日本救急医学会雑誌
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症例報告
心膜腔内下大静脈損傷による心タンポナーデと奇異性脳塞栓症を併発した鈍的多発外傷の一救命例
前原 潤一川野 雄一朗中山 雄二朗具嶋 泰弘高志 賢太郎西上 和宏坂本 知浩
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2014 年 25 巻 6 号 p. 254-260

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抄録

高エネルギー外傷に伴う心膜腔内下大静脈損傷に心タンポナーデを併発し,救命できた症例の報告は稀である。加えて,その下大静脈損傷部に発生した血栓(inferior vena caval thrombosis: IVCT)が塞栓源となった,奇異性脳塞栓症を合併した事例の報告はない。症例は22歳の女性。軽乗用車運転中に対向車と正面衝突し,受傷した。救急隊接触時よりショック状態であり,当センター搬入時もショック状態は継続していた。Primary survey(PS)中のFocused assessment with sonography for traumaにて心膜液の貯留を認め,心タンポナーデと診断し,心膜腔穿刺ドレナージ術を施行した。ドレナージ後,ショックより離脱し,PSを実施後にtrauma pan-scanを行った。IIIb型肝損傷と下大静脈基部の境界不明瞭像を認め,心タンポナーデの原因を心膜腔内下大静脈損傷と診断した。保存的集学治療の方針としてICU入室し,人工呼吸器管理を行った。入院第3病日,左不全麻痺が出現し,頭部CT/MRIにて病型未同定型脳梗塞(cryptogenic stroke: CS)と診断した。CSの原因検索のため経食道心エコー検査を繰り返すことにより,IVCTを塞栓源とする卵円孔開存(patent foramen ovale: PFO)からの奇異性脳塞栓症と診断した。抗凝固療法を継続しながら第33病日に転院し,2か月後麻痺を残すことなく自宅退院となった。その後も当院循環器科外来にて経過観察を行い,受傷から約13か月後,卵円孔開存症に対し,amplatzer PFO occluderによる閉鎖術を実施した。その結果,抗凝固療法を中止することができた。本症例の診断や治療方針決定に関しては,適時のmultidisciplinary conferenceが有用であった。

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