抄録
目的:脳死判定基準をほぼ満たした症例で,脳波高感度記録のみ低振幅ながら平坦といえない波の出現があり,脳死判定に迷うことを少なからず経験する。これらを脳死疑診例として臨床病態を分析し発生要因および臨床経過に関して考察を行った。対象と方法:対象は1999(平成11)年9月から2001年4月までの20か月の間に当施設で脳死判定基準(深昏睡,瞳孔固定散大,前庭反射を除く脳幹反射の消失,呼吸停止)を満たした後に脳波の測定を行った21例である。われわれはアーチファクトのない高感度記録(2μV/mm)で内部雑音以上の波が出現しないことをelectrocerebral inactivity (ECI)の診断基準としている。この基準では8例(38%)が最初の脳波でECIといえなかった。この8例を脳死疑診群(SBD群)とし臨床的脳死と診断した残りの13例を脳死群(BD群)として検討を行った。結果:SBD群の出現した脳波は4μV前後が6例,8μV前後が2例であった。SBD群ではBD群に比して頭部外傷の頻度が高かった(p=0.02)。しかし,年齢,尿崩症の頻度,心停止に至るまでの期間等に臨床経過に有意差は認められなかった。結論:脳死疑診は頭部外傷のなかでも脳幹を中心とした損傷形態を呈する際に発生しやすいと考えられた。これらの脳波は10μV以下の低振幅であり,微小な電気活動が存在したとしても脳死判定における臨床的意義は低いと考えられた。