抄録
脾損傷の非手術的治療におけるtranscatheter arterial embolizationの役割について検討した。対象は12年3ヵ月間に経験した脾損傷症例173例である。173例を外傷研究会脾損傷形態分類により分類すると,I型3例,II型30例,III a型41例,III b型22例,III c型31例,III d型41例,IV型は5例であった。I型およびII型は,手術を必要とする合併損傷がなく循環動態が安定していれば,保存的に治療できると考えられる症例が多かった。III型にはさまざまな治療が行われており,大半は手術が行われているものの非手術的に管理された症例も存在した。IV型にはすべて手術が施行された。腹部血管造影を33例(I型1例,II型2例,III型30例)に施行し,21例で造影剤の血管外漏出像を認めた。この21例は全例III型であった。TAEは21例中18例に試み,16例に施行できた。TAEが不成功であった2例は循環動態が極度に不安定で,カテコラミンを使用しながら血管造影を施行したが,血管攣縮が強くTAEを断念した。TAEを施行できた16例中14例では非手術的治療に成功した。TAEの方法は,ほとんどの症例において,脾動脈本幹からgelatin sponge細片を注入する方法で施行しており,施行後に問題となる合併症はみられなかった。脾損傷の治療において,TAEを含めた非手術的治療を積極的に取り入れたことによって,非手術的治療群の割合も著明に増加した。TAEは安全に行うことができる確立した手技であり,循環動態が比較的安定し手術を必要とする合併損傷のない症例にTAEを積極的に試みるべきである。とくに,III型は持続的出血を示す症例が多く,非手術的治療を行うには血管造影を施行し,血管外漏出像の有無を確かめるべきで,血管外漏出像を示す症例にTAEを施行することによって,非手術的治療の領域をさらに拡大することができると考える。