日本応用動物昆虫学会誌
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水田におけるセジロウンカ長翅雌の卵巣発育段階の推移
松村 正哉
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1997 年 41 巻 2 号 p. 75-82

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抄録

セジロウンカの第2世代の発生が,第1世代の長翅雌が水田に残留・増殖して起こるのか否かを明らかにするために,1990, 1992および1993年に水田におけるセジロウンカの長翅雌の卵巣発育段階の推移を調査した。第1世代の長翅雌の卵巣発育段階の推移のパターンは年次によって変動した。1990年には卵巣発育の進んだ長翅雌はほとんどみられず,第1世代長翅雌のほとんどは水田から移出したと考えられた。8月中旬に,北陸地域から東北地域にかけての強風域の出現によってセジロウンカ第1世代成虫が国内移動した可能性が示唆された。1992年と1993年には長翅雌の5∼30%の個体の卵巣発育が進展し,引き続き第2世代が発生した。第1世代成虫期の新たな飛来侵入の有無を解析したところ,少なくとも1992年にみられた第2世代幼虫の発生は,長距離移動による新たな飛来侵入成虫ではなく,第1世代長翅雌の一部が残留・産卵して起こったものと考えられた。生息密度が長翅雌の卵巣発育に及ぼす影響を実験条件下で解析したところ,生息密度が高くなるにつれて卵巣発育が著しく遅延したことから,長翅雌の卵巣発育を促す一因として,生息密度が関与している可能性が示唆された。しかし水田においては,第1世代の成虫密度が高いほど水田からの移出率は高い傾向がみられたものの,成虫密度と第1世代長翅雌の卵巣発育状況との間に一定の傾向はみられなかった。したがって,野外においては密度以外の要因も卵巣発育に関与している可能性があり,例えばイネの生育ステージなどの影響について今後検討する必要がある。

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