日本救急医学会雑誌
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症例報告
生体試料による分析が可能であったQuetiapine大量服薬の1例
藤田 あゆみ荒武 憲司皆川 雄郷西田 武司田中 仁友尻 茂樹原 健二
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2010 年 21 巻 9 号 p. 811-816

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抄録

近年精神科領域では,定型抗精神病薬に代わって錐体外路系副作用の少ない非定型抗精神病薬の使用が目立つようになってきた。これに伴い自殺企図目的で非定型抗精神病薬を含む薬物の過剰摂取により救急搬送される症例が増加してきている。我々は非定型抗精神病薬であるQuetiapineによる急性医薬品中毒を経験した。症例は精神科通院中の40代の女性で,来院時,循環動態不安定で全身性強直性痙攣を伴う意識障害を呈していた。持参された薬剤の空シートからQuetiapine 8,700mgを大量摂取していた可能性が示唆された。Quetiapine単独服用と考えられ,各種の中毒症状を呈していた。服用量は中毒量を超えるものと推測され,初療にて胃洗浄および活性炭投与を行った。輸液療法を施行するとともに集中治療室にて呼吸・循環管理を行い,第3病日に意識レベルおよび全身状態の改善を認めたため退院となった。我々は,来院時の血清,尿などの生体試料を凍結保存し,レトロスペクティブに分析を行うことができた。一般病院の臨床の現場では,通常簡易な尿中薬物スクリーニング検査キットおよび服用歴から急性中毒を疑うが,Quetiapineは簡易キットでは検出不可能である。Quetiapineは2001年に発売された新規薬剤であり,国内外で死亡例の報告も散見されるようになってきている。分析にてQuetiapine同定を行うことで確定診断に至ることができ,また迅速な確定診断が治療方針の決定に有用であることが示唆された。

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© 2010 日本救急医学会
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