抄録
原因不明のショック症状を呈した患者2名が搬送され,後に原因がジルチアゼムなどの大量服薬と判明した。カルシウム拮抗薬中毒と考え,塩化カルシウムを投与したところ全身状態が劇的に改善した症例を経験したので報告する。〈症例1〉30歳の女性。全身倦怠感にて救急隊を要請した。救急隊接触時血圧50mmHg台で意識レベルが徐々に悪化した。意識レベルGCS E1V2M5,血圧69/34mmHg,脈拍69/min・不整,心電図上房室解離を認めた。〈症例2〉37歳の男性。高血圧,狭心症の既往歴がある。症例1に付き添って来院し,気分不良を訴えた。来院時意識レベルは不穏状態,GCS E3V5M6,血圧65/32mmHg,脈拍70/min。心電図上P波欠落,洞停止,補充調律を認めた。2症例ともに,大量輸液,カテコラミンの投与には不反応であり,遷延する低血圧,乏尿とクレアチニン上昇の急性腎不全を呈した。翌日自宅よりジルチアゼム,ニコランジルなど大量の空包が見つかった。ジルチアゼムによるカルシウム拮抗薬中毒と考え,塩化カルシウム投与を行ったところ急激な血圧上昇,利尿が得られた。その後全身状態が改善し,後遺症なく退院した。後に来院時の血清より高濃度のジルチアゼムとその代謝産物が検出された。カルシウム拮抗薬中毒では,血管拡張による低血圧,徐脈を呈し,心電図上房室ブロックとなる。治療はカテコラミンやカルシウム製剤の投与である。グルコン酸カルシウムよりも塩化カルシウムの投与を勧める報告があり,本症例でもグルコン酸カルシウムは効果がなく,塩化カルシウムの投与で全身状態が改善した。