日本救急医学会雑誌
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炭酸水素ナトリウムと塩酸エピネフリンが心蘇生に及ぼす影響
内因性DOA808例の検討
長尾 建大場 富哉有馬 健野田 吉和櫛 英彦矢崎 誠治上松瀬 勝男
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1993 年 4 巻 2 号 p. 99-107

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抄録

心肺蘇生時の救急薬は再評価されたものの,いまなお議論の多いところである。そこで,炭酸水素ナトリウムと塩酸エピネフリンの投与法が用量により心蘇生率に差異が生じるか否かを知る目的で臨床的検討を行った。当センターに収容した内因性DOA808例を対象とし,炭酸水素ナトリウムと塩酸エピネフリンの投与法と用量により,I期(塩酸エピネフリン量は1mg/回5分間隔で,炭酸水素ナトリウムは静脈路が確保されると直ちに投与していた時期の228例),II期(塩酸エピネフリン量はI期と同様で,炭酸水素ナトリウムは十分な人工呼吸後に動脈血ガス分析所見にて投与した247例),III期(塩酸エピネフリン量は5mg/回5分間隔で,炭酸水素ナトリウムはII期と同様の333例)に分けた。はじめに,各期間の全症例および収容時心電図所見別に蘇生率を比較したが,I・II・III期でおのおの有意差を示さなかった。次に,目撃者がいるもbystander CPRが施行されていなかった症例に限定し,炭酸水素ナトリウムが除細動に及ぼす影響をI期とII期の心室細動例で,塩酸エピネフリンや心蘇生に及ぼす影響をII期とIII期の心静止例と心室細動例で比較した。この結果,収容直後より炭酸水素ナトリウムを投与しても除細動率(I期25.5% vs II期24.6%)は向上しないことが,塩酸エピネフリンの1回投与量の増量(1mg/回→5mg/回)は心蘇生率(心静止例の血圧測定可能率:II期14.7% vs III期17.6%,心室細動例の除細動率:II期24.6% vs III期31.2%)に有意な影響を与えないことが示唆された。以上より,心蘇生において収容直後よりの炭酸水素ナトリウムの投与は,除細動率に影響を与えないが,塩酸エピネフリンの1回投与量はさらに検討を加える必要があると考えた。

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