日本救急医学会雑誌
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原著論文
臨床倫理検討からみた救命救急センターにおける終末期医療の現状と課題
松嶋 麻子小川 尚子小倉 裕司嶋津 岳士霜田 求田中 裕杉本 壽
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2012 年 23 巻 2 号 p. 39-50

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抄録

【目的と方法】大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターでは,2003年より救急医療の現場で生じる倫理的問題に対し,臨床倫理検討を行ってきた。今回,臨床倫理的視点から終末期医療の現状と課題を示すことを目的に後方視的検討を行った。【結果】日本救急医学会の「救急医療における終末期医療に関する提言」で示された「終末期の定義」に該当したのは15症例あり,臨床的脳死状態または癌の終末期状態と診断されていた7症例では終末期の判断に異論はなかったが,重症心不全や呼吸不全では臓器の不可逆性や数日以内の死亡予測に関して意見の相違があり,終末期と判断して積極的な治療を控えることに医療者の強い抵抗感が生まれる症例がみられた。終末期について,患者自身の意向を知ることができたのは2例のみであり,他の13症例では患者家族と医師・看護師・臨床心理士などが協力して患者の意向を把握するように努めた。離脱困難なPCPS(percutaneous cardiopulmonary support),ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)治療については,社会的公平性の観点からも検討を行い,心移植や補助人工心臓の適応にならない5症例においては,治療を継続することの妥当性が論点となった。終末期と判断した症例ではend-of-life careは救命救急センター内で行われ,ICUのベッドをend-of-life careに使用することに関して,医療者間で意見の相違がみられた。【結語】救命救急センターにおける終末期医療には,早急に解決することが困難な倫理的問題が数多く存在する。症例ごとに多職種を交えて医学的視点,患者の視点,社会的視点から検討を行い,終末期医療の課題を医療者と患者家族が具体的に認識・共有することにより,施設の状況や患者の意向を重視した柔軟な対応が可能になると考える。

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© 2012 日本救急医学会
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