日本応用動物昆虫学会誌
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コナガの発育零点と発育有効積算温量,およびその地理的差異
梅谷 献二山田 偉雄
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1973 年 17 巻 1 号 p. 19-24

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抄録
コナガPlutella xylostella (L.)は日本全国に分布しているが,北日本における越冬の可否については確かめられていない。一方,本種は欧米においては長距離移動昆虫としてよく知られ,日本においても太平洋上の定点観測船上で採集された例がある。このことから,日本の個体群にも移動による他国との交流や,本州から北海道に及ぶような移動が行なわれている可能性を残す。これを確かめるひとつの手段として,札幌,平塚,鹿児島の各地およびインドネシア・ジャワ島Malang地方(Batu村)産の個体群を用い,温度と発育期間の関係について実験し,地理的な分化があるかどうかを調査した。
温度と卵から羽化に至る発育速度の回帰から,発育零点を算出した結果,最も高かったのは平塚個体群の9.5°Cで,ジャワ島Malang(8.6°C)がこれにつぎ,鹿児島と札幌の個体群はそれぞれ7.5°C, 7.4°Cと低い値を示した。しかし,1世代の有効積算温量ではこれと全く逆に札幌個体群が313日度と最も多く,鹿児島(294日度),ジャワ島Malang(250日度)がこれにつぎ,平塚個体群の229日度が最も低い値であった。このような発育零点と有効積算温量の間には負の相関関係(r=-0.978**)が認められた。
温度-発育速度の回帰について,2地点ずつ共分散分析法によって比較した結果,平塚個体群は札幌および鹿児島のそれに対して,回帰係数(b)が有意に大きいこと,および札幌-Malangの個体群間では回帰直線の高さ(a)において異なっていることがわかったが,その他の組み合わせではいずれも相互の回帰に有意差が認められなかった。したがってコナガの個体群のこれらの生理的特性にわずかながら地理的な分化があるように思われる。しかし,その変動の原因については推論することはできなかった。
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