抄録
C型肝炎ウィルス関連抗体検査(以下HCV抗体と略す)が導入されるまでの1977年から1989年10月までの間に,当センターおよび第2内科において経験した劇症肝炎急性型44例,同亜急性型13例,亜急性肝炎5例の合計62症例のなかで救命し得た症例は16例(救命率26%)である。そのうちで経過観察が行えた14症例(劇症肝炎急性型11例,同亜急性型1例,亜急性肝炎2例)について,諸種の肝機能検査やHCV抗体の測定などを実施し,現在の肝障害の有無などを検討した。対象とした14症例の発症から現在までの経過期間は3~15年で平均9.1年であった。現在のHCV抗体は14症例中10例(71%)と高率に陽性であり,HCV抗体が陽性の10症例中7例はHCV-RNAも陽性であった。慢性肝障害の存在は14症例中9例(64%)で認められ,そのうち8例はC型肝炎ウィルスが原因と考えられた。また,生化学検査や超音波検査と合わせて定期的に経過観察が必要と思われた症例は14例中11例で73%と高率であった。さらに総輸血量とHCV抗体との関連を調べると,3,500ml以上の血液製剤が使用された10症例中9例(90%)で非常に高率にHCV抗体が認められたが,3,500ml未満の4症例でHCV抗体が陽性を呈したものは1例(25%)のみで,総輸血量が多いほどC型肝炎ウィルス感染の危険性が高いことが示唆された。以上の結果より,C型肝炎ウィルス関連抗体検査が導入される1989年10月までに治療された劇症肝炎および亜急性肝炎の救命例は,長期的にみると高率に慢性肝障害を来しており,その原因は使用された血液製剤からのC型肝炎ウィルスの感染によるものと思われた。