日本救急医学会雑誌
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水分移動を指標とした外傷性腸管破裂後のGolden Timeの検討ならびに膠質液投与の影響の評価
澤野 誠大原 毅
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1997 年 8 巻 4 号 p. 145-160

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抄録
外傷性腸管破裂後のGolden Timeを術後水分移動の観点から検討すること,さらに膠質液投与が水分移動に与える影響を検討することを目的とした。術後水分移動を定量化する時間的な指標としては,手術から利尿期の開始までの時間(T2-T1)を,量的な指標としては,術前から利尿期までの期間血管内より血管外に移動したが利尿期にも血管内に戻らず血管外に貯留したと考えられる水分量をLost Water (LW)と名付け用いた。対象とした小腸破裂例26例を受傷から手術まで6時間未満の群と,6時間以上の群とに分けた場合のみ,両群間でT2-T1, LW/hの両指標ともに有意差が認められた。この両群間でPEEPを必要とした期間やFIO2の最高値にも有意差が認められた。以上より術後水分移動ならびに術後呼吸器合併症の頻度からみた,外傷性腸管破裂後のGolden Timeは受傷後約6時間であると考えられた。術後24時間以内に膠質液を投与された外傷性腸管破裂症例では,非投与例との間にT2-T1には有意差が認められなかったが,Lost Water/hは有意に減少した。外傷性腸管破裂症例における水分バランス,血清抗利尿ホルモン値(ADH),血色素量(Hb),血清浸透圧(Osm)の術後変動の検討から術後利尿期へ移行する時期は,ADHが正常化する時期に一致すると考えられた。膠質液投与は術後Osmを比較的高値に保つため,ADHの低下を遅らし術後利尿期への移行をむしろ遷延させるが,血管内から血管外への水分移動を抑制し,血管外から血管内への水分移動を促進するため,利尿期以後も血管外に貯留する水分量(LW)を減少させる機序が考えられた。
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