抄録
【背景と目的】我々は前回の報告で主に4列のMultidetector-row CT(MDCT)による鈍的頭頸部血管損傷のスクリーニング検査を施行し,その有用性と限界を明らかにした。本研究の目的は,64列MDCTによるスクリーニング検査としての有用性を明らかにすることである。【方法】対象は2007年から2010年までに当センターのMDCT angiography(MDCTA)施行基準を満たした鈍的頭頸部顔面外傷163例とした。MDCTAで陽性所見のないものは,原則それ以上の検査は施行せず経過観察した。陽性所見を認める症例で血管損傷が確定できないものについてはCA(conventional angiography)を施行した。これによりMDCTAの陽性的中率を求めた。また血管損傷の検出率を前回の報告と比較した。【結果】MDCTAで陽性所見あり,と診断したのは163例中22例(13.5%)であった。MDCTAで血管損傷を確定できたのは22例中11例14病変であった。一方,MDCTAで陽性と判断されたが診断が不確定であった症例は11例であった。このうち脳死となりCAが施行できなかった2例を除いた9例12病変のうち,MDCTAで検出された部位に血管損傷が認められたのは9病変であった(陽性的中率75%)。血管損傷の検出率は前回の7.7%から11.0%に上昇していたが統計学的有意差は認められなかった。また4病変がMDCTAでは検出されず血管造影で初めて検出された。内訳は,頭蓋底部の内頸動脈狭窄(n=1)および動静脈瘻病変(n=3)であった。【結論】64列MDCTAは有用なスクリーニング法であるが,骨に接する病変やシャント病変では検出できない可能性を考慮する必要がある。