抄録
乳癌はここ数年, 最も話題性の高い癌の一つとなりながら, その検診受診率は最も低い。この矛盾を改善するために, われわれ臨床医が果たせることは何であろうか。乳房は女性にとり, 性差を意識する臓器である。診療に際して他にない独特の配慮が必要である。われわれは勿論十分これを意識し, 診療に心配りを行ってきた。しかし, 立場の相違と, ことに性差ある男性医療従事者にとって, 受診者の思い, ニーズを正確に知ることは難しい。また確認の機会もなかなか持てまい。受診者の希望から外れた努力を懸命にしている可能性もある。
今回, 乳腺診療における配慮に関し, 両者に対する意識調査を施行した。検診, あるいは乳腺疾患診療目的の受診者318名と, これに従事する男性医師41名に無記名式質問紙調査法を行い, 現状を検討した。
医師の配慮不足が指摘された項目 : 乳房触診に対する抵抗感。受診者は男性医師の予想よりはるかに乳房触診への抵抗感を持つ。それも受診歴の長短や年齢を問わず, 抵抗感は存続する。不要な乳房露出回避に対する配慮。配慮がなかったとする受診者の割合が多い。高齢者ほど配慮不足とする要求がある。配慮過剰 : 診療時の女性看護師同席の必要性。圧倒的に男性医師は同席すべきと考える (73%) が, 受診者は22%しか同席を希望していない。MMG, USの検査技師の性別。半数以上の受診者が女性を希望しているが, どちらでも良いとする意見を受診者の3割が持っている。
少なくも受診現場の不満を無視して, 受診率のさらなる向上は望めない。われわれ乳癌検診に携わる医療従事者が知っておくべき受診者との意識のズレについて報告する。