日本救急医学会雑誌
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症例報告
Multidetector computed tomographyを用いたCT angiographyが診断と治療方針の決定に有用であった外傷性回腸仮性動脈瘤の1例
野島 洋樹井谷 史嗣石川 隆石井 賢造岸本 朋宗金 仁洙宮庄 浩司
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2007 年 18 巻 7 号 p. 321-326

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抄録

64列Multidetector Computed Tomography (以下MDCTと略す) を用いたCT angiographyが診断と治療方針の決定に有用であった外傷性回腸仮性動脈瘤の1例を報告する。症例は86歳女性。交通事故による骨盤骨折と出血性ショックのため, 当院に搬送となった。造影CTで少量の腹腔内出血に加えて腸間膜に直径7mmの造影される腫瘤影と周囲の浮腫状変化を認めたが, 造影剤の血管外漏出はなく循環動態も安定したことから保存的加療とした。受傷から12時間後, 貧血の増悪を認めたためMDCTを用いたDynamic CT Studyを行ったところ, 腸間膜の腫瘤影は直径15mmに拡大しており, early phaseから濃染されdelayed phaseでは周囲の血管と同程度の造影効果を認めたため動脈瘤と診断した。CT angiographyを構築したところ動脈瘤は上腸間膜動脈の末梢に存在しており, 増大傾向を認める外傷性腸間膜仮性動脈瘤と診断し緊急開腹手術を行った。術中所見では, 回腸末端から40cm口側の腸間膜に拍動性の腫瘤と同部位を中心に扇状に挫滅した腸管, 腸間膜を認め, 損傷腸管と動脈瘤を含めた腸間膜の切除を行い端端吻合で腸管の再建を行った。術後軽度の肺炎を併発したものの腹部合併症は認めず, 受傷から17日目に骨盤骨折に対するリハビリ目的で転院となった。組織学的には瘤の外壁に動脈としての層構造を認めない仮性動脈瘤であった。文献上, 上腸間膜動脈分枝の外傷性仮性動脈瘤は自験例を含めて8例と極めて稀である。治療法としては手術や経皮的動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization; TAE) などが考えられるが, 自験例ではCT angiographyの結果から動脈瘤が腸管に近くTAEでは腸管虚血壊死の危険があると判断したため, 手術を選択した。MDCTを用いたCT angiographyは非侵襲的かつ詳細に動脈瘤の部位や形態が判断でき, 治療方針の決定に非常に有用であった。

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© 2007 日本救急医学会
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