抄録
大動脈解離のエントリー部位および合併解離の診断における経食道心エコー法の有用性について検討した。対象は,大動脈解離の診断で手術を施行し,エントリーおよび合併解離の状況を確認できた69例(男性39例,女性30例,平均年齢61歳)であった。術前および手術室で経食道心エコー法を施行し,エントリーおよび大動脈弁,冠動脈,右腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈への解離を評価した。経食道心エコー法によるエントリーの評価は直接検出だけでなく,偽腔の血流方向によって推定する方法も用いた。エントリーおよび合併解離について術中所見と経食道心エコー法の所見を比較した。エントリーの経食道心エコー法での診断率は,上行大動脈で29例中26例(90%),弓部大動脈で19例中17例(89%),下行大動脈で10例中9例(90%)であった。経食道心エコー法により合併解離が診断できた例は,大動脈弁で13例中11例(85%),冠動脈で6例中5例(83%),右腕頭動脈で16例中8例(50%),左総頸動脈で11例中7例(64%),左鎖骨下動脈で11例中9例(82%)であった。経食道心エコー法によるエントリー評価は直接検出に加えて,偽腔の血流方向により推定する方法によって良好な診断率が得られた。合併解離の診断は大動脈弁,冠動脈,左鎖骨下動脈,左総頸動脈で比較的良好であったが,右腕頭動脈においては限界があると考えられた。