日本救急医学会雑誌
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原著論文
救急外来受診を契機に診断されたがん症例の検討
鈴木 梢武居 哲洋伊藤 敏孝竹本 正明藤澤 美智子
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2010 年 21 巻 9 号 p. 779-785

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抄録

背景:救急外来受診後に,診断の過程でがんの存在が明らかになることがしばしばあるが,その詳細な実態は報告されていない。そこで我々は,救急外来受診を契機にがんと診断された症例の頻度や特徴を検討した。方法:2007年4月から7月までの4ヶ月間に,当院救急外来を受診した成人患者(ER群)について後ろ向きに診療録を調査し,受診を契機に救急外来で,あるいはその後の入院や外来通院中にがんと診断された症例を抽出した。一般新患外来受診患者(対照群)についても,同様の方法でがん症例を抽出した。これらの症例の受診方法,がんの部位,診断の鍵となった検査,診断までの経緯,受診時の症状,治療,6ヶ月後の転帰について検討した。結果:調査期間にER群でがんと診断された症例は5,587例中48例(0.86%)であり,対照群の診断率(2.32%)の約1/3であった(p<0.001)。70歳以上に限ると診断率はそれぞれ2.03%および4.05%に増加した(p=0.04)。救急外来でがんと診断された症例の78%はCT検査が鍵となっていたが,後日診断された症例の67%は消化管内視鏡検査が鍵となっていたのが特徴的であった(p<0.001)。ER群で最も多い主訴は腹痛(31%)であったのに対し,対照群の33%は無症状で受診していた(p<0.001)。ER群では,根治術施行症例が対照群より有意に少なく(46 vs 80%,p=0.035),6か月後の生存も有意に少なかった(38 vs 60%,p=0.042)。結論:当院の救急外来受診を契機にがんと診断される症例は成人の0.86%,70歳以上の2.03%であり,決して無視できない頻度と考えられた。救急外来受診患者に対しても,常にがんを鑑別診断に入れる必要がある。

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