抄録
症例は21歳の男性。バイクで走行中,右折してきた乗用車と衝突し受傷した。搬入後のバイタルサインは安定していたが,腹部造影CTで後腹膜出血と第4腰椎椎体レベルで腰動脈損傷と思われる造影剤の血管外漏出像を認めた。翌日のフォローアップの造影CTでは,第4腰動脈の偽性動脈瘤と思われる増強効果を認めた。同日血管造影が行われ,左右第4腰動脈共通幹部に造影剤の貯留を認めたが,腹部大動脈からの距離が不十分であり,interventional radiology(IVR)による治療が困難であった。年齢など患者背景を考え治療方針を検討し,開腹手術での治療を行うこととした。術中所見としては,血管造影所見同様,第4腰動脈起始部は大動脈から引き抜かれた状態であった。腰動脈根部の大動脈を直接修復して手術を終了した。腰動脈損傷は腎生検や腰椎手術時など医原性に起こることが知られている。外傷においては腰椎骨折や骨盤骨折に合併した偽性腰動脈瘤の報告は多いが,腰動脈の引き抜き損傷に続発した偽性腰動脈瘤の報告は我々が検索し得た範囲では存在しない。腰動脈が大動脈から引き抜かれることにより腰動脈根部に生じた偽性腰動脈瘤はIVRが困難であり,年齢などを考慮した慎重な治療法の検討が必要であると思われた。