抄録
好中球は外傷性ショックに続発する成人型呼吸促迫症候群や多臓器不全の発症に深く関与している。われわれは以前,小腸虚血・再灌流(ischemia/reperfusion; I/R)は好中球依存性に肺障害を惹起することを報告した。本研究では,この病態の発生メカニズムにおいてキサンチンオキシダーゼ(XO)とホスホリパ-ゼA2 (PLA2)がどのような役割を果たしているかを検討した。方法:S-Dラット(オス,300-350gm)を,以下の5つのグループに分けて実験を行った。1)正常ラット。2) I/R:上腸間膜動脈を45分間血行遮断後,血行再開した。3) Laparotomyグループ(Lap): I/R以外のすべての処置を行った。4)タングステン(Tg)が豊富で,モリブデンを含まない飼料を3週間投与したラット(XO不活化ラット)に,I/Rを行ったグループ(Tg+I/R)。5)キナクリン(PLA2阻害剤;Quin, 10mg/kg, iv)を実験直前に投与し,I/Rを行ったグループ(Quin+I/R)。6時間の再灌流後,血液と肺を採取し,好中球のプライミング(fMLPによるスーパーオキサイド産生量),肺内好中球数(ミエロペロキシダーゼ活性),肺障害(125I-アルブミン肺/血液比)を測定した(ANOVA, p<0.05, n≧5)。結果:I/Rは好中球のプライミングと好中球の肺内集積を引き起こし,肺障害を惹起したが,Lapは肺内好中球数のみ上昇させた。Lap, I/Rグループと,Tg+I/R, Quin+I/Rグループとの間に肺ミエロペロキシダーゼ活性値に有意差はなかったが,I/Rによる好中球のプライミングと肺障害は,Tg+I/R, Quin+I/Rグループで抑制された。結論:XO, PLA2は,小腸低灌流に続発する肺障害発生において,重要な役割を果たしていることが示唆された。