日本救急医学会雑誌
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24 巻, 4 号
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総説
  • 大須賀 章倫, 小倉 裕司, 中島 紳史, 小島 宏貴, 上山 昌史, James A. Lederer, 嶋津 岳士
    2013 年24 巻4 号 p. 181-191
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    重症外傷患者は感染を合併しやすいだけでなく,一旦感染症を合併すると重篤になりやすい。敗血症による多臓器不全を予防することは,重症外傷患者を治療する上で一つの大きな課題である。重症外傷患者では,複雑な生体反応が引き起こされ,免疫系の恒常性が破綻し,これらの合併症を引き起こす。重症外傷受傷後,生体は炎症性の応答を引き起こし,それに引き続き抗炎症性の応答を起こす。これらの免疫修飾は,自然免疫系と獲得免疫系の相互のバランスに基づいて起こっている生体の防御反応であると考えられる。一連の免疫反応は,内因性のシグナルであるalarminと外因性のシグナルであるpathogen-associated molecular pattern moleculesの両者から構成される,damage-associated molecular pattern moleculesがトリガーとなっていると考えられている。近年我々は,外傷によりパターン認識受容体の一つであるインフラマソームが全身のほぼ全ての免疫細胞において活性化することを報告した。外傷によりToll様受容体の反応性が増強することと合わせて,外傷後の自然免疫系による炎症反応が抗菌能力を増強させるとともに,有害な“two-hit response”を形成しうることを示した。また,同時に外傷は主に所属リンパ節における制御性T細胞を活性化することで,過剰に起きた炎症反応をコントロールしていることも示した。外傷に対する生体反応は自然免疫系と獲得免疫系との調和による免疫修飾によって成り立っており,一旦そのバランスが崩れると生体を危機的な状況に陥らせると考えられる。外傷という非特異的な刺激により免疫系が始動するメカニズムと,自然免疫系および獲得免疫系の外傷特異的な応答制御について総説する。
原著論文
  • 稲垣 剛志, 木村 昭夫, 萩原 章嘉, 佐々木 亮, 新保 卓郎
    2013 年24 巻4 号 p. 192-199
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    【目的】鈍的頭頸部外傷患者において,頸椎CT撮影の新たなclinical decision rule(CDR)を作成することを目的とした。【方法】Derivation研究の対象は2008年4月1日~2010年8月14日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者のうち頸椎CTを施行した1,076症例,Validation研究の対象は2010年8月15日~12月31日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者887例とし,診療録および救急患者データベースから後ろ向きに情報を得た。頸椎損傷の定義は骨折もしくは脱臼とした。頸椎損傷の有無と相関する因子を解析した後に,感度100%となるような新たなCDRを導けるか検討した。【結果】単変量解析では,年齢,後頸部痛の有無,神経学的異常所見の有無,来院時のGlasgow coma scaleスコアにおいてCT上の頸椎損傷所見の有無で有意差が認められた。また年齢が高い群で受傷機転における階段等からの転落の有無も有意差が認められた。二進再帰分割法を行った結果,意識障害や後頸部症状に加え,年齢や具体的な受傷機転を含めた新たな頸椎CT施行基準が導出され,感度100%を保ち,損傷の見逃しを回避することができた。以下に新基準により頸椎CTの適応となるものを示す。(1)GCSスコア13以下の患者。(2)GCSスコア14-15の患者で後頸部圧痛か神経学的異常所見を有する患者。(1) (2)以外の患者のうち,(3)60歳以上:受傷機転が階段等からの転落であった患者。(4)60歳未満:受傷機転がバイクの事故か墜落であった患者。【結語】従来より提唱されているGCSスコア,頸部症状,神経所見に加え,年齢や具体的な受傷機転を評価項目に含めた新しい基準は感度が高く,頸椎損傷の見逃しを回避しうるCDRである。
症例報告
  • 高橋 哲也, 伊藤 敏孝, 遠藤 英穂, 工藤 俊介, 武居 哲洋, 八木 啓一
    2013 年24 巻4 号 p. 200-206
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    患者は60歳の男性。食後の突然の心窩部痛のため近医を受診した。腹部造影CTでは大動脈解離を認めないものの上腸間膜動脈は起始部から約3cm解離していた。偽腔内に造影効果を認めず,真腔狭窄を伴っているが腸管の造影不良域を認めなかった。腹腔動脈起始部には軸位断で横行する軟部陰影を,矢状断で索状狭窄を認め正中弓状靭帯による狭窄と考えられた。腹腔動脈起始部狭窄を伴う孤立性上腸間膜解離の診断で当院へ転送された。腸管虚血の所見はなく降圧療法を行った。第2病日に施行した腹部造影CTでは解離の進行はなかった。保存的加療で明らかな臓器虚血の所見はなかったが軽度の腹痛は残存しており,腹腔動脈起始部の狭窄があるため通常では問題とならないような解離や真腔狭窄により膵頭部アーケードへの血流が減少し腹腔動脈灌流域が虚血となる可能性があり,血流分布を正確に把握しかつ必要時には速やかに血管内治療を行うため血管造影を施行した。上腸間膜動脈造影において,上腸間膜動脈に起始部から長さ3cmの範囲で動脈解離による狭窄を認め,CT所見と一致した。狭窄の程度は最大50%程度で,偽腔は描出されず,血栓閉塞していると考えられた。前および後下膵十二指腸動脈はそれぞれ空腸動脈より分岐しており,その他の上腸間膜動脈末梢枝の描出も良好であった。また左肝動脈が発達した膵頭部アーケードを介して描出された。腹腔動脈造影では脾動脈,左胃動脈および腹腔動脈から直接分岐する右肝動脈の描出は良好であった。以後保存的加療継続で軽快し,第3病日には飲水を,第5病日には食事を開始し,腸管虚血を示唆する腹痛や肝虚血を示唆する肝酵素の上昇を認めず経過良好で,第13病日に退院した。腹腔動脈起始部狭窄を伴う孤立性上腸間膜動脈解離では,血流を直接観察可能な血管造影を施行し血流分布を正確に評価することで保存的加療も可能であることが示唆された。
  • 蕪木 友則, 須崎 紳一郎, 勝見 敦, 原田 尚重, 原 俊輔, 伊藤 宏保, 安田 英人
    2013 年24 巻4 号 p. 207-212
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    経動脈的塞栓術が有効であった穿通性腹部臓器損傷症例を経験したので報告する。症例1は35歳の女性。路上歩行中に果物ナイフで数箇所を刺され受傷した。そのうちの右前胸部の刺創は,胸腔から腹腔内に達していた。来院時血圧は維持されており,腹部造影CT上,肝右葉に損傷を認め,造影剤の血管外漏出所見,腹腔内出血を認めた。主要な損傷は肝損傷のみで,損傷部からの持続出血を認めたが,肝動脈塞栓術で出血のコントロール可能と考えて,経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールできた。症例2は63歳の男性。妻と口論の末,果物ナイフで右背部を刺され受傷した。来院時血圧は76/43mmHgであったが,輸液負荷により上昇し,腹部造影CT上,造影剤の血管外漏出所見を伴う右腎損傷を認めた。腎動脈の分枝からの出血と判断し,腎動脈塞栓術にて出血のコントロール可能と考えて経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールされた。穿通性腹部臓器損傷に対する止血法として,循環が維持され,CT検査が施行できる症例に関しては,経動脈的塞栓術も選択肢の一つになると思われる。
  • 福田 明輝, 中野 良太, 金子 一郎, 別府 賢
    2013 年24 巻4 号 p. 213-218
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    患者は48歳の男性。トラック運転中に前方トラックに追突し,当院に救急搬送された。初診時,上腹部に圧痛は認めたが腹膜刺激症状はなく,腹部CTでは横行結腸間膜周囲の少量の血腫とわずかな腹水を認め,腹腔内遊離ガスと横行結腸壁肥厚は認めなかった。経過観察のため入院し,発熱や上腹部の圧痛の増悪所見もなく,またUSで腹水の増加所見も認めずに経過していた。症状の増悪は認めなかったが,受傷翌日のfollow upの腹部CTで横行結腸の限局性壁肥厚を認めたため診断的腹腔鏡を行った。腹腔鏡下に腹腔内を検索すると横行結腸間膜に手拳大の欠損部位を認め,その血管支配領域(横行結腸)に虚血性腸管壊死(非穿孔)が確認された。引き続いて正中切開で開腹し横行結腸部分切除術を行った。術後に創感染を認め,術後20日目に退院となった。鈍的外傷における診断的腹腔鏡は,有効な治療戦略の一つであると言える。
  • 中田 一之, 間藤 卓, 山口 充, 大井 秀則, 松枝 秀世, 大瀧 聡史, 堤 晴彦
    2013 年24 巻4 号 p. 219-224
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    後天性血友病Aは,その多くが出血症状を契機に発見され,しばしば重篤な転機をとることが知られている稀な疾患である。今回,我々は出血症状の出現前に診断・治療を行い,良好な臨床経過をとった症例を経験した。症例は47歳の男性。交通事故による多発外傷にて当救命救急センターへ入院となった。家族歴・既往歴・職歴に特記事項を認めない。全身状態が安定していることを確認後,主たる損傷部位である胸椎破裂骨折に対して後方固定術を施行した。外傷部位および術創部に活動性出血を認めないことを確認後,リハビリテーションおよび対麻痺に合併する下肢深部静脈血栓症の予防を目的としたワーファリン投与を開始した。その後行った凝固能血液検査にて,経過中正常値であった活性化部分トロンボプラスチン時間APTTの著明な延長が出現,再検査でも同所見を認めることから凝固系疾患を疑い精査を行った。その結果,凝固系第VIII因子活性の低下(2%)と抗第VIII因子自己抗体の検出(4 Bethesda U/ml)を確認し,他に凝固系因子を含む異常所見を認めないことから後天性血友病Aと診断した。本例は抗第VIII因子自己抗体が低力価で出血兆候は認めず,治療はステロイドの内服を選択した。投薬後は第VIII因子活性,抗第VIII因子自己抗体価,APTTは改善を示したが,ステロイド減量中にAPTTの再延長を認めたことから,一時ステロイド内服の増量と免疫抑制剤併用を行った。ステロイド開始から9か月が経過した現在は一日プレドニン服用量5mgにて凝固能および臨床経過とも良好である。本例は,静脈血栓予防を目的とした抗凝固療法中に出現した後天性血友病Aの稀な1例であり,血栓症および出血症状各々に対する管理が必要と考えられた。
  • 井上 泰豪, 則尾 弘文, 前谷 和秀, 久城 正紀, 伊東 啓行, 大倉 章生
    2013 年24 巻4 号 p. 225-230
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    症例は32歳の女性。既往にうつ病があり,高所からの墜落にて受傷した。来院時,血圧測定不能のショック状態であった。胸腹部造影CTで大動脈峡部損傷(IIIa),垂直剪断型骨盤骨折(IIIc)を主体とした多発外傷を認めた。胸部大動脈造影を行うと大動脈弓部からは腕頭動脈と左鎖骨下動脈が分岐しており,腕頭動脈から右鎖骨下動脈,右総頸動脈が分岐するとともに左総頸動脈も分岐していた。左椎骨動脈は通常どおり左鎖骨下動脈から分岐していた。胸部仮性動脈瘤は直径30mmで,左鎖骨下動脈分岐直後から下方に突出していたが,造影剤の血管外漏出は認めなかった。左鎖骨下動脈起始から仮性動脈瘤までの距離が短く,ステントグラフト留置に十分なlanding zoneの確保は困難であったことから左鎖骨下動脈の閉塞が必要と判断し,上行大動脈からの血管造影で両側椎骨動脈の十分な血流を確認した上で,左鎖骨下動脈を閉鎖させる形でステントグラフトを留置した。術後,一過性に左上肢の血流障害を認めたものの,徐々に左右差がないレベルにまで改善した。胸部大動脈損傷に対し大動脈ステントグラフト留置術を行う際,両側椎骨動脈の十分な血流が確認できれば左鎖骨下動脈閉塞を考慮することができると考える。
  • 尾中 敦彦, 高野 啓佑, 岡 宏保, 植山 徹, 松阪 正訓, 中村 達也
    2013 年24 巻4 号 p. 231-236
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/07/24
    ジャーナル フリー
    鈍的肝損傷後に形成された仮性動脈瘤の自然消失に関する報告は少ない。今回,2個の遅発性仮性動脈瘤の自然消失がmultidetector row computed tomography(MDCT)により描出された鈍的肝損傷症例を報告する。症例は交通事故により肝損傷を受傷した17歳の男性である。入院時のMDCTでは複雑深在性肝損傷を認めたが,血管造影では血管外漏出像および仮性動脈瘤は認めなかった。その後のMDCTで受傷12日目に6mmの仮性動脈瘤の遅発が描出されたが,19日目には自然閉塞した。さらに別の直径約4mmの仮性肝動脈瘤が19日目のMDCTで出現したが,26日目には消失した。自験例では,動脈相のMDCT画像で描出された仮性動脈瘤は門脈相では描出されず,動脈相MDCT画像が遅発性仮性動脈瘤の自然消失を描出するために有用であった。動脈相MDCT画像は仮性動脈瘤の検出能力を改善することが可能であった。鈍的肝損傷に伴う仮性動脈瘤の適切な評価を行うためには動脈相MDCT画像が必須である。
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