日本救急医学会雑誌
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上部消化管内視鏡検査によるパラコート中毒の予後推定
ロジスティック回帰分析による予後予測モデル
浅利 靖田辺 聡鶴田 陽和広瀬 隆一国分 茂博相馬 一亥大和田 隆
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1993 年 4 巻 2 号 p. 119-126

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抄録

パラコート中毒患者来院時,救命可能かどうかを判定する簡便な重症度の指標を作成した。パラコート中毒患者の上部消化管内視鏡検査の所見をスコア化し,これらの変数から死亡確率を求める予測モデルを線形ロジスティック回帰分析により求めた。対象は過去9年間に当院を受診したパラコート中毒44例中,来院より72時間以内に内視鏡検査を施行した23例である。生存群5例と死亡群18例について性別,年齢,治療法,推定摂取量,初療までの時間について検討したが2群間に有意差はなかった。内視鏡所見を食道,胃,十二指腸の各部位について3段階に分けスコア化した。食道:所見なし(0点),食道炎(1点),食道潰瘍(2点),胃:所見なし(0点),発赤,浮腫,小さな比較的限局した軽度びらんをAGML(+)(1点),びらん,潰瘍形成をAGML(++)(2点),十二指腸:所見なし(0点),発赤,浮腫,軽度びらんをADML(+)(1点),びらん,潰瘍形成をADML(++)(2点)とした。以上の内視鏡所見から,ロジスティック回帰分析にて予測死亡確率(Pr)を求めたところ,Pr=1/{1+exp(17-4.14eso-8.85stom-4.14duod)}となった(exp:自然対数,eso, stom, duodはそれぞれ食道,胃,十二指腸の内視鏡所見のスコア)。実際のスコアを代入しPrを求めたところ,生存群は0.20±0.12,死亡群は0.89±0.05となり2群間に有意差を認めた(p<0.01)。Prの予測能検討のためcut pointを0.5としたところ感受性100%,特異性60%であった。また,Pr<0.5であった3例では全例生存し,Pr>0.5であった14例では全例死亡し,Pr=0.5であった6例では,そのうち33.3%が生存,66.7%が死亡した。以上よりPr<0.5では救命可能で,Pr=0.5では積極的治療により救命可能な症例も存在し,Pr>0.5では現在の治療法では救命困難と推定され,Prは予後の推定に有用であると考えられた。

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