日本救急医学会雑誌
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症例報告
足関節から後腹膜に至る広範な劇症型溶連菌感染症に対し,患肢温存し救命し得た1例
遠藤 彰加地 正人榎本 真也村田 希吉登坂 直規相星 淳一大友 康裕
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2013 年 24 巻 9 号 p. 799-804

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抄録

劇症型溶血性連鎖球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は基礎疾患を有さない人にも突然発症して急激な経過をたどる。死亡率は未だ高く,救命例においても患肢切断を余儀なくされて機能障害が残存するケースが少なくない。その経過から起炎菌である溶血性連鎖球菌は「人喰いバクテリア」とも呼ばれる。我々は後腹膜まで及ぶ極めて広範な左下肢劇症型溶血性連鎖球菌感染症に対して迅速な診断,適切かつ継続的なデブリドマンと集中治療を行い,患肢を温存しつつ救命し得た症例を経験したので報告する。症例は41歳の女性。既往歴に特記すべき事項なし。当センターに高度なショック状態で搬送された。左鼠径部から足関節以下まで広範に腫脹・発赤・表皮剥離を認めた。劇症型軟部組織感染症の診断で敗血症性ショックに対する蘇生を開始した。同時に水疱穿刺液をグラム染色してグラム陽性連鎖球菌を確認し,血液所見で臓器障害を伴うこと,CT検査所見で左下肢から腸腰筋周囲まで広範に広がる感染巣を認めたことなどを併せてSTSSを強く疑った。直ちにデブリドマンを行ったが,筋壊死は伴っていなかったために初回手術で患肢切断は行わずに壊死組織のデブリドマンと後腹膜の洗浄のみにとどめた。集中治療を行うとともに連日の創観察と追加デブリドマンを行うことで必要十分な切除範囲を同定し得たため,結果的に患肢の温存が可能であった。本症例のように後腹膜へ及ぶような広範軟部組織感染を伴う重症STSS症例の患肢温存例は検索し得なかったが,迅速な診断と適切なデブリドマンおよび集中治療を組み合わせることで患肢を温存しつつ救命することが可能であった。

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© 2013 日本救急医学会
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