日本救急医学会雑誌
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症例報告
胸髄損傷術後に発見された後天性血友病Aの1例
中田 一之間藤 卓山口 充大井 秀則松枝 秀世大瀧 聡史堤 晴彦
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2013 年 24 巻 4 号 p. 219-224

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抄録
後天性血友病Aは,その多くが出血症状を契機に発見され,しばしば重篤な転機をとることが知られている稀な疾患である。今回,我々は出血症状の出現前に診断・治療を行い,良好な臨床経過をとった症例を経験した。症例は47歳の男性。交通事故による多発外傷にて当救命救急センターへ入院となった。家族歴・既往歴・職歴に特記事項を認めない。全身状態が安定していることを確認後,主たる損傷部位である胸椎破裂骨折に対して後方固定術を施行した。外傷部位および術創部に活動性出血を認めないことを確認後,リハビリテーションおよび対麻痺に合併する下肢深部静脈血栓症の予防を目的としたワーファリン投与を開始した。その後行った凝固能血液検査にて,経過中正常値であった活性化部分トロンボプラスチン時間APTTの著明な延長が出現,再検査でも同所見を認めることから凝固系疾患を疑い精査を行った。その結果,凝固系第VIII因子活性の低下(2%)と抗第VIII因子自己抗体の検出(4 Bethesda U/ml)を確認し,他に凝固系因子を含む異常所見を認めないことから後天性血友病Aと診断した。本例は抗第VIII因子自己抗体が低力価で出血兆候は認めず,治療はステロイドの内服を選択した。投薬後は第VIII因子活性,抗第VIII因子自己抗体価,APTTは改善を示したが,ステロイド減量中にAPTTの再延長を認めたことから,一時ステロイド内服の増量と免疫抑制剤併用を行った。ステロイド開始から9か月が経過した現在は一日プレドニン服用量5mgにて凝固能および臨床経過とも良好である。本例は,静脈血栓予防を目的とした抗凝固療法中に出現した後天性血友病Aの稀な1例であり,血栓症および出血症状各々に対する管理が必要と考えられた。
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© 2013 日本救急医学会
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