日本救急医学会雑誌
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症例報告
CTで著明な壁肥厚と壁内ガス像を示した劇症型アメーバ性大腸炎の1例
加藤 昇島津 和久坂本 道治山村 仁溝端 康光
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2008 年 19 巻 12 号 p. 1107-1112

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抄録

患者は50歳の男性。adult T-cell leukemia / lymphoma(ATL)のくすぶり型で10年間観察中であった。 2 週間持続した下痢の後,前医に入院時はイレウス状態であった。腹部CT撮影で,大腸は著明な壁肥厚所見を示し,上行結腸壁内にはガス像を認めた。抗生物質投与,イレウス管による減圧で改善せず, 4 日後にショック,呼吸困難,血小板と白血球減少を生じたため当施設に紹介された。入院時,汎発性腹膜炎の所見を認め,緊急手術を行った。盲腸,上行結腸,横行結腸と直腸にぼろ雑巾様に菲薄化した全層壊死を認めた。結腸全摘・回腸瘻造設を行い,術後は経肛門的に間欠的な直腸内洗浄を行った。入院第 7 病日,切除標本の病理所見で壁全層にアメーバの栄養型虫体を認めたと報告され,新鮮便の鏡検でも多数のアメーバを確認した。ICUでの呼吸循環管理,持続的血液透析,抗生物質,抗菌薬,静注用人免疫グロブリン製剤投与,アメーバと診断後は 1 日500mgのメトロニダゾールの直腸内投与などを行ったが,多臓器不全のため,入院第 9 病日に死亡した。剖検で残存直腸の壊死穿孔を認めた。アメーバ性大腸炎のうち,アメーバの大腸壁への浸潤により腸管全層壊死を来したものは劇症型と分類される。本症例で認められた大腸の著明な壁肥厚と壁内ガス像のCT所見は,赤痢アメーバ症における大腸壁全層壊死,すなわち劇症型の診断に有用であると考えられた。

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© 2008 日本救急医学会
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