日本金属学会誌
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特集「巨大ひずみ加工で創出した超機能ナノ材料」
機械部品製作を目的としたAZ80Mg合金の多軸鍛造に関する基礎研究
三浦 博己中村 亘渡邊 千尋
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2025 年 89 巻 1 号 p. 65-75

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Abstract

In this study, a commercial hot-extruded AZ80Mg alloy was multi-directionally forged (MDFed) at room temperature by employing pass strains of Δε = 0.1. The effects of the combined processes of MDFing and ageing on the microstructural evolution and strengthening were precisely examined in advance. The coarse initial grains were gradually subdivided into ultrafine grains by multiple mechanical twinning and kinking. As observed, the multiple twinning effectively suppressed the evolution of the sharp basal texture and enabled MDFing at room temperature to high cumulative strains. Although the combined processes of MDFing and ageing tended to increase the hardness and yield stress compared to those fabricated using simple MDFing at lower cumulative strain regions, the mechanical properties were almost comparable and independent of the processes at regions of higher cumulative strain beyond ΣΔε = 2.0. Yield strength over 505 MPa, ultimate tensile strength of over 612 MPa and ductility of over 7% were constantly achieved in all the processes. Although certain selected processes were applied to bulk samples for fabricating the mechanical components, frequent cracking hindered the MDFing to high cumulative strain regions. This finding signified that adequate MDFing process is dependent on sample size. However, MDFing with smaller pass strains than Δε = 0.1 enabled MDFing to regions of high cumulative strain. Thus, bulk AZ80Mg alloy with well-balanced mechanical properties—yield strength of 420 MPa, ultimate tensile strength of 540 MPa, and ductility of 10%—could be successfully fabricated.

Mater. Trans. 64(2023)1504-1514に掲載.Figs. 4,6,7,8のCaptionを修正.

1. 緒言

Mg合金の機械的特性を改善して構造材料としての工業的応用を促進するため,膨大な数の研究が行われてきた.この目的達成のために,希土類元素添加型合金は最も革新的な方法の1つであり,長周期積層型規則構造相(LPSO相)の形成により,引張強度400MPaが達成された[1].LPSO相はMg合金の熱安定性をも向上させる特性を併せ持つ反面,その脆い性質は延性を低下させてしまう.希土類元素添加によるMg合金の大幅な強度上昇が明らかになったものの,希土類元素が戦略物質として注目されるに至り,その添加量低減が強く望まれることとなった.

一方で,結晶粒微細化はMg合金の機械的性質の改善に有効で,結晶粒微細化は静的再結晶と動的再結晶を用いた旧来の加工熱処理プロセスによって行われてきた[2].しかし,高温加工中に不可避な粒成長によって,達成可能な結晶粒径dは1μm以上であった[3].そのため,旧来の加工熱処理プロセスによるMg合金の機械的性質の劇的な改善は困難であった.近年,巨大ひずみ加工(Severe Plastic Defortmation/ SPD)法のMg合金への適用によって,超微細粒(UltraFine-Grained/ UFGed)組織材(d<1μm)が作製され,強度と延性の劇的上昇が達成された[4-6].原井らは,423Kで高圧ねじり加工(HPT)法を用いて,平均粒径0.2μm,高硬度(1.1GPa)の超微細粒AZ61Mg合金の作製に成功した[4].三浦らは,鍛造毎に温度を下げる降温多軸鍛造(Multi-Directional Froging/MDFing)法により超微細粒AZ61Mg合金を製造し,最大引張強度(UTS)550MPa,室温伸び約10%,さらに温間域での超塑性変形による伸び680%,の注目すべき機械的特性のバランスを達成した[5, 6].以上のように,組織の超微細粒組織化により,Mg合金の機械的特性を劇的に改善することが可能となった.

Mg合金では,室温で活動可能なすべり面の数が限られているため,SPD加工を冷間で行うのは極めて困難な課題である.Miuraらは,室温下でのMDFのために新しい手法を開発した.この手法では,小さな鍛造パス間ひずみΔε= 0.1の採用によって,高累積ひずみ域までの冷間MDF加工を連続して行うことが可能となった.彼らはこの手法をAZ80Mg合金に適用し,最大引張強度650MPa,破断伸び9%の極めて優れた機械的特性を達成した[7].この研究での重要な点としては,上述の機械的特性のバランスが,i) 均一な超微細粒組織の発達,ii) 多重双晶によって誘発された結晶粒方位のランダム化,iii) 先鋭な底面集合組織の発達抑制,によって達成されたことが挙げられる.その一方で,時効処理によって熱間押出性とその後の機械的性質が改善されることから,時効処理によるMg合金の高強度化を試みた研究も報告されている[1, 5, 8, 9].冷間MDF加工によって注目すべき機械的特性が達成されたが,冷間MDFと時効処理の組み合わせプロセスが微視組織発達と機械的特性におよぼす影響については示されていない.冷間MDF加工に時効処理を加えたプロセスによって,析出強化に加えて,MDF加工中のオロワン機構によるさらなる加工強化の重畳によって,極めて高い強度の達成が期待できる.

SPD法を利用した各種金属・合金の結晶粒超微細化がもたらす飛躍的な特性改善にもかかわらず,SPD法は形状不変を前提とした煩雑なバッチプロセスと試料サイズの制限により,大型材への適用や工業的な大量生産には不向きとされ活用されてこなかった.様々なSPD法の中でも,MDF加工法は超微細粒組織を有する大型金属材料の作製にも適した技術である.本研究では,冷間MDF加工と時効処理の様々な組み合わせプロセスをAZ80Mg合金に適用し,組織と機械的特性の変化を系統的に調査した.最終的に,適切なプロセスを大型AZ80Mg合金試料に適用し,実用サイズの高強度・軽量機械部品を試作した.

2. 実験方法

平均粒径20 μmの熱間押出AZ80Mg合金棒から,放電加工を用いて小型矩形状試料(寸法22.2 × 21.2 × 20mm3(アスペクト比 : 1.11 : 1.10 : 1.00))を切り出した.試料の化学組成をTable 1に示す.このアスペクト比は,Δε=0.1のパス間ひずみでMDF加工するためのものである.既に報告されているように,このような小さなパス間ひずみは,先鋭な(0001)集合組織の発達を効果的に抑制することが可能で,したがって高累積ひずみ域までの冷間MDF加工を可能とする[7].Fig. 1(a)とFig. 1 (b)に示すように,出発試料は等軸な結晶粒組織を有しており,また析出物はほとんど観察されなかった.アムスラー型万能試験機を用い,室温,初期ひずみ速度3.0 × 10-3 s-1の条件で試料をMDF加工した.最初の鍛造軸は押出軸と平行とし,MDF加工は累積ひずみΣΔε= 2.9,すなわち最大で29パスの鍛造まで行った.この際,MDF加工の鍛造パス毎に鍛造軸は90°回転された[5-7].この手法により,試料はMDF加工中に成形することなく,29パスまでの連続的な鍛造が可能となった.Fig. 2(a)に,MDF加工後の試料の例を示す.MDF加工前あるいは加工中に,いくつかの試料に対して423K × 1hの時効処理を施した.この時効条件は,後述(3.1節)する熱間押出材およびMDF加工材の時効硬化曲線から決定された.

Table 1 Chemical composition of the AZ80Mg alloy in mass %.

Fig. 1 Microstructures of the samples: (a) and (b) as-hot extruded and (c) aged at 473 K for 5.4 ks. Observation was carried out using (a) optical microscope and (b), (c) transmission electron microscopy, respectively.
Fig. 2 (a) Image of small-sized AZ80Mg alloy sample MDFed to cumulative strain of ΣΔε = 1.0; (b) schematic illustration depicting the preparation of tensile specimens and planes for microstructural observations. F.A. denotes final forging axis.

以降では,時効処理およびMDF加工の前後で,最終鍛造軸に平行な面(Fig. 2(b))に発達した微視組織を光学顕微鏡,結晶方位分散分析装置(SEM-OIM/㈱日立製作所 S-4300 - TexSemLab. AnalySIS4)および透過型電子顕微鏡(TEM/日本電子㈱ 2000FX)を用いて観察した.引張試料(ゲージ寸法2.5 × 5.0 × 0.7mm3)は,引張方向が最終鍛造軸と垂直になるように,1パス前の鍛造面から放電加工によって切り出した(Fig. 2 (b)).引張試験は,インストロン型試験機を用いて,室温,1.0 × 10-5 s-1〜1.0 × 10-1 s-1の初期ひずみ速度で行った.ビッカース微小硬度計を用いて,MDF加工と時効熱処理を用いたプロセス中の硬さ変化を調べた.さらに,ひずみゲージ法およびダイナミック超微小硬度計(㈱島津製作所DUH-211)を用いてヤング率を測定した.

これらの小型試料の実験から選択されたプロセスは,大型鍛造機を使用した大型試料(約142 × 141 × 128mm3)のMDF加工に適用された.大型鍛造機によるMDF加工は,川本重工㈱のご協力のもとに行った.MDF中の試料のアスペクト比は1.11 : 1.10 : 1.00に保ち,歩留まり向上のためMDF加工中の表面切削加工などの成形は行わなかった.引張試験は,小型試料と全く同じ手法で行った.

3. 実験結果

3.1 AZ80Mg合金小型試料のMDF加工と時効処理

熱間押出材と単純なMDF加工材(累積ひずみΣΔε= 1.0およびΣΔε= 2.0)を,423Kおよび473Kにて時効処理した際の硬さ変化をFig. 3に示す.熱間押出材の硬さ上昇分は,423KでΔ123HV,473KでΔ130HVと,明確な硬化を示した.対照的に,単純なMDF加工材はMDF加工の累積ひずみ量や時効条件に関係なく,単調な軟化を示した.特に,より高温,より高累積ひずみの単純なMDF加工材で,軟化はより顕著であった.ところが,このような時効硬化が不十分と考えられる試料においても,緻密な析出物の形成がTEM観察によって確認された(Fig. 1(c)).したがって,Fig. 3の時効処理中に観察された軟化は,回復による軟化が時効硬化の効果を上回ったことによる.以上の結果から,冷間MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスでは,423K × 3.6ksを時効処理条件とすることにした.

Fig. 3 Ageing behavior at 423 K and 473 K of AZ80Mg alloys as-hot extruded (ΣΔε = 0) and MDFed in advance to ΣΔε = 1.0 and ΣΔε = 2.0. Samples are indicated by the combination of MDFing cumulative strain in advance and ageing temperature. “ΣΔε = 1.0, 473 K” shows that sample was MDFed to ΣΔε = 1.0 in advance and then aged at 473 K.

MDF加工と時効処理(423K × 3.6ks)を施す,組み合わせプロセスで作製された小型試料の,MDF加工中の真応力-累積ひずみ曲線をFig. 4に示す.すべての条件で,高累積ひずみまでの冷間MDF加工が可能であった.興味深いことに,すべての真応力-累積ひずみ線曲線は,明瞭な降伏とそれに続く加工硬化を示していた.各鍛造パスにおける鍛造応力のピーク値は,低累積ひずみ域で急増し,その後,中間および高累積ひずみ域で徐々に増加した.注目すべきは,時効処理後も鍛造応力のピーク値が低下しないことであり,Fig. 3に示した時効処理条件が適切であったことを示している.また,単純なMDF加工中には,熱間押出材の底面集合組織に起因する3サイクル周期での鍛造応力ピーク値の振動が観察されたが,高累積ひずみ域でこの現象は小さくなる傾向にあった(Fig. 4 (a)).これは,初期集合組織が双晶の高密度導入によって弱まり,機械的特性が等方的になったことによる[7].しかし,時効処理した試料では,高累積ひずみ域までのMDF加工後でも鍛造応力ピーク値の振動は比較的顕著で,これは析出物が双晶変形を阻害することと関係していると推察される.実際,MDF加工と時効処理を組み合わせた試料では,双晶の発生が非常に少なかった(Fig. 6参照).そのため,結晶方位のランダム化は比較的抑制された.時効材後にMDF加工した場合,高累積ひずみ域で表面亀裂が発生した例が見られた.これは,析出物の存在下で加工硬化がわずかに高まったことに加え,塑性変形能と双晶変形が減少したことが原因である.AZ系Mg合金に形成される硬いMg17Al12析出物のβ相は[10],双晶変形を抑制する[11].適用プロセスに関係なく,すべての鍛造応力はおおよそ450 MPaで飽和した.

Fig. 4 True stress vs. cumulative strain curves obtained by combined processes of MDFing of small samples at room temperature with pass strains of Δε = 0.1 and ageing at 423 K for 3.6 ks. Red and black flow curves indicate MDFing before and after ageing, respectively, i.e., (a) simple MDFing to ΣΔε = 2.0 (20 passes) [7], (b) MDFing (5 passes) + ageing + MDFing (20 passes), (c) MDFing (10 passes) + ageing + MDFing (14 passes), (d) MDFing (21 passes) + ageing + MDFing (8 passes) and (e) ageing + MDFing (20 passes). (online color)

MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスによる硬さ変化をFig. 5にまとめた.すべてのプロセスで,硬さは累積ひずみとともに単調に増加した.具体的には,MDF加工後に時効処理を行った組み合わせプロセスが最も高い硬度を示した.累積ひずみΣΔε = 0.5までのMDF加工後の時効処理では,続くMDF加工後の硬さは単純なMDF加工とほぼ同等であった.一方,ΣΔε = 1.0までMDF加工を施した後に時効処理を施した試料では,時効中の回復・軟化のために硬さはかなり低下したものの(Fig. 3),高累積ひずみ域まで追加MDF加工により,硬さは際立って高くなった.これらの結果は,単純なMDF加工での硬化に比べ,時効を伴うプロセス条件での硬化は,MDF加工中の加工硬化に析出物が強く影響していることを示している.最終的に,MDF加工と時効処理を組み合わせたプロセスでは,累積ひずみΣΔε = 2.0で1.3GPaを超える高硬度が達成された.本研究での最高硬度の1.36GPaは,ΣΔε = 1.0までのMDF加工とその後の時効処理,さらに追加のΣΔε = 2.4までのMDF加工によって達成された.これは,途中の時効処理による軟化にもかかわらず,追加のMDF加工によって大きな加工硬化が生じたためである.このように,組み合わせプロセスによって作製された試料は,高累積ひずみ域において,単純なMDF加工によって作製された試料よりも高い硬さを示した.さらに,MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスよって作製されたAZ80Mg合金の硬さは,冷間MDF加工および降温MDF加工によって作製されたAZ61Mg 合金の硬さ[5,12]よりも非常に高かった.

Fig. 5 Variations in the hardness of AZ80Mg alloys during combined processes of MDFing and ageing at 423 K for 3.6 ks. For comparison, the hardness achieved by the simple MDFing to ΣΔε = 2.0 is indicated by triangle symbols after Ref. [7]. Results of MDFed AZ61Mg alloys prepared by MDFing at room temperature [12] or MDFing under decreasing temperature conditions [5] indicated by dotted lines for comparison.

3.2 小型試験片のMDF加工中の微視組織変化

TEMで観察された典型的な微視組織の例をFig. 6に示す.粗大な初期組織(Fig. 3)は,2パスのMDF加工中に,高密度の変形双晶の生成と初期結晶粒の分断によって,微細化された(Fig. 6(a)).形成された双晶の大部分は{1 0 -1 2}引張双晶であり,一部ではこれら双晶が互いに交切し合っていた.MDF加工の継続は変形双晶による組織のさらなる細分化をもたらし,より微細な針状組織を形成させた(Fig. 6 (b)).このような針状超微細粒組織の形態は,降温MDF加工によって発達した等軸超微細粒組織のそれとは大きく異なっていた[5, 6].直線横断法で測定したところ,累積ひずみΣΔε = 2.0での平均結晶粒径は0.3μmであった.このように,冷間MDF加工による超微細粒組織は,高密度の双晶導入によって組織の断片化が進むため,わずかΣΔε = 2.0という比較的低い累積ひずみで達成された.しかし,冷間MDFと時効処理の組み合わせプロセスによって得られた結晶粒組織(Fig. 6(c))は,高累積ひずみ域においても単純な冷間MDF加工組織(Fig. 6(b))よりも大きく,析出物が双晶変形を抑制していることを示唆している[11].Fig. 7に示すように,単純な冷間MDF加工中の低累積ひずみ域での超微細粒組織形成には,二重双晶の頻発,すなわち母双晶内部への2次双晶の高頻度形成による結晶粒の細分化,が大きく寄与している(Fig. 7).高累積ひずみ域でのこれら高次双晶の平均間隔は50nm前後であった(Fig. 7(b)).したがって,組織の実際の平均粒径は0.3 μmより小さいと判断される.これまでの研究で,400MPaを超える高鍛造応力下で形成される多重双晶は,結晶粒の分断と組織の微細化プロセスを著しく加速することが報告されている[7].しかし,本研究においては,MDF加工時に生じた大きなひずみによって,高累積ひずみ域で観察された変形双晶の結晶学的方位関係の詳細な分析は困難であった.

Fig. 6 Evolved microstructures in small samples by (a) multidirectional forging (MDFing) to ΣΔε = 0.2; (b) MDFing to ΣΔε = 2.0; (c) MDFing to ΣΔε = 1.0, followed by ageing at 423 K for 3.6 ks and further MDFing to ΣΔε = 2.4 in total (i.e., additional ΣΔε = 1.4 ). F.A. denotes final forging axis.
Fig. 7 Typical photographs of double twinning formed after multi-directional forging to (a) ΣΔε = 0.2 and (b) ΣΔε = 2.0. F.A. indicates final forging axis.

MDF加工中の微視組織変化をOIMを用いて観察し,典型的な組織マップとそれに対応する逆極点図をFig. 8に示す.Fig. 6およびFig. 7では,微細双晶が高密度に形成されたことが確認できたが,そのほとんどは小さ過ぎるかあるいはMDF加工中の方位変動や加工ひずみのために,OIMでは検出できなかった.しかしながら,Fig. 8からは,粗大な初期結晶粒は,変形双晶とキンクによって巨視的なスケールで徐々に細分化されたことが確認できる.OIMで観察されたMDF加工による各種双晶の分布をTable 2にまとめた.全体として,OIMによって確認された双晶の大部分は{1 0-1 2}引張双晶であり,その比率はΣΔε = 0.1で99.7%,ΣΔε = 0.7で92.1%であった.一方,{1 0 -1 1},{1 1 -2 1},{1 1 -2 2}双晶は累積ひずみとともに増加する傾向があるものの,その割合はかなり低く,このような微細な双晶の正確な分布測定はOIMでは困難であった.他の変形双晶と比較して,低累積ひずみ域で引張双晶がより多く発生したのは,臨界分解せん断応力(CRSS)値が小さかったためと考えられる.しかし, CRSSが高い他の変形双晶は,高累積ひずみ域で多く発生するようになった.これは,後述するCRSSを超えるMDF加工の鍛造応力(Fig. 4)に起因する.興味深いことに,Fig. 8(b), Fig. 8 (c)の同一面上での底面集合組織の強度は,最初の鍛造時に急増したものの,3パス鍛造後(ΣΔε = 0.7)には減少した.高累積ひずみ域での底面集合組織強度低下は,Δε = 0.1の小さなパス間ひずみを用いたMDF加工とその際に形成される高密度の変形双晶形成に関連している可能性があり[7],このことについては後述する.

Fig. 8 Variations in microstructure with increasing cumulative strain of MDFing: (a) as-hot extruded, (b) MDFed to ΣΔε = 0.1, and (c) MDFed to ΣΔε = 0.7. Notably, the same plane of the sample was observed (a) before forging, (b) after one-pass forging, and (c) after three passes of forging at the same plane. Corresponding inverse pole figures with the maximum intensities are presented. In (b), white arrows indicate examples of kinks. Characteristics of grain boundaries are denoted as follows: 1°-3° boundaries (white strip); 3°-15° boundaries (black strip), >15° boundaries (black-bold lines), and Σ3 twin boundaries (purple bold lines). (online color)
Table 2 Change in the twin character distribution by MDFing. Fraction here indicates the ratio among the all grain boundaries.

3.3 MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスによる引張特性の変化

MDF加工と時効処理の様々な組み合わせプロセスで作製したAZ80Mg合金を室温で引張試験した.得られた典型的な応力-ひずみ曲線をFig. 9に示した.Fig. 9より,単純にMDF加工したAZ80Mg合金では,低累積ひずみ域において引張強さが急激に増加したが,高累積ひずみ域ではその強度上昇は緩やかになった.ΣΔε = 2.0において,降伏応力530MPa,UTS650MPaの極めて高い強度と9%の十分な延性が達成された.また,組み合わせプロセスにおいても,条件に関係なく,同等の機械的特性が得られた.MDF加工と時効処理の様々な組み合わせプロセスによって達成されたAZ80Mg合金の機械的特性をTable 3にまとめた.Table 3から明らかなとおり,すべてのプロセスで達成された硬さとUTSは,初期材と比較して著しく高かった.すべてのプロセスで,降伏応力とUTSはそれぞれ500MPaと600MPaを超えた.極めて高い降伏応力は,ひずみ硬化と結晶粒超微細化の複合効果によるものと考えられる.さらに重要なことは,SPD後であるにもかかわらず,伸びが7%以上,UTSが600MPa以上と,非常に優れた機械的特性のバランスを示した点である.ところで,応力-ひずみ曲線の弾性領域で,試料毎に傾きにわずかな変化が観察された(Fig. 9).この傾きは,累積ひずみの増大とともに大きくなる傾向があり,この原因調査のため動的硬さ試験機とひずみゲージ法を用いてヤング率を調査した.測定したヤング率の平均値は,熱間押出材の43GPaから,ΣΔε = 2.0まで単純にMDF加工したMDF材の約54GPaまで徐々に増大した.したがって,ヤング率測定値の変化は,MDF加工の影響を受けている可能性がある.さらには,ΣΔε = 2.0までのMDF加工後は,ヤング率の異方性は見られなくなった.したがって,ヤング率の変化は,結晶粒径,欠陥密度,蓄積ひずみエネルギー,集合組織,およびその他の関連因子の影響を受けていると推察される.これらの詳細については,今後の検討課題である.

Fig. 9 True stress vs. nominal strain curves obtained by tensile tests of various processed AZ80Mg samples at an initial strain rate of 1.0 × 10-3 s-1 at room temperature. Tensile tests were carried out to the normal direction of the final forging axis or parallel to the hot extrusion direction. The ageing conditions were (a) at 473 K for 5.4 ks, and the others at 423 K for 3.6 ks. The process of “ΣΔε = 1.0 + age + ΣΔε = 1.4” indicates that MDFing was carried out to ΣΔε = 1.0 first and, then, followed by ageing and further MDFing to ΣΔε = 1.4, i.e., MDFing to ΣΔε = 2.4 in total. Some of the flow curves in (a) are after Ref. [7]. (online color)
Table 3 Mechanical properties of AZ80Mg alloys processed by simple MDFing and combined processes of MDFing and ageing at 423 K for 3.6 ks. Tensile test was conducted at a strain rate of 1.0 × 10-3 s-1 at room temperature. The process of “ΣΔε = 0.5 + age + ΣΔε = 2.0” indicates that MDFing was performed to ΣΔε = 0.5 in advance, followed by ageing and additional MDFing to ΣΔε = 2.0, i.e., MDFing to ΣΔε = 2.5 in total.

4. 小型試験片についての検討

小型のAZ80Mg合金試料は,MDF加工と423K × 3.6ksでの時効処理との組み合わせプロセスによって,成功裏に最大累積ひずみΣΔε = 2.9まで冷間MDF加工された.MDF加工中に,粗大な初期結晶粒組織は主に変形双晶よって細分化され,針状の超微細粒組織へと変化した.達成された平均結晶粒径は,最小で約0.3 μmであり,作製したすべてのAZ80合金のMDF材は,プロセスに関係なく,十分な延性と600MPaを超えるUTSを示した.極めて高い鍛造応力でのMDF加工は,通常のMg合金の塑性変形の条件下では決して起こらない様々な現象をもたらしていた.すなわち,(i) 450MPa前後の鍛造応力は,一般的にはその加工応力の達成前に試料破壊が生じるため,通常の塑性加工条件では実現できないこと,(ii) MDF加工中に鍛造軸を変化させながら極めて高い鍛造応力を繰り返し加えるため,高CRSSの双晶変形や幾何学的に小さなせん断係数を有する双晶の高密度の形成を可能とすること,などである.以下に,超微細粒組織形成のメカニズムと優れた機械的特性について検討する.

4.1. 超微細粒組織形成のための結晶粒組織の分割

熱間押出AZ80Mg合金の粗大な初期結晶粒は,MDF加工中に主として変形双晶の高密度形成とその交切によって細分化され(Fig. 6-Fig. 8),その結果,特異な針状超微細粒組織が形成された.この組織形態は,動的再結晶を利用した降温MDF加工によって形成される等軸超微細粒組織とは全く異なった[5, 6].双晶の幅は,単純なMDFの初期段階では0.5-4 μm程度であり,高累積ひずみ域では100nm以下に減少した(Fig. 6 (a), Fig. 6 (b), Fig. 7 (b)).双晶幅と双晶同士の間隔は,単純なMDF加工と比較して,MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスでは相対的に増大した.後者の場合,ΣΔε = 2.4までのMDF加工後でもそれらは1μm (Fig. 6 (c))よりも広くなった.Barnettらは高温ねじり試験の結果から,結晶粒径が5μm以下になると双晶変形は困難になると報告している[13].彼らの報告は,すなわち,双晶変形の臨界粒径の存在を述べている.それにもかかわらず,本研究の冷間MDF加工では,微細粒中にも双晶が高密度に形成された.これらの結果の相違は,彼らが実験で採用した高温変形の動的再結晶による加工軟化に起因する[3].すなわち,動的再結晶発現による加工軟化によって加工応力は著しく低くなり,双晶変形は困難となる.逆に,冷間MDF中には,極めて大きい加工硬化が高ひずみ域まで続く.400MPaを超える冷間MDF加工中の鍛造応力は,一般的な塑性加工条件におけるMg合金の破壊応力を大幅に超えるため,超微細粒組織においても様々な種類の変形双晶と高密度形成を誘発せしむる.万一,双晶面におけるせん断係数が小さい場合でも,次の鍛造パスのための鍛造軸の変更によってせん断係数が増大して双晶変形が可能となる.その結果,変形双晶による結晶粒の分断が進み,均一超微細粒組織が形成された.その一方で,MDF加工前の時効熱処理によって形成した微細析出物は,双晶変形を抑制し,その結果,時効処理を伴った組み合わせプロセスでは組織は相対的にやや大きくなった(Fig. 6).このような析出物による双晶変形の抑制は,StanfordとBarnettによって報告されている[14].さらに,本研究で示された析出物の存在による双晶変形の効果的な抑制は,400MPaを超える高い鍛造応力でも効果的に機能することが明らかとなり,興味深い.

冷間MDF加工中に様々な種類の変形双晶が形成された.OIM分析によって最も頻繁に観察された双晶は{1 0 -1 2}双晶で,他には{1 1 -2 2}双晶,{1 0 -1 1}双晶,{1 1 -2 1}双晶も低頻度だが検出された.OIMでは検出が困難な種類の双晶の形成も示唆される.{1 0 -1 2}引張双晶と{1 0 -1 1}圧縮双晶の平均CRSSは,それぞれ2MPaと115MPaと見積もられている[15].その結果,通常の塑性加工条件下では{1 0 -1 1}圧縮双晶などは頻繁には生じ難いものの,MDF加工中のパス毎の鍛造軸の変化と400MPaを超える非常に高い鍛造応力によって,他の稀な変形双晶が多数形成される可能性が高い(Fig. 4参照).高い鍛造応力が二重・多重双晶変形を促した結果,高密度に変形双晶が導入され,均一な針状超微細粒組織を形成するに至った[7].

冷間MDF加工中の底面集合組織の強度変化をFig. 10に示す.Δε = 0.1の小さなパス間ひずみの採用と高密度な二重・多重双晶の発現によって,底面集合組織の発達は抑制された.その集積強度は最初急激に増加し,ΣΔε = 0.1付近でピークを示し,その後のMDF加工によって19.1から4.4まで減少した.したがって,高累積ひずみ域までのMDF加工により,底面集合組織の集積強度は顕著に弱まった.累積ひずみΣΔε = 0.1における底面集合組織のピーク強度は,破壊までの単純圧縮によって得られた集積強度とほぼ同等であった.以上の結果は,Δε = 0.1のパス間ひずみが,高累積ひずみ域での連続的なMDF加工が可能なパス間ひずみの上限を示していると判断される.

Fig. 10 Variations in the intensity of basal texture during MDFing measured by OIM (refer to Fig. 7). Measurements were recorded thoroughly on the same plane. The intensity measured after simple compression to fracture is displayed for comparison.

変形双晶の高密度形成は,その母結晶に対する大きな結晶方位分布の変化をもたらすことから,組織全体の結晶方位のランダム化を引き起こす可能性がある.さらに,小さなパス間ひずみの採用は先鋭な底面集合組織が形成される前に,次の鍛造パスのために試料は90°回転される.Yangらは,AZ31Mg合金の熱間圧縮実験を行い,公称圧縮ひずみが10%を超えると,底面集合組織の発達に必要な結晶回転の程度が急速に増大することを実証している[16].したがって,本研究で採用した小さなパス間ひずみΔε = 0.1(~11%)は,このような大きな結晶回転と鋭い底面集合組織の発達の抑制に効果的に寄与したと言える.その結果,MDF加工中の小さなパス間ひずみと双晶変形の複合効果により,先鋭な底面集合組織の発達を抑えることに成功した.同時に,底面集合組織の先鋭化の抑制は,室温でのMDF加工の成否に大きな影響を与え,高累積ひずみ域までの冷間MDF加工を可能とした.さらに,底面集合組織発達の抑制は,次節で述べるように,優れた延性の確保にも効果的に寄与した.

4.2. 小型試験片の機械的特性

Mgの柱面すべりのCRSSは,底面すべりのCRSSよりも1桁大きい[17].したがって,室温で活動可能なすべり系は,本質的に底面すべりのみである.つまり,非底面すべり系は,特殊な条件を除けば塑性変形には関与しない.先行研究で報告されているように,底面すべりのみの活動によって形成される強い底面集合組織の発達は,延性を著しく低下させる.しかしながら,冷間MDF加工中の400MPa以上の極めて高い鍛造応力下では,非底面すべり系の活動をも可能とする(Fig. 4).同時に,非常に高い鍛造応力は,多重すべり発現に起因する加工硬化にも影響を与えた.なお,非底面すべり系の活性化と多重双晶の形成は,先鋭な底面集合組織の発達を抑制する要因としても作用し得る.多数のすべり系の活動は,分散した微細析出物とともに,大きなひずみ硬化を引き起こすであろう.この場合,結晶粒径が小さくなるにつれて加工硬化速度は大きくなる[18].すなわち,高鍛造応力下での冷間MDF加工によって,多重すべりの促進,加工ひずみ量増大に伴う転位密度の増加,双晶変形による結晶粒の分断と微細化,などの重畳効果によって極めて高い硬度が達成された(Fig. 5).

MDF加工されたAZ80Mg合金は,優れた機械的特性のバランスを示した(Fig. 9, Table 3).単純なMDF加工では,降伏応力とUTSはそれぞれ530MPaと650MPa,破断伸び9%であった.また,MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスでは,最小でも伸びが7%で,降伏応力とUTSはそれぞれ505MPaと612MPaを超えた.Miuraらは,AZ61Mg合金の降温MDF加工によって,それぞれ降伏応力300MPaとUTS430MPaが達成されたと報告した[5].降温MDF加工材の相対的に低い降伏応力300MPaは,MDF加工中の回復と動的再結晶の発現による.一方で,希土類添加型Mg合金では,400MPaに近い降伏応力が報告されている[19].しかし,本研究の冷間MDF加工によって達成された機械的特性は,降温MDF加工材や希土類添加型Mg合金の機械的特性よりも優れていると言える.特筆すべきは,冷間MDF加工したAZ80Mg 合金は,SPD後でもあるにもかかわらず十分な破断伸び(> 7%)を有していたことである(Table 3).この延性は,降温MDF加工した試料よりはかなり小さいが,希土類添加型Mg合金よりも大きい.したがって,市販AZ80Mg合金への冷間MDF加工により,バランスに優れた機械的特性を達成することができた.Fig. 10に示すように,累積ひずみ増加とともに,底面集合組織の強度が急速に減少し,結晶配向のランダム化が進んだ.Mg合金の低い室温延性は,活動可能なすべり系の制約によって底面集合組織が発達することによる.それにもかかわらず,MDF加工によるSPD後においても十分な延性が得られた.これは,i) 引張試験中の結晶学的回転を可能にする結晶方位のランダム化,ii) 引張試験中に非底面すべり系を活性化させるに十分な高引張応力による多重すべりの発現,によるものと考えられる.

既に報告されているように,室温での粒界すべり発現は,粒径が数μm程度以下になると延性を著しく向上させる[5, 6].また,粒界すべりの影響は低ひずみ速度での引張試験においてより顕著となる.延性に及ぼす粒界すべりの影響を評価するために,MDF加工によって作製したAZ80Mg試料を様々なひずみ速度で引張試験を行い,典型的な応力-ひずみ線図の例をFig. 11に示した.その結果,応力-ひずみ曲線はひずみ速度に依存しないと判断でき,他の降温MDFで作製された超微細粒Mg合金で観察されるような引張挙動のひずみ速度依存性は見られなかった[5, 6].引張試験のひずみ速度の増加に伴う強度の上昇と延性の低下は,引張試験において典型的な現象であり,通常サイズの結晶粒組織を持つ様々な金属材料で頻繁に観察される[20, 21].したがって,冷間MDF材では,針状超微細組織中のエッジ状の超微細結晶粒が粒界すべりを阻害し,仮に発現していたとしてもその影響は無視できる程度であると考えられる.同時に,極度に加工硬化した結晶粒は,広範な粒界すべりに必要な塑性適合を妨げる可能性が示唆される.

Fig. 11 Influence of tensile behavior on strain rate of AZ80Mg samples prepared by a process of MDFing to ΣΔε = 1.0, followed by ageing at 423 K for 3.6 ks and further MDFing to ΣΔε = 1.4, i.e., MDFing to ΣΔε = 2.4 in total. (online color)

いくつかの報告では,二重あるいは多重双晶が割れの引き金になるとされており[22],その結論は破断面における二重双晶の検出に基づいている.しかし,今回の結果は,二重双晶が割れを引き起こすとするこれら仮説を否定するものである.彼らの観察した破断箇所での二重・多重双晶の形成は,破断直前の応力集中と変形集中によるものと考えられる.逆に,本研究は,二重・多重双晶の高密度導入は割れを誘発しないことを示した.むしろ対照的に,高密度の二重・多重双晶の導入は,より優れた機械的特性をもたらし極めて有益であることを明らかにした.

5. 超微細粒組織AZ80Mg合金大型試料の作製と機械部品の製造

MDF加工と時効処理を組み合わせて作製した小型 AZ80Mg合金試料の組織と機械的特性を系統的に精査した結果,実用的な機械部品を製造するための大型の超微細粒組織試料の作製には,単純なMDF加工が最も効率的かつ有効なプロセスであると結論づけることができた.小型試料の冷間MDF加工から得られた加工プロセス条件を大型試料に適用した.以下にその方法と結果を述べるが,契約と機密上の関係上,実験条件の詳細についてはここではすべて明記できないことをご了承頂きたい.最適なプロセス,すなわちパス間ひずみΔε = 0.1の単純MDF加工を適用したが,高累積ひずみ域までのMDF加工中に破壊が頻繁に起こってしまった.また,MDF加工と時効処理の組み合わせプロセスを適用した場合は,目標とする機械的特性が得られなかった.大型試料のMDF加工中の頻繁な破壊発生は,材料体積内の欠陥の総数と欠陥サイズ分布に起因すると考えられ,欠陥サイズは材料体積に統計的に依存する[23].これらの実験結果から,小型試料に適した実験条件が,必ずしも大型試料の工業的製造に採用可能ではないことが明らかになった.一般的に,大型の熱間押出材では,より粗いβ相粒子がより高密度に分布している(Fig. 12).さらに,小型の押出材(Fig. 1)に比べて結晶粒径は大きく,不均一である.このような違いは,熱間押出比率や熱間押出後の冷却速度のばらつきによって生じる.試行錯誤の結果,大型試料のMDF加工にはさらに小さなパスひずみを採用した.その予備実験として,Δε = 0.07の小さなパス間ひずみでの小型試料のMDF加工と,その引張試験によって得られた応力-ひずみ曲線をFig. 13に示す.これは,実証の目的で小型試料を用いて得られたものである.Fig. 13の特徴として,鍛造応力は,Δε = 0.1のパス間ひずみに比べて大幅に減少した(Fig. 4).それにもかかわらず,累積ひずみΣΔε = 0.7で鍛造応力は300MPaまで上昇した.各鍛造応力-ひずみ曲線における顕著な降伏は,MFD加工の各鍛造パスにおける明確な塑性変形の発現を示している.最大鍛造応力は300MPaであったが,多重双晶化には十分大きい荷重である.実際,Fig. 6(a)の鍛造応力300MPaでのMDF加工による2パス鍛造後の組織は,緻密な双晶が発生可能なことを示している.

Fig. 12 Microstructure evolved in the hot-extrude large AZ80Mg alloy sample.
Fig. 13 True stress vs. cumulative strain curves obtained by MDFing with pass strains Δε = 0.07. Flow curves attained by simple MDFing of small-sized sample as example.

MDF加工で作製した大型試料と,それに対応する引張試験結果をFig. 14に示す.Fig. 14に示す通り,十分な大きさの試料をき裂なしに作製することに成功し,また試料の部位に依存しない均一な引張強さを示した.降伏応力とUTSはそれぞれ約420MPaと540MPaで,破断伸びは10%であった.したがって,Δε = 0.1よりも小さなパス間ひずみを採用することで,大型試料でも高い累積ひずみまでの冷間MDF加工と高強度化に成功した.これらの結果は,試料サイズによってSPDプロセスの最適加工条件が異なることを示唆しており,大変興味深い.MDF加工された大型 AZ80Mg合金試料から切削加工した実用機械部品サンプルの一例をFig. 15に示す.これらの機械部品は,超微細粒組織Mg合金の特性の利点を生かし,ジュラルミンや超ジュラルミン製品の代替品として採用可能である.

Fig. 14 (a) Produced large bulky AZ80Mg alloy sample by MDFing and (b) results of tensile tests. The numbers 1 and 2 in (b) indicate sampling parts of tensile specimens at the center and the corner of the rectangular-shaped large sample, respectively.
Fig. 15 Samples of mechanical components for practical applications, wheel hub of bicycle, bolt, and gears, machined from the bulk AZ80Mg alloy sample produced by MDFing. Samples produced by Kawamoto Heavy Industries Ltd., Japan.

6. まとめ

本研究では,熱間押出AZ80Mg合金に対して,室温での単純な多軸鍛造(MDF)加工,またはMDF加工と423Kでの時効処理による組み合わせプロセスを施した.小型試料で,最大累積ひずみΣΔε = 2.9までのMDF加工を行った.粗大な初期結晶粒は,MDF加工中に多重双晶とキンクによって分割され,平均粒径~0.3μmの針状超微細粒組織を形成した.MDF加工前またはMDF加工中に時効処理を組み合わせるプロセスによっても同様の超微細粒組織が得られたが,平均結晶粒径は単純なMDF加工よりもわずかに大きかった.したがって,析出物は双晶変形を抑制して結晶粒の分割を遅らせる.加工後の試料の機械的性質は,加工熱処理プロセスに大きく依存せず,全体として降伏強さ505MPa以上,UTS612MPa以上,破断伸び7%以上の優れたバランスを示した.MDFによる巨大ひずみ加工後にもかかわらず,適度な延性を示したのは,引張試験中の非常に高い付加応力下で活性化された多重双晶と多重すべりの発現,さらにはMDF材の結晶配向のランダム化による結果と考えられる.

しかしながら,小型試料の実験で検証されたMDF加工プロセスは,大型試料には適用できなかった.したがって,MDF加工プロセスは試料の大きさに応じて調整する必要があり,大型試料のMDF加工は,小型試料のMDF加工よりも小さなパス間ひずみを用いることで順次達成された.最後に,超微細粒組織を有するAZ80Mg合金の大型試料から,実用的な機械部品を切削加工によって製造することができた.

研究助成金(科研費)第20H00305号および軽金属奨学会の助成に感謝する.また,川本重工㈱の試料鍛造に対する多大なご協力に心より感謝する.

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