日本救急医学会雑誌
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原著論文
救急救命士の処置拡大に関する意識度調査-血糖測定とブドウ糖溶液の投与,吸入β刺激薬,心肺機能停止前の静脈路確保-
伊関 憲大山 亜紗美林田 昌子田勢 長一郎
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2013 年 24 巻 9 号 p. 751-757

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抄録

【はじめに】救急救命士制度は平成3年より運用され,その後静脈路確保,気管挿管,アドレナリン投与など医療行為が拡大していった。さらなる処置拡大として,血糖測定,ブドウ糖投与,重症喘息患者に対する吸入β刺激薬の吸入,心肺機能停止前の静脈路確保が図られている。今回我々は,この処置拡大に関して救急救命士が抱えている診断や技術的な問題,処置に関する自信と不安について検討を行った。【対象と方法】山形県内の現場活動している救急救命士を対象にアンケート調査を行った。平成24年9月に消防署にアンケートを送付し,回収を行った。今回の処置拡大に関して,1(行えない)から10(自信を持って行える)までの十段階で自己評価してもらった。また救急救命士賠償責任保険の加入状況と処置拡大に伴い,個人で加入するかについても調査した。【結果】回答者は男性228名,女性5名の233名で,このうち薬剤投与認定救急救命士は177名であった。それぞれのスコア(平均±標準偏差)は,血糖測定は7.9±2.0であり,ブドウ糖溶液の投与は6.6±2.1であった。またβ刺激薬の吸入は4.1±2.4であり,心停止前の静脈路確保については,6.4±2.0であった。血糖測定とブドウ糖溶液の投与については,薬剤投与認定救急救命士が有意に高かった。また救急救命士賠償責任保険の加入については,全ての消防本部で加入していた。さらに個人での加入は21名(9%)であった。拡大処置により個人での加入を考えているものは63名(27%)であった。【考察】今回の処置拡大に関して救急救命士は,β刺激薬の吸入に強い不安があることが判明した。また血糖測定とブドウ糖溶液の投与については,従来の薬剤認定講習会が有用であったと考えられ,さらにβ刺激薬に関する講習と実習を盛り込んだ教育が必要であると思われた。今回の処置拡大は心停止前の患者が対象となり,救急救命士に対する訴訟の増加が考えられ賠償保険についても考慮していかなければならない。

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