日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
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22 巻, 1 号
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原著論文
  • 遠藤 裕, 肥田 誠治, 大橋 さとみ, 木下 秀則, 林 悠介, 斉藤 直樹, 本多 忠幸
    2011 年 22 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    背景:近年,public access defibrillation(PAD)プログラムの一貫として,学校やデパートなどに自動体外式除細動器(AED)が配置され,多くの救命例が報告されている。しかし,突然の心停止(SCA)の多くは自宅で発生している。今回,地理情報システム(GIS)を用いて,自宅で発生したSCAに対して,現状のAED配置がどの程度対応可能か,更にコンビニ店舗と警察関連施設にAEDを配備した場合について,新潟市を例にとって検討した。方法:平成20年の新潟市における自宅内発生のSCA 848例を対象とした。自宅住所と現状のAED設置場所の地番データを緯度と経度に変換した。次にGISを用いてAED設置場所を中心に,距離200m,100mのバッファを設定し,その内部に含まれるSCA数について検討した。結果:現状のAED設置場所(568箇所)では,距離200m,100m圏内に,自宅内SCA(848例)のそれぞれ23.5%,5.7%が発生していた。しかし,現状の設置場所は学校,スポーツジム,官庁等が多く,AEDへの24時間のアクセスは困難と考えられた。そこで,24時間アクセス可能な場所として,コンビニ店舗(232店)と警察施設(93施設)にAEDを配置した場合を予測した。その結果,AED数は現状の57%に留まるものの,距離200m,100m圏内に,自宅内SCAのそれぞれ16.5%,4.7%が発生すると予測された。100m圏内のAED設置場所当たりのSCA数は現状配置より多く,更にSCA発生数はPADプログラムを推奨する基準よりも多いことから,自宅内SCAに対して有効な設置場所と考えられた。結論:目撃者2名以上が必要という制約はあるが,コンビニ店舗と警察施設へのAED配置は自宅で起こったSCAに対して有効であると考えられた。
症例報告
  • 高松 純平, 加藤 昇, 永嶋 太, 坂本 道治, 山本 啓雅, 山村 仁, 溝端 康光
    2011 年 22 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性。胆石性重症急性膵炎で当院に紹介され,同日endoscopic nasobiliary drainageを施行した。続発した感染性膵壊死に対し,第14病日と第35病日に壊死部の切除を実施し,術後も局所洗浄を行った。第67病日より壊死部からの断続的な出血を認めるようになり,第97病日にはショックに陥ったため開腹のうえ縫合止血術を施行した。第99病日,十二指腸穿孔を来したため開腹状態での管理を余儀なくされたが,膵液と腸液の漏出のため皮膚障害を合併した。皮膚汚染を軽減しつつ,創全体の肉芽形成を促進し早期に創閉鎖させることを目的に,陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy; NPWT)を導入した。腹腔深部で漏出する腸液に対しては,腹部全体に広がらないようにする必要があったため,膵壊死部膿瘍腔と十二指腸穿孔部近傍の持続吸引を追加した。十二指腸穿孔から14日後には十二指腸液の漏出が止まった。十二指腸穿孔から19日後,横行結腸にも穿孔が生じたが,diverting ileostomyを造設し,NPWTを続けた結果,穿孔後7日目には横行結腸穿孔からの漏出は認められなくなった。十二指腸穿孔から85日目,創はネラトンチューブを挿入した瘻孔を残して上皮化した。本症例では,腹腔深部の腸管穿孔部に対し,持続吸引を行うことで腸液の腹腔全体への広がりを回避した。この結果,効果的なNPWTを実施することができ,早期の肉芽形成,創閉鎖を得ることができた。本症例での工夫は,深部に消化管穿孔を合併する開放創に対するNPWTの適応を考慮するうえで意義あるものと考えられた。
  • 山本 豊, 藤田 浩, 田邉 孝大, 杉山 和宏, 黒木 識敬, 明石 暁子, 濱邊 祐一
    2011 年 22 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,男性。市民マラソンに参加したが競技中に意識消失し当院搬送となる。熱中症と診断し治療を開始したが,第2病日に急性肝炎重症型となり凝固因子補充目的に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)の輸血を施行し,第3病日に劇症肝不全となる。同日もFFP投与を行ったが,輸血開始後に頻脈や頻呼吸を認め非侵襲的陽圧換気を開始した。心エコー検査を施行したが輸血関連循環過負荷と輸血関連急性肺障害との鑑別は困難であり,その後も呼吸循環動態には改善を認めず気管挿管下に集中治療を開始した。輸血前後の検体からは抗HLA抗体,抗顆粒球抗体等の検出は認めず,診断指針推奨案に基づいて輸血関連急性肺障害疑いと診断,重篤な経過をたどったが救命に成功した。救急医療の現場では急性肺障害を来しうる誘因は多数あるが,輸血も鑑別の一つとなりうることを留意すべきである。
  • 木下 弘壽, 中森 知毅
    2011 年 22 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    悪性関節リウマチに多発性小腸穿孔を合併した症例を経験し救命したので報告する。症例は50歳,女性。慢性関節リウマチで4年間diclofenac sodium 25mg 2錠/dayを内服していた。食欲低下,歩行困難,全身関節痛が出現し,1か月後には歩行不能となって近医に入院した。胸部単純X線検査でfree airを認め,消化管穿孔の診断で当院紹介入院となった。緊急開腹術で絞扼性イレウスによる小腸広範囲壊死穿孔と診断し,3箇所の小腸穿孔部を含め広範(約2m)な小腸切除を施行した。手術後人工呼吸器離脱を試みたが呼吸不全を繰り返し,四肢筋力低下,構音障害が出現した。小腸の切除標本で動脈炎の所見を認め,悪性関節リウマチに合併した小腸穿孔と診断した。本症例は,術後,腸管吻合不全,肺炎,脳幹梗塞,心嚢炎等の合併症を併発したが,ステロイド療法,血漿交換を施行し,救命することができた。悪性関節リウマチの小腸穿孔で動脈炎の程度が高度の場合,腸管吻合を避ける術式を考慮すべきである。
  • 伊藤 英道, 長島 梧郎, 高田 達郎, 植田 敏浩, 田中 雄一郎, 橋本 卓雄, 関 一平
    2011 年 22 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2011/01/15
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    肺塞栓は生命予後に影響を与える重大な周術期合併症の一つである。国内外において様々な肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドラインが示され,実践されている。しかし,脳神経外科領域での周術期合併症としての深部静脈血栓症や肺塞栓の頻度については明らかにされておらず,その予防方法についても様々な議論がある。今回我々は,破裂前交通動脈瘤によるクモ膜下出血後に,広汎な肺塞栓により心肺停止に至った症例を経験した。症例は63歳,女性。前交通動脈瘤破裂によるクモ膜下出血で当院に入院した。開頭動脈瘤クリッピング術後,第30病日に突然心肺停止となり,肺動脈造影にて肺塞栓と診断した。percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)にて血行動態の安定化をはかり,肺塞栓に対してガイドワイヤーによる破砕術を施行した。第32病日にPCPSを離脱し,その後にワーファリン投与,永久的下大静脈フィルター留置にて再発予防を行った。第70病日,病状は安定し,modified Rankin Scale Grade 4にて回復期リハビリテーション病院へ転院となった。肺塞栓は開頭術後の合併症として重要であり,常に念頭において治療を行うべきであると考えられた。予防策として,米国では肺塞栓を含めた周術期合併症に対して,開頭術後24時間にわたる低用量未分画ヘパリンの使用を推奨している。今後本邦でも,脳神経外科術後合併症としての深部静脈血栓症,肺塞栓症についての検証,更にそのスクリーニング方法や予防方法についての検討が必要と考えられた。
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