日本金属学会誌
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論文
使用済み難燃助剤の再資源化に着目した日本国内におけるアンチモンの物質フロー分析
山﨑 ゆきみ髙橋 和枝
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2025 年 89 巻 5 号 p. 195-204

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Abstract

Antimony has been long used for battery and flame retardant, yet, not highlighted as a critical metal so far, because of its diffusion into common consumption resulting in feeling of ubiquitousness. Now, in transformation to sustainable energy, its value is increasing due to demand for new technologies such as solar power and recent Chinese export control. Antimony trioxide, the biggest demand of antimony, is mainly used as flame retardant assistant which is contained in automobiles and electric appliances. The newest law for recycling of such products, “act on promotion of recycling of small waste electrical and electronic equipment” (came into effect in 2013) mentions collection of end-of-life products and recycling of useful metals. According to this law, collection of used small electrical and electronic equipment (SEEE) and recycling of metals contained in SEEE are progressing, while recycling of antimony is still uncertain. In this study, we conducted a substance flow analysis (SFA) of antimony in Japan to analyze the present condition of recycling of antimony as flame retardant assistant. In addition, we evaluated obtainable amount and economical effect by antimony recycling focused on SEEE, as well as environmental effects including other metals contained in board of SEEE. The result of SFA showed that in 2020, antimony as flame retardant assistant, sharing more than 70% of whole amount of end-of-life antimony in Japan, were all discarded into landfill through incineration/smelting or directly, except export. Furthermore, we revealed that recycling of antimony in SEEE might have remarkable benefit economically and environmentally. Based on these results, it is suggested that domestically recycling of antimony from end-of-life product in Japan should be more promoted.

1. はじめに

アンチモンは,最も古い金属の1つであり,蓄電池や難燃助剤等の用途で広く用いられてきた[1].これまでは注目されることが少ない地味な金属であったが,近年はレアメタルの1つとされ[2],従来の用途に加えて太陽光発電のソーラーパネルや風力発電のタービンに使用されている他,液体金属電池[3]やペロブスカイト[4]に活用されるなど,再生可能エネルギーへの転換において重要度を増している.一方で,アンチモンの価格は世界最大の生産国である中国による輸出規制[5]を受けて急激に上昇しており,今後は供給量の確保が困難となることも予想される.このため,使用済みのアンチモンを国内で再資源化して利用することは,供給量の安定化に加え,価格変動によるリスク軽減という意味から重要な課題と考えられる.

アンチモンのうち大きな需要を占める三酸化アンチモンは,主に合成樹脂類の難燃助剤として使用され[6],高い難燃性が求められる自動車部品や電化製品の筐体や基板に含まれている.これらの製品については資源回収のためのリサイクル法が順次制定されおり,最後に制定された小型家電リサイクル法(使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律:2013年施行)は,製品に含まれる有用金属に言及してその回収と再資源化の促進を目的としている.この法律に基づき,使用済み小型家電製品の回収や金属類の再資源化が進められているが,有用金属として再資源化が報告されているのは,鉄,アルミニウム,銅,金,銀,鉛に限られており[7],アンチモンの再資源化については実態が明らかでない.

アンチモンの再資源化に関する先行研究としては,渡辺ら[8]が,焼却される一般廃棄物中のアンチモンの由来と量を推定し,恒見ら[9]は,リスク評価の視点からアンチモンの物質フローを推定した.また,小口ら[10]は,使用済みの電気・電子製品の破砕選別処理工程におけるアンチモンを含む金属類の挙動を解析した.しかし,難燃助剤に主眼を置いて国内のアンチモンの供給から処分までの物質フローを推定した既報はない.また,使用済みアンチモンの再資源化による経済面,環境面の影響に関しては,髙橋ら[11]が,携帯電話からのアンチモンを含む金属類の再資源化による経済効果と環境負荷の評価を行い,山末ら[12]は,使用済みの家電製品からのベースメタル,貴金属等の素材リサイクルに伴う関与物質総量(TMR:Total Materials Requirement)を推算したが,難燃助剤の再資源化による経済面,環境面への影響を評価した先行研究はない.

そこで,本研究では,難燃助剤としてのアンチモンの再資源化の状況を明らかとすることを目的として,日本国内におけるアンチモンの物質フロー分析を行った.さらに,前述した小型家電リサイクル法によって有用金属の回収と再資源化が目的とされている小型家電(Small Electrical and Electronic Equipment, SEEE)に着目して,製品に含まれるアンチモンの再資源化可能性と経済的効果および環境面における効果を推定し,難燃助剤としてのアンチモンの再資源化による有効性と課題について考察する.

2. 方法

2.1  アンチモンの物質フロー分析

2000–2020年までの各種統計データを使用して,アンチモンの国内供給量,国内需要量,市中投入量,市中ストック量,使用済み量,処分・再資源化量を推定した.さらに,これらをとりまとめて2020年における日本国内のアンチモンの物質フローを作成した.

統計データを収集するために,金属アンチモンとアンチモン化合物(三酸化アンチモン,三硫化アンチモン)が使われている製品をそれぞれの用途に応じて分類した.金属アンチモンは,蓄電池,特殊鋼,その他の金属アンチモン(硬鉛鋳物,減摩合金,その他)に分類,アンチモン化合物は,三酸化アンチモンを難燃助剤とその他の三酸化アンチモン(塗料・顔料,ガラス,その他),三硫化アンチモンをブレーキ摩擦材と火薬類(花火,玩具用火薬,擬砲弾等)に分類した.難燃助剤はさらに用途ごとに自動車用,家電用,小型家電用,事務機器用,その他の難燃助剤(建材用等)に細分類した.小型家電のうちパソコンと携帯電話は,小型家電リサイクル法施行前から事業者等による回収や統計が行われていたので,これらの統計は他の小型家電とは別に扱った.

2.1.1  国内供給量の推定

鉱物資源マテリアルフロー[6]における「アンチモンの国内需給」では,わが国のアンチモン供給はすべてが輸入であるが,「アンチモンの輸出入数量」(2001–2020年)では,「素材」(塊・粉,酸化物,三硫化アンチモン)として一定量が輸出されている.これは輸入された素材が国内で流通することなく輸出された量と解釈して国内供給量からは除外することとし,各年統計値の「素材」の輸入量と輸出量の差をそれぞれ金属アンチモン,アンチモン酸化物,三硫化アンチモンの国内供給量とした.2000年については統計値がなかったため,2001年の数値とした.三硫化アンチモンは2016年以降貿易統計コードが削除されたために統計値がなく,それまでの統計値にも大きなばらつきがあるため,2000–2015年の統計値を平均した数値を各年の国内供給量とした.

2.1.2  国内需要量の推定

金属アンチモン(蓄電池,特殊鋼,その他の金属アンチモン)および三硫化アンチモンの国内需要量は,鉱物資源マテリアルフロー[6]における「金属アンチモンの用途別需要量」の各年統計値とし,難燃助剤およびその他の三酸化アンチモンの国内需要量については,工業レアメタル[13]における「三酸化アンチモン用途別出荷実績」の各年統計値に純分換算率として82.5%を乗じた数値を国内需要量とした.難燃助剤については以下のとおり算出方法を設定して用途ごとに国内需要量を按分した.三硫化アンチモンは,ブレーキ摩擦材について国内需要量を算出し,三硫化アンチモンの国内需要量からブレーキ摩擦材の量を引いたものを火薬類の国内需要量とした.

(1)難燃助剤各用途の国内需要量算出方法

難燃助剤は多様な製品に広く使用されており,個々の製品についてアンチモンの含有有無や割合を個別に調査することは困難である.そこで,本調査では製品を用途ごとに大きく分類してその合計重量を算出し,これにアンチモンの含有割合を乗ずることで分類ごとにアンチモン量を推定した.アンチモンの含有割合は,プラスチック製造実績[14]において難燃助剤を使用していると考えられる製品分類(機械器具部品のうちの輸送機器用,電気通信用,その他,建材のうちの床材,発泡製品のうちの板物)の各年生産量の割合と整合するように各年の難燃助剤用途のアンチモン国内需要量を自動車用,電化製品用,その他の難燃助剤に按分し,自動車用,電化製品用(家電用,小型家電用,事務機器用の合計)について,各製品の重量から算出した各年の含有割合の平均値とした.

(a)自動車用

自動車の重量は,全国道路・街路交通情勢調査の車両重量分布[15]から,1台あたりの車体平均重量を乗用車は1.18 t,トラック・バスは1.85 tとして,自動車年間生産台数の各年統計値[16]を乗じた.アンチモンの含有割合は0.015%とした.

(b)家電用

家電の重量は,家電4品目(エアコン,冷蔵庫,洗濯機,テレビ)の1台あたりの平均重量をそれぞれ44 kg,57 kg,30 kg,28 kg[17]とし,年間生産台数を家電機器出荷等統計[18]または生産動態統計[19]の各年統計値としてこれに乗じて合計した.アンチモンの含有割合は0.073%とした.

(c)小型家電用

小型家電リサイクル法の対象となる96品目[20]のうち,年間生産台数を把握できたのは,パソコン2品目(デスクトップ,ノートパソコン),携帯電話,およびその他の小型家電18品目(モニター,プリンター,電気機械器具11品目,電子機械器具5品目)に限られた.そこで,これらの各品目の製品1台あたりの平均重量をTable 1のとおり(文献値[17]またはインターネット調査)とし,年間生産台数を家電機器出荷等統計[18],生産動態統計[19]または日本の電子工業の生産等実績表[21]の各年統計値としてこれを乗じて各品目の重量を算出した.さらに,18品目の重量の合計値に係数として3.25(18品目の合計製品重量と,パソコン,携帯電話以外の93品目の合計製品重量の比率[20])を乗じたものを93品目の合計重量として,パソコン,携帯電話の重量を加えて小型家電全体の重量とした.アンチモンの含有割合は家電用と同様とした.

Table 1 Average weight of each SEEE*1 products.

(d)事務機器用

事務機器のうち年間生産台数を把握できた複写機について,1台あたりの平均重量を91 kg(インターネット調査)とし,これに年間生産台数を生産動態統計[19]の各年統計値としてこれに乗じて複写機の重量とした.さらに,係数として2(複写機と事務機器全体の出荷量の比率[22])を乗じたものを事務機器全体の重量とした.アンチモンの含有割合は,家電,小型家電と同様とした.

(e)その他の難燃助剤用途

その他の難燃助剤用途の国内需要量は,難燃助剤全体の国内需要量から前記(a)–(d)で推定した各用途の量を引いた値とした.

(2)ブレーキ摩擦材の国内需要量算出方法

ブレーキパッド製品の重量にアンチモン含有割合を乗じて,ブレーキ摩擦材用途のアンチモン量を推定した.ブレーキパッドの重量は,ブレーキパッド1枚あたりの平均重量を295.18 g[23],1台に4枚使用として,自動車年間生産台数の各年統計値[16]を乗じて算出した.ブレーキパッド中のアンチモン含有割合は,既報の推定値(2007)[24]から2007年までは1.3%とし,その後は毎年3%ずつ減少するものとし,2020年に0.78%とした.

2.1.3  市中投入量の推定

金属アンチモン,その他の難燃助剤,難燃助剤以外の三酸化アンチモン,火薬類については,国内需要量を市中投入量とした.難燃助剤とブレーキ摩擦材の市中投入量については,以下に示す各用途の市中投入数に国内需要量の推定において想定した各用途製品の重量とアンチモン含有割合を乗じて算出した.

(1)難燃助剤各用途の市中投入台数

(a)自動車用

自動車の市中投入台数は自動車年間販売台数[16]とした.

(b)家電用および小型家電用

家電と小型家電の市中投入台数は,家電機器出荷等統計[18],生産動態統計[19]および日本の電子工業の生産等実績表[21]の統計値の生産量に輸入量を加え,そこから輸出量を引いたものとした.

(c)事務機器用

事務機器の市中投入台数は,生産動態統計[19]の国内出荷台数とした.

(2)ブレーキ摩擦材の市中投入枚数

ブレーキ摩擦材の市中投入枚数は,自動車年間販売台数[16]から1台に4枚使用として算出した.

2.1.4  市中ストック量,使用済み量の推定

市中ストック量と使用済み量を算出するために動的マテリアルフロー分析を使用した.動的マテリアルフロー分析は,時系列の素材の消費量データと使用年数分布から時間に沿った蓄積量やスクラップ排出量の変化を推計する方法であり,寿命分布としてワイブル分布を仮定し,時系列の消費量データは市中投入量とした.

ワイブル分布関数は,耐久消費財の寿命を分析する際によく用いられ,式(1)で表すことができる[9, 23, 25].ここで,Wt(y)t年末において平均使用年数yt年の製品が経過年数y年までに使用済みとなった割合,Γはガンマ係数,bは使用年数分布の幅の狭さを示すパラメータである[25].

  
$$ W_{t}(y) = 1 - \exp \bigl(-(y/y_{t})^{b} \times (\Gamma (1+1/b))^{b} \bigr) $$ (1)

また,ある年における市中ストック量は,式(2)で表すことができ,Ntt年末における市中ストック量,Ptt年における製品の市中投入量,Ft(i)t年よりi年前に市中投入された製品のうち,t年末までに使用済みとなった割合である.

  
$$ N_{t} = P_{t} + \Sigma_{[i=1]} \bigl( P_{t-i} \times (1 - F_{t} (i)) \bigr) $$ (2)

既報[9]にならい,bを3.5として各用途の製品の平均使用年数から各用途におけるアンチモンの使用済み量と市中ストック量を推定した.各製品の寿命(Table 2)は,自動車は自動車リサイクルデータBook[26]における引取車両の平均使用年数,家電,パソコン,携帯電話は消費動向調査[27]における各平均使用年数とした.パソコンと携帯電話を除く小型家電の寿命については,電気機械器具は家電と同じ年数,モニター,プリンターおよび電子機械器具はパソコンと同じ年数とした.事務機器の寿命は家電と同じ年数とした.金属アンチモン,その他の難燃助剤,難燃助剤以外の三酸化アンチモンの平均使用年数については既報[9]によった.その結果,自動車の寿命,家電,電気機械器具,事務機器の寿命,その他の難燃助剤の50%(主に建材が想定される)の寿命が,それぞれ16年,11.8年,30年であり,これらの動的マテリアルフロー分析のためには調査期間よりもさらに長期の市中投入量データが必要と考えられた.ここで,難燃助剤用途の国内需要量は1980年以降の統計値が得られたが[13],用途ごとの按分に使用したプラスチック製造実績[14]は1993年以降の統計値に限られた.このため,自動車と家電等は1993–1999年までの市中投入量を算出して分析を行い,その他の難燃助剤用途については,1993年における難燃助剤の市中投入量全体との比率(42%)を1980–1992年までにおいても同様であると仮定して分析を行った.火薬類については,製造年内にほとんどが使用されると仮定して平均使用年数を1年とした.

Table 2 Expected lifetime of antimony containing products.

2.1.5  処分・再資源化量の推定

各製品に含まれるアンチモンが製品の使用済み後に再資源化,輸出,最終処分のいずれかとなるまでの評価用モデル(Fig.1)において,製品ごとの各段階におけるアンチモンの割合をTable 3のとおり設定し,各製品に含まれるアンチモンの処分・再資源化量を推定した.使用済み製品については,不法投棄や不法輸出が一定数あると考えられるが,本調査では考慮しなかった.金属アンチモンを含む製品(鉛蓄電池,特殊鋼,その他の金属アンチモン製品)は,それぞれ80%,80%,50%が製品回収され[28],鉛蓄電池は10%が輸出されるものとした.回収された各製品中のアンチモンはすべて再資源化され,製品回収,輸出されなかったものは処分とした.処分方法は鉛蓄電池と特殊鋼は直接埋立,その他の金属アンチモンは,一般廃棄物における焼却と直接埋立の割合[29]を参考として,75%が焼却,25%が直接埋立とした.アンチモン化合物のうち難燃助剤の各用途とブレーキ摩擦材については,以下に示す算出方法で各割合を設定した.その他の三酸化アンチモン製品については75%が焼却,25%が直接埋立とした.火薬類は,市中投入量の全量が環境中に拡散されることとした.焼却処分された各製品中のアンチモンは焼却残渣中に移行し[30],最終的には埋立されるものとした.なお,一部の焼却施設では焼却残渣のセメント原料化に併せて溶融処理による金属回収が行われているが,アンチモンは回収されていない[31].また,使用済み製品の回収後に,分別されて溶錬による金属回収が行われている例もある[32]が,アンチモンは回収されていないことから,最終的に埋立されるものとした.

Fig.1 Model for treatment estimation of used products containing antimony.
Table 3 Estimated flow ratio on each treatment of antimony.

(1)難燃助剤各用途の処分・再資源化量算出方法

(a)自動車用

各年の統計値[33]における使用済み自動車発生台数に対する中古車輸出台数の割合を輸出の割合として,残りを製品回収とした.回収製品中のアンチモンはすべて処分され,処分方法はシュレッダーダスト(ASR)の再資源化率[33]を焼却または溶錬処分とし,残りは直接埋立とした.なお,使用した統計は自動車リサイクル法が施行された2005年以降のデータに限られたため,2000–2004年については,使用済み台数と輸出台数の割合を2005年と同じものとし,処分方法はすべて直接埋立とした.

(b)家電用

各年の統計値[34]における排出製品台数に対する再商品化台数の割合を製品回収割合,海外スクラップ台数と海外リユース台数の合計の割合を輸出割合として,残りはこれら以外のルートとした.統計値がない年は直近の数値を使用し,家電リサイクル法の施行(2001年)以前となる2000年は製品回収されていないものとした.また,2018年以降は輸出台数の統計値がなかったが,2017年の中国による輸入規制[35]を考慮して2017年の1/2として,残りは輸出・回収以外のルートに加えた.回収された製品の処分方法は焼却または溶錬処分とした.輸出・回収以外のルートの処分方法は75%が焼却,25%が直接埋立とした.

(c)小型家電用

パソコン,携帯電話,およびこれら以外の小型家電の流れを個別に推定した.

パソコンについては,2008年の推計[36]における使用済み製品台数に対する国内資源再生台数の割合(43%)を製品回収割合,中古品輸出台数とスクラップ輸出台数の合計の割合(52%)を輸出割合とし,残りの5%はこれら以外のルートとして各年に適用した.2018年以降の輸出割合は,2017年の1/2とし,残りは輸出・回収以外のルートに加えた.

携帯電話については,2012年の推定値[20]におけるMRN回収割合(35.2%)を製品回収割合,最終処分割合(30.2%)を輸出・回収以外のルートの割合とし,残りの34.6%を輸出割合として各年に適用した.2018年以降の輸出割合は,2017年の1/2とし,残りは輸出・回収以外のルートに加えた.

パソコンと携帯電話を除く小型家電については,小型家電リサイクル法が施行された2013年以降については,経済産業省と環境省の合同会合[37]で報告された各年の「小型家電リサイクル制度の施行状況について」の「使用済小型家電の排出後フロー図」における一般廃棄物と産業廃棄物の排出量の合計,市町村や小売店等からの認定事業者の製品回収量の合計,海外スクラップ業者等と海外リユース業者等への量の合計を,それぞれ使用済み製品量,製品回収量,輸出量とし,それ以外を輸出・回収されなかった量として割合を算出した.統計値がない年は直近の数値を使用した.2019年以降は製品回収量以外の統計値がないため,2018年の1/2とし,残りは輸出・回収以外のルートに加えた.小型家電リサイクル法施行以前の2012年までの使用済み製品量は2008年の統計値[20],輸出量は2013年の統計値[37]を使用し,製品回収量は0とした.回収された製品中のアンチモンは家電用と同様にすべて処分され,処分方法はすべて焼却または溶錬とした.輸出・回収以外のルートでは75%が焼却,25%が直接埋立とした.

(d)事務機器用

事務機器は主な使用形態がレンタルやリースであることから,使用済み後は100%が製品回収されることとし,回収された製品中のアンチモンは家電用と同様にすべて処分され,処分方法はすべて焼却または溶錬とした.

(e)その他の難燃助剤用途

その他の難燃助剤用途の製品については,処分方法の割合のみを設定し,75%が焼却,25%が直接埋立とした.

(2)ブレーキ摩擦材の処分・再資源化量算出方法

ブレーキパッドの摩耗率を既報[9]から年あたり10%として,摩耗分は環境中に拡散し,使用済み後はすべて製品回収されることとした.回収された製品中のアンチモンはすべて処分され,処分方法は直接埋立とした.

2.1.6  感度分析

物質フロー分析の推定では,統計値が得られなかったデータについて仮定を行ったことから,次の値をパラメータとして±20%変動させたときの影響を分析した.2.1.2項(2)において,ブレーキパッド中の2008年以降の減少割合(毎年3%)をパラメータとして変化させ,2020年のブレーキ摩擦材用途の使用済みアンチモン量の推定結果への影響を分析した.2.1.4項において,その他の難燃助剤用途の寿命が30年の製品の割合(50%),および1980–1992年までのその他の難燃助剤用途の市中投入量の難燃助剤用途全体に対する比率(42%)を,それぞれパラメータとして変化させ,これらの変動による2020年の難燃助剤用途の使用済みアンチモン量推定結果への影響を分析した.

2.2  アンチモンの再資源化可能性と経済面,環境面における効果

使用済み小型家電に含まれるアンチモンが再資源化されることを想定し,再資源化可能量,経済面,環境面における効果を考察した.

2.2.1  再資源化フローの想定

小型家電に含まれるアンチモンを再資源化する過程をFig.2のとおり想定した.すなわち,製品の分別後に,基板から製錬によってアンチモンが再資源化され,基板以外の筐体等については焼却後の残渣を溶融して得られる溶融メタルから製錬によってアンチモンが再資源化される.この際,小型家電中のアンチモンは,40%が基板に含まれ[38](パラメータA),残りの60%は筐体等のプラスチック部分に含まれるものとした.また,焼却・溶融後は47%が溶融メタルに移行[30](パラメータB)し,基板と溶融メタルは製錬によって60%が再資源化される[39](パラメータC)ものとした.

Fig.2 Assumed recycling flow of antimony in SEEE.

2.2.2  再資源化量の推定

使用済み小型家電製品から製品回収される割合を変化させた4つのシナリオを設定し,それぞれのシナリオで回収された製品から再資源化されるアンチモンの量を推定した.シナリオ1は,2020年度の統計上の実績[7, 40]で製品回収した場合(20.3%),シナリオ2は,小型家電リサイクル法で設定された製品回収目標量[40, 41]を製品回収した場合(27.7%),シナリオ3は,家電の製品回収率(70.3%)[42]で製品回収した場合,シナリオ4は,使用済み製品をすべて製品回収した場合とし,それぞれの割合を本研究で推定した2020年の使用済み小型家電に含まれるアンチモン量に乗じて算出した.

2.2.3  経済面における評価

前項の各シナリオで推定されたアンチモンの再資源化量にアンチモンの市場価格を乗じて得られる利益を推算し,経済性を評価した.市場価格は2024年9月における価格(358万円/t)[43]とした.

2.2.4  環境面における評価

小型家電の基板に含まれる15種類の金属[39]が,前項のシナリオ4(100%製品回収)によりすべて再資源化されると仮定した場合の関与物質総量(TMR)を推算した.小型家電の基板中に各鉱種が含まれる量は,本研究で推定した2020年の使用済み小型家電に含まれるアンチモン量と既報[38]における各鉱種含有量の比率を用いて推算し,単位あたりのTMR(t/t)は既報[44]の数値とした.

2.2.5  感度分析

2.2.1項のパラメータA,B,C(Fig.2)を変数として,これらの値の変化による推定結果への影響を分析した.

3. 結果と解析

3.1  アンチモンの物質フロー分析

3.1.1  推定結果

2000–2020年におけるアンチモンの国内供給量の推定結果をFig.3に,国内需要量と市中投入量の推定結果をFig.4(a),Fig.4(b)に示す.国内供給量,需要量は20年間で5割ほど減少し,市中投入量は約7割に減少した.国内需要量と市中投入量を比較すると,難燃助剤の自動車用途は期間を通して市中投入量が国内需要量よりも少なく,国内で製造した自動車の多くが輸出されていることを意味している.一方,難燃助剤の家電,小型家電用途は,いずれも国内需要量が20年間で大きく減少したが市中投入量はそれほど減少していない.これは,これらの製品の国内製造量が激減し,これに代わって輸入製品が市中に投入されていることを示している.

Fig.3 Estimated antimony amount of domestic supply.
Fig.4 Estimated antimony amount of; (a) domestic demand, (b) consumption, (c) stock, (d) end-of life.

アンチモンの市中ストック量と使用済み量の推定については,2010–2020年の結果を示した(Fig.4(c),Fig.4(d)).市中ストック量は減少傾向であり,使用済み量は7000 t程度で推移している.Fig.5は,使用済み量を処分方法ごとに分類してとりまとめたものである.各処分方法の割合に大きな変動は見られなかったが,直接埋立の量は若干の減少傾向にあり,各種リサイクル法による一定の効果とも考えられる.

Fig.5 Estimated antimony amount of end-of life classified by final treatments.

3.1.2  2020年における物質フロー

推定結果から2020年における日本国内のアンチモンの物質フローを作成し,Fig.6に示した.難燃助剤用途に着目すると,自動車用途では国内需要量よりも市中投入量が少なくなっているにもかかわらず,難燃助剤用途全体では国内需要量(3107 t)に比して市中投入量(3925 t)が多くなっており,家電,小型家電において輸入製品が市中に多く投入されていることが示された.使用済みアンチモン量では,難燃助剤用途(4990 t)が国内の使用済みアンチモン全体量(6767 t)の7割以上を占めていた.処分・再資源化の状況として,再資源化されているのは蓄電池等金属アンチモンに限られ,難燃助剤用途の使用済みアンチモンは,輸出を除きすべてが最終的に埋立されていると推定された.

Fig.6 Estimated substance flow of antimony in 2020 in Japan, t.

3.1.3  感度分析結果

物質フロー分析における感度分析の結果をTable 4に示す.ブレーキパッド中のアンチモン含有量の変化による2020年のブレーキ摩擦材用途の使用済みアンチモン量の変動幅は約20%と大きいが,ブレーキ摩擦材用途の使用済みアンチモン量は国内全体量の0.5%程度であり,本調査結果への影響は小さいと考えられる.その他の難燃助剤用途について,寿命30年の製品割合と1980–1992年までの市中投入量の割合を変化させた場合の2020年の難燃助剤用途の使用済みアンチモン量の変動幅はいずれも5%程度であり,本調査の推定結果はおおむね妥当と考えられた.ただし,難燃助剤用途の使用済みアンチモン量は国内使用済みアンチモン量全体の7割以上を占めることから,その他の難燃助剤用途製品について詳細な調査を行うことで推定の精度がさらに高まるものと考える.

Table 4 Results of sensitivity analysis.

3.2  アンチモンの回収可能性と経済面,環境面における効果

3.2.1  再資源化量の推定結果

各シナリオで推定した再資源化アンチモン量をFig.7に示す.小型家電リサイクル法で設定された製品回収目標量を回収(シナリオ2)することで,2020年の小型家電用途の国内需要量と同程度のアンチモンが再資源化されることが推定された.

Fig.7 Estimated amount of recycled antimony from SEEE on 4 scenarios, comparing with its domestic demand in 2020 (right); scenario 1: collect at rate of used SEEE products in 2020 (20.3%), scenario 2: collect target amount set by Small Home Appliance Recycling Act (27.7%), scenario 3: collect at rate of home appliances in 2020 (70.3%), scenario 4: collect all used SEEE products (100%).

3.2.2  経済性評価結果

各シナリオにおいて得られる利益を推算した結果をTable 5に示す.現状の製品回収実績(シナリオ1)であっても,利益は3億円に近い結果となった.

Table 5 Estimated profits by antimony recycling.

3.2.3  環境影響評価結果

Fig.8に,小型家電の基板に含まれる15鉱種のシナリオ4におけるTMRを示した.アンチモンのTMRは約2万tであり,再資源化による地球環境への影響力は小型家電の基板に含まれる他の鉱種に劣ることのないレベルであることが示された.

Fig.8 Estimated TMR of metals in board of SEEE (scenario 4).

3.2.4  再資源化フローの感度分析結果

感度分析の結果をFig.9に示す.パラメータCの変化による再資源化量への影響が大きいことから,想定した再資源化フローにおいては製錬によるアンチモンの再資源化の段階が重要であることが示唆された.

Fig.9 Results of sensitivity analysis; parameter A: collection rate of board by shredding/separation, parameter B: collection rate of molten metal by melting, parameter C: collection rate of antimony by smelting.

4. 結論

本研究では,難燃助剤としてのアンチモン再資源化の状況を明らかとすることを目的として,2000–2020年までのアンチモンの国内供給量,国内需要量,市中投入量,市中ストック量,使用済み量,処分・再資源化量を推定し,2020年の国内における物質フローを作成した.各推定量の推移から,わが国ではアンチモンが電化製品に含まれる難燃助剤として相当量輸入されており,これらの用途で市中ストックされているアンチモンの量は国内需要量の減少傾向から受ける印象よりも多いことが示された.2020年の物質フローにおいて,難燃助剤用途の使用済みアンチモン量は国内全体量の7割以上を占めており,輸出を除くすべてが最終的に埋立処分され,再資源化がなされていないことが推定された.

難燃助剤用途のアンチモンを多く含む電化製品のうち,有用金属の回収・資源化を目的とするリサイクル法が制定されている小型家電に着目し,使用済み小型家電に含まれるアンチモンが再資源化されることを想定してその再資源化可能量を推算したところ,小型家電リサイクル法で設定された製品回収目標量を回収できれば小型家電用途アンチモンの国内需要量と同程度の量を再資源化でき,小型家電からのアンチモン再資源化は小型家電以外の用途における資源供給にも貢献できる可能性が示唆された.さらに,小型家電に含まれるアンチモンの再資源化による経済的効果として,現状の製品回収実績であってもアンチモンの再資源化による利益は3億円に近いことが推算された.また,小型家電の基板に含まれるアンチモンの再資源化によって軽減される地球環境への負荷は約2万tとなり,基板に含まれる他の多くの金属に劣らない地球環境への影響力を有していることが示された.

本研究の結果から,日本国内では難燃助剤用途の使用済みアンチモンの多くが埋立されて二度と戻らない状況となっており,これを再資源化して利用することによる経済的なメリットや環境負荷軽減効果が大きいことが明らかとなった.2020年におけるアンチモンの世界の合計埋蔵量は190万t,年間採掘量は11万tとされており[6],現状のままであればアンチモンは2050年までに枯渇する可能性があるとも言われている[45].また,わが国はアンチモン供給のすべてを輸入に頼っており,最大輸入相手国は中国である[6].このため,国内で使用済みアンチモンを再資源化して安定供給を確保することは経済的な効果や環境影響の軽減につながるだけでなく,資源調達リスクにおける国の安全保障という観点においても喫緊の課題と考えられる.

難燃助剤用途のアンチモンの再資源化が進まない理由は,合成樹脂などに少量添加されて使用されているために,技術的な困難性があることと,経済的なメリットが少ないことが要因とされている[28].一方で,小型家電リサイクル法において認定されている59事業者(2024年8月現在)のホームページを調査したところ,2つの事業者がアンチモンの再資源化を明記していた.そこで,これらの事業者に対する聞き取り調査を行ったところ,1者から小型家電を含む電化製品の基板から製錬によってアンチモンの再資源化を行っているという回答を得,他の事業者は秘匿事項として回答を得られなかったが,再資源化を行っていることがうかがわれた.同様の聞き取り調査を家電メーカー3社と事務機器メーカー1社に対して行ったところ,いずれもアンチモンの再資源化は行っていないという回答であった.このため,現状として多くの事業者においてアンチモンは再資源化されていないものの,一部では始まりつつある,すなわち,技術的,経済的な理由による再資源化困難性を克服しつつあるものともとらえられ,今後は小型家電だけでなく,自動車,家電,事務機器等を含めたリサイクル事業者における動きをさらに推進,拡大していくことが重要と考えられる.

本研究で作成した2020年の物質フローでは,国内供給量と国内需要量に約2000 tの差がある.また,参考として臭素系ダイオキシン類排出実態等調査結果報告書[46]における2020年の難燃剤用途の三酸化アンチモンの国内需要量(7000 t(純分換算後5775 t))と物質フローの難燃助剤用途の国内需要量(3107 t)を比較すると,統計手法に違いがあるとしても大きな差があり,物質フローには表れていない需要の存在が示唆された.このため,難燃助剤用途の使用済みアンチモン量は,実際には本研究の推定値よりも相当量多い可能性もあり,その再資源化の重要性はさらに大きいこととなる.また,本調査では不法投棄や不法輸出について考慮しなかったが,これらの量が明らかとなれば,埋立処分や輸出の割合は推定結果よりも高くなることが予想されるが,その場合にも,使用済み電化製品に含まれるアンチモンの再資源化を推進することによって経済的なメリットが高まれば,おのずと回収へのインセンティブがあがり,このような「見えないフロー」[47]を減らす効果も期待される.難燃剤として最も難燃効率が高い臭素系難燃剤は三酸化アンチモンとの併用でその効果が発揮され,この相乗効果を凌駕する難燃剤は未だ開発されていない[48]ことから,難燃助剤用途におけるアンチモンの代替物質への転換は容易ではなく,再生可能エネルギーへの利用も見据えれば,アンチモンは将来的にも不可欠な金属として資源の安定確保が求められるものと考えられ,国内での使用済み製品からの再資源化は重要性を増すものと考える.

本研究にあたり,(国研)国立環境研究所寺園淳氏から貴重なご意見を頂戴しました.また,聞き取り調査では認定事業者とメーカー各担当者から快く協力いただきました.深く感謝申し上げます.

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