日本応用動物昆虫学会誌
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ニカメイチュウの幼虫休眠におけるホルモン支配
I. 幼虫休眠を維持する頭部内要因について
深谷 昌次三橋 淳
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1957 年 1 巻 3 号 p. 145-154_2

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抄録
ヨトウムシの前蛹からとったいわゆる活性化した前胸腺をニカメイチュウの休眠期幼虫に移植しても直ちに蛹化する個体はほとんどなく,多くのもの(32.0∼66.7%)は過剰脱皮をしてプロセトリーといわれる幼虫と蛹の中間型で幼虫態に近いものを生ずることがわかった(第2表参照)。一方この活性化した前胸腺を休眠期幼虫の遊離腹部あるいは頭部を除去したものの体内に移植するとかなりの高率(26.7∼60.0%)で蛹化の起ることが確かめられた(第3∼4表参照)。また幼虫の蛹化に関与する脳の臨界期は蛹化前2日(25°C)にあることが明らかにされているが(深谷,1955),この臨界期直前の脳を休眠期幼虫に移植した場合にも前胸腺を移植したときと同様に過剰脱皮が起ってプロセトリーを生ずる(第6表参照)。しかしこの場合に見られるプロセトリーはわずかに触角と尾脚に異状が認められる程度にすぎない。一方,結紮によって頭部を除去した幼虫に臨界期前の脳を移植すれば正常な蛹化(18.5%)を誘導することができる(第7表参照)。
以上の結果から頭部内には活性化した前胸腺あるいは脳の働きを直接にかあるいは間接に阻止するような要因の存在することが明らかにされたが,上述したように休眠期幼虫が過剰脱皮をして種々な段階のプロセテリーを生ずるという事実からこの阻止的に働く要因はアラタ体そのものに由来することが推論される。したがって,アラタ体は幼虫の休眠期を通じてその活性を維持していること,しかもこうした状態が幼虫休眠の特徴的一面であることに注目する必要がある。
またさらに休眠期幼虫に対し特殊の頭部結紮法(第2挿図参照)を適用して脳をアラタ体∼咽喉側神経球結合から切り離して前胸部に移動させると低率(3.7∼7.4%)ではあるが,短期間内に蛹化する個体を生ずる(第8表参照)。それは不活性状態にある脳が頭部内に存在する抑制的要因の影響力から離れると直ちに活性化されうることを示しているようである。
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