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN),および,革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の支援を受けた(課題番号:jh220023).

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