日本救急医学会雑誌
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症例報告
膜型人工肺を用いて救命したインフルエンザA/H1N1pdm09による急性呼吸窮迫症候群の妊婦の1例
小野 雄一郎伊藤 岳高橋 晃佐野 秀宮本 哲也高岡 諒当麻 美樹
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2013 年 24 巻 9 号 p. 805-811

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抄録

インフルエンザA/H1N1pdm09により急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)を発症した妊婦に膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)を使用し救命した1例を経験したので報告する。症例は30歳の女性,妊娠31週の定期検診で妊娠高血圧症を指摘され,かかりつけの産婦人科医院に入院,この入院中にインフルエンザ患者と接触した。妊娠33週で子宮内胎児発育遅延を認めたため前医に母体搬送となった。転院当日(第1病日)から発熱したが,2回のインフルエンザ簡易検査は陰性であった。しかし徐々に呼吸困難・低酸素血症が進行したため,第6病日に緊急で帝王切開術が施行された。同日,喀痰のpolymerase chain reaction検査でインフルエンザA/H1N1pdm09陽性の報告があり,治療が開始された。第7病日に人工呼吸管理となるが,低酸素血症が進行し,第8病日,FIO2が1.0でもPaO2が50mmHgを維持できないため当院に転院となった。当院来院時,PaO2/FIO2比を50に保つことが困難な状況が12時間以上持続しており,ECMOの適応と判断して直ちに導入した。抗菌薬,抗ウイルス薬の投与を行いながら,自己肺の酸素化能の改善を待ち,約88時間でECMOを離脱することができた。その後も人工呼吸管理を続け,第19病日に人工呼吸器を離脱,第22病日に前医へ再転院,第43病日に独歩退院となった。ARDSに対するECMOの使用は近年広く普及し,インフルエンザによるARDSへの使用も多く報告されている。また妊娠はインフルエンザA/H1N1pdm09感染の重症化因子であるが,本邦での死亡例報告はない。しかし本症例が示すように,重症例は皆無ではなく,今後も引き続き注意を要する感染症である。

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© 2013 日本救急医学会
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