日本救急医学会雑誌
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緊急冠動脈バイパス術における動脈グラフトの有用性
廣瀬 仁天野 篤高橋 明仁永野 直子
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2002 年 13 巻 3 号 p. 151-160

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抄録

目的:動脈による冠動脈バイパス術は,長期予後を改善させることを主眼において施行されているが,近年その適応は緊急冠動脈バイパスにも広がってきた。今回われわれは,動脈グラフトによる血行再建が頻繁に行われるようになったここ10年の緊急冠動脈バイパス術についての知見を検討した。方法:1991年1月から2000年12月末までの10年間で施行された1997例の冠動脈バイパス術のうち,154例が急性冠疾患症候群に対する緊急症例であった。これらの緊急および待期手術症例について周術期成績および遠隔期成績をレトロスペクティブに調査をし,適切な統計学的手法を用いて比較検討した。結果:緊急症例の平均バイパス本数3.2±1.1本で,少なくとも1本の動脈バイパスが使用されたのは144例(93.5%)であった。緊急症例では,待期手術症例に比べ挿管時間,ICU滞在日数,術後在院日数がいずれも有意に長かった。重症合併症は73例(47.7%)にみられ,術後院内死亡は11例(7.1%)であった。多重解析によると,緊急手術は院内死亡の独立予測因子であることが判明した(オッズ比23.5, 95%信頼区間8.6-61.6)。生存退院者のうち98%が平均3.5年間術後フォローが可能であった。緊急症例の術後5年生存率は78.1%, 5年心事故回避率は90.8%であり,これらの数字は待期手術の術後5年生存率83.6%および5年心事故回避率90.7%と有意差を認めなかった。結語:緊急症例の院内死亡および合併症発生率は待期手術に比べ高率だが,適切な外科的血行再建が完了すれば,緊急症例といえども,その遠隔期成績は待期手術同様である。動脈グラフトの頻繁な使用は遠隔期成績の向上に貢献していると考える。

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