日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
原著論文
二相性の経過をたどる小児急性脳症の検討
榎本 有希六車 崇久保田 雅也中川 聡
著者情報
キーワード: 痙攣重責, 急性脳症, 小児, 乳児
ジャーナル フリー

2010 年 21 巻 10 号 p. 828-834

詳細
抄録

目的:小児二相性脳症の臨床経過とその特徴を明らかにし,二相目の発症前における単相性脳症との鑑別の可能性について検討する。対象・方法:2007年4月から2009年8月の間に国立成育医療研究センター集中治療室に痙攣・意識障害で入室した患者について,診療録を後方視的に検討した。単相性脳症群26例と,てんかん・熱性痙攣群 10例を対照群として,第3病日までのlactate dehydrogenase(LDH),fibrin/fibrinogen degradation products(FDP),Dダイマーの最大値を各群間で比較した。結果:脳症と診断された患者は36症例で,そのうち二相性脳症は10例(28%)であった。痙攣重積で発症した脳症22症例中,二相性脳症は8例(36%)で,一相目の痙攣が重積した症例が8例,重積しなかった症例が2例だった。二相目発症の中央値は第5病日(最小第4病日-最大第8病日)だった。ステロイドパルス療法,低体温療法,頭蓋内圧センサー挿入下の脳圧管理などが施行された。10症例中2例で一相目から積極的な治療を施行したが,二相目の発症を予防できなかった。転帰は全例生存で,後遺症なし 1例,軽度の神経障害 5例,重度神経障害 4例であった。 LDHの最大値はてんかん・熱性痙攣と単相性脳症,二相性脳症との間で有意差がみられた(p=0.017,0.002)。FDP,Dダイマーの最大値はてんかん・熱性痙攣と二相性脳症との間に有意差がみられた( p=0.018,p=0.033)が,いずれのマーカーも単相性脳症と二相性脳症の間に有意差は認められなかった。結語:小児では痙攣後,一過性の症状改善の後に再度痙攣や意識障害を来す転帰不良な疾患群が存在する。発生頻度が少なくないにもかかわらず,その発症予測は現時点では不可能である。小児の痙攣後には神経学的症状が軽度であっても二相目発症の可能性を視野に入れた管理が必要である。

著者関連情報
© 2010 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top