日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
マウスにおける小腸虚血再灌流後の遠隔臓器障害の検出
松浦 有里子小池 薫辻井 厚子Saeed Samarghandian久志本 成樹山本 保博
著者情報
ジャーナル フリー

2002 年 13 巻 3 号 p. 144-150

詳細
抄録

背景:小腸の虚血および低灌流は多臓器不全の発症に重要な役割を果たすと考えられている。多臓器不全発生の原因解明のために,いままでさまざまな動物モデルが用いられてきたが,近年では遺伝子操作の技術の進歩からノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの有用性が着目されている。しかし,局所から全身に拡がる臓器障害,とくに血管内皮細胞障害の程度を検出する方法はマウスでは確立されていない。われわれはマウスの小腸虚血再灌流モデルで,小腸・肺・肝障害を比較的容易に検出できる方法を確立したので報告する。方法:BALB/cマウスに45分間の上腸間膜動脈血行遮断を行い,補液として3mlの生理食塩水を皮下注射した。再灌流2時間あるいは6時間後に下大静脈と心臓から可能な限り血液を脱血し,小腸・肺・肝臓の血管透過性の変化と浮腫の程度をEvans blue (EB)法と乾湿重量比(W/D)で測定した。肝機能の評価としてalanine aminotransferase (ALT)とtotal bilirubin (T-Bil)の血漿濃度も測定した。さらに,C57BL/6マウスでも45分の小腸虚血と2時間の再灌流を行い,同様の検討を行った。結果:BALB/cマウスでは,小腸障害はEB法とW/Dで,肺の血管透過性亢進はEB法で,肝障害はEB法・W/D・T-Bilにより検出できた。C57BL/6マウスでは,小腸障害はEB法とW/Dで,肺の血管透過性亢進はEB法で,肝障害はW/D・ALT・T-Bilで確認された。結語:2種のマウスで若干の相違は認められたものの,マウスの小腸虚血再灌流モデルにおける小腸・肺・肝障害は,EB法・W/D・ALT・T-Bilの組み合わせにより評価できることが判明した。これらの方法はマウスにおける小腸虚血再灌流後の遠隔臓器障害発生のメカニズムを解明するのに役立つだけでなく,その他のショックに関連した研究分野においても応用可能な手法となると考えられる。

著者関連情報
© 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top