日本救急医学会雑誌
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症例報告
脳動脈瘤手術1ヵ月後に生じた肺塞栓による心肺停止例
伊藤 英道長島 梧郎高田 達郎植田 敏浩田中 雄一郎橋本 卓雄関 一平
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2011 年 22 巻 1 号 p. 29-35

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抄録

肺塞栓は生命予後に影響を与える重大な周術期合併症の一つである。国内外において様々な肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドラインが示され,実践されている。しかし,脳神経外科領域での周術期合併症としての深部静脈血栓症や肺塞栓の頻度については明らかにされておらず,その予防方法についても様々な議論がある。今回我々は,破裂前交通動脈瘤によるクモ膜下出血後に,広汎な肺塞栓により心肺停止に至った症例を経験した。症例は63歳,女性。前交通動脈瘤破裂によるクモ膜下出血で当院に入院した。開頭動脈瘤クリッピング術後,第30病日に突然心肺停止となり,肺動脈造影にて肺塞栓と診断した。percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)にて血行動態の安定化をはかり,肺塞栓に対してガイドワイヤーによる破砕術を施行した。第32病日にPCPSを離脱し,その後にワーファリン投与,永久的下大静脈フィルター留置にて再発予防を行った。第70病日,病状は安定し,modified Rankin Scale Grade 4にて回復期リハビリテーション病院へ転院となった。肺塞栓は開頭術後の合併症として重要であり,常に念頭において治療を行うべきであると考えられた。予防策として,米国では肺塞栓を含めた周術期合併症に対して,開頭術後24時間にわたる低用量未分画ヘパリンの使用を推奨している。今後本邦でも,脳神経外科術後合併症としての深部静脈血栓症,肺塞栓症についての検証,更にそのスクリーニング方法や予防方法についての検討が必要と考えられた。

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© 2011 日本救急医学会
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