日本救急医学会雑誌
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症例報告
緊急手術後の高ナトリウム血症で判明した腎性尿崩症の一例
杉山 和宏松岡 夏子柏浦 正広山本 豊田邊 孝大安田 睦子濱邉 祐一
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2011 年 22 巻 6 号 p. 271-276

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抄録

腎性尿崩症とは腎集合管の抗利尿ホルモンへの感受性低下により多尿を来す疾患である。我々は外傷での入院と緊急手術を契機に腎性尿崩症を指摘された症例を経験したので報告する。症例は27歳の男性。バイクで転倒し救急搬送され,左足関節開放骨折の診断で入院し緊急手術となった。術前から絶食とし,術中,術後と細胞外液の投与を行ったが,来院時から多尿であり,来院後に血清ナトリウム濃度の上昇を認め,来院18時間後にNa 161mEq/lとなった。この時点で多量の希釈尿と高浸透圧血漿から尿崩症を疑い,飲水を開始し輸液を5%ブドウ糖液に変更し高ナトリウム血症は緩徐に補正された。desmopressin(DDAVP)に不応であり,後に水制限試験で腎性尿崩症と診断された。多飲は幼児期からであることが判明し,また母方の親族に同様の症状の者が複数いることがわかり,先天性腎性尿崩症が疑われた。腎性尿崩症では,手術等にあたり通常通り絶食とし細胞外液の投与を行うと高ナトリウム血症,高浸透圧血症が急速に進行し重篤な場合には神経学的後遺症を残しうるため,救急での対応には注意を要する。また,抗利尿ホルモンの投与により尿量がコントロールされず,腎から大量に排泄される自由水を全て輸液で補正しなければならず,周術期の対応には格別の配慮が必要となる。腎性尿崩症は稀な疾患ではあるが,その存在に気づかずに治療を行うと重篤な転帰を招く可能性があり,患者の既往歴が必ずしもわからない状況で診療を余儀なくされる救急医にとって銘記すべき疾患である。

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© 2011 日本救急医学会
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