日本救急医学会雑誌
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内頸静脈球部血酸素飽和度測定の基礎と臨床
定光 大海前川 剛志
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1997 年 8 巻 12 号 p. 637-649

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抄録
内頸静脈血酸素飽和度(internal jugular venous oxygen saturation; SjvO2)の測定は,脳循環・代謝の総和を反映する持続モニターであり,(1)動脈血酸素飽和度(SaO2), (2)脳酸素消費量(cerebral metabolic rate for oxygen; CMRO2), (3)脳血流量(cerebral blood flow; CBF), (4)ヘモグロビン(Hb)により変化する。SjvO2の持続モニタリングにはオキシメトリーシステム,すなわち光ファイバーを利用した分光光度法を用いる。超音波ドプラー法や胸鎖乳突筋三角部アプローチにより,血液酸素飽和度の連続測定が可能なカテーテルの先端を内頸静脈球部に留置して測定する。正確な連続測定のためには6~8時間毎に採血してCO-oxymeterで酸素飽和度を測定し,オキシメトリーの測定値を修正するin vivo較正を行う。カテーテルは,一般に優位灌流側とされる右内頸静脈に留置するが,優位灌流側は個体差や病態により変わり得る。SjvO2の正常値は55~75%(成人)で脳低酸素の閾値は50%とされるが,過換気によるCBF低下,内頸静脈球部血と脳静脈洞血との較差,SjvO2低下の持続時間などを考慮する必要がある。SjvO2の有用性を検討するため,脳循環・代謝に関係する指標や因子であるcerebral circulatory index (CCI), CMRO2, CBF, PaCO2,動脈血pH (pHa), cerebral perfusion pressure (CPP),およびcerebral vascular resistance (CVR)との相関を正常人において検討した。その結果,SjvO2はCCIとよく相関(r=0.95)し,CMRO2 (r=0.68), CBF (r=0.56), PaCO2 (r=0.51)ともある程度の相関関係がみられた。一方,pHa, CVRとの相関はよくなく,CPPとの相関(r=0.26)が最も低く,これは脳血流に自己調節能が存在するためである。また,SjvO2と近赤外分光法による脳組織ヘモグロビン量との比較では脳循環のCO2反応性でよい相関を示した。種々の病態におけるSjvO2の変化は貧血,低体温,麻酔薬,人工心肺時,頭部外傷,その他の頭蓋内病変,蘇生後脳症などで検討されている。SjvO2は重症頭部外傷患者で最もよく研究され,血圧上昇に応じてSjvO2が上昇する症例では脳循環の自己調節能が消失している。また,び漫性脳損傷後6時間以内にSjvO2が50%以下を示した症例は予後不良であり,SjvO2によりある程度の予後予測が可能である。以上の知見から,脳指向型患者管理における治療方針をSjvO2と頭蓋内圧で分類した。SjvO2は全脳におけるCMRO2とCBFのバランスの指標であり,その変化の原因となる脳循環・脳代謝の生理学的背景や病態生理を把握できれば,持続SjvO2測定は脳指向型集中治療において有用なベッドサイドモニターとなる。
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