日本乳癌検診学会誌
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検診で発見された境界病変の診断と治療
過去17年間に乳腺専門クリニックで経験された乳腺境界病変の検討
low grade DCIS との比較検討を通して
武部 晃司 安毛 直美兼近 典子松本 昌子綾野 はるな新井 貴士
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2015 年 24 巻 3 号 p. 346-351

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抄録

当院での17年間のデータをもとにして,乳腺の境界病変と低悪性度のlow grade DCIS の診断・予後を比較検討し,以下の4つの論点から過剰診断の問題に言及した。当院対策型検診における発見率の検討では,当院の高精度の検診は必要以上の乳癌を検出していることが判明した。高精度検診における乳癌の発見そのものが過剰診断であることを考えると,さらに高率で存在しているであろう境界病変を数多く検出して精査を行うことに意義があるのか疑問である。外科生検後の予後調査の検討では,上皮増生病変,intraductal papilloma やlow grade DCIS の切除後に両側に発生する乳癌には,悪性度の高いタイプは非常に少ない。良性病変における同側乳房内に,発生乳癌と非照射のlow grade DCIS の局所再発との間で有意の差は認められなかった。Muco―cele like tumor(MLT)症例の検討では,境界病変の代表的な疾患であるMLT は稀な病変ではない。悪性例も約4分の1に認められるが,術前病理検索で高度な異型上皮が採取されなければ早急なexcisional biopsy をする必要はない。DCIS 研究会でのアンケート結果の検討では,日本の治療医はlow grade DCIS の病態に関して知識が不足しているのではないか,Van Nuys 分類などへの造詣も浅いのではないかと懸念した。日本の乳癌治療医も症例ごとにもう少し柔軟な考えでlow grade DCIS の治療を選択すべきあろう。境界病変とlow grade DCIS の診断・治療方針があまりにかけ離れている日本の臨床医の考え方に私は憂いを感じる。境界病変とlow grade DCIS を同じ分類として位置付けるDIN 分類は実際の両者の病態に即したものと考える。

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