日本救急医学会雑誌
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原著論文
壊死型虚血性大腸炎に対する早期診断と予後因子の検討
上田 健太郎岩﨑 安博山添 真志川副 友川嶋 秀治山上 裕機加藤 正哉
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2013 年 24 巻 3 号 p. 141-148

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抄録

【目的】壊死型虚血性大腸炎は全虚血性大腸炎の約10%と頻度は低いが予後が悪く,診断した時点で壊死粘膜を含めた広範囲の腸管切除の緊急手術が必要である。しかしながら,はっきりとした診断基準がなく手術時期が遅れることが多いのが現状である。我々は壊死型虚血性大腸炎の救命率改善のために早期診断基準と予後因子の検討を行った。【対象】2002年から2010年までに経験した壊死型虚血性大腸炎手術症例24例を対象とした。【結果】平均年齢は77.4歳と高齢であり,男性15例,女性9例であった。基礎疾患として全例が動脈硬化性疾患を有していた。術前現症は16例に腹膜刺激症状,10例に下血,12例にイレウス症状を認め,11例で急性期DIC,9例でショック,17例で代謝性アシドーシスを伴い全身状態が不良な症例が大半であった。また全例でSIRS(systemic inflammatory response syndrome)陽性・21例で血中乳酸値の高値を認める特徴があり,発症から手術までの時間が24時間以内だったのが12例(50%)であった。術中所見として,穿孔は7例に認め,壊死範囲は全結腸型(病変が回盲部・肝弯曲部・脾弯曲部・SD junctionのうち3箇所以上にまたがる)5例,限局型19例(右半結腸4例,左半結腸15例)であった。術式は壊死病変部切除および人工肛門造設術が23例,一期的吻合術が1例で,救命率は58.3%であった。上記の因子と血液検査のデータに対し単変量解析を行った結果,発症から手術までの時間(24時間以内vs.以上),年齢,PT-INR値が予後因子であり,これら3因子によるLogistic回帰分析を用いた多変量解析により発症から手術までの時間が独立予後因子であった(p<0.05)。【結語】動脈硬化性疾患を有する高齢者では腹部所見が乏しくてもSIRS陽性・血中乳酸値の上昇を認める場合,壊死型虚血性大腸炎を念頭に診療することが重要である。また本症の独立予後因子は“発症から手術までの時間が24時間以内”であり,早期診断,緊急手術により救命率が改善すると考えられる。

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